体力不足と事情聴取
「で、何してたの?」
お昼時、俺は食卓を挟んでオズと向かい合い、事情聴取を受けていた。
内容はついさっきのことについてだ。
「ミラに腹筋やらせてました」
「本当にそれだけ?」
「それだけです」
なぜミラが腹筋を頑張った結果俺がこうなるのだろう。
些か理不尽というものではないだろうか。
「ミラ、嘘はついてない?」
「うん。だからトモユキは何も悪いことしてないよ」
オズに尋ねられたミラが特に迷うことなく答えた。
二人揃って同じこと言ってるわけだし、これで誤解はひとまず収まってくれるだろうか。
「まぁ、その……なんていうの……?アタシ勘違いしてたみたい」
オズはそう言いながら罰の悪そうに視線を逸らした。
よかった、とりあえず誤解は解けたみたいだ。
これで一安心だ。
「なんで腹筋なんてやってたの?」
「昨日のランニングでミラの足が筋肉痛になったみたいでさ。せっかく運動したいって言ってたのに何もしないのももったいないと思って」
筋肉痛の時は痛めた部位を休ませるのがセオリーだが、かといって丸一日何もしないというのももったいない。
だから痛めていない上半身を動かせる腹筋をしていたというわけだ。
「俺に悪かったところがあるとすれば……ミラの体力を見誤っていたことか」
「どういう意味?」
「想像以上に低かったんだ」
ミラの体力が想像を絶するほどに低かったのだ。
あれが年相応なのかはわからないがあのままだと健康面で問題が出そうなのは確かだ。
「やっぱレオナルドの子なのかしらねぇ……」
「体力がないのを血筋だとは考えたくねえなぁ」
レオナルドさんの体力のなさは筋金入りだ。
アレはもう今からどうにかできるようなレベルじゃない。
ミラの体力は遺伝ではないと信じたい。
「そういうお前はどうだったんだ?」
「え?」
「体力だよ体力。一瞬でバテたりとかしなかったか」
「もともと世界飛び回ってたし、体力はそこそこ自信あるわよ」
そうだった。
オズ家は元々世界中を旅している一家だった。
そんな家族について世界中を飛び回っているのだから体力があるのは当然か。
「んじゃ腹筋やってみる?」
「いいわよ。何回やればいいの?」
「とりあえず十回を三セット」
ミラに課したのと同じ量を要求してみた。
早速オズの足を抑え、さっきと同じように腹筋の用意を整える。
「いーち、にー、さーん、しー」
オズはペースを落とすことなく腹筋をこなしてみせた。
流石にいつもアリスを面倒を見ているだけのことはある。
「ろーく、しーち」
俺はあることに気づいてしまった。
オズが上体を起こすたびにその豊満な胸の谷間が丸見えになるのだ。
すでに生のそれを見たことがあるから今更どうということはないのだがやはり気になってしまう。
「きゅー、十」
「ふう、これぐらいなら余裕ね」
俺は劣情を押し殺して心を押し殺してオズの腹筋に付き合い続けていた。
一セット目は問題なくできたな。
「あと二セットあるけどペース配分大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫」
やせ我慢とかじゃなくて本当に大丈夫そうだな。
「しーち、はーち……」
「ふっ……!くっ……!」
二セット目の後半、オズの息が上がり始めてきた。
最盛期に比べれば多少は鈍ったのかもしれんな。
「よーし二セット目も大丈夫だな。少しインターバル挟んでラスト一セットだ」
「臨むところ!」
オズも諦めないよなぁ。
ミラが『目標を達成するまで執念で動き続けるタイプ』ならオズは『自分で決めたことは絶対にやり遂げるタイプ』だ。
「さーん、しー……」
「うぅ……きっつ……!」
きついとは言いつつも音を上げたりしないのは流石だな。
「きゅー、十」
「ハァー……」
三セットを特に危なげもなく終えたオズは寝そべったまま大きく息を吐きだした。
自負しているだけあって体力はそこそこあったな。
「アンタはどれぐらいできるの?」
「五十回を三セットかな」
「やっぱりクルセイダーって体力馬鹿なの?」
否定できないな。
むしろそれができなきゃ仕事にならないぐらいだし。
「まあ、体力馬鹿の集団だから間違っちゃいないな」
「あー、なんか疲れた……ちょっと昼寝してくる」
そういうとオズは二階へと行ってしまった。
久々の運動が身体に堪えたのだろうか。
こうして俺に一人の時間ができた。
特にやることがない、何をしようかな……
「……」
数十秒ぐらい考えてみたが何もすることが思いつかない。
やはり考えの浅い人間がいくら考え事をしてもまるでいい知恵は出てこないな。
「やっぱり筋トレするか」
よし、それがいいそうしよう。
やっぱり身体を動かしてる方が俺の性に合ってる。
「四十九、五十」
十分程度で腹筋は終わってしまった。
次は腕立てとスクワットでもやるか。
よく考えると、賢さを象徴するような存在である魔法使いと一緒に暮らしてるこの俺はただの体力馬鹿っていうのも不思議な話だな。
普通なら違う世界に生きていて出会うこともなさそうなのに、なぜかこうして俺たちは出会って、結婚までして、子供までできている。
やっぱり人生って何が起きるかわからないもんだな。
そんなこんなでいろいろと物思いに耽りつつ、俺は筋トレを続けるのであった。




