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死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
第3章 ミラ、学校生活の始まり
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おじさんとクロ

 休日の朝。

 ミラは試験が近いという理由で勉強しに図書館へ行ったし、オズもどこかに出かけている。

 つまり、この世界で生活し始めて以来初めての一人で過ごす休日だ。


 「……」


 あれ、今までどうやって休日過ごしてたっけ?

 ここでの生活なんてまだ一年も経ってないのにも拘わらず中身が濃すぎてこれまで三十年の記憶の大半が吹っ飛んでいる。

 まあいいや、とりあえず今日の分の家事をこなしてしまおう。


 「ん?」


 テーブルの上に置手紙がしてある。


 『クロにご飯あげてね』


 筆跡からして書いたのはオズだろう。

 そういえば今日はまだクロに何も与えていなかったな。

 ついこの前オズがどこかで買ってきたフェアリードラゴンのクロ。

 普段はオズが世話をしているが…

 そういえばクロって普段はどこにいるんだろう?

 オズが家にいるときはよく庭で芸の取得をさせようと躍起になっている姿を見かけるんだが。

 普段はアイツの部屋にでもいるんだろうか。


 そんなこんなでオズの部屋を覗いてみた。

 元はと言えばここは本来オズの部屋じゃなくて物置部屋として作ってもらった場所だけど。


 「」


 言葉を失った。

 無雑作に散らばった衣服に菓子の包み紙。

 そこは『人が住む部屋』と言うにはあまりにも汚い場所と化していた。


 そしてその空間を気ままに二足で動き回る黒いフェアリードラゴンが一体。

 部屋を訪れた俺に気づいたクロが歓迎するように近寄ってきた。

 というか二足で動けるようになってたんだな。


 「デカくなったよなぁ、お前」


 改めて見てみるとクロは我が家に来た当初よりも明らかに大きくなっていた。

 最初はオズの腕の中に収まるぐらい小さかったのに今やもう俺の腹ぐらいまで背が伸びている。

 確か最大で三メートルぐらいになるんだっけか。

 この様子だとあと数週間ぐらいでオズを追い越してるだろうな。


 「クロ、ご飯にするか」


 俺の言葉を理解したようにクロは小さく吼えた。

 根気よく仕込めば芸も覚えられるらしいし案外賢いのかもしれない。

 

 とりあえず皿に山盛りにクロの餌を盛り付けた。

 これで一食分に?足りるだろうか。

 クロは雑食だということはわかっているが何を好むのかはまだわからない。

 それにしてもすごい食いつきのよさだ。

 眺めるだけでも案外面白い。

 ついついもっと与えたくなるがやりすぎはよくないのでこの辺にしておこう。

 

 さて、餌は与えたし次は何をすればいいだろうか。

 洗い物はもうやったし買い出しはもう少し後でもいいかな。


 「……なんだ?」


 さっきからクロがやたらとすり寄ってくる。

 俺にすり寄ってくるということは俺に何かをしてほしいということだろう。

 飯を済ませて他にやるべきことってなんだろうか…

 クロが外を眺めている。

 もしかして外で遊びてぇのか?


 「外出るか?」


 クロは大喜びで首を縦に振った。

 コイツ間違いなく俺の言葉を理解できてるわ。


 そんなこんなでクロを外に出した。

 クロは縦横無尽に家の周りを走り回っている。

 それにしてもすごい運動量だ。

 外へ出ていくことも無さそうだしこのまま買い物しに行くか。

 ついでに昼ご飯を外食で済ませてしまおう。


 ミラもオズもいないと買い物も思いの外あっさりと済んでしまうもんだな。

 これで休日にやることはほぼ全部片付いてしまった。

 いよいよ暇だ。

 さて、ミラたちが帰ってくるまで何をして過ごそうか。


 クロは庭で丸くなって寝ている。

 こうして見るとまるで犬みたいだな。

 ……触ってみたい。

 大丈夫だよな?怒ったりしないよな?


 「おぉ……!」


 思い切ってクロに触れてみた。

 鱗に覆われた部分はかなり硬く、その上冷たい。

 これが人生で初めて体験するドラゴンの手触りか。


 頭を撫でてもクロは眠り続けている。

 逆にどこまでなら怒らないのだろうか。

 ドラゴンを相手に童心が蘇ってきた。

 首はどうだろうか?

 ……大丈夫だ。

 背中は……大丈夫だ。

 顎の下はどうだろう?


 「グルルルルル……」


 細く目を開いたクロに不機嫌そうに低く唸られた。

 どうやら鱗がない部分は触られたくないようだ。


 「やっぱり犬だよなぁ」


 クロの仕草を見る限り、まさに犬のそれだ。

 もしかすると異国では犬の代わりにフェアリードラゴンを飼うのが流行しているのかもしれないな。

 ……ボールとか投げたら取ってくるかな?

 試してみよう。


 「クロ」


 クロを呼び起こしてみた。

 別段機嫌を損ねる様子もなくクロは頭を上げた。


 「今からコイツを投げるから取ってみろ」


 俺はさっき買ってきた食肉を一片取り出した。

 クロはおやつだと思い込んで張り切っている。


 「行くぞそらッ!」


 勢いよく肉片を遠くへと投げた。

 クロは背中の翼を大きく広げると助走をつけ、肉めがけて勢いよく飛びついていった。


 「飛んだ!?」


 驚きの余り声が出た。

 クロの身体が完全に宙に浮いていたからだ。

 『飛んでいる』というよりは『滑空している』という方が近いかもしれない。

 そしてほんの一瞬でクロは俺の投げた肉に追い付き、口でキャッチすると急旋回してこちらへとUターンしてきた。


 「すげえなお前」


 心なしか、クロも得意気な表情をしているように見える。


 「よしよし」


 頭を撫でてクロを褒めた。

 クロも俺にすり寄ってきた。

 あぁ、やっぱりこいつの習性は犬そのものだ。


 それから俺は昼寝をしたり夕飯の仕込みをしたり、結局いつもと大して変わらない休日を過ごした。

 変わったことといえばクロとの親睦を深めたり新たな発見をしたことぐらいか。


 「ただいまー!」


 そんなこんなしている合間にオズが帰ってきた。


 「おう、おかえり」

 「ちゃんとクロにご飯あげてくれた?」

 「もちろん。てか出てくならご飯あげてからにしろよな」

 「ごめんごめん。急な用事ができたからつい……」


 まぁ、それなら仕方がないか。


 「ミラは?」

 「まだ帰ってきてないけど」

 「ふーん」


 もうすぐ五時になるし、じきにミラも帰ってくるだろう。


 「ただいまー!」


 噂をすればなんとやら。

 玄関からミラの元気な声が聞こえてきた。


 クロがこれからどう成長するのか。

 俺の異世界生活の楽しみがまた一つ増えた。

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