転生初日、運命の出会い
前略、俺は死んだ。
そしてなんだかよくわからない場所に送られて現在に至る。
なんだここは。
石の壁に石の床、なんかベッドとか椅子とかテーブルとかが置いてある。
アレか、ここは新しい俺の家か。
多分これから俺はここで生活していくことになるんだな。
いろいろとツッコミたいことはあるがここで生きていかなければならない以上、まずは慣れることから考えるか。
むしろ住むところが最初からあるだけ好都合と見た方がよさそうだ。
とりあえず家の中をぐるっと見てみた結果なんだが。
「はぁー……」
思わずため息が出た。
テレビもねえ、冷蔵庫もねえ、ガスも全く通ってねえ。
電気もねえ、毛布もねえ、タンスは物が入ってねえ。
新世界っていうんだっけ、ここ。
名前の割にはなんか前の方が文明レベルが進んでるような気がしてならねえんだが。
大丈夫?Wi-Fiとか飛んでる?
携帯で確認してみるか……
「はぁ!?」
思わず絶句した。
Wi-Fiが飛んでないどころか圏外って表示されてるんですけど。
これじゃネットは使えそうにない。
見た感じコンセント差し込むところもないから充電もできそうにない。
というかそもそも今の俺は充電器を持っていなかった。
文明の利器たる携帯電話が一瞬でただのガラクタ、無用の長物も同然になっちまった。
よくよく考えてみりゃこの世界で通話する相手なんていないじゃねえか。
住むところは一応解決しているわけだし、次は食うものと着るものか。
流石にいつまでも汗の染みついた作業着のままなのは気持ちが悪いし、せめて替えの下着と部屋着ぐらいは欲しい。
待てよ?
何もないということは食うもんも着るもんもどっかで買わなきゃいけないってことだよな。
そもそも俺はこの世界で使えるお金を持ってんのか?
早くも絶体絶命の危機なのでは?
そういえばなんかテーブルの上に封筒が置いてあったな。
ワンチャン札束とか入ってねえかな。
というわけでテーブルの上に置かれていた封筒を見るとなにか書いてあった。
なんだこの文字、見たこと無……
「読める……読めるぞ……!」
どういうことだ、初めて見る文字なのに書いてある内容が理解できるぞ。
ついでになんかアニメチックな台詞を口走ってしまった。
まさかこんなセリフを実際に口にする場面が来ようとは。
『新世界での新生活応援特典で新世界の通貨一万ルートを給付いたします』
封筒には紙幣が十枚入っていた。
どうやらこのルートとかいう通貨は一番デカい数字が千らしい。
価値はよくわからないがここに来たばかりでまだ一文無しの俺にはかなりありがたい。
支給されていたおかげで金銭面はクリアできそうだ、となれば次は売店探しだ。
とりあえず千ルート札を二枚ほど握りしめて俺は家を出た。
家を飛び出した俺は一度踵を返して家の外観を見た。
石を積み上げて作られた家だ。
所謂昔の北欧の国に似ている。
とりあえず外に出たはいいものの、どこに店があるとかは全く分からん。
地図もないからそもそもここがどこなのかも分からん。
適当に人を見つけて道を聞くのが早そうか。
少し歩くと、ちょうどいいところに人のよさそうな兄ちゃんを見つけた。
いやあ、俺って運がいいなぁ。
ついさっき不慮の事故で死んだばかりだけれども。
「そこの兄ちゃん、ちょっといいかな?」
「はい?なんでしょう」
よかった、ちゃんと返事が返ってきた。
しかも見込み通り人当たりもよさそうだ。
「俺今日新しくここに越してきたんスけど、この辺のことさっぱりわかんなくて……」
「そうなんですか?じゃあいろいろ教えますよ」
助かる。
というか声かけてから気づいたけど日本語通じるんだな。
