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死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
第14章 二人娘の成長
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電話に踏み切る

 とりあえず最初にやらなければならないことは解決した。

 これでしばらくこちらでの生活は安泰だ。


 さて、ここからが本題だ。

 俺はいよいよ実家への電話に踏み切ることにした。


 実家は親父の経営する農場と繋がっている。

 そしてお袋は専業主婦。

 実家が仕事場である以上、どちらが電話に出てもおかしくはない。


 携帯に実家の電話番号を入力した。

 もう十数年も連絡を寄越していなかったが、案外番号そのものは覚えているもんだ。


 番号を打ち込んでは見たものの、なぜか発信に進むことができない。

 なぜか指が動かないのだ。


 「どうしたの?」


 俺の様子を不審に思ったのか、ミラが携帯の画面を覗き込んできた。

 どうやら俺が動きを止めているのが珍しいらしい。


 「なんだろうな……指が進まねえんだ」

 「緊張してるの?」


 そうか、俺は緊張しているんだ。

 だから指が進まない。


 「自分の親と話すのがそんなに不安なの?」

 

 オズも食いついてきた。

 

 「ミラもヴィヴィアンさんと話をする前に緊張しただろ。それと同じようなもんだ」

 「そっか。それならわかるかも……」


 過去に同じような境遇を経験したことのあるミラは納得して深く頷いた。

 ただ話すだけ、それだけなのに緊張して口が開けないのだ。


 「じゃあアタシがかけてあげるわよ。貸しなさい」


 なかなか前に進めない俺にじれったさを感じたのか、オズは俺から携帯を取り上げると一瞬で発信をタップし、俺へと返却した。

 機械の扱い苦手なのにそういうことだけは慣れてるもんなぁ。


 俺の耳元で電話の待機音が鳴り続ける。

 覚悟を決めろ俺、今こそ腹を括るときだ。


 『はいもしもし、タカノでございます』


 俺の耳元に穏やかな女性の声が響いた。

 間違いない、お袋の声だ。

 家を出る前日の姿が俺の脳裏に克明と蘇る。


 「もしもし……あの……お袋?」


 しくじった。

 これじゃあ完全にオレオレ詐欺の切り出しじゃねえか。


 『もしかして……トモ君?』

 

 やはりあのころと変わらない。

 お袋は電話越しにあの頃と全く変わらない呼び方で俺のことを呼んだ。

 出だしはしくじったが奇跡的に脱線せずに済んだ。


 「そう、お袋の息子のトモユキだ」

 『トモ君……懐かしい……』

 

 お袋は俺の声を懐かしんでいる。

 言われて早々に思い出せるもんなんだな。


 『どうしたの急に?』

 「久々に家に帰ろうかと思ってさ……いろいろと報告してえことがあるんだ」

 『電話で教えてもらっちゃダメ?』

 「話せば長くなるぞ。それにさ、オッサンになった俺の顔見てみたいだろ」

 『そうねぇ……大人になったトモ君の顔、一度も見てないから見てみたいわ』

 

 なんだろう。

 俺もお袋も十数年前から顔を合わせていないからか、やりとりがなんとなくぎこちない。

 お互いに高校生時代から時間が止まってしまっているのだ。


 「今からそっちに向かってもいいか?今からなら早けりゃ夜には着けると思う」

 『いいよ。トモ君の好きなかぼちゃコロッケたくさん作ってお母さん待ってるからね』


 懐かしい。

 かぼちゃコロッケ、大好きだったなぁ。

 家を飛び出してからもちょくちょく惣菜の奴を買って食ってたっけか。

 『向こう』に行ってからはまったく口にできていないが。


 「お袋。俺が出てってからそっちは大丈夫だったか?」

 『トモ君いなくなってからお母さんちょっと寂しかったけど、お母さんもお父さんも元気だよ』

 「そうか、そいつは何より」


 親父はまだくたばってないようだな。

 よかったようで、ちょっと残念なようで複雑な気分だ。


 『そうだ。お父さんに変わろうか?』

 「いい。電話越しに説教は聞きたくねえ。親父とは帰ったらまたゆっくり話す」


 俺は元々親父に反発して家を出たのだ。

 その張本人と電話をしようものならどんなやり取りを交わすかは目に見えている。


 『そっか』

 「ここでこんなこと報告するのもなんだけどさ……俺、結婚したんだよ」

 『本当!?』


 お袋の驚いている顔が目に浮かぶ。

 そりゃ俺だって死後に結婚できたなんて思いもしてなかったからな。


 「ああ、子供も一人できたんだ」

 『そう……お父さんきっと喜ぶわ……』

 「嫁と子供も一緒に行くから。親父にもそう伝えといてくれ」


 まさか一度死んでから親に孫の顔を見せることになるとは。

 健全な関係を築いてきた家庭ならこういうやり取りを普通にできたのだろうか。


 『お父さんにも伝えておくから。いつでも帰っておいで』

 「わかった、じゃあそろそろ電話切るから」

 『うん。お母さん楽しみにしてるね』


 その言葉を最後にプツリと音は途絶え、十数年ぶりのやり取りは終わった。


 「さあ向こうへ行く支度するぞ……何がおかしい」


 電話を終えるとオズが俺の顔を見てクスクスと笑っていた。

 

 「トモユキ……」 

 「その歳で親から君付けで呼ばれてるって……ふふっ」


 笑うな。

 俺だってこの歳で君付けされてるのに違和感あるんだよ。


 「覚悟しとけよ。実家に戻るのに電車使うからな」


 報復紛れの俺からの一言でオズの表情は凍り付いた。

 彼女はなぜか電車が大の苦手なのだ。


 日取りは決まった。

 戻るぞ、俺の実家に。

 俺と、親父との因縁に決着をつけるために。

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