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死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
第3章 ミラ、学校生活の始まり
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ミラの一日

今回は三人称視点の話です。

 六歳の少女、ミラ。

 魔法使いの名門中の名門マーリン家の娘である彼女は現在わけあって実家を離れ、異世界からやってた男タカノの元で養われている。


 「ミラ、もう朝だぞ。起きろ」


 そんな彼女の一日は自室に起こしにやってくるタカノの一言から始まる。

 彼女は決まって朝七時に目を覚ます。

 遅刻せずに学校へ行くために八時には家を出なければならない。

 

 「ふわぁ……おはよー」


 ミラは目を覚まし、朧げな寝ぼけ眼を擦った。


 「ほら起きた起きた。寝癖直すぞ」


 タカノに抱えられ、ミラは洗面所まで連れられる。

 起きてから十数分はまともに行動することができないほど彼女は朝に弱い。

 だから目を覚ましてから数分は彼女の身の回りのことはほとんどタカノがこなすのだ。


 「おはよー」

 「遅い。もう飯できてるぞ」

 「アンタが早すぎるだけでしょ」


 朝七時半、少し遅れて起床してくるオズ家の当主クラリスを加えてタカノ家の朝食の時間が始める。

 クラリスもまたタカノの家に居候をしている身である。


 「行ってきまーす!」


 朝八時、朝食を済ませて制服に着替えたミラは教科書の詰まったカバンを持って家を飛び出していく。

 もう少しすればタカノも出勤のために家を出る。



 「おはよー!」


 家を出て数十分、学校の門をくぐるとミラは友達のイズナに挨拶をした。

 イズナはこの学校で唯一の獣人の生徒だ。

 学校では男子の制服を着ているがそれ以外の場所では女の子の服を着ている。

 その性別は生徒たちの間でもタカノ家でも議論の的になっている。


 「おはよう」


 イズナも挨拶を返す。

 ミラとは比べるとその声は小さい。


 朝九時、学校の授業が始まる。

 今日の授業は魔法使い史からだ。


 「ん?……んん?」


 イズナは唸りがら難しそうな表情で教科書を睨んでいる。

 一方でミラは楽しそうに教科書の文字を追う。

 彼女は本を読むことが大好きだ。

 その対象は教科書も例外ではない。


 魔法使い史の授業はただ延々と講義を聞くだけの授業だ。

 それが終われば生徒たちはまばらにざわめき始める。


 「ふぅ……」


 イズナは緊張をほぐすようにため息をついた。

 座学が苦手なので授業一つでも気分が張りつめてしまう。


 「今回の授業どうだった?」


 休み時間になると決まってミラは教科書を持ってイズナに訊ねてくる。

 彼女はほぼ完璧に授業の内容を覚えられる、いわば『第二の先生』だ。


 「えっとね、この辺がよくわからなくて……」


 教科書の文章を指さしながらわからない場所を訊ねる。


 「ここは昔こういう出来事があってね、それからそれから……」


 イズナに聞かれた場所をミラは丁寧に答えを教える。

 そしてそれをイズナはノートに取って授業でわからなかった部分の穴埋めをしていく。

 こうして二人の休み時間は過ぎる。


 一限四十分の授業を四つ受ければ初等部の一日のカリキュラムが終わる。


 「あー、お腹すいたー!」


 学業優秀なミラも学校の外に出ればごく普通の少女の一人だ。


 「あの……今日もありがとう」


 門の外でイズナがミラに頭を下げる。

 学業では彼女に頼りっきりだ。


 「家に帰ったら復習しなきゃダメだよ?」

 「うん、わかった……」


 イズナは若干俯いて自信なさげに答えた。


 「よく約束できましたー!」


 ミラは嬉しそうにイズナに抱き付いてその頭を撫で回した。


 「え、えへへ……頑張るね……!でも、ちょっとくすぐったいかも……」


 普段ピンと立っているイズナの耳が垂れ下がった。

