表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
第7章 狼おじさんと猫の少女
103/521

エピローグ 狼の本心

 スノウ・ベルが逮捕され、ギルドを脅かしていた危機はひとまず去った。

 彼に率いられていた薬をばら撒いた張本人を筆頭とするアウトローの残党たちも俺たちクルセイダーによって駆逐され、これで一件落着だ。


 ……と、言えればよかったんだが。


 「まぁ……その、なんだ。元気だせよ」

 

 あれからアルがすっかり意気消沈してしまっている。

 実の兄に手錠をかけたことが彼女の心に影を落としてしまったようだ。


 「何か美味いものでも食いに行くか?」

 

 人にもよるが美味いものを食べると元気が出る。

 アルの嗜好は分からないけれどこれでなんとかならないだろうか。


 「……奢り?」

 

 そこかー。

 アルにとって重要なのは『美味いか』じゃなくて『誰が勘定をするか』なのかー。


 「今回は特別だぞ」

 「……ルイたちも連れてきていい?」

 「もちろんだ」

 「じゃあ行く!」


 それを聞いたアルの表情が一気に明るくなった。

 俺の負担であることはともあれ、アルが元気を取り戻したようでよかった。


 そして次の休日。


 「なんで呼んだ覚えのない人がいるんですかね」


 どういうわけかグレイさんとアレンがいる。

 ミラとオズは俺が声をかけたからいるのは自然だしルイ君とリリーちゃんはアルが連れてくるって言ってたからこっちも当然だ。


 「俺はコイツらの監視っていう名目があるからな」

 

 グレイさんはアルたちに視線を向けた。

 そういえばそうでした。


 「で、アレンはなんでここに?」

 「そりゃあ、お前が飯を奢ってくれる気がしたからな」


 コイツは本当になんなんだ。

 

 「お前は速やかに帰れ」

 「そう冷たいこと言うなよ。せっかくこうして全員揃ってんだからよ」


 ……それもそうか。

 最近は誰かが離脱していたり別行動をとっていたりしていたから全員で集まることがなかった。


 「お前の分は自腹だからな」

 「マジで!?」


 まさか本当にただ飯を集るつもりだったのか?

 こんな平和なやり取りをするのも久々だな。



 「でさー、昨日の夜なんかさー」


 いざ会食が始まったと思ったら酒の回ったオズによる身内の暴露大会になっていた。

 暴露されるのは主に俺の話だから俺へのダメージがすごい。


 「アイツ真冬なのに腹出して寝てたのよ!それで寒い寒いって言いながら起きてくるんだから笑っちゃうわよね!」

 「んなこと言ったらお前だってこんなクソ寒い時期に下着姿で毛布被って寝てるだろうが!」

 

 すかさず反撃してオズを道連れにする。

 俺とオズが夫婦である以上、この手の話題には事欠かない。


 「フハハハハハハ!!」

 「流石だなあ、お前らは!」

 

 久々の会食ということもあって羽目が外れた大人組の悪酔いがひどい。

 

 「お前ももっと飲めよ」

 「いや、俺が潰れたらたぶん家に帰れなくなるんで……」

 「そんなもん嫁に任せとけばいいだろうが」


 それができないから俺が抑えてるんだよなぁ。


 「なんで狼たちはあんなになっちまってるんだ……?」

 「お酒を飲みすぎるとあんな風になっちゃうみたいだよ」

 「うわぁ、怖えなぁ」


 酔ったグレイさんたちを見てドン引きしているアルにミラがそっと耳打ちした。

 いつもと様子の違う大人たちを前にルイ君とリリーちゃんは不思議そうに首を傾げている。

 そうだよな、アルは酒飲まないからわからないよな。


 「おい猫。ちょっとこっちに来い」


 ふとグレイさんがアルを呼び止めた。

 酔っ払い特有の面倒な絡みじゃないといいんだが。


 「ん?なんだ?」


 グレイさんは何も言わずに近寄ってきたアルの頭の上にポンと手を置いた。


 「うおっ!?」


 これまた普段とは全く違うグレイさんの行動にアルは困惑している。


 「お前、よく頑張ったな」

 「え?」


 これはかなり珍しい、グレイさんのストレートな褒め言葉だ。

 その光景にアレンも目を丸くしている。


 「ここに来てからいろいろあったよな。はじめ盗人から機動隊になったお前はギルドの奴らから冷たい目を向けられてたな」

 