あるいは変な力でお互いの言葉が通じるようになったりするんだろうか。
「とりあえず食料と衣服を揃えたいんスけど、どこに行けばいいですかね」
「それならここから東へずっと道なりに進めば商人ギルドがあるからそこに行けば大体の物があると思いますよ」
ギルドってなんだよ。
そんなのアニメとかゲームにしか出てこないと思ってたわ。
うろ覚えだけどギルドってただの組織じゃなかったっけ。
「そのギルドってそんなたいそうなもんなんスか?」
「この周辺には商人たちがたくさん集まってて他の場所と比べると特別に規模が大いんですよ。一つの『国』って言ってもいいでしょうね」
そうか、そんなにすごい場所なら確かにいろいろなものがありそうだ。
それならまずはそこを目指すのがいいだろうか。
「ちなみに兄ちゃんはどこに住んでんの?」
「僕はそこの家ですね。ほら、あの青い屋根の」
めっちゃ近くじゃん。
しばらくは兄ちゃんにいろいろ聞きながら情報を集めることにするか。
「あざっす。んじゃギルドとやらに行ってきますわ」
「行ってらっしゃーい」
気のいい兄ちゃんで助かった。
車もオートバイも自転車もなくて交通は不便だけどご近所付き合いはまぁなんとかなりそうだ。
それにしても、初めて歩く異世界とやらの道は日本のクソ田舎とそう大して代わり映えしないな。
違いといえば歩いている道がアスファルトで舗装されていないことぐらいだ。
気温的にはこの世界も夏が来ているらしい。
日本に比べれば湿度は低いらしく、蒸しっぽくないおかげで不快な汗は出てこない。
一本道を歩くこと十数分ぐらいか。
兄ちゃんに言われた通りにまっすぐ東に進んでいたら俺はいつの間にか賑やかな街の門をくぐっていた。
至る場所に店、店、店。
いろんな店が立ち並んでいる。
なるほど、ここが『商人ギルド』とかいう場所か。
商人たちが集まって作り上げられたらしい街並みはとても明るい雰囲気にあふれている。
まずは食いものから解決していくか。
しばらくの食糧の買いだめを、あるいは今日の昼飯だけでもいいから確保したい。
俺はとりあえずこのギルドの散策をすることにした。
「……なんだこれ」
流石は新世界だ。
とりあえず千ルートあれば一週間分の食料は確保できそうな感じだが俺が知ってる食いものが何一つとして存在しない。
そして食糧確保に関して俺は致命的な問題を抱えていることに気が付いてしまった。
俺は自炊スキルが皆無なのだ。
カップ麺とか弁当とか売ってねえのかな。
アレを大量に買い置きしておけば一ヶ月ぐらいは何とかなりそうなもんだが。
早くも日本の便利な暮らしに浸っていた弊害が出ている。
それはともかく、見たことないとはいえ今目に映っているものが食えることには間違いない。
おまけにいい匂いにつられて腹が減ってくる。
「おっ」
俺はとある店の前で足を止めた。
そこの看板に書かれていた文字を読んだところ、ここは料理店らしい。
ちょうどいいところにあるじゃねえか。
いやあ、運がいいなぁ。
足を休ませがてらここで一食済ませるか。
さて、ここでもう一つ気になるものが俺の目に留まった。
「……」
なんかちっちゃい女の子が無言でじーっと店の看板を眺めている。
見たところ保護者の人は近くにいないみたいだ、おつかいの途中だろうか。
あるいは迷子か?
結構高そうな洋服を着ているし、腰辺りまで伸びた綺麗な銀髪はちゃんと整えられている。
緩い内巻きのウェーブが掛かっているがおそらくそういう癖毛かなにかだろう。
横から見てわかったが綺麗な空色の瞳をしている、じっと覗くと思わず引き込まれそうだ。
もしかしていいとこのお嬢様か?
