おじさんとこれから
今回で2章は完結します。
オズが買ってきてくれた解熱剤のおかげで熱は想像以上に早く引いた。
幸いなことに他に目立つような症状もない。
「うーん、やっぱりまだ少し熱いんじゃない?」
手の平で俺の額から熱を測りながらオズがそう言った。
「マジかー。もう大丈夫かと思ったんだが」
「ダメ。完全に治るまでは大人しくしてなさい」
そう言われてもだなぁ。
十年以上も仕事しかしてなかった人間は二日以上仕事せずに大人しくしろと言われると却って落ち着かなくなるものなんだよなあ。
なんだかんだで今日は洗濯以外の家事は俺がやった。
実質普段の休日のようなものだ。
そしていつものように日が暮れて夜がやって来た。
「ねえ、今後のことについて話をしましょう」
まさかオズからその話題を切り出してくるとは。
「今後のことと言うと?」
「ミラのこととかね」
あー、そういえば細かいことは何も考えてなかったわ。
「アタシね、そろそろミラを学校に通わせてもいいんじゃないかって思うの」
「学校ねぇ……」
この世界にもあったのか。
そういえば仕事中に制服らしきものを着た子供のグループを見たことがあったな。
「あの子がアタシたち以外の人間との関係を作る絶好の場だと思うんだけどどう?」
そういえばミラは俺とオズ、近所の兄ちゃん以外とは基本的に交流がない。
このまま成長したら俺たち以外とのコミュニケーション能力に支障が出てしまうんじゃないか。
そう考えるとすごく心配になってきたぞ。
「でもなぁ……そうなると学費は俺持ちになるんだよなあ」
まず問題はそれだ。
学校に行くのにも金がかかるし、そのお金はおそらく俺が負担することになるだろう。
幸いなことにも今の俺はそこそこの高給取りだがそれでも金銭面の不安は消えない。
「まあ、俺たちがいろいろ考えたところで学校に通うかどうかはミラ本人が決めることだからなあ」
根本的な問題はそれだ。
彼女が興味を示すかどうかにかかっている。
「それもそっかぁ」
「別に学校に行くのは義務とかじゃねえんだろ?」
「うん、まあね」
ここに来て新たな発見をした。
この世界、あるいはギルド周辺の学校は義務教育ではない。
「ところでお前は学校に通ってたのか?」
「行ってないわよ。アタシには教師よりも優れた両親がいたし、常にたくさんの魔法使いたちに囲まれてたから」
そういえばそうだったな。
そんなに周辺環境が充実してたなら確かに行く必要も無さそうだ。
だがうちは事情がいろいろと違う。
「明日は休みだし、ミラと二人で話してみるわ」
明日は普通に休日だ。
病欠と合わせたら三日も連続で休みだ。
仕事人間にとっては気が気じゃないから何かしら行動を起こしたい。
「ところでさ」
「何?」
「お前はいつここを出てくんだ?」
その言葉を耳にした途端にオズの頬を変な汗が伝いだした。
さては何も考えてなかったな。
「まさかずっとここに住みつこうなんて考えたりしてないよなあ?」
「ははっ、まっさかー……」
おい、目が泳いでるぞ。
おかげで説得力が皆無だ。
「いつかは実家の屋敷に戻るつもりだから……」
「具体的には?」
「まだ決めてない」
やっぱりな。
この調子だとオズに二階の物置部屋を私物化される生活はまだまだ続くことになるだろう。
そして翌日。
「なあミラ、話したいことがあるんだが」
「なあに?」
「ミラは学校に興味はあるか?」
俺からの唐突な質問にミラは少しばかり驚いたような表情を見せた。
「学校って何をするところなの?」
そもそも学校を知らないようだ。
簡潔に説明しておくか。
「そうだなあ……たくさんの友達と一緒に勉強したりするところだな」
「お勉強? 本はいっぱい読める?」
「ああ、たくさん読めるだろうな」
「本当!?」
食いつく場所はそこか。
ミラの豊富な知識の源は本だ。
それをたくさん読めるのは彼女にとって喜ばしいことなのだろう。
「お前と同じぐらいの子もたくさんいるし、一緒に勉強するのは楽しいと思うぞ」
「へぇー」
どうやら期待を膨らませているようだ。
実際の学校はどうなのかは知らんがミラは確かに興味を持っている。
「どうだ、学校に行ってみたいか?」
「うん! 行ってみたい!」
子供の純真さというのはすごいなあ。
同時にそれを利用する俺たち大人の汚さもしみじみと痛感する。
「そうか、じゃあ今度一緒に見に行ってみるか」
正直、この世界の学校については俺も全く知らない。
この世界の学校のことを知るために、一緒に見学に行くのがいいだろう。
この世界にはまだまだ俺の知らないことが大量にあふれている。
もうしばらくはミラやオズたちと一緒にこの世界の知識を得ながら生きていくことになるだろう。
異世界での生活は始まったばかりだ。




