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死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
第3章 ミラ、学校生活の始まり
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ミラの入学式

 ついに迎えた春の一日目。

 凍えるような厳しい寒さに晒され続けた冬の日々が終わりを告げ、麗らかな日差しが俺たちに新たな一年の始まりを感じさせる。


 そして、一年の始まりは俺たちにも新たな兆しを齎そうとしていた。


 「おい起きろ!もうギリギリの時間だぞ!」

 「もうちょっと……もうちょっとだけ……」


 そんな春の一日目の朝から俺は布団の中にくるまって出てこようとしないオズと低レベルな攻防を繰り広げていた。

 最近ミラが自力で起きられなくなってきていて大変な思いをしてからのこれだ、たまったもんじゃない。


 「バカ!今日はミラの入学式だろ!」


 そう、今日はミラの入学式だ。

 大事な式典だから見に行こうということになっている。


 「……」


 さっきまで駄々をこねていたオズが急に動きを止めて黙りこんだ。


 「あああああそうだったあああああ!!」


 一瞬の沈黙を破り、オズが布団から勢いよく飛び出してきた。

 っていうかそんな大事なことを忘れるなよ。 


 ……おい、ちょっと待て。


 「お前……昨日そんな恰好で寝てたのか」


 布団から飛び出したオズは下着以外何も纏っていない、かなり肌色が多い姿をしていた。

 その……なんだ……

 貴女のプロポーション的にその姿はとても危険だと思います。


 「だって何か着てると寝苦しいんだもん……」


 寝ぼけ眼を擦りながらオズは答えた。

 こいつもしかして裸族の気があるのか?


 「そんな恰好してるから冬に寒い思いしてたんだろ!」

 「うっさい!今から支度するから出てけ!」


 かなり強引にオズに追い出された。

 アイツ俺の家に居候してるくせに自由すぎないか。

 元はと言えばアイツが生活してるここ、物置部屋のはずだったし。

 

 「トモユキー、お姉ちゃんはー?」


 階段の下からミラの声が聞こえてくる。


 「もうすぐ準備できるってさー」


 ありのままの現状を報告する。


 「そろそろ家出ないと遅れちゃうよ?」


 ミラに言われて俺は咄嗟に時計を見た。

 確かにかなり時間が押している。

 このままだとマジで初日から遅れてしまいそうだ。

 そんなことはあってはならない。


 「悪い、俺たちもう家出るからな!」

 「はぁ!?」

 「支度できたら追い付いてきてくれ!」


 オズを置いて俺は急ぎで階段を駆け下りた。


 「お姉ちゃんは?」

 「ちょっと遅くなるから後で追いかけてくるってよ」


 俺とミラは二人で家を出た。

 さあ、いよいよミラの入学式だ。


 校門前は制服を着た大小さまざまな生徒たちとその保護者とでごった返していた。

 ここにいる生徒は全員新入生なんだろうか。


 「すっごーい!皆も今日ここに入学するのかな?」


 ミラが人だかりを見て目を輝かせている。

 その中の一人に目を付け、ミラは俺のもとを離れて新入生に声をかけに行った。


 「ねえねえ!あなたも新入生?」


 ミラが声をかけたのは狐の獣人だ。

 そういえば狐の獣人だけが獣人の中では魔法を扱えるとミラから聞いたことがある。

 傍から見たら女の子にしか見えないような顔つきをしているように見えるが。制服がスカートじゃないからからきっと男の子だろう。

 