でもそれならわざわざこんなところに一人で来る必要もなさそうだよな。
やはりお使いの途中かなにかだろうか。
なんだかいろいろとあの子のことが気になる。
少し声をかけてみるか。
「お嬢ちゃん、どうしたの?」
俺に声をかけられた女の子はびっくりした様子で俺の方を見てきた。
そりゃじーっと集中して看板見てるところへこんなおっさんに声かけられたらビビるよな。
「お腹が空いたんだけど……お金持ってなくて」
「そうか。そいつぁ可哀想な話だな」
お金持ってない上に特に手荷物も持ってない、ということはお使いという線はなくなったな。
だとすれば迷子だろうか。
そういえば金はそれなりに持ってるんだよな。
人助けだと思ってちょっと奮発してみるか。
「じゃあおじさんが少しお金を出してあげようか」
「いいの!?」
女の子はキラキラした目で俺のことを覗き込んできた。
お腹が空いているというのは本当らしいな。
純粋な眼差しって大人になるとこんなに眩しく見えるのか。
「いいよいいよ、じゃあ店に入ろうか」
「うん!ありがとー!」
何もやましい感情なんてねえからな……
俺は女の子の手を引いて一緒に店の中へと入った。
「いらっしゃいませー。何名様ですか?」
「二人で」
「空いてる席へどうぞー」
席をあっさり取れてよかった。
わざわざ余裕をもって広い場所に座ったにも拘わらず、女の子はなぜか俺の隣に座ってきたけど多分周りには親子かなにかに見えているはず。
大丈夫だ、決して俺は怪しい人ではない。
「お嬢ちゃん、名前はなんていうの?」
ずっとお嬢ちゃん呼びは面倒くさいしな。
名前を知っておいた方がずっと呼びやすい。
「ミラ!」
そうか、ミラっていうのか。
如何にも日本じゃない異世界に来たーっていうのが実感できるな。
「おじさんは?」
「おじさんはね、トモユキっていうんだ」
フルネームはタカノトモユキって言うんだけどな。
呼んでもらう分には下の名前だけで十分だろう。
「ミラは何が食べたい?」
「ハンバーグがいい!」
いかにも小さい女の子らしい答えだ。
どうやらこの世界にもハンバーグという料理はあるらしい。
店員ってどうやって呼べばいいんだろうか。
などと考えていたところにちょうどタイミングよく呼び鈴みたいなものを見つけた。
押してみよう。
「はーい。ご注文をどうぞー」
呼び鈴を鳴らすと店員が俺たちの席まで小走りでやって来た。
なんかゆるーい雰囲気の店員だな。
「ハンバーグ!」
「俺はこの店のオススメで」
「かしこまりましたー」
雰囲気はゆるかったけど接客はいたって普通だった。
さて、料理が来るまでは多少は時間があるだろう。
ミラに話を聞いてみることにするか。
暇つぶしにもなるし、この世界に関する情報を得る手掛かりにもなるはずだ。
「ミラはどっから来たんだ?」
「えっとねー。ここじゃない大きい街だよ」
聞いてもわかんねえけどいいとこのお嬢様なのは確かだろうな。
「お父さんとお母さんはどこにいるんだ?」
「……」
俺からの何気ない質問にミラは言葉を詰まらせてしまった。
こういう反応をするということは、なんとなく事情は推し量れる。
「もしかして、『家出』してんのか?」
ミラはもじもじしながら黙って頷いた。
なるほど、そういうことか。
この子は何か訳ありで『家出』をしてここまでやってきたわけだ。
小さいのに大した根性じゃねえか。
「悪い、嫌なこと聞いちまったな」
これ以上深く聞きこんでもいいことはなさそうだ。
なんか嫌な気分を紛らわすような小話でもした方がいいだろうか。
「実はな、俺も親が嫌になって家出したことがあるんだ」
「トモユキも?」
よかった。
俺の話に興味が向いたミラの顔から憂いは消えた。
「ああ。それからずっと連絡も取ってない」
「本当に?」
「本当だとも」
だから家出したガキの気持ちは嫌というほどわかる。
しかもいいとこのお嬢様っぽいのにそれを放り出して家出したんだからよっぽどのことがあったんだろう。
「お待たせしましたー。こちらハンバーグになりまーす」
気が付いたらミラの注文したハンバーグが運ばれてきた。
なんだかんだ話し倒してたらそこそこ時間が過ぎてたみたいだ。
「熱いのでお気をつけくださいねー」
「はーい!」
こうして見てると普通のガキなんだけどなあ。
なんで家出なんかしたんだろうか。
「そしてこちらが当店のオススメ『ワイバーンのモモ肉のステーキ』になります」
ワイバーン?
