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死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
第3章 ミラ、学校生活の始まり
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おじさんとミラのお小遣い戦争 その2

 ミラから小遣いの話を持ち出された翌日の朝。

 俺たちは昨日のことを忘れたかのようにいつも通りの時間を過ごしていた。


 午前七時五十分ごろ、俺たちは朝食を摂り終えた。

 もうすぐミラが家を出る時間だ。


 「なぁミラ」

 「なぁに?」


 俺の声を聞いてミラが玄関前で立ち止まった。


 「これ持ってけよ。お前が昨日言ってた希望額よりはちょっと少ないけどさ」


 ミラに七百ルートを手渡した。


 「……」


 ミラは渡された紙幣をじっと見つめている。


 「……ありがとう!」


 表情がパッと明るくなった。

 よかった、そんなに根に持ってはいないみたいだ。


 「帰ったらまた話をしような」

 「うん。じゃあ行ってきまーす!」

 「行ってらっしゃい」


 学校へ行くミラを玄関前で見送った。

 さて、俺もそろそろ出勤だ。



 「なぁアレン。ガキに小遣い渡すならどれぐらいの額がちょうどいいと思う?」


 仕事の巡回中、アレンに相談してみた。


 「なんだ急に」

 「いやー、ミラが小遣いせびるようになってさ……」

 「なんだまた惚気話か」

 「重要な話なんだ、相談に乗ってくれよ」


 アレンは『またか』というような表情を見せながらもなんだかんだで聞く耳を向けてくれた。

 というかさすがに子供のことで惚気たりはしねえよ。


 「なるほど、要はお前の渡したい額とミラの求めてる額とで違いがあるわけだ」

 「そういうことだ」

 「それの何が困るんだ?」


 そう尋ねられると説明がしづらい。


 「なんつーかさ……ガキにたくさん金渡してそれが当たり前だって思われると後でいろいろ大変そうなんだよな」

 「ガキがいねぇ俺にはイマイチわかんねえんだよなぁ……」

 「仮に自分に子供がいるとしてオズみたいな金遣いされたらどう思う?」


 その一言でアレンの顔がみるみる青ざめていく。


 「うわぁ……そいつは確かに嫌だな」

 「だろ?」

 「お前が悩む理由がよくわかったわ」


 それからも休み時間から退勤間際までアレンは親身になって相談を受けてくれた。


 「ありがとな、アレン」

 「おう、あとはうまくやれよ」


 そんなこんなしていたらもう退勤時間だ

 さぁ、ここからが本番だ。


 「ん……?」


 アレってイズナ君じゃないか?

 相も変わらず学校の外では女の子の格好をしている。

 しかしこんな時間にギルド内をうろついているなんて珍しいこともあるもんだ。

 せっかくだし声をかけてみよう。


 「よっ」

 「ふぁわっ!?」


 あれ、声のかけ方が悪かったかな。

 すごく驚かれてしまった。


 「誰……?あぁ、ミラちゃんのところのおじさん……」

 「ゴメンな。驚かせちまったか?」

 「ごめんなさい。ボク臆病なんで……」


 そういえばこの子の一人称は『ボク』なんだな。

 ということは男の子なのか?


 「えーっと、イズナ『君』?それとも『ちゃん』?」

 「好きな方で呼んでもらって構いませんよ」


 マジかよ。

 まさかとは思うけど『雌雄同体』とかいう奴じゃないよな。

 いや、さすがにそれはないか。


 「ミラはどうしたんだ?いつも一緒にいるだろ」

 「ミラちゃんは『本を買いに行くんだー』って一人で先に帰っちゃったから今日はボク一人です」


 そうだったんだ。 

 せっかくの機会だ、子供からの意見も聞いてみよう。


 「ところでさ、イズナ君はお小遣いとか貰ってる?」

 「貰ってますよ。毎月一万五千ルート」


 めっちゃ貰ってるじゃねえか。

 もしかして相当な親馬鹿だったりするのか?


 「たくさん貰ってるんだな」

 「生活費も兼ねてるんでそうでもないです。ボクの両親はほとんど家に帰って来ないので……」


 なるほど、そういうことか。

 こんなに小さいのに実質一人暮らしをしてるのか、感心だ。

 

 「今日は何しにここに来たんだ?」

 「夜ご飯を食べに来ました。いつもは同じところで食べてるんですけどたまには場所を変えてみようかなーって」


 いつも同じ場所だと流石に飽きるもんなぁ。


 「そっか、もう日も暮れてるし気を付けてな」

 「はい。ありがとうございます」


 そんなこんなでイズナ君とお別れした。

 結局有力な意見にはなり得なかったな。

 ついでにあの子が男の子なのか女の子なのかは相変わらずわからない。


 その夜、俺はミラの部屋で二人で話し合った。


 「ミラ、今朝はとりあえずあの額渡したけど足りたか?」

 「うーん……やっぱりちょっと少なかったかも。」


 ミラは上を向いて考えるようにしながら答えた。


 「あれから俺は俺でお前への小遣いのことを考えたんだ。」

 「千ルートはくれるの?」

 「あぁ、千五百ルートやるよ。」

 「本当に!?」


 自分が求める額よりも大きい額を示されてミラは目を輝かせた。


 「ただし、条件が二つある」

 「条件って?」


 ミラは小さく首を傾げた。


 「まず一つ、小遣いを渡すのは一週間に一度だ。使い切っても次の週が来るまでは何があっても渡さない」

 「もう一つはミラ自身がよく考えて小遣いを計画的に使うことだ」

 「この二つを守れるなら小遣いをやろう。約束できるか?」


 「約束する!」


 俯いて少し考えた後、ミラは元気よく答えた。


 「よく約束できたな。それでこそ家の子だ」

 「ミラのお父さんはトモユキじゃないよ?」

 「家で一緒に暮らしてれば血が繋がってなくても俺の家族だ」

 「じゃあオズのお姉ちゃんも?」

 「もちろん。オズも大事な俺の家族だ」


 「これ、今週の小遣いだ。」


 俺はポケットから千五百ルートを取り出してミラに手渡した。


 「ありがとう!」

 「次に渡すのは六日後だからな。よく考えて使えよ」

 「うん!」


 これでミラとのお小遣い問題も一件落着だ。

 ミラが大きくなったらまた改めて額を考えよう。

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