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死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
第2章 オズのホームステイ
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おじさんと雪

 うぅ、ひどい目に遭った。

 度数のキツい酒をオズに飲まされて…… 

 ダメだ、そこから先は何も覚えていない。


 当のオズはというと豪快に床の上で大の字を描きながら寝ている。

 アイツも飲みすぎで寝落ちしたのか。

 っていうか下着しか身に着けてねえじゃねえか、いつの間に脱いだんだ。


 なんか窓の外が白いなあ。

 これじゃあ明るいのか暗いのかわかんねえや。


 ……ちょっと待て。

 冬に窓の外が白いなんてアレしかねえじゃねえか!


 俺は玄関を開けようと試みた。

 そして何かに抑え込まれているのを感じ取り、すぐに諦めた。


 「やべぇ……」


 ただそう言う他なかった。

 玄関を開けようとしたらその隙間から真っ白な雪の壁がこちらを覗いていたのだ。

 これでは外に出られそうにない。

 そうだ、二階から外の様子を見よう。

 あとついでに床で寝てるオズをベッドに送らなければ。


 俺はオズを背負って階段を駆け上がった。

 彼女の身体は思いの外軽い。

 普段は好き放題飲み食いしてるっていうのにどうやって体形を維持しているのだろう。

 体型を維持する魔法でも使っているのだろうか。


 あと彼女の身長に対して不釣り合いなぐらいに大きな胸がさっきから俺の背中に押し付けられてるのが気になって仕方がない。

 落ち着け俺、相手は居候だぞ。


 雑念と一緒にオズをベッドの上に雑に放り込み窓を片側だけ開けた。

 その瞬間、外の冷たい空気が一気に家の中に入り込んで容赦なく俺の身体を痛めつけてくる。

 思わず閉めそうになったが今の目的は寒気じゃなくて外の様子を見ることだ。


 二階から見た結果、降り積もった雪が玄関ぐらいの高さまで到達していた。

 たった一晩でここまで積もるものなのか、この世界の冬ってヤバいな。

 そして今は穏やかではあるが雪は現在進行形で降り続けている。


 時刻は四時十二分、外はまだ真っ暗だ。

 雪かきができればワンチャン始業時刻までに出勤できる可能性もある。

 北の方の人たちは冬にはいつもそういうことをしているんだろうか。


 とりあえず家の中を温めないとな。

 暖炉に薪を……

 あっ、薪が雪の下に埋もれていて取り出せない。

 しまったなあ。

 今度からは家の中に予備の薪を用意しておくようにしよう。


 「……」


 俺はふとベッドの上で鼾をかいて寝ているオズの方へ目をやった。

 コイツならこれぐらいの雪も魔法でパパっと除去してくれるかな。

 いっそのこと叩き起こしてやってもらおうのもやむなしか。

 俺が手動でやるよりも楽ができそうだ。

 よし、そうしよう。


 「おい、起きろオズ。もう朝だぞ」


 ダメだ、まるで反応がない。

 寒い、だがこのままでは部屋を暖める手段が得られない。


 背に腹は代えられない、こうなれば捨て身の最終手段だ。

 部屋を限界まで冷やしてオズを叩き起こしてやる。


 俺は窓をすべて開け放し、冷たい外の空気を一気に部屋の中へと送り込んだ。

 俺も寒くて仕方がないがこればかりは仕方がない。

 死なばもろともだ。


 「あああああ寒い!!」


 寒さに耐えかねたオズがベッドの上から飛び起きた。

 俺でさえ寒いと思ってるのに下着姿ならなおさらだろうな。


 「あ?なんで窓開いてんの?」


 許せ、我が家のためだ。


 「おはようオズ。早速だが頼みがある」

 「あぁ?」


 オズは毛布にくるまりながらすさまじい形相で俺を睨みつけてきた。

 怒ってるなあ。

 つい昨日不用意に怒らせないようにしようと反省したばかりなのに。


 「とりあえず窓の外を見てみろ」

 「えー、ここから出たくないんですけどー」

 「いいから見てみろ!」


 身を固めようとするとするオズから強引に毛布を取り上げて上半身を起こした。


 「さーむーいー!」


 二十二にもなって子供かお前は。


 「何よ窓の外って……えっ」

 「ご覧の通り、今の我が家は雪に埋もれている。このままじゃ玄関を開くこともできん」

 「それぐらいなら別にいいじゃん」


 正気かコイツ。

 どうやら自分たちが置かれた状況を理解できていないようだな。


 「お前、本当にそう思ってるのか?」

 「うん」

 「今、この家の中には予備の薪がない。そして玄関を開けないということは新しい薪を持ってくることもできん」

 「えっ、じゃあ暖炉使えないじゃん」

 「そういうことだ」

 

 ようやく状況を理解したオズは急にやる気を出し始めた。

 