 「えっ……あっ……あの……」


 一方で男の子の方は気弱そうな反応を見せている。


 「あなたの名前は?」

 「えっと……僕はイズナ。イズナ・カプリスだよ」

 「イズナっていうんだね?私はミラ。ミラ・マーリン!」

 「ええっ!?今、マーリンって!?」


 イズナと名乗る狐の少年はミラの名前を聞くなりたいそう驚いた。

 それと同時に周囲の視線が一斉にミラの方に集中する。

 そりゃあそうだよな、魔法使いの名家中の名家であるあのマーリン家の娘がここにいるんだもの。


 ミラの姿見たさに子供も大人も問わずミラを中心にしてごった返し始めた。

 マズい、このまま押しつぶされたりしないだろうか。

 人ごみに慣れていないからなおさら心配だ。


 「あー、ちょっと失礼しまーす」


 人混みを力尽くでかき分けて中央へと進む。

 これぐらいは慣れたものだ。


 ミラは……ああ、いたいた。

 やっぱり押しつぶされそうになっている。


 「うぅ……ぐるじぃ……」


 慌てて人と人との隙間から腕を伸ばし、ミラの手を引いて抱きかかえた。

 こうすれば多少なりとも楽になるだろう。


 「大丈夫だったか?」

 「ふぅ、ありがとー」


 ミラは安心したようにため息をついた。

 人ごみを押しのけ、俺はその場を離脱した。


 さて、そろそろ教室に向かうか。

 それにしても魔法使いたちが皆正装らしき恰好をしている中で一般人の俺の服装が明らかに浮いている。

 この手の服をオズかレオナルドさんから借りるべきだっただろうか。


 「なんだなんだ!?」

 「地面が光ってる!」


 周りがまた別のことで騒ぎ始めた。

 騒ぎがする方を見てみると確かに地面の一部が金色に光って歪んでいる。

 あー、この光景かなり見覚えがあるぞ。


 「あー、やっぱこっちの方が楽ね。」


 ですよねー。

 金色の歪んだ空間の中から魔法使いの礼装を身に着けたオズが現れた。

 召喚魔法は彼女にしか扱えないことは知っていたがまさか自分自身を召喚することもできたとは。

 本当になんでもありだな。


 「見ろ!クラリス様だ!」

 「道を開けろ!オズ家の当主様が通るぞ!」


 まさかここにいる魔法使いたちもマーリン家の娘とオズ家の当主が同時にここに現れるなど思いもしなかっただろう。

 驚くのはまだ早い、後でマーリン家の当主もここに来ることになるぞ。


 「よう、待たせたわね」

 「お姉ちゃん遅いよー」


 オズは開かれた道のど真ん中を通り、俺たちは合流を果たした。

 しかしアレだ。

 今日は新入生たちが主役のはずなのに完全にミラとオズの二人に存在を食われている。

 これからさらにレオナルドさんも合流することを考えると今から同情が止まらない。


 「あれ?イズナは?」


 ミラが周囲をキョロキョロと見回している。

 そういえば彼の姿が見当たらないな。


 「イズナって誰?」

 「さっき知り合ったの。狐の獣人さんなんだよ」

 「あー……」


 それを聞いたオズが知り合いのことを聞いたかのような感嘆の声を上げた。


 「その子のこと知ってるのか?」

 「カプリス家の子でしょ?獣人で唯一の魔法使いの家系だから知ってるわ」


 そうだったのか。


 「すごい……本物のクラリス様だ……」


 イズナがオズの姿を見て呆然としている。

 そりゃそうだよな。

 入学して早々にマーリン家の娘とオズ家の当主が直々に目の前に現れたんだから衝撃を受けるのも無理はない。


 「へぇ、アンタがカプリス家の跡取り?」


 オズがズカズカとイズナに近寄っていく。


 「あ……は、はい……」


 すっかり怯えてるじゃねえか。


 「ふーん」


 オズはジロジロとイズナに視線を向ける。

 下手したらトラウマになりかねなさそうだ。


 「怖がらせてどうすんだバカ!」


 イズナがいたたまれなくなったので思わずオズの頭をひっぱたいて止めに入った。

 思いの外小気味よい音が鳴ってなんとなく気分がいい。


 「痛っ……!」

 「ごめんなー、うちの居候が怖い思いさせて」


 とりあえず謝っておこう。

 オズは絶対に謝らないだろうし。


 「えっ、クラリス様って居候なんですか……?」


 イズナが聞き返してきた。

 初日から衝撃が怒涛の連続で気の毒だ。


 「そう、オズ家の当主様は現在ワケありでおじさんの家に……」

 「これ以上喋ったら二度と口を利けないようにするけどその覚悟はある?」


 揚々と話していたらオズに脅しをかけられた。

 マジでやられかねないし喋るのはこれぐらいにしておこう。

 

