おじさんとミラの入学準備
前略、ミラが学校に興味を示した。
今日はオズの紹介の元、ミラを連れてギルド内にある学校に入学の申し込み?だ。
無論、事前にあちら側にアポは取ってある。
「学校ってどんなところなのかな?」
「さあな」
正直、この世界の学校がどんなものなのかは俺もまだ知らない。
「おぉ……」
これがこの世界の学校か。
すげえ、めっちゃデカい。
俺が通っていた学校の倍はあるんじゃないだろうか。
「大きいね……」
その荘厳な外観にミラも圧倒されている。
『国立メルクーア魔法学院』
そう刻まれた如何にも重そうな正門をミラと一緒にくぐり、学校の校庭へと足を踏み入れる。
というか魔法学院ってことは魔法使いが通う学校だよな。
よく考えればオズが紹介するような学校だし当然か。
今日は学校の授業が無いらしく、生徒らしき人影はこれっぽっちも見当たらない。
どこかに来賓用の玄関はないのだろうか。
なかったらなかったで生徒用の昇降口から入るまでだが。
「何か探してるの?」
「入口だよ入口」
「あそこから入っちゃダメなの?」
ミラが指さした先には玄関があった。
たぶん生徒が使うための昇降口だろう。
「あのな、たいていの学校は生徒が使う入口とそれ以外の人が使う入口とで二つあるもんなんだ。一応俺たちは今はまだ部外者だから使うのはあっちじゃない方だ」
「へぇー、そうなんだ」
この世界ではどうなのかは知らないが元いた世界ではほぼ全てがそうだったはずだ。
「あー、あれだな」
ミラと二人で校舎をぐるりと一周し、もう一つの入口を見つけた。
恐らくあれが来賓用の玄関だ。
俺とミラは校舎の中へと入った。
「静かだね」
「今日は授業がない日みたいだからな」
「……」
「どうしたの?」
「……なんでもねえよ」
本当になんでもない。
だが、この学校の雰囲気がどこか無性に懐かしくてならない。
俺も学生時代はこんな感じの校舎で過ごしてたっけなぁ。
実際はもっと汚かったような気もするけど。
入口のすぐ近くにあった窓口から人を呼んだ。
この学校の事務員らしきお姉さんがすぐに応対しに来てくれた。
「ようこそ。本日はどのようなご用でしょうか?」
「あの、先日そちらへ連絡を入れたタカノという者ですが」
「はい、少々お待ちください」
そう言い残すと事務員さんは奥の方へと行ってしまった。
あの向こうはきっと職員室的なところに繋がっているのだろう。
「お姉さんはどこに行っちゃったの?」
「さあな、でもすぐに戻って来るだろ」
待ち呆けて数分後、如何にも魔法使いという出で立ちをした男性が俺たちの所へとやって来た。
「初めまして。当学院の教務主任を務めております、クロウリー・レーベンスと申します」
教務主任かー、その肩書にはあまりいい思い出ないなー。
「初めまして。タカノ・トモユキです」
なんか妙に緊張するな。
場所を変え、俺とミラ、クロウリー先生は机を挟んで椅子に座って向かい合った。
「今回はどのようなご用でお越しになられたのでしょうか」
「はあ、この子をここに入学させようと思いまして」
俺はストレートに伝えた。
クロウリー先生はミラの方に一瞬目を遣るとすぐに俺の方へ視線を戻した。
「そうですか、では今から入学試験を行いましょう」
は!?
淡々としてるようで今とんでもないこと言ったぞこの教師。
さらにクロウリー先生の言葉に呼応するかのように女の先生がやって来た。
「今回の試験官を担当させていただく者です。対象者は誰でしょうか?」
「こっちの子です」
俺はミラを指した。
「試験会場にご案内いたします」
「よ、よろしくお願いします……」
ミラが珍しく緊張している。
そりゃそうだよな、普段とは全然違う雰囲気の人と話してるんだもん。
そのまま試験官に連れられてミラはこの場からいなくなってしまった。
「では、保護者の方には私からこの学校に関するシステムの方を説明させていただきます」
なるほどなあ。
それなら試験中に待ちぼうけをすることもないだろう。
……長い。
ずっと外で体力仕事をしてきた人間である俺に椅子に座って長話を何分も真面目に聞いていられるほどの落ち着きはない。
どれぐらい時間経ったかな。
「試験の結果が出ましたのでご報告いたします」
あ、さっきの試験官の人だ。
すぐ傍には相も変わらず緊張した様子のミラが一緒にいる。
というか俺も緊張してるのは何故だ。
子供の受験って保護者もこんなに緊張するのか。
「試験の結果、当学院高等部相当の学力が確認できました」
「……えっ?」
マジすか!?
ミラはまだ小学生でもない子供だ。
そんな彼女に高校生相当の学力があったとは。
「どうだったの……?」
「学校に入れるみたいだぞ」
「本当!?よかったー」
ミラは安堵と歓喜の入り混じったような明るい表情を見せた。
「先生、あの子の名前なんですが……」
試験官がクロウリー先生に耳打ちしている。
先生の表情がみるみるうちに変わっていく。
「なんと、あのマーリン家のご令嬢でしたか……」
ああ、魔法使いの学校ならこの世界の魔法使いの二大派閥の片割れであるマーリン家のことを知らないはずがないよな。
「以上の結果から、学力面で一定以上の能力が認められましたので高等部までの入学が可能です。いかがなさいますか?」
我に返ったクロウリー先生は改まって淡々と俺に話を進めてきた。
ミラに高等部相当の実力があるなら是非そちらへ行かせたい。
……と、言いたいところなんだが。
ミラはこの幼さにして高い能力を持っていることはわかった。
つまり言い換えれば『同じ高等部相応の人間と比べるとあまりにも歳が離れている』ということでもあるわけだ。
年齢差から生じる問題がいろいろと心配だ。
「初等部に進学させることはできますか?」
俺としては同年代の子たちと一緒に初等部で勉強をしてほしい。
「はあ……可能ではありますが」
クロウリー先生は珍しいものを見る目をしながら答えた。
高等部に入学できるのにあえて初等部に入りたいって言ってるんだから当然といえば当然の反応か。
「ちなみにですが、高等部にはミラぐらいの子はどれぐらいいるんですか?」
「年齢相応以上の学力によって高等部へ飛び級で進学している生徒は何名か在籍していますが、流石に彼女ほどともなると前例がありませんね」
やっぱりか。
「ミラはお前ぐらいの歳の子たちと一緒に簡単なことから勉強するか、年上の人たちと一緒に難しいことを勉強するかだったらどっちがいい?」
俺ばかりが考えても仕方がない。
進学先を選ぶのは他の誰でもない、ミラ本人だ。
「うーん……」
ミラは真剣に考えている。
その様子を俺たち大人は神妙な面持ちで見守っている。
「……」
ミラは呼吸を整えるように息を吸い込んだ。
さあ、答えが出る。
「……ミラと同じぐらいのお友達と一緒に勉強がしたい」
「だそうですよ」
俺はそう言う他なかった。
「わかりました。では初等部への入学手続きをさせていただきます」
クロウリー先生は改めて落ち着いた様子でそう言った。
こうしてミラの初等部への入学が認められた。
晴れて彼女は春からメルクーア魔法学院の生徒だ。
「これでよかったのかな?」
帰り道の途中、俺はミラに尋ねられた。
「もちろんだとも」
「そう、ならよかった」
俺は上機嫌なミラを肩車して夕暮れの帰路を行く。
ミラのために俺もこれからもっと仕事を頑張らないとな。