ゲームとかでよく出てくるあの翼のついたドラゴンか。
「こちらもお熱くなっておりますのでお気を付けくださいねー」
当然だけど食器はナイフとフォークかー。
最後に使ったのいつだっけ。
ここ数年ずっと箸しか使ってなかったからさっぱり覚えていない。
えーっと、右手にナイフで左手にフォークだっけ……?
「いただきまーす!」
一方のミラはというと右手にナイフ、左手にフォークを持って器用にハンバーグを切り分けている。
小さいのにナイフとフォークをこんなにうまく扱えてるってことはやっぱいいとこの子に違いない。
「あっ!熱っ!」
ミラは口の中にハンバーグを一切れ入れるといきなりむせ返しそうになっていた。
そりゃそうだろうな。
冷ましもせずに焼きたてのハンバーグを頬張ればよほど熱さに強くない限りまずそうなる。
「あーあー、いっぺん口から出せ」
見ていられない。
やむを得ずハンバーグを口の中から吐き出させた。
全国のお父さんとかもこういうこと日常的にやってんのかな。
「口の中火傷とかしてないか?ちょっと見せてみろ」
ミラに口を開けさせ、中の状態を覗き見た。
よし、見た感じ火傷はしてないな。
ちっちゃい女の子の口の中見るって絵面的に相当ヤバい気がするが今の俺は一時的とはいえ彼女の保護者だから言い訳は利くだろう。
「どうしよう。これじゃ食べられない………」
ミラはしょぼくれた様子で項垂れてしまった。
どうもガキのお守りって慣れねえなあ。
今は俺しかその役割を務められないならやらざるを得ないわけなんだが。
「まあそんなしょんぼりすんな。こうやって息吹きかけて冷ませば…」
そう言いながら俺はミラのハンバーグに軽く息を吹きかけてみせる。
冷ますには単純すぎるぐらいの方法だが意外とその効力は侮れない。
「どうだ?ちったあ食べやすくなったろ」
「うん!ありがとう!」
熱すぎない程度に冷ましたハンバーグを頬張ったミラは歓喜の表情を見せた。
無邪気な笑顔が俺には眩しい。
「トモユキー、もう一回冷ましてー」
「二回目は自分でやれ」
そろそろ俺も料理に手付けたいんだ。
それに毎度はさすがに疲れる。
ミラは小さく切り分けたハンバーグに息を吹きかけてはそれを子供らしく頬張っている。
その光景を見てなんとなく安心した俺はようやく自分の分の料理に手を付けることができた。
「なんだこれ……」
硬い、とにかく肉の表面が硬い。
特に筋張ってるわけじゃないのになんだこの硬さは。
「ん……?」
やたら硬い肉を一度噛みちぎるとその中はびっくりするぐらい柔らかい。
なるほど、こいつは癖になりそうな食感だな。
味の方は牛肉に似ていて、普通に美味い。
そんなこんなで俺たちは昼食を済ませた。
代金で七百ルートも飛んだので手持ちは残り千三百ルートになった。
もしかして結構高い店に入ってしまったのではないだろうか?
ミラはそれをわかっててああいう振る舞いをしたのだろうか、そうだとすればかなりの策士だ。
いや、こんな無邪気な女の子がそんなに計算高いことをするわけねえか。
「美味かったか?」
「うん!ありがとー!」
まあ、こんなに可愛い笑顔が見れるんなら安いもんか。
「俺は買い物に行くが、ミラはこの後どうするんだ?」
俺は明確な目的があるんだがミラはどうするんだろうか。
こんな小さい子があてもなくこういう場所をうろつくって言うのも心配だ。
「うーん……もうちょっとトモユキについていってもいい?」
どうもこの子は知らない人物に対する警戒心が薄い気がする。
あれ?もしかして俺懐かれたのか?
