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死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
第3章 ミラ、学校生活の始まり
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ミラの入学前日

 「どう?似合ってる?」


 ミラがメルクーア魔法学院の制服を着て俺たちに見せてくれた。

 彼女は春から学院の生徒になる。

 そして今日は冬の九十日目、明日はいよいよ入学式だ。


 「ああ、よく似合ってるぞ」

 「ホント、見違えるみたい」


 俺とオズは手放しにべた褒めする。

 仕方がない、だって本当に可愛いんだもの。


 「まさか適当に紹介しただけの学院の入学試験に一発で受かっちゃうなんてねー」


 今さらっと発言したけどお前は適当にあの学校を紹介したのか。

 ミラの将来のことを真剣に考えてくれてたんじゃなかったのか。


 「えっ?」


 ミラが思わず目を丸くする。


 「冗談よ冗談!ミラなら合格できるって信じてたから」


 オズも冗談を言うタイミングが悪いんだよなあ。

 こういうのは本人のいないところで言えばいいのに。


 「本当に?」


 ジト目のミラがぐいっと顔を近づけてオズに詰め寄る。

 とうとう彼女も疑うことを覚えだしたか。


 「ほ、本当よ本当……」


 眼を逸らすなオズ、胡散臭さが増すぞ。


 「さて、そろそろ行くか」

 「うん!」

 「行くってどこへ?」

 「決まってるだろ、図書館だよ」


 図書館へ行ってすることはただ一つ。

 

 「制服着て図書館行くの?」

 「うん、お父さんに見せに行くの!」

 「あー、なるほどね」


 それを聞いたオズが納得したように頷いた。

 ミラの実父、レオナルドさんはギルドの図書館の管理者だ。

 彼にもミラのことを報告しなければ。


 「お父さんどんな反応するかな?」

 「きっと喜ぶだろうなぁ」

 「驚きの余り気絶しちゃったりして」

 「ははっ、まっさかー」

 

 軽い冗談を交わしながら俺たちは家を出た。

 レオナルドさん、どんな反応をするのかな。


 そんなこんなでギルドへと到着した。


 「図書館ってどっちに行けばいいんだっけ?」


 ついついミラに道を尋ねてしまった。

 俺はほとんど図書館に足を運んだことがなかったのですっかり道を忘れていたのだ。


 「図書館はここを右に曲がってねー。それからそれから……」


 流石ミラだ、図書館周りの道順を完璧に把握している。

 そんなこんなでミラに導かれて俺たちはあっさりと図書館へと着いた。


 「……」


 やっぱりデカい、ただひたすらにデカい。

 それこそあの学校とも大差ないぐらいだ。

 小さな個人商店がいくつも並ぶ商人ギルドの中にそびえ立っているだけあって余計にデカく見える。


 「レオナルドっていつもどこにいたっけ?」

 「三階にいるよ」


 オズとミラがやり取りの中でレオナルドさんの居場所を確認する。

 どうやら三階はあの人の定位置らしい。


 「レオナルドは……あーいたいた」


 オズが周囲を見渡してレオナルドさんを発見したようだ。

 彼は山積みにされた大量の分厚い図書に囲まれていて顔は見えないものの、脇から見える無精に伸びた銀髪から判断ができる。

 そして何やら筆を進めているようだ。


 「よくアレだってわかったな」


 俺はひっそりとオズに耳打ちした。


 「だってあんなに本?を山積みするのってレオナルドぐらいだし」


 オズが呆れたように解説してくれた。

 そうなんだ、まあそういうイメージは容易にできたけど。


 「お父さん」


 研究に没頭するレオナルドさんの肩をミラが優しく叩いた。

 彼女の呼び声で筆を進めていたレオナルドさんの手が止まる。

 そしてレオナルドさんはゆっくりとミラの方へ振り向いた。


 「ミラ、久しぶりだね」

 「どうも、お久しぶりです」


 レオナルドさんに会うのは昨年の夏の終わり以来だったかな。

 随分と間を開けてしまった。


 「やあ、君たちも一緒だったのか」

 「ねえお父さん、この服見て見てー」


 これを言うのを待ちわびていたと言わんばかりにミラが制服をアピールする。

 さあ、レオナルドさんの反応は?


 「その服は……?」

 「ミラね、春から学校に通うんだよ」


 それを聞いた途端にレオナルドさんが硬直して動かなくなった。

 何か問題あったかな?

 目の前で手を振ってみた。

 ダメだ、まったく反応がない。


 「……ぃ」


 何か譫言が聞こえるぞ。


 「無理、尊い……」


 おい、これヤバい奴じゃねえの?

