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死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
第3章 ミラ、学校生活の始まり
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おじさん、ペットを飼う

 とある春の休日、それは突然やって来た。


 「たっだいまー!」


 その日の昼下がり、やたらと上機嫌なオズの声が玄関から聞こえてきた。

 こういう時は決まって何か変なことが起こる。


 「ミラは?」

 「友達と勉強しに図書館に行くってさ」

 「あの子も物好きよねー」


 ん、ちょっと待て。


 「その大事そうに抱えてるそれは何だ?」


 オズの両腕の間に黒い何かがいる。

 動いてるしなんだか鳴き声のような音も上げている、間違いなく生き物だ。


 「これ?たまたま来てた行商人から買ったの。異国で人気のペットなんだって」


 どう見てもドラゴンとかそういう類の子供だよなコレ。


 「まさか家で飼うつもりじゃないよな?」

 「ダメなの?」

 「それどう見てもドラゴンだよな?あんなにデカくなるような奴はとてもじゃないが家で飼うには限界があるぞ」


 城壁を余裕で上回るような体躯になるドラゴンなんてとてもじゃないが我が家では飼えない。

 常識的に考えればそうなる。


 「この子、フェアリードラゴンっていうんだって。普通のドラゴンと比べると成長してもかなり小さいみたい」


 話聞いてんのかコイツ。

 かなり小さいっつってもドラゴンだぞ。


 「かなり小さいってどれぐらいだ?」

 「うーん……三メートルぐらい?」


 卒倒しそうになった。

 確かに俺の知ってるドラゴンに比べれば小さいけどそれでも十分すぎるぐらいデカい。

 でも家の外に置くならまだなんとかなりそうか。

 成長すれば番犬代わりにもなりそうっちゃなりそうだし。


 「ところで、この子の名前どうしよう?」


 まだ何も言ってないのにもう飼うこと前提で話を進めやがった。

 まあオズが世話をするみたいだし、それなら別にいいか。


 「名前か……」


 何がいいだろう。

 ドラゴンなら強そうな名前を付けたいな。

 しかしフェアリーというからには可愛い名前とかがいいだろうか。


 「ところでソイツはオスメスどっちだ?」


 性別は名前を決めるうえで大きな要素の一つだ。


 「さあ、どっちだろうね」


 オズはそう言いながら抱きかかえていたドラゴンを床に降ろした。

 さっきまで隠れて見えなかったが背中に翼がある、成長したら飛ぶようになるんだろうか。

 てかお前も性別わかんねえのか。


 「なんかこう……間近で見たらトカゲみたいだよなぁ」

 「トカゲよりはかわいい顔してると思うけど」

 「そうか?」


 どう見ても翼の生えたトカゲなんだよなぁ。

 尻尾が切れたら生え変わったりするかな。


 「ところで名前はどうする?」

 「あー……」


 いざ考えてみるとなかなか浮かばねえもんだ。


 「身体が黒いし『クロ』とかでいいんじゃね?」

 「雑ね」


 だって他に何も思い浮かばないんだもん。


 「まぁアタシも思いつかないし、とりあえずは『クロ』でいっか」


 というわけで我が家のペットの名前は『クロ』になった。


 「よっしゃ!名前が決まれば早速芸の一つでも仕込んでやるわ!」


 オズはいつになく楽しそうにクロを抱えて外へ飛び出していった。

 出会ったばかりなのにすごい愛着だな。



 「ただいまー!」


 夕暮れ時、ミラの元気な声が聞こえてきた。


 「おかえりー」


 普段は言われる立場の俺も休日は言う立場に変わる。


 「オズがペットを連れて来たぞ」

 「本当!?どんなの?」

 「外にいるから見てきたらどうだ」


 ミラが急いでオズの元へ駆けた。


 「すごーい!ちっちゃいドラゴンだ!」


 外からミラは大喜びしている声が聞こえた。

 まだクロ自身が子供とはいえ、やはりドラゴンという存在は幼心に響くものがあるのだろう。

 俺もガキの頃はドラゴンとか好きだったし。


 「ねえ!触ってもいい!?」


 かなり興奮した様子でミラがオズに尋ねた。


 「もちろん」

 「おおー!すべすべのぷにぷにー!」


 ドラゴンってそんな手触りしてるのな。

 まだ子供だからなのだろうか。


 「そういえばあの子って何食べるのかな?」


 夕飯を食べながらミラが話題を切り出した。

 そういえばドラゴンって何を食べるんだろうな。

 それはそうと、さっきからオズがクロを肌身離さず抱えている。


 「飯食う時ぐらい椅子から降ろせよな」

 「いいじゃん別に」

 「よくはねえよ、万一ソイツに食われたらどうするつもりだ?」

 「まっさかー。そんなことあるはずが……」


 クロが思いっきりオズの食器に盛られた夕飯のオカズを貪っていた。

 コイツ雑食だったのか。


 「コラ!勝手にアタシのご飯を食べるな!」


 オズはすぐに自分の器をクロから遠ざけた。

 それに対して、自分の餌を取られたと思い込んのか、怒った様子のクロがオズの左手に勢いよく噛みついた。


 「いだだだだだだ!!あああああああ!!」


 オズがあまりの激痛に左手を振り回すがクロは離れない。


 「こらっ!」


 ミラが魔法を使って一瞬でクロを気絶させた。

 意識を失ったクロは力なくオズの手元を離れて床に落ちる。


 「うぅ……クロの奴……」


 オズが左手を抑えながらかなり恨めしそうな声を上げている。

 半ば自業自得としか言いようがないのだが。


 「大変!血が出てる!」


 ミラが騒ぎ立てたのでよく見てみるとオズの手からは結構な量の血が出ていた。

 小さくてもドラゴンはドラゴン、その力は尋常ではないようだ。

 

 夕食後、俺たちは気絶して眠っているクロを囲んで会議を開いた。

 議題は今後のクロとの接し方についてだ。


 「いいか、クロは小さくてもドラゴンだ。何をされるか分かんねえからわざと怒らせるようなことはしないように」

 「さっき身をもって思い知らされました」


 包帯でグルグルになった左手を見つめながらオズが嘆いた。


 「あと、餌はなんでもいいっぽいがあげすぎるなよ」

 「なんで?」

 「多分太ってカッコ悪くなる」


 本当は変に学習してつけあがられるのが嫌だからだけどミラにはこう言う方が説得力があるだろう。


 「とりあえずみんなで協力して世話をしていこう。いいな?」

 「はーい!」

 「ええ」


 多分ミラはずっと世話をし続けてくれるだろう。

 オズの興味がどれぐらい持つかはわからないが。


 そしてその夜……


 (なんでこうなるかねえ)


 俺のベッドの上になぜかクロがいる。

 普通オズの部屋に行くだろ、というか連れてけよ。

 下手にどかそうとすると噛まれそうだし動かそうにも動かせない。

 そして変な緊張が走って寝ようにも寝られない。

 いっそのこと外で放し飼いしたほうが負担がかからないのではなかろうか。


 こうして、またこの家に新しい厄介者が増えた。

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