 「初等部の教室ってどこかな?」

 「えっと……初等部の教室はあっちだよ」


 ミラとイズナはそんなやり取りを交わしながら校舎の方へと消えていった。

 同年代の子と話ができているようでなによりだ。

 それはそうとしてさっきからオズが難しい表情をしている。


 「何か気になることでもあったか?」

 「なんでもないわよ……なんでも……」


 それとなくはぐらかされた。

 過去にあの子の家族と何かあったのだろうか。

 今はあまり深く模索しない方がよさそうだ。


 いよいよ式が始まるらしい。

 広いホールのような場所に初等部の新入生とその保護者たちが集まっている。

 その中でもミラの姿は一目でわかった。

 いろいろな髪の色があるがその中でも彼女の銀髪はかなり目立つのだ。


 「それにしても来ないわねえ、レオナルド」


 オズがこっそりと俺に耳打ちしてきた。

 そう言われれば確かにレオナルドさんの姿を見ていない。

 すでに来ているならいいんだが、会場を間違えたりしてないだろうか。


 「ん……?」


 噂をすれば何とやら。

 奥の方からローブを纏った痩せ身の人影が一つ、こちらに近づいてくる。

 被ったフードの隙間から伸びるあの銀髪は間違いなくレオナルドさんだ。


 「いやあ、間に合ってよかった」


 フードを取ったレオナルドさんが息を切らしながら現れた。

 彼が息を切らしているとは珍しい。


 「ずいぶんと遅かったじゃない」

 「迷いでもしましたか?」

 「さっき間違えて高等部の入学式会場に行っちゃってね」


 あー……

 ミラが入学するのは初等部だと教えてなかったから誤解したんだろうか。

 申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


 「これより第八十七回、メルクーア魔法学院初等部入学式を開催?いたします」


 なんか司会の人が心なしか固くなってる気がする。

 オズ家とマーリン家の当主がここに揃っているのに気づいたのだろうか。

 それなら魔法使いとして緊張するなという方が無理というものだろうか。


 「ミラはどこかな?」


 レオナルドさんが小声で耳打ちしてきた。

 俺はレオナルドさんの肩を叩いてミラがいる方を無言で指さし、視線を誘導した。


 「おぉ……ミラがあんなところに……」


 いったい何に感動しているのだろう。

 この人の感性は普通の人間と少しばかりずれているような気がする。


 式の内容は至って普通だ。

 俺がいた世界とほぼ変わらないアレだ。

 進行役の先生がやたらガチガチになってたり、初等部の生徒代表としてミラが登壇した時に感動のあまりにレオナルドさんが卒倒しそうになったりしたがまあ普通だった。


 「学校の催しってこんなに退屈なものなの?」


 オズが壁にもたれて足を組みながら気だるげに言い放った。

 退屈だという意見には概ね同意だが、それにしてもお前態度でかくない?