 あったあった。

 その都度アルがつっかかって喧嘩になりかかってたっけ。


 「それからは俺たち獣人そのものが邪険に扱われたな。お前は俺たちに比べればかなり若い、それでも仕打ちに耐えてきた」


 獣人への差別的な行為は以前に比れば減ってきたがそれでも無くなったわけではない。

 でも、それも近いうちに根絶できるはずだ。


 「最後は……これ以上は言わない約束だったな」


 途中まで言いかけたグレイさんはルイ君とリリーちゃんの方へ目をやると言葉を取りやめた。

 アルはスノウ・ベルのことはルイ君たちには内緒にしておきたいんだったっけか。


 「いずれにせよ、よく頑張ってくれたな」

 

 褒められたアルの耳がピコピコと動きまくっている。

 内心嬉しくて仕方がないのだろう。


 「え、えへへ……そうだろ?ウチ頑張っただろ?」

 「おう、よく頑張ったぞ」


 やはりそうだったか。

 今までなかなか正直に評価されなかったからかアルがここぞとばかりに甘えまくっている。


 「お姉ちゃんが狼によしよししてもらってるー!」

 「いいなー!リリーたちにもやってー!」


 グレイさんに甘えているアルを見たルイ君たちが飛びついて行った。

 アルに労いをかけていたはずがいつの間にか猫の兄妹に囲まれている。


 「どうっスか?そうやって子供に甘えられる気分は」

 

 酔っているのをいいことに命知らずな質問をしてみた。

 隣ではアレンも一緒になってニヤニヤしている。


 「へっ……案外悪くねえんだなこれが」


 グレイさんが完全にデレた。

 これはもう疑いの余地なく親バカをこじらせている。


 「ウチのことどう思ってる?」

 「俺の部下だから大切で可愛いに決まってるだろう」

 

 アルが攻めた質問を投げたのに対してグレイさんが恥ずかしげもなく言い返した。

 酒の力ってすげー。


 「ねえねえ、ミラたちも一緒に頑張ったから褒めてー」

 「そうねー、アタシたちも結構ギルドのために頑張ったんだから」


 そうだな、ミラたち魔法使いもかなり頑張ってくれた。

 彼女たちの力がなければ毒にやられていた人たちの復帰がもっと遅れていただろう。


 「ミラたちも頑張ってくれてありがとな。おかげで俺たちも自分の仕事に専念できた」

 「えへへー」

 「アタシたちが力を貸したんだから当然よねー」


 ミラは満悦だし、オズもまんざらでもなさそうだ。

 

 「おお、よしよし」


 抱きついてくるミラを受け止めた。

 そういえば初めて出会った時よりもミラの身体が成長した気がする。

 

 会食から暴露大会、そして身内の惚気大会へと変わって行った。

 これでもかというぐらいに全員が惚気まくっている。

 グレイはアルたちについて、俺はミラとオズについて、オズは俺について、アルはルイ君たちについて惚気まくっている。


 アレンは完全に蚊帳の外にされているせいかルイ君たちと一緒に別の話をしながら飯を食っている。

 悪いな、でもこの面子で集まったら今日はこういうことになるのが目に見えてたと思うぞ。

 

 

 そして惚気大会の翌日。


 「おーっす!今日も仕事だ仕事!」


 アルはすっかりかつての元気を取り戻した。

 スノウを逮捕した功績が認められ、晴れて見習いから正式に配属されることが決定された。

 

 ギルドの人間たちも再びアルのことを受け入れてきている。

 あの事件が起こる前のような関係に修復するにはまだもう少し時間がかかるかもしれないが好転してきているのは確かだろう。


 「大変だ!野生のヨロイハリアラシが迷い込んできたぞ!」


 えぇ……

 ヨロイハリアラシというのはこの世界に棲息している動物だ。

 草食動物の癖してクマぐらいデカい上に気が荒く、人間にも針を飛ばして攻撃してくる。

 そいつの針でケガをする輩が後を絶たないし鎧のような外殻に守られていて素人ではどうしようもできない。

 

 「野生動物相手に俺たちが出なきゃいけないんスか……」


 放置すると確実にケガ人が出るのはわかるんだが正直こういう自然災害的なものにまで俺たちが出なくてもいいんじゃないかと思ってる。


 「よっしゃ害獣駆除だ!いくぞ猫!」

 「おう!」


 でも肝心のリーダーがやる気満々なんだよなぁ。

 なんかすごくごつい剣持ってるし。

 というかそれってハンターの仕事だと思うんですけど。


 

 そんなこんなで、ギルドは今日も平和です。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