真夜中の暴走
今回は三人称の話です。
タカノ一家が実家へと帰省したその日の真夜中のこと。
ミラはふと眠りから覚めた。
皆が寝静まっている中、どうにも目が冴えてしまった彼女は少しばかり暗闇の中でぼんやりとしていた。
「おトイレ……」
ミラはひとまず用を足すことにした。
のそのそと布団から抜け出し、トイレへと向かう。
「ふぅ……」
少し寝ぼけながらも用を足したミラはトイレから出てきた。
だが目が冴えて寝付けそうにないため、少し外の空気を吸うことにしてタカノ家の縁側へと足を運ぶ。
久々に見る現代世界の眺めは思いの外平々凡々としていた。
違うところがあるとすれば、道がアスファルトで舗装されているかどうかぐらいだ。
景色こそ平々凡々としているが、それ以外の場所では明らかに異なる点があった。
それはこちらの世界ならではの音だ。
自分たちの暮らす世界では耳にすることのない音にミラは耳を傾けていた。
田畑で鳴くカエルの声、どこからか響くセミの鳴き声。
ごくありふれたものであっても、ミラにとってはすべてが新鮮であり、興味の対象であった。
そんな彼女を魅了していた音は、突如として無数の爆音によって掻き消されてしまった。
耳をつんざく騒音の正体を探るべく、ミラは靴を履いて外へと繰り出した。
「ふわぁ……」
いまいち眠気が抜けきらないミラはぼんやりと歩きながら大きな欠伸をした。
本来なら深夜徘徊で補導の対象となるのだがそんなことを彼女は知る由もない。
そして数分後、すぐにその正体を知ることになった。
「イエーイ!!」
「ギャッハハハハハハ!!」
けたたましい笑い声を上げるマスクで顔を隠した派手な髪色の男女、爆発するように響く機械音。
そして派手に改造された巨大なバイク。
ミラは所謂『暴走族』とエンカウントを果たした。
ここは溜まり場になっていたのだ。
「お兄さんたち何してるの?」
ミラは暴走族の男の一人に声をかけた。
こちらの世界に疎い彼女にとっては彼らがどんな存在なのかよくわからない。
それに、初めて間近で見るバイクに興味を惹かれるのだ。
「あ?なんだこのガキ」
「チビガキがこんな時間に外歩いてんじゃねーぞ!」
ミラに対して暴走族たちは喧嘩腰で挑発を仕掛けた。
なぜ純粋な疑問に答えてくれないのか理解できないミラは眠気を堪えてあくびをしながら首を傾げる。
「なあなあ、このガキめっちゃ可愛くね?」
「それな。よく見ると超カワイイ顔してるべ」
「この髪染めてないじゃん。地毛だよ地毛」
己の疑問を無視して話を広げる暴走族に対してミラは若干腹を立てた。
彼女にとっては自分の疑問が思うように解決されないのが何より気にくわないのだ。
「ねえ。ここで何してるの!」
ミラは語気を強めて再度疑問を投げた。
見た目からは想像もつかないほどに肝が据わっている彼女に対して暴走族は反骨心を抱く。
「なんだテメエ。ガキの癖して俺らにケンカ売るとは言い度胸してんじゃねえか」
「おい、少しビビらせてやれよ」
暴走族は相変わらず答える気を見せない。
それどころか彼女をからかい、追い返そうと躍起になっている。
「なあ、ちょっとこっち来てみ?」
暴走族の中の女がミラに手招きをした。
何も知らないミラは呼ばれるがままに歩み寄る。
「そそ。んで、ここに耳を当ててみ」
ミラはバイクのエンジン部分に耳を当てた。
そして次の瞬間、フルスロットルの爆音が至近距離からミラの鼓膜に激震を走らせる。
頭が揺れそうなほどの衝撃にミラは背筋を伸びあがらせて驚き、そのまま尻餅をつく。
「ギャハハハハハ!見ろよこのビビり方!」
「いい目覚ましになったんじゃねえの?」
まんまと引っかかったことに暴走族たちは大喜びし、ミラをあざ笑うかのように下品な大笑いをした。
どこまでも悪意しか向けない彼らに対してミラは苛立ちを激しく募らせる。
「正義ごっこなんかやめてガキはさっさとおうちに帰んな」
「俺らが何やってようと俺らの勝手だし、ガキに教える義理なんかねえっつーの」
その瞬間、ミラの中の理性が切れた。
謂れのない捻くれた悪意、過剰なほどの子ども扱い、そして疑問を解決してくれない。
この三つが彼女の逆鱗に触れたのだ。
理性が切れたミラの全身から魔力が放出され始めた。
魔力は放電のように迸り、彼女とその周囲を青白く照らし出す。
ミラは顔を上げ、殺意のこもった鋭い目で暴走族たちを睨みつけた。
「は!?」
「それで俺たちをビビらせようとしてんのか?」
激昂するミラに対して暴走族たちはなおも威勢を張る。
彼らは初めて魔法を目にしたのだが今はそんなことはどうでもいい。
自分よりも遥かに年下の少女相手に押されるのが認められないのだ。
それに対してミラは右手でバイクの一台に触れると、それを一瞬で分厚い氷に閉じ込めた。
スタンドの立てられていないバイクはそのまま横転するが氷はまったく砕けない。
エンジンの放熱もものともしない、それどころかその低温で強制的に機能停止まで追い込んでしまった。
「なんだよ今の!?」
「そんなんで俺たちに勝とうってか!?」
「黙れ!次はお前たちをこうするぞ!」
さっきまでの無垢さからは豹変したミラの荒くドスの聞いた口ぶりに暴走族は完全に圧倒されてしまった。
「こうなりたくなければミラの質問に答えろ。ここで何をしていた」
ミラは自ら氷漬けにしたバイクを一瞥しながら静かに警告を発した。
「俺たちゃここに集会に来てたんだよ!」
「集会?」
「そ、そうだよ。ここに集まってバイクで走ってバカ騒ぎをする、俺たちはただそれが楽しいだけなんだよ!?」
暴走族はすっかり怯えてしまっていた。
それを聞いたミラは右手をかざすと、残るバイクも次々と氷結させていく。
エンジン音とライトが尽く停止し、ただミラが青白く発光するだけの静かな空間が作り出される。
「何すんだよ!」
「これがなければもううるさい音はなくなるね」
「ヒッ……!」
理不尽なまでの仕打ちに暴走族たちは逆上するがミラに威圧されて一瞬で委縮してしまった。
「す、すみませんでしたァ!」
「逃げろ逃げろォ!」
理性の切れたミラに完全に恐怖してしまった暴走族たちはミラに背を向け、一目散に逃げだした。
ミラは一人取り残され、静かな空間にポツンと取り残される。
「……ふわぁ」
しばらくたって落ち着きを取り戻したミラは再び欠伸をした。
答えを得たような気がするものの、記憶が朧気で結局それが何だったのかはよく覚えていない。
ミラはがっくりと肩を落としながら元来た道へと引き返していった。
「そこの道に氷漬けになったバイクが棄てられていたそうだ」
「マジか!?」
「なんでもエンジンはつけっぱなしになっているらしい。まだ夏だってのに不思議なこともあるもんだ」
翌朝、食卓でトモユキの父ドウゲンとトモユキは会話を交わしていた。
ドウゲンは仕事の関係上早朝から活動をしている。
それゆえに情報の回りが早いのだ。
それと同時にトモユキはバイクを氷漬けにできる人物に心当たりがあった。
だがその人物は布団を腹にかけて涎を垂らながら眠っている。
その真相は、誰も知る由もなかった。




