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死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
第14章 二人娘の成長
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顔を合わせて

 「「「いただきまーす!!」」」


 俺とお袋、親父、ミラ、オズ、そしてアリスの六人で食卓を囲み、俺たちは久々の現世飯にありついた。

 電話で話していた通り、食卓のど真ん中には山盛りのかぼちゃコロッケが並べられている。

 

 俺は早速コロッケに手を付けた。

 

 「……ッ!?」


 懐かしい。

 あの時と同じ味だ。

 俺の中に少年期の記憶が克明に蘇った。


 「美味しい!」

 「本当ね!」


 ミラとオズもコロッケを絶賛している。

 この二人はそもそもコロッケを食べたことなかったな。


 「いっぱい食べていいからね」


 お袋はそう言ってくれてはいるが、流石にこの量は食いきれそうにない。

 一応保存は利くし、明日辺りのために残しておいてもいいだろうか。


 「んで、どうして今になって帰って来たんだ?」


 昔からあまり口を開かなかった親父が珍しく自分から話を振ってきた。

 とはいっても俺の方には視線を向けず、淡々と白菜の浅漬けをボリボリと貪っている。

 こういう話し相手と目を合わせないところも相変わらずだ。


 「いろいろあってさ。まだ親父やお袋が生きてるうちに顔合わせようかと思ってよ」

 「あらトモ君ったら」

 「本当はそれ以外のことが目的なんじゃないのか?」


 どうしてこの男は人の考えていることがわかるのだろうか。

 そのせいで人の神経を逆なでをしてしまうわけなんだが。


 俺は一呼吸置き、本題を切り出した。


 「親父、俺は十七年前の喧嘩にケリを付けに来たんだ」


 さっきまで団欒としていた食卓にピリピリした空気が張り詰める。

 ミラやお袋たちには申し訳ないが、これが俺のやりたいことだ。

 ここで長き因縁に決着をつけなければならない。


 「あの時親父は『家業を継ぐことこそが男の務めであり幸せだ』って言ってたよな。俺はそうじゃないと思い、反発して家を飛び出した」


 親父は黙って俺の話を聞き続ける。


 「家を出てからいろんな世界を見てきた。そこで俺は確信したんだ。男がどうだ女がこうだで務めや幸せの在り方が決まるもんじゃねえってな」

 「何?」


 俺の言い分に親父がキレ気味に食い下がってきた。

 まさかいまだに昔のままの凝り固まった考え方をしているのか。

 時間の流れで多少は性格が丸くなっていたかと淡い期待を抱いていたがどうやら無駄だったようだ。


 「悪いお袋、親父と一緒に少しの間席を外す。ミラたちをその間見てやってくれ」


 俺は手にしていた箸を置き、席を立って先に食卓を離れた。

 その後を追い、親父もゆっくりと立ち上がる。


 俺と親父は場所を自宅の洋間に移した。

 声は漏れるだろうが、目の前で直接言い争いを繰り広げるよりはマシだろう。


 「さっきの言葉はどういう意味なんだ?」

 「親の仕事を継ぐのが男の務めだとか、そういうことを決めつけるのは間違ってる」

 「そこまで言うからにはお前はさぞ立派に成功できているんだろうな!!」


 俺が突きつけた言葉に親父は激昂して大声でがなり立てた。

 きっとこの声はミラたちにも聞こえているだろう、申し訳ない。


 「親父は人生を成功か失敗かでしか判断できねえのか?毎日クッタクタになるまで仕事して、家に帰れば愛する妻と可愛い娘二人が迎えてくれる。そんな日常を過ごせるだけで仕事や収入がどうであろうと大成功だとは思わねえのか」

 「くだらんな。そんなのは屁理屈にすぎん!」


 強情な上に厄介な奴だ。

 ここまで凝り固まっているともはや言論での意思疎通の余地はない。

 手荒な真似はしたくなかったが実力行使に出てわからせるしかない。

 俺は親父を見据えたまま拳を握り締めた。

 

 「だからさ、親父にとっての成功が俺にとっての成功とは限らねえって言ってるの。まだわからねえか」

 「黙れ!お前みたいなやつはもう一度わからせてやらなきゃダメみたいだな」


 親父は感情のままに右腕を振り上げた。

 俺は『お前の方がな』と口から出かかったのを全力で抑え込み、悠々と構える。


 「歯ァ食いしばれ!」


 俺は親父が振りかざした拳を受け流し、関節を極めて背後を取った。

 同時に親父の膝関節に蹴りを入れて態勢を崩し、うつ伏せに組み伏せて拘束の姿勢に入る。


 「なんだ貴様!息子の分際で親父に歯向かうのか!」

 「暴れんなよ親父、肩の関節外れるぞ」


 なおも抵抗する親父に冷静に忠告して抑えた右腕を内側へと傾けた。

 こうなると普通の人間が拘束を振りほどこうとすれば関節が外れる。


 「親父。俺はもう怒鳴り声や暴力で服従させられるようなガキじゃねえんだ。いつまでも俺がガキのままだとでも思ったか?」

 「クソッ!クソッ!」


 親父は呪詛のように口汚く俺を罵る。

 力で俺に負けたことがどうしても認められないようだ。


 数分後、抵抗をあきらめた親父の拘束を解いて改めて俺は面と面を向き合わせた。


 「親父、許してくれとは言わねえし、親父の考え方が完全に間違ってるとも言わねえよ。けどさ、俺は俺で毎日楽しくやれてんだ。それを理解してくれよ」

 

 親父は何も答えない。

 

 「どっちが正しいとかはもういい。俺は俺、親父の操り人形じゃねえから何を幸せに感じるかは俺が決めることであって、親父に決められるものじゃねえってことだけ肝に銘じといてくれ」

 「冷静になってみれば、俺はお前に対して過剰に期待を抱いていたのかもしれんな」


 冷静さを取り戻した親父は静かに口を開いた。


 「アヤカがお前を妊娠する四年ぐらい前から、俺とアヤカは必死になって子作りに励んでたんだ」

 

 初めて耳にする話だ。

 お袋からも聞いたことがない。


 「病院に通い、いろんな治療法を試し、それでようやくお前が生まれたときには俺たちは大いに喜んだもんだよ」

 

 そうか、だからお袋も親父も同級生の親に比べて一回り年齢が高かったのか。

 

 「俺は大事な息子であるお前のことを手塩にかけて育てたつもりだったが、お前も一人の人間だということをすっかり見落としてしまっていたようだ。さっきお前に言われてようやく思い出した」

 「ようやくわかってくれたか」


 親父はようやく理解してくれたようだ。


 「明日いっぱいはここにいるつもりだからさ、嫁と娘に今まで失ってた分まで愛情注いでやってくれよ」

 「わかった。だが明日は早いぞ」

 「わかってる、農家だもんな」



 これで、十七年にわたる俺と親父の因縁も終わりだ。

 

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