イメチェンをしたい
「うーん……」
ミラは鏡を見ながら自分の身体をペタペタと触っている。
何を気にしているのだろう。
「何やってんだろうな?」
「アタシから言わせてみれば、隠れてミラを覗いてるアタシたちの方がよっぽど何やってんだって感じよ」
隣のオズに指摘されてぐうの音も出ない。
何とも言えない背徳感がのしかかってくる。
「大きくなるのかな……?」
ミラがぽつりと独り言を零した。
なるほど、そういうことか。
「アンタは下がってて、ここから先は女の子の問題だから」
オズにそう言われて俺は速やかに引き下がった。
確かに男の俺がどうこう言えるようなことじゃない。
「ねえトモユキ」
「なんだ」
その日の入浴中、ミラから話を振られた。
あれからまだなんだかんだで彼女とは一緒に風呂に入っている。
「今までずっと女の子の成長について教えてもらったけど、逆に男の子はどういう風に成長するの?」
答え方はいろいろあるだろうけど、この場合は『身体の変化』について知りたいのだろう。
「そうだな……まず声が低くなる。所謂声変わりってやつだ」
「トモユキも声変わりした?」
「もちろん」
大抵の男子は二次性徴の始まりと同時に声が低くなりはじめる。
中にはまるで別人のように変わってしまう人もいるぐらいだ。
「他にはな、喉仏っていうのが出てくるんだ。ほら、俺の喉に硬くて出っ張ってるのがあるだろ」
「どれどれ?本当だ!」
ミラが俺の喉仏をペタペタ触ってくる。
おかげでしゃべりにくい。
喉仏が出るのは男の二次性徴における大きな特徴の一つだ。
なぜそうなるのかは知らないけど。
「他は?」
「身体に筋肉が付きやすくなったり、後はヒゲが伸びやすくなったりする」
「うーん、でもお父さんはそうでもなさそうだよね」
アレはイレギュラーだ。
筋肉が落ちてガリガリだし、なぜかヒゲが全くと言ってもいいほど伸びない。
俺でも一応毎日剃ってるんだがあの人に至ってはそんな気配すらない。
「一応、個人差っていうのはあるからな」
この一言ですべてを片付けるしかない。
『個人差』って万能だな。
「身体ってのは自然に成長するもんだから、そんなに気にしなくてもいいぞ」
「うーん、そうかな?」
それにしても、どうしてミラはそんなに自分の身体のことを気にしているのだろうか。
今まであんなに無頓着だったのに。
「ミラはどうして成長したいんだ?」
「大人の人ってすごくかっこよく見えるから、ミラもそんな風になりたくて」
なるほど、そういうのに憧れてるのか。
俺もガキの頃は大人に憧れたもんだったな。
もうちょっと話を聞きたいし、少しだけカマをかけてみるか。
「俺はそのままでもいいと思うけどなぁ」
「ユキノはそう言ってくれるけど、このままずっとかわいいって言われ続けるのもなんだかなーって」
なんとも歯がゆいことを言うなぁ。
要は『イメチェン』をしたいわけか。
「トモユキはどう思う?」
「そうだなぁ……」
正直に言えば普段と雰囲気の違うミラも見てみたい。
でも自分の中のイメージが壊れるような気がして素直にやってみろと言えない。
「いいんじゃないか?ミラの思う『かっこいい』を目指してみれば」
結局は本人に任せるしかない。
「そっか。トモユキがそういうなら、ミラのなりたい自分を目指してみるね」
「まあ道を踏み外さないようにな」
ミラがイメチェンをしてみたいと思っているのは分かった。
これに関しては彼女の思い描く『かっこいい自分像』に任せるほかないだろう。
俺たちにできることは『ヤバい方に逸れそうになったら軌道を修正する』ぐらいか。
一度は自分も通った道だが、子供って何考えるかわかんねえな。




