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死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
第2章 オズのホームステイ
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おじさんと寒い冬

 暴漢事件からさらに数日後、ついにその時は来た。


 「寒っ……」


 そう、冬がやって来たのだ。

 ヤバい、俺が想像してたよりもずっと寒い。

 もう外に出たくないとかそういうレベルじゃない。

 迂闊に外に出たら死を覚悟するレベルだ。

 こんな寒さが九十日も続くことに今から憂鬱さすら感じる。


 「仕事か……」


 でも仕事は通常通りある。

 悲しいなぁ。


 「いってらっしゃーい!」


 いつものようにミラが玄関までやってきて見送ってくれた。


 「そういえばオズはどうした?」


 今日はまだアイツの姿を見ていない。


 「お姉ちゃんはまだ寝てるよ」


 アイツ……

 家主を差し置いて寝呆けるとはいい身分じゃねえか。


 「起こしてこい」

 「さっき起こしに行ったんだけどね、『寒いからベッドから出たくない』って」

 「そうか」


 なんだかんだ言ってアイツはアイツだなぁ。

 こういう時に好きなだけ家に引きこもっていられる彼女が今は少しばかりうらやましい。


 「どうしたの?お仕事遅れちゃうよ?」


 そんなこと言われたら行くしかないよなぁ。


 「日が高くなるまでに無理やりでもオズを叩き起こせ。少しぐらいなら痛い目に合わせても俺が許す」

 「うん、わかった」


 ミラに言い聞かせ、俺は出勤のために足を進めた。

 今日は寒いから寄り道せずにまっすぐ帰ろう。


 「おはようございまーす」


 職場の人たちと朝の挨拶を交わし合っていく。

 寒気で吐息が真っ白だ。

 

 「よう」

 「おはようアレン」


 ……ちょっと待て。


 「お前、寒くないの?」


 アレンも一応厚着をしているにはしているのだが俺と比べると明らかに薄着だ。

 俺なんてコートにマフラー、手袋まで完備しているというのに。


 「そりゃ、ちったあ肌寒いけどあんまり厚着してても動きにくいだろ。それにな、俺たち牛の獣人は寒さには強いんだ」


 そうか、それなら納得だ。

 それにしても今の格好を例えるなら雪の日に半袖短パンで学校に来る小学生だぞ。


 「タカノこそ、そんなに着込んで逆に暑くないか?」

 「まさかこっちの冬がこんなに冷え込むなんて思わなかったんだよ」

 「ああ、そういえばお前はここに越してきて初めての冬だっけ?」


 その通りだ。

 そして今想像以上の厳しい寒さに打ちひしがれているところだ。


 「正直舐めてたわ。今すぐにでも帰りたい」

 「まあそんなこと言うなよ。走り込みでもすりゃすぐに温まるさ」


 やはり俺たち機動隊はどこまでも体育会系の集まりのようだ。

 そんなこんなやり取りを経て俺とアレンはギルド内の巡回を始めた。


 「そういえばグレイさん見ないな」

 「グレイはこの時期になると決まって長期休暇を取るんだよ。まあ春まで戻って来ねえだろうな」


 そんなに長い休暇を取れるもんなんだな。

 さてはグレイさん、冬から逃げたな。

 

 冬のギルドはずいぶんと装いが変わる。

 道行く人たちは皆厚着をしているし、商店もかつていた世界で見たことあるような品がいくらか並んでいる。

 特にわかりやすいのが野菜だ。

 前の世界で冬によく食べていたカボチャや芋類に似たものが多く並んでいる。


 「どうした?急に足を止めて」


 アレンに声をかけられて俺は自分の足が止まっていたことに気が付いた。


 「いや、その……」


 なんかすっごく見覚えのある顔の奴が目の前にいるんだが。

 あれオズだろ。

 ただのそっくりさんだといいんだが。


 うわ、なんかこっちに気づいたっぽいぞ。

 すごい速さで向かってくるし。

 あー、なんか表情が怒ってるわ。

 これはもう本人だろ。


 「ちょっとアンタ!ミラに今朝変なこと吹き込んだでしょ?」


 やっぱりご本人でした。

 しかもめちゃくちゃ怒ってる。


 「驚いたな、まさかオズ家の当主とつながりがあったとは」


 オズ様に詰め寄られている俺の隣でアレンが感心したように頷いている。

 そういえばオズのことを話したことはなかったっけ。


 「別に変なことなんて言ってねえよ。ただお前を起こすのにちょっと手荒なことをしてもいいぞって教えただけで」

 「やっぱり変なこと吹き込んでるじゃない!」


 そんなに怒るとは、ミラに何をされたんだろうか。

 ていうか息が荒いせいで顔の周りが真っ白になってて正面が見えないしすごく面白い。


 「何よ?アタシなにか面白いことでも言った?」


 はい、顔がモザイクみたいになってるのがめちゃくちゃ面白いです。

 正直笑いそうなのを全力で堪えている。

 今笑ったらマジで殺されかねない。


 「ところでお前……ミラに何されたんだ?」

 「ベッドを魔法でひっくり返されたわ。おかげでこの通りよ」


 そういえば額と鼻が赤いな。

 しかしミラもずいぶんと思い切ったことをするもんだ。


 「ところでお前はなんでここにいるんだ?」


 今朝は布団から出たくないとか言ってたらしいのに。


 「酒が切れてたから買いに来たのよ。寒いときはは酒で身体を温めないとやってられないわ」


 あー、なるほど。

 それは確かに重要なことだな。


 「じゃあ俺が飲む分も買っといてくれ。金は帰ったら渡す」

 「わかったわ。指定はある?」

 「お前が好きに選んでくれて構わん」


 まさか仕事中に日常のやりとりをすることになるとは。

 以前は考えすらつかなかったな。


 「なあ。オズ家の女、もしかしてタカノの家に住んでるのか?」


 ついさっきまで俺たちの会話を傍聴していたアレンがオズに声をかけた。


 「まあ成り行きでねー。ちょっとお世話になってるってカンジかな」

 「へえー、てっきりそういう関係なのかと」

 「ハア!?そんなわけないじゃん!」


 オズに全力で否定された。

 事実ではあるんだがきっぱりと言い切られるのはそれはそれで残念なような気もする。


 「んで、実際のところは?」

 「本当に何もないから」

 「つまんねえなぁ」

 「これ以上くだらないこと聞いたら消し炭にするけどその覚悟はできてる?」


 オズが指先から炎を発生させてアレンを威圧している。

 彼女なら本当にやってのけそうだから恐ろしさが増し増しだ。


 「おっと悪かった。じゃあさっきのは無しだ」


 「んじゃあそろそろ仕事に戻るか」

 「それもそうだな。あんまりすっぽかしてると後でいろいろヤバいし」

 「じゃあねー。帰ったら覚えてなさいよ」


 別れ際、俺はオズに渾身の恨み節をぶつけられた。

 今日が俺の命日かもしれんな。


 「アレン。明日俺が出勤してこなかったら死んだと思ってくれていいぞ」

 「まあそう悲観すんな。骨ぐらいは拾ってやるからよ」


 助けてはくれないのか。

 骨は拾うとか言ってるしけどそれって俺が死ぬことに変わりはないってことだし。


 あー、まさか知り合いを怒らせることによって俺の人生が二度目の終わりを迎えてしまうのかなー。

 生きられるといいなー。

 

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