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死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
第14章 二人娘の成長
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やりすぎの反動

 その日は朝からミラの様子がおかしかった。

 

 「おいおい大丈夫かよ」

 「大丈夫。大丈夫だから……」


 そういうミラの足取りはどう見てもふらついている。

 おまけに目が潤んでいるし、視線がイマイチ焦点が合っていない。

 絶対に大丈夫じゃない。


 「ちょっと額出してみろ」

 「うん……」


 ミラに前髪をかき上げてもらい、俺は彼女の額に手を当てた。

 熱い、やはり熱を出しているな。


 「医者に診てもらうぞ。その後は薬を処方してもらおう」


 歩けてはいるし、大した病気とかではなさそうだが万一のために診てもらう方がいいだろう。

 そうと決めたらすぐに準備だ。


 「ミラのことは俺に任せろ」

 「お願い」


 オズに家のことを任せ、俺はミラを連れてクロに乗り、ギルド目指して空を駆けた。

 今日は彼女を見ないといけないから仕事は休みだな。


 そんなこんなで俺はギルドにある小さな診療所を訪れた。

 ここには時々負傷したクルセイダーが訪れる。

 ここの医者はケガを診る専門じゃなかったはずだから発熱も診てくれるはず。


 「いらっしゃい。今日はどんな要件で?」

 「この子の状態を診てもらえますか。今朝から熱出してて」

 「診てみますね。ちょっとここに座って」

 「はい」


 医者の先生に言われるがままにミラは丸椅子に腰を下ろす。

 先生は机の上に掛けられていたガラス棒を一本手に取った。

 それは俺が生前いた世界で見たことのあるものにそっくりだった。


 「それは?」

 「体温計っていう道具だよ。これを脇に差して少し待っててもらえるかな」


 やっぱり体温計だったか。

 俺が知っているデジタルなものじゃないが一応存在はしているんだな。

 我が家にも一本欲しい。


 「んー?」


 一方でミラはというと『脇に差す』というアクションが理解できないらしく、体温計を眺めながら首を傾げている。

 

 「悪い、ちょっと手突っ込むぞ」


 俺はミラの手から体温計を抜き取り、服の襟元を少し引っ張って脇に体温計の先を挟ませた。

 特に何も言うことなくミラはぼんやりと一点を見つめている。

 こりゃ重症だな。


 計測からおよそ一、二分。

 先生はミラの脇から体温計を抜き、示された数値を読み取った。

 

 「およそ三十八度。結構な熱が出てますね」

 

 やっぱりか。 

 通りでぼんやりしているわけだ。


 「寒気は感じる?」

 「ううん」


 先生からの問いにミラは首を横に振った。


 「ちょっと口開けてみて……腫れたりはしてないから風邪ではないね」

 

 風邪ではなかったか。

 となるとストレスで熱出しちゃったか?


 「素人の推測なんですけど、きっと疲れが溜まっちゃったんだと思います」

 「なるほど。近頃何かストレスを感じるようなことはありましたか?」

 「えー……特に何も……」


 無自覚か。

 イメチェンをしてみようといろいろ試行錯誤してたのが知らず知らずのうちにストレスになっちゃってたんだな。

 

 「とにかく、重大な病気などではなさそうですが薬屋で解熱剤を処方してもらってくださいね。診断書を出しておきますので」

 「ありがとうございます」


 どうやらこの世界でも疲労の蓄積で熱を出すということは知られているようだ。

 俺は診察料を支払い、診断書を受け取って今度は薬屋へと向かった。


 このギルドは薬の取り扱いに対する法が厳密に整備されている。

 その影響もあって正規で薬を手に入れられる店は一件しかない。


 「はいいらっしゃい……アンタはいつぞやの」

 「あー、ご無沙汰っス」


 久々に顔を合わせた薬屋の婆さんは元気そうだ。

 オズが妊娠してた時以来だな。


 「今日は何をご所望だい?」

 「この子が飲める解熱剤を頼む」


 俺は婆さんに診断書を手渡した。

 書面を少し読み、婆さんは何も言わずに奥へと消えていく。

 その間、壁際に設置された椅子にミラを座らせ、俺もその隣に腰を下ろす。


 「ミラ。変わろうと思っていろいろやってたみたいだけど、無理しすぎたみたいだな」

 「……ごめんなさい」

 

 やめてくれ。

 そんなにしょんぼりした様子で謝られるとこちらの胸が痛む。

 

 「変わろうと考えるのは当たり前のことだし、ミラは何も間違ったことはしてない。だから謝る必要はねえんだよ」

 「でも、トモユキに迷惑かけちゃってる……」

 「何が迷惑なもんか。一緒にいられる時間が増えて逆に感謝してるぐらいだ」


 ミラが中等部に進学してから家にいる時間が合わなくなったりして一緒にいる時間が減ってしまっていた。

 機会がどうあれ、一緒にいられる時間ができたことに関して俺は大いに喜んでいる。


 「大丈夫だ。今日は薬飲んでゆっくり休んで、また明日にでも元気な顔を見せてくれればそれでいい」


 疲労からくる熱ならストレスをかけないようにして休息を取ればすぐに戻る。

 

 「今日は運動は禁止だ。読書中に眠くなったら読書をやめてベッドの中に入れ。いいな」

 「わかった。今日はそうする」


 そんなやり取りを交わしていると、薬を調合した婆さんが奥から戻ってきた。


 「待たせたね。嬢ちゃんでも飲める錠剤を調合してやったよ。食後に二錠飲ませてやりな」

 「悪いな。いくらだ?」

 「処方箋だから安くしといてやるよ。二百二十ルートだ」

 

 正規品の薬はやはり高い。

 だがその分、効能と安全は保障されている。

 

 「じゃあな婆さん。自愛しろよ」

 「アンタこそ、嬢ちゃん大事にしてやりな!」


 相変わらず口の悪い薬屋の婆さんと最後に軽いやり取りを交わし、俺はミラと共にギルドを後にした。


 「今日は一日家にいるから、水とか欲しくなったら遠慮なく言えよ」

 

 ギルドから帰り、ミラに少し早めの昼食を取らせた俺はベッドの上で欠伸をするミラに対してそう言い聞かせた。

 薬の副作用については聞いてなかったが食後ということは恐らく眠気を誘発したりするのだろう。


 ミラは元々無茶をしやすい子だが今回はそれがわかりやすく形に出てしまった。

 自分の性に合わないことをするのがストレスになるのは俺もよく理解している。

 彼女の場合は特に堪えるものがあったのだろう。

 理想を目指すためにやったことがストレスになるだなんて皮肉なもんだ。


 ミラにはもう少し自然体でいてもらった方がいいのだろうか。

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