いや、そんなはずはない。
「そうか。じゃあはぐれたりすんなよ」
あくまで背が高い俺を目印にしているだけだろう。
自慢ったらしいがこれでも身長は百八十六はあるのだ。
そんなこんなでミラを連れながら服屋を、食料品店を巡ったまではいいんだが……
「疲れたー……トモユキおんぶしてー……」
「はいはい……」
追加でミラの面倒まで見始めたもんだから俺の負担が一気に増えた。
大人の男である俺の運動量について行こうとすれば子供が疲れるのは当然のことだ。
渋々ではあるが俺は腰を屈めてミラを受け入れ、彼女を背負って行動を再開した。
ここから歩きで帰るんだよなあ。
しかも大量の手荷物とミラを抱えて。
彼女の身体がまだまだ成長途上でかなり軽いのがせいぜいの救いか。
手持ちの金は残り二百ルート。
なんか移動のサービス利用できねえかな。
タクシーとか使いたい……
おっ、ちょうどいいところに馬車牽きがいるじゃん。
タクシーじゃないにしろ足代わりにできるのは間違いないだろう。
やはり俺は運がいいようだ。
「この馬車、乗せてもらっても大丈夫っスか?」
馬車の近くで一服していたおっちゃんに声をかけた。
タバコ、あるいはそれに近いものも存在しているようだ。
「大丈夫だ。ちなみにどちらまで?」
よかった、どうやらタクシーっぽいサービスみてえだ。
「西にまっすぐ進んでくれ、俺の家までだ」
「あいよ」
「ちなみにいくらだ?」
「どれぐらい走らせるかにもよるがだいたい二百ルートぐらいだろうな」
よかった、それならなんとか手持ちだけでなんとかなりそうだ。
足りなければ最悪家に取りに戻ろう。
荷物を積み、隣にミラを乗せて馬車は俺の家へと動き出した。
ミラは歩き疲れたのか、隣に降ろした時点ですでに寝息を立てていた。
「そちらの娘さんはアンタの子かい?」
道中、馬車の主人が声をかけてきた。
歳の差的には親子に見られても不自然ではないか。
「俺の子じゃないんスけど、成り行きで面倒見てまして……」
「そうですかい」
馬車の主人はただ一言そういうと再び視線を正面に向けた。
あまり深く探ってこない人でよかった。
これ以上の説明は今の俺にはできない。
そんなこんなで揺られること十分ぐらいだろうか。
気が付けば俺の家はもう目の前になっていた。
「おっちゃん、この辺で止めてくれ」
「へい」
おっちゃんに注文を付け、馬車を止めてもらう。
やはり自分の足で歩くより断然楽だ。
「これぐらいならまぁ二百ルートだな」
危ないところだった。
なんとか手持ちの分だけで料金を払い切ることができた。
馬車のおっちゃんに持ち金を全部渡した俺は寝ているミラを背負い、残りの荷物を片腕に抱えて目の前の家まで歩いた。
ああ、力仕事でこういうのに慣れててよかった。
「あー疲れた……」
ミラをベッドの上に横たわらせ、荷物を床に雑に投げ捨てた俺は全身の力を抜いて床に寝そべった。
まさか買い物に行くだけでこんなに疲れるなんて思いもしなかった。
「すぅ……すぅ……」
そんな俺のこともいざ知らずか、ミラはベッドの上ですやすやと寝息を立てている。
しっかし本当可愛い顔してんなコイツ。
まるで魂を吹き込まれた美少女人形だ。
さて、ひと段落ついたところで俺は今後のことを考えることにした。
お金は少しの間は給付された奴でどうにかなるがミラのことはどうしようか。
成り行きでつい我が家まで連れてきてしまったが、流石にこんな小さいガキを一人で外に放り出すわけにはいかないよなぁ。
日を改めて保護者を探すか?
それはそれとして、今の俺には致命的な問題点がある。
お金を稼ぐ手段、すなわち仕事がないのだ。
この世界でもお金が流通している以上、それを持っていなければ生きていけない。
最悪の場合雑草を食べて生きる野性的な生活をすることになってしまう。
いろいろ考えた末、俺がたどり着いた答えは一つ。
「就職するか……」