プロローグ 初めて見る種族
今回から新章が始まります。
あの事件からおよそ一年が経過した。
獣人たちに対する禍根は完全に消え去り、アルはギルドの中で生きる人物として受け入れられていた。
今日もギルドは平和です。
とある春の日のことだった。
ミラは今年から初等部三年目だ。
聞いた話ではもうすぐ初等部を修了できるだけの単位をすでに取得しているらしい、流石だ。
そんな彼女は中等部への進学に向けてより専門的な学問に手を伸ばしているようだ。
一方、オズはというと……
「おいおい、どうすんだよこれ……」
「いやぁ、ごめん……」
普段のぐうたらぶりは相変わらずだ。
そして俺はオズの部屋の片づけを手伝わされている。
「なんだこれ?」
オズはいつの間にか得体の知れない物品を自分の部屋に持ち込んでいることがある。
俺が知らない間にここと実家とを行き来しているのだろうか。
「あーそれ?エルフ族が作った酒の空き瓶」
「エルフ族?」
初めて聞く種族だ。
っていうかエルフが存在するなんて初めて知ったぞ。
「エルフ族は水晶の森っていう場所にだけ住んでる種族よ。すごく身体が小さくて大人でもミラぐらいの大きさしかないわ」
うわー、まるでファンタジーの妖精みたいじゃん。
今更この世界でファンタジーとか言っても説得力皆無のようなものだけど。
「人間にはない不思議な力があって、エルフ族にしかできないこともいくつかあるって話よ」
「で、お前はそのエルフ族を見たことがあるのか?」
「もちろん、五年前に初めて会ってそれ以来ね」
流石は世界を冒険していただけのことはある。
「懐かしいわね。久しぶりに会いに行こうかしら」
俺は時々オズの人脈の広さが怖くなる。
「ただいま!大変大変!」
図書館へ行っていたはずのミラが帰ってきた。
声色がなんだかとても慌ただしい。
「おかえり。どうしたどうした?」
「この人、すごく弱ってるの!」
ミラの背には小さな男の子が背負われている。
呼吸が弱い、かなり衰弱しているな。
道中でこの子を見つけて慌てて連れ帰ってきたといった具合だろうか。
「ん……?」
明るい緑色の長髪に隠れて見えなかったがこの子の耳は俺たちに比べてかなり尖っている。
身体が小さくて耳が尖っている、この特徴ってまさか……
「なあオズ。もしかしてこの人って『エルフ族』なんじゃないか?」
「まさかそんなはずは……嘘でしょ!?」
その耳を見たオズがかなり驚いている。
「それはさておき、手当をするぞ!」
「うん!」
「ええ」
ひとまずエルフの少年を俺のベッドに横たわらせた。
かなり衰弱しているが何が原因なんだろう。
「オズ、この弱り方に何か心当たりはないか?」
オズならエルフ族のことを何か知っているはずだ。
「エルフ族は水晶の森の外に出るとすぐに衰弱しちゃうの」
なるほど。
それをわかっていてわざわざこちらまで出向いてきたんだろうか。
自分が死ぬかもしれない危険を冒してまでなぜそんなことを……?
「どうしよう?どんどん息が弱くなってるよ」
ミラに言われて確認してみると確かにさっきよりもさらに呼吸が弱くなっている。
このままだと間違いなく死ぬ。
「水晶の森に行けばこの子は回復するのか?」
「ええ、まあね」
それならやるべきことは一つだ。
「よし、なら水晶の森に送るぞ!」
「それしかなさそうね」
オズは杖を取り出すと召喚魔法を発動させた。
行先は水晶の森だ。
「アンタはその子をお願い。ミラもついておいで」
オズに導かれるがままに俺たちは魔法陣の中へと飛び込んだ。
いざ、水晶の森へ!