 完全に語彙力が俺よりぶっ飛んでるじゃん。

 限界と化したオタクがこうなってるのを前の世界で見たことあるぞ。


 「この報告はちょっと刺激が強すぎたかな?」


 オズはなんでこうなるとわかってたみたいな反応してるんだよ。

 というか娘が学校に通うことを報告しただけで気絶する親がいるのか。


 「お父さんどうしちゃったの?」


 ミラは今まで見たことのない反応を示すレオナルドさんを見て困惑している。


 「うーん、なんていうんだろうなぁ……こう……」


 自分の娘の制服姿を見たときの親ってこんな風になるんだろうか。


 「制服姿のミラがあまりに可愛くて言葉が出ないのよきっと」

 「そうなの?」


 多分、というか間違いなくそうだと思う。

 数分経ってレオナルドさんはようやく正気を取り戻した。


 「そうか、ミラは春から学校へ行くんだね」

 「はい。余計なことでしたらすみません」

 「いや、ミラのことは君に一任しているから私からは何も言わないよ。むしろ感謝している」


 寛大な人だ。


 「もしよければ、ミラの入学式に来てやってはくれませんか?」

 「入学式に、私が?」

 「ええ、親は我が子の晴れ舞台を見届ける物ですよ」


 レオナルドさんは考え込むような素振りを見せた。

 向こうも忙しくてなかなか都合が合わないのかな。


 「少なくとも、俺が住んでいた国ではそうでした」

 

 俺の故郷、日本でも基本的に保護者は子供の式典を見に来るものだ。

 少なくとも俺はそうだった。


 「なるほど……それならたまには私も親らしいところを見せないといけないね」

 「来てくれますか?」

 「うん、必ず行こう」


 よし、約束を取り付けることができたぞ。


 「ごめんねミラ。お父さん何もしてやれなくて」

 「ううん。お父さんのおかげで今こうしてトモユキたちと一緒に居られて、毎日がすっごく楽しいの」


 うわぁ、シリアスな空気だなぁ。

 レオナルドさんとミラの二人の会話の内容が重い。

 過去になにがあったのかがなんとなく推し量れてしまう。


 「おい、ちょっといいか」


 俺何も言わずにその場を退き、小声でオズに耳打ちした。


 「何?」

 「少しだけこの場を離れるぞ」

 「えっ、なんで?」

 「いいからいいから」


 俺はオズの手を引いて棚の向こうへと身を隠した。

 今はとりあえずあの二人をそっとしてやってほしい。


 「ねえお父さん。ギューってして」

 「よしよし」


 ミラに頼み込まれるがままにレオナルドさんはミラを抱きしめた。

 そのまま頭を軽く撫でている。


 「えへへー……」


 安らかな表情でミラも嬉しそうだ。

 

 「なにやってんのあの二人」

 「親子の時間を過ごしてんだよ」


 そういうとオズは何も言わずに二人の様子を眺め続けた。

 彼女もなにかしら思うところがあるようだ。


 「なんだかアタシも小さい頃を思い出すわ。お父様とお母様のいたあの頃を……」


 オズはしみじみと感傷に浸っていた。

 彼女の両親はすでにこの世を去っている。

 だからもう顔を合わせることができないのだ。

 今でもオズはこうして時々両親のことが恋しくなったりしているのだろうか。


 「……ありがとう」

 「もういいかい?」

 「うん、そろそろトモユキたちが待ってるから」


 そういうとミラはレオナルドさんの元を離れた。


 「そう。じゃあ行っておいで」

 「じゃあね」


 こうして久々の親子水入らずの時間はあまりにも早く終わってしまった。

 こちらもミラを迎えに行かないとな。


 ミラは満足そうな顔をしてこっちへ戻って来た。


 「もういいか?」

 「うん、それよりお腹すいたー」

 「じゃあどこか食べに行く?」

 「それなら制服汚さないようにしないとな」


 「図書館では静かにね」


 レオナルドさんに注意されてしまった。

 いい年してみっともないことをしてしまったもんだ。


 「トモユキ君、これからもミラのことを頼んだよ」

 「任せてください」


 図書館を出る前、レオナルドさんの声が聞こえたような気がした。

 俺は振り返って親指を立て、返事を返した。

 

 「えっ、なんて?」

 「なんでもねえ。独り言だよ独り言」


 いよいよ明日はミラの入学式だ。

 レオナルドさんも来てくれることになったし、なんだかすごいことになりそうだ。

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