いざ実家へ
『まもなく、砂ヶ口、砂ヶ口』
電車のアナウンスが車両内に流れる。
「次で降りるぞ」
「着いたの!?」
「違う、ここで乗り換えだ」
俺から下車を宣告されたオズの表情がパッと明るくなったが続く一報でまたしょんぼりとした表情になった。
どうして彼女はこうも電車が苦手なんだろう。
本人曰く『生物感がないから』らしいんだが電車は機械なんだから当然と言えば当然だ。
むしろ俺から言わせれば『ドラゴンに乗ってるのに何をいまさら』って感じだ。
俺の実家までは最寄り駅から電車を乗り継いで二時間ほどだ。
現在、ようやく折り返し地点ぐらいだろうか。
おかげでオズがものすごいしょげている。
一方でミラは車窓からの眺めに興奮しているようだった。
アリスも一緒になってはしゃいでいる。
「そんなしょげるなよ、乗り換えは今回はこれで最後だからさ」
「どこまで行けば降りられるの?」
「『始宮』ってとこ、これ急行だからあと三十分ぐらいで着くはず」
「わかった……アンタがそう言うなら信じるからね」
オズはそういうと俺の手をギュッと握り締めてきた。
普段はこういうこと積極的にしてこないのにいざとなると無意識にしてくるんだよな。
『まもなく、始宮、始宮』
そんなこんなで三十分ぐらい経過し、気が付けば目的地の始宮まで到着していた。
魂の抜けかかったオズを右肩に担ぎ、左手には荷物を持ち、ミラとアリスを連れて俺たちは電車を降りた。
アパートから遠く離れ、俺たちがやって来たのは小さな田舎町の始宮というところだ。
特にこれといった特産品があるわけでもなく、一本道と田んぼが広がっているだけのつまらない場所だ。
どうしてこんなところに急行の電車が停車するのか俺はいまだに理解できない。
「こっから歩くぞ」
「うん」
駅を出た俺はオズを降ろし、代わりにアリスを片手に抱えて実家への道を歩き出した。
ここから徒歩で十五分ぐらいだろうか。
すでに時刻は十八時を回っている。
日没まであと一時間ぐらいだろうか、できるだけ寄り道をせずに行こう。
「あそこにでっかい畑が見えるだろ、あれが俺の実家だ」
「へー、あそこがねぇ」
十数年ぶりに見る我が家の外観はなんだがボロくなっていた。
だが畑は相変わらず整えられている。
親父はまだまだ健在ってところか。
俺は十数年ぶりに、ミラたちは初めて我が家の門をくぐった。
「スゥー……」
玄関の前で俺は大きく息を吸い込んだ。
さあ、ついに対面の時だ。
『ピンポーン』
意を決してインターホンを押すと、俺の耳にわずかに残っていた懐かしい音が鳴り響いた。
緊張して思わず背筋が伸びる。
『はい』
インターホンの向こうからお袋の声が響く。
「お袋、俺だよ」
俺からの声に反応し、お袋と思わしき足音がすぐに近付いてきた。
ああ、いよいよ顔を合わせるぞ。
玄関が開き、お袋が顔を覗かせた。
時が経って顔は老けたけど、昔と面影は変わらない。
「おかえりトモ君」
「あ、あぁ……ただいま」
俺を迎え入れたお袋に対して俺はどこか他人行儀になってしまった。
自分の中でどこか遠慮しているところがあるのだ。
「こんばんは」
「初めまして!」
「初めまして、タカノ・アヤカです」
オズとミラがお袋と初対面の挨拶を交わした。
二人の姿を見たお袋は一瞬疑問符を頭に浮かべたような表情を見せたがすぐに元通りになった。
「こっちが俺の妻のクラリス、この子は家で面倒見てる子のミラ。で、この子が娘のアリスだ」
「まぁ!また後でゆっくり聞かせてちょうだい」
オズとミラのことを知ったお袋は大喜びだ。
明らかにテンションが上がっている。
「お邪魔しまーす」
「……ただいま」
俺たちは俺の実家へと上がり込んだ。
実に十六年ぶりに敷居を跨ぐ我が家はあれから何も変わっていない。
「お父さん!トモ君帰ってきたよ!」
居間に戻ったお袋は子供のようにはしゃぎながら親父に報告した。
それを聞いた親父はゆっくりとこちらへと振り返る。
「……久しぶりだな」
俺の顔を見た親父は静かにただ一言、そう言い放った。
あの時から全く変わらない、それどころか歳を重ねてさらに増した威圧感に俺は思わず背筋が伸びあがる。
というかよく一発で俺だってわかったな。
「た、ただいま……」
「その子は誰だ?」
親父はオズとミラに目を付けた。
「トモ君のお嫁さんと子供なんですって」
「タカノ・ドウゲンだ。話はあとで聞かせてもらおうか」
お袋から紹介を受けた親父は二人にきわめて簡素な自己紹介をするとまたそっぽを向きなおしてしまった。
興味を持っていないのか、それとも『俺の家族』だから意地を張って興味がないフリをしているのか。
それはともかく、久々に両親の顔を見ることはできた。
親父と和解まではいかなくても、俺の現状報告ぐらいは無事に済ませられるといいな。