 くすぐられたりしたときに起こる反応だ。


 「ああ、ごめんね!?」


 ミラは慌ててイズナと距離を取った。


 「じゃあね!」

 「うん、また明日」


 ミラとイズナは別れの挨拶を交わすとそれぞれ別方向に帰っていった。


 ミラは帰る前にいつも寄っていく場所がある。


 「やっほー!」

 「おうミラか。今日の授業はもう終わったか?」

 「うん!」


 勤務中のタカノが昼休みを過ごす飲食店だ。

 同僚のアレンも一緒にいる。


 「今日はどこかに遊びに行ったりするのか?」

 「ううん、今日は家にいるよ」

 「そうか、じゃあゲートの前まで送ってってやるよ」

 「本当!?」

 「おう、それぐらいなら仕事の一環だしな。」


 タカノたちクルセイダーの役割はギルド内の治安の維持だ。

 まだ幼いミラを犯罪に巻き込まれるのを防ぐのも仕事の一環、そして送り届けるためにギルドを回るのもその延長線だ。


 「アレーン、肩車してー」

 「おう、乗れ乗れ」


 ミラの要求に応じてアレンは中腰になって左腕を差し出した。

 左腕の上にミラが腰を下ろすとアレンはそれを軽々と持ち上げる。

 その肩は片方だけもミラが乗れるぐらいに広い。


 「はっ、まだまだ軽いな」


 アレンは左を向き、すぐ近くのミラの顔を覗きながら笑う。


 「すぐにアレンが肩車できなくなるぐらい大きくなるもん」

 「ほう?なら今よりもっと食べないとな」

 「今でも十分すぎるぐらいだぞ、昨日なんて鍋の中のスープ一人でほとんど食っちまったもんなぁ?」

 「そういうことは言わなくてもいいの!」


 タカノの冗談めいた暴露に怒ったミラはふくれっ面で魔法をかけ、タカノの頭上を発火させた。


 「熱ッ!ああ!ああー!!」


 タカノの髪が一瞬で燃え上がる。

 彼は慌てふためいて周囲を右往左往している。


 「ふんっ!」

 「まぁまぁ、その辺にしといてやれよ」


 いじけるミラをアレンが宥めた。

 気分が落ち着いたのか、ミラはもう一度魔法をかけてタカノの頭髪の炎上を鎮火させた。


 「まあここまで送れば十分だろ」


 二人の大男に守られ、気が付けばギルドのゲート前。


 「こっからは寄り道するなよー」

 「大丈夫!ここまで来たらもうすぐだから。トモユキもお仕事頑張ってね!」


 ゲート前のタカノとアレンに手を振ってミラはギルドの外へ出た。


 「お前、可愛いガキの面倒見てるな」

 「だろ?自慢の娘だ」

 「別にお前の子じゃねえけどな」

 「うるせぇ」


 昼のちょっとした警護を終え、二人は午後の仕事へと戻っていく。


 「ただいまー」


 ギルドを抜けてさらに歩くこと十分ほど、ミラはようやく家に帰りついた。 


 「そうそう!その調子で……あー惜しい!」


 玄関の外ではオズがクロに芸を仕込もうと躍起になっている。

 クロはつい最近タカノ家にやって来た黒いフェアリードラゴンだ。


 「何してるの?」


 興味を抱いたミラがオズに話しかけた。


 「クロがもう少しで二足で立てそうだからトレーニングしてるんだけど、どうもあと一歩でねー」

 「そうなの?」

 「クロが二足で立つところ見てみたくない?」

 「見たい!」

 「でしょー?じゃあ一緒に立たせてみよ」


 そんなこんなで数時間も経過したころ…


 「すごい!クロが立った!」


 ミラとオズは歓喜の声を上げた。


 「えらいえらい!」


 ミラはクロの頭を撫でる。

 クロも喜ぶように背中の翼をはためかせた。


 気が付けばもう夜だ。

 もうすぐタカノが帰ってくる頃だ。


 「ただいまー」


 ほどなくしてタカノも帰宅してくる。


 「ねぇねぇ、今日クロが立ったんだよ!」

 「マジか!?」

 「ほらクロ、さっきみたいに……あれ?」


 二人の魔法使いに囲まれとペットのドラゴンに囲まれ、タカノ家からは笑い声が絶え?ない。

 そんな生活がこれからも続いていくことだろう。

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