 せめて保護者らしい振る舞いを見せろ。


 「よかった……よかった……」


 一方でレオナルドさんは感動に咽び泣いてフードを被って目元を覆い隠してしまっている。

 入学式でこれだと卒業式を迎える辺りで死んでしまわないか心配だ。


 式が終わってから十数分後、生徒たちがまばらに校舎から出始めた。

 ということは今日の催しがすべて終わったということだろう。


 よく見ると一部の生徒たちは山のように積まれた本を抱え込んでいる。

 恐らく教科書の類だろう。

 ほとんどの生徒たちが保護者に手伝ってもらっている。

 まだミラの姿が見えない、迎えに行くか。


 「あっ、トモユキ!それにお父さんも!」


 教室へと行きつくと俺を見つけたミラが手を振ってきた。

 周りにはまだたくさんの子たちがいる。

 この子たちも初等部の生徒か。

 やはり予想通り、これからミラが使うであろう机の上に大量の教科書が置かれている。

 彼女だけではまず運べないだろうし正直俺でも全部持ち運べるか怪しい。


 「なあオズ、あの教科書の山を家に送ることってできるか?」

 「お安いご用よ」


 そういうとオズは例の金色の魔法陣を展開した。


 「状態は保障できないけどいい?」

 「俺のだったら別にいいんだがミラが使う奴だからできるだけ丁寧にやってくれ」

 「はいはい、送り先はミラの部屋でいいわよね?」

 「それでいい。助かる」


 オズは手当たり次第に教科書を手に取り、それを魔法陣の中へと送っていく。

 それを見た子供たちはその光景に言葉を失っていた。


 「ふぅ……これで全部ね。」

 「すごーい!今のどういう魔法なの?」


 教科書の山を送り終えたオズはすぐに子供たちに取り囲まれた。

 レオナルドさんも同様だ。

 これはしばらくは解放されそうにないな。


 何十分経っただろうか。

 そろそろ俺が蚊帳の外にされていて退屈だ。


 「なあ、そろそろ帰って飯にしないか?」 


 何気なく放った俺の一言にオズが食いついた。

 コイツ……


 「ごめんね。アタシたちそろそろ帰らなきゃいけないから」


 オズは陣を展開するとミラを抱えてレオナルドさんの手を取った。


 「またねー!」

 「ミラのことをよろしくね」

 「またどこかで会いましょう」


 オズに手を引かれてミラとレオナルドさんは陣の中に消えていった。

 さて、俺もそろそろここを出るか。


 「あっ、似顔絵師の人がいるよ!」


 ミラがなんだか嬉しそうに俺の袖を引っ張ってきた。

 視線を向ければそこには大きなキャンバスを立てかけ、小さな丸椅子に腰を下ろした老爺の姿があった。


 「せっかくだしアタシたちも描いてもらいましょうよ。思い出として残せるし。」


 それはいいな。

 この世界にデジタル写真はない、だから俺たちの姿を記録する手段は絵画ぐらいしか存在しない。

 それに、形に残せる思い出を一つぐらいは作っておきたい。


 「すいませーん、似顔絵描いてもらってもいいですか?」

 「いいですよ。何枚描きましょうか?」

 「アタシの分、タカノとミラの分、レオナルドの分で三枚ね」

 「はい。じゃあ椅子を用意するからそこに座ってくださいな」


 オズが老爺に声をかけ、老爺はそれに快く応じた。

 それからわずか数分で似顔絵は描きあがった。


 「すげえ……」


 まるで写真そのものだ。

 しかもこの一瞬で三枚も描き上げるとは。

 人間技とは思えん。


 「お代はいくらですか?」

 「お代はいりませんよ。年老いた人間の道楽ですから」


 それを聞いたオズが老爺の前へと躍り出た。

 その手には紙幣が握られている。


 「受け取りなさい。これはお題じゃなくてチップだから」


 そう言いながらオズは老爺の手に千ルートを押し付けるように握らせた。

 そして老爺からの返事を聞くこともなく、ふり返って再び俺たちと共に歩き始めた。

 

 「じゃあ、また会おう」


 レオナルドさんはオズから似顔絵を受け取ると、俺たちとは別々の道へと帰っていった。


 「今日のお昼ご飯は何作ってくれるの?」


 オズが上機嫌に尋ねてきた。


 「ミラは何が食べたい?」

 「ハンバーグ!」

 「よし、じゃあハンバーグにするか」


 父親はこんな風に我が子と時を過ごすのだろうか。

 もしそうなら同じ体験ができている今の俺は間違いなく幸せ者だ。

 ミラはどう思っているのだろう。


 

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