 「ちょっと待ってて、すぐに雪をなんとかするから」


 そういった直後、オズは俺に視線をやった。

 その意味を理解できず、俺はその場に立ち尽くして少しの間沈黙の時が流れる。


 「着替えるから出てけ!この変態!」


 ああ、そういうことだったのか。

 俺は慌てて部屋を飛び出し、扉を閉めた。


 「で、この雪を除去しちゃえばいいの?」

 「ああ、頼む」


 ちゃんと服を身に着けたオズは屋根へと上った。

 そしてどこからともなく現れた光の陣の中から杖を取り出し、魔法の発動準備を整える。


 「まあ、パパっと焼き払っちゃえばいいわよね」

 「待て!逆にそれはマズい」

 「なんで?まとめて融かしちゃえば楽じゃん」


 俺は知ってるぞ。

 こういう日に雪を熱で解かすと逆に状況が悪くなるということを。


 「あのな。例えばこの雪を全部まとめて融かすとしよう」

 「うん」

 「一時的に雪は解けて水になるが残された周りの雪に熱を奪われてすぐに凍る。つまり雪が氷に変わって余計に厄介なことになる」

 「へえー、アンタずいぶん詳しいのね」

 「なんだかんだで三十年も生きてんだ。これぐらいは生活の知恵で身に付いた」


 もっとも、それを知らなかった二十二歳が俺の目の前にいるわけなんだが。

 この世界ではマイナーな知識なんだろうか。


 「雪は熱で融かさずにまとめて吹き飛ばせ。いいな?」

 「わかった。ふっ飛ばせばいいのね」

 「それで構わん」


 屋根に上ったオズが再び杖を構えた。


 「ちょっと目を閉じて耳を塞いでなさい」


 おい、まさか……


 「ハアアアアア……!」


 なんかすっごいオズが気合い溜めてるんだけど。


 「フンッ!!」


 オズが勢いよく杖を振り下ろすを視界に捉えたのを最後に俺は全力で目と耳をふさいだ。

 両腕で塞いているのにも拘わらず轟音で鼓膜が震える。

 目を閉じていてわからないがさぞすさまじい爆発でも起こしたのだろう。


 爆発の発生から十数秒後。

 ようやく音が静まった。

 もう目を開けてもいいだろうか。


 「どうだ?」

 「まあ、アタシの手にかかればこんなもんよね」


 オズは達成感に満ちた表情をしながら肩にかかった髪をかき上げた。

 すごい、我が家の周りを覆っていた雪の山が見事に跡形もなく吹き飛ばされている。


 「ちょっとやりすぎたんじゃないの?」

 「アタシも今そう思った」


 雪を除去することは出来たのだがどうにもやりすぎのような気がしてならない。

 これまで雪かきで周囲の地面ごと雪を吹き飛ばす世帯があっただろうか。


 「何何!?何があったの!?」


 ミラのかなり慌てた様子の声が聞こえてきた。

 さっきの爆発で吃驚して飛び起きたのだろう。

 何も知らずにぐっすり眠っていたであろう彼女には気の毒なことをしたかもしれない。


 「ごめんなミラ、こんな形で起こしちまって」


 とりあえず声をかけて落ち着かせないと。


 「さっきすごい音がしたけどトモユキたちがやったの?」

 「そう。オズに頼んで家の周りの雪をどかしてもらってたんだ」

 「どうよ。周りと比べて超綺麗でしょ」


 オズがミラを抱きかかえて窓の外の様子を見せた。 


 「おー!」


 雪が綺麗になくなった我が家を見てミラが感嘆の声を上げた。


 「でも、もっといいやり方があったよね?」

 「うっ……」


 その直後に飛んできたミラの氷のように冷たい一言が俺とオズの心に突き刺さった。

 よく見ると表情もものすごく不機嫌そうだ。

 もしかして急に起こされると怒るタイプ……?


 結局、いい歳した俺たち大人二人は幼女に怒られてしまった。

 しかもこちらに非があるから反論できないのが辛い。


 時刻は朝の五時。

 あんな爆発を起こされたらご近所の人たちは皆起こされるだろう。

 我ながら周囲への配慮ができていなかった。


 「悪かった。とりあえず暖炉点けようか」

 「うん!」


 こうして雪の日の我が家の日常が始まった。

 後でこのことについてご近所さんに謝りに行こう。


 「ギルド周りの除雪ゥ!?」


 出勤して早々にアレンから今日の業務が言い渡された。


 「そうだ。訓練変わりだと思えば楽なもんだろ」


 まあ、確かにそうなんだけれども。


 「ところで今朝郊外で爆発があったらしいんだが何か知らないか?」

 「い、いやあ何も知らねえなぁ……」


 間違いない、ついさっきの俺たちだ。

 俺が原因だと知られたらどうなるかわからないしここはシラを切っておこう。


 「さあ雪かきだ!気合い入れていけよォ!」


 バカでかいスコップを担いだアレンが周囲の連中に檄を飛ばしている。

 果たしてこの作業が一日で終わるのだろうか。


 『異世界の冬は現実以上に大変だ』

 降っては積もる雪を延々とどかしながら俺はつくづくそう感じずにはいられなかった。


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