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死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
第7章 狼おじさんと猫の少女
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兄、狼

今回も三人称視点の話です。

 「兄貴……」


 黒毛に白のメッシュが入ったアルセーヌと対をなすように白毛に黒のメッシュが入った猫の獣人、スノウ・ベルはゆっくりと振り返った。


 「お前、アルセーヌか?」


 成長した妹の姿を見たスノウは静かに確認を取った。


 「ウチのこと、覚えてたんだな」

 「当然だ、俺が覚えている唯一の兄妹だからな」


 その一言にアルは一瞬表情を緩めたがすぐに緊張と悲哀の入り混じった複雑な表情に切り替わる。

 なぜスノウが悪の道に走ってしまったのか、それがわからない。


 「兄貴、今このギルドで起こっている事件の首謀者は本当に兄貴なのか?」


 アルは恐る恐るスノウへと尋ねた。

 やはり本当だとは信じたくない、でもやるしかない。

 これが今の彼女に課せられた仕事なのだから。


 「もし、そうだと言ったらどうする」


 スノウの返答にアルは息が詰まった。

 

 「兄貴を……逮捕しないといけない」

 「逮捕?お前が俺を?」


 アルを試すようにスノウはニヤリと笑った。

 それはまるで彼女の本来の性格を知っているかのようだった。


 「うっ……そ、それは……」


 アルにはその先が言えなかった。


 「どうした?さっきまでの威勢を見せてみろ」

 「うぅ……」


 スノウに煽られてもアルは何も言い返すことができなかった。

 目の前にいる事件の黒幕は逃げようともしないのに、自分はそれを逮捕することができない。

 自分の不甲斐なさを思い知らされるばかりであった。


 「もういい。後は俺がやってやる」


 無力感に打ちのめされるアルの肩を誰かが後ろから叩いた。


 「狼……」


 ついさっきまで虎の獣人と戦っていたはずのグレイだった。

 戦いの興奮が収まりきらずに修羅のごとき表情のまま牙が剥き出しになっている。


 「貴様がスノウ・ベルだな」

 「ああ、その通りだ」


 グレイはそのまま尋問を開始した。


 「この街に薬をばら撒くように示唆したのはお前か」

 「その通り」

 「薬屋のババアに刺客を仕向けたのはお前か」

 「その通り」

 「レオネル・キングハートを脱獄させ、民衆を恐怖に陥れたのはお前か」

 「その通り」

 

 グレイからの尋問に対し、スノウはすべてを肯定した。


 「最後の質問だ。なぜこんなことをした」


 スノウの表情が歪んだ。

 その表情から『殺気』を感じ取ったグレイは静かに剣を抜く。


 「……復讐だ」

 「復讐だと?」


 「ああ、このギルドのクルセイダーへの復讐だ……!」


 さっきまで穏やかだったスノウの口調が一気に荒くなった。


 「俺たちがお前に何をしたってんだ?」

 「レオネルによって殺された女を知っているか」

 「忘れもしねえ、奴が逮捕される直前の最後の犠牲者だ」

 「あれは俺の恋人だったんだ!」


 スノウは激情のままにすべてを語った。


 「クルセイダーがもっと早く現場に駆けつけて入れば、彼女は死なずに済んだかもしれない」

 「そうかもしれねえな」

 「俺はお前たちが憎い、犠牲者を出したお前たちクルセイダーが!」

 「ふざけたこと抜かしてんじゃねえ!」


 声を荒げるスノウに対し、グレイはさらに声を荒げて一喝した。


 「俺たちはプロのチームだが決して完全な存在じゃねえ。届かねえ声もあれば救えねえ命だってある」

 「それなら、彼女の犠牲は何だったんだ!」

 「残念だが気の毒で済ませるしかねえ」


 「黙れ……黙れ黙れ黙れェ!!」


 グレイからの返答に痺れを切らしたスノウは殺意を剥き出しにしてグレイへと飛び掛かった。


 「かかってきやがれ!そのねじ曲がった性格を叩きなおしてやる!」


 剣を構え、グレイはスノウを迎え撃つ。


 「潰す!俺がお前たちを潰すッ!」

 「上等だァ!やってみやがれてんだァ!」


 懐から取り出したナイフを片手に切りかかるスノウをグレイは軽々といなしながら挑発を重ねる。

 

 「どうして……どうしてこんなことに……」


 スノウとグレイの闘争を傍観しながらアルは膝を折って力なくその場にへたり込んだ。

 自分だけでケリをつけることができたはずなのに、それができなかったがばかりにこんなことになってしまっている。


 「その動き、なかなかの手練れだな?」

 「へっ、これでもハンターやってたからな」


 スノウの言葉にグレイはピクリと反応した。


 「なるほど、つまり『俺の同類』ってことだな」

 「貴様も元ハンターか、通りで手強いと思ったわけだ」

 「『元』じゃねえ、俺は今でもハンターだ!」

 

 刃を交えながらスノウとグレイは言葉の応酬を続けた。


 「しかし貴様も大変だなァ。こんな出来の悪い奴を部下に持ってよォ」

 「……今なんつった?」


 その言葉を耳にした途端、グレイの口調が豹変した。


 「俺の部下が『出来が悪い』だとォ!」


 その一言はグレイの神経をひどく逆撫でした。


 「俺の部下を不当に貶す輩は誰であろうと許さん!」

 「出来が悪い奴を出来が悪いと言うことの何が悪い!」

 

 スノウの言葉にグレイはさらに頭に血を昇らせる。


 「俺の部下に出来が悪い奴はいねえ!俺の部下に存在するのは『出来のいい奴』と『これから出来がよくなる奴』の二種類だけだアッ!」

 「狼……」


 グレイの言葉がアルを奮い立たせようとしていた。

 彼は厳しい口調で接するものの、決して自分のような者でも見捨てたりはしない。

 間違いない、犯罪者であった自分を拾い上げたのは彼なのだから。


 「テメエ!クソッ!」


 グレイがかなり荒れている。

 アルが顔を我を取り戻すとそこにはスノウの姿はなかった。


 「狼!兄貴はどうしたんだ!?」

 「塔から飛び降りて逃走しやがった!」

 

 流石のグレイとアルでも素直に塔を素直に降りていてはとても間に合わない。

 スノウを捕まえるために使用できる手段は……


 「ウオオオオオオオン!!」


 グレイはマウントした剣を鞘に納めると大きく息を吸い込み、空を仰いで遠吠えを上げた。

 彼の遠吠えは仲間を呼び寄せるサインだ。


 「うおっ!なんだ!?」


 遠吠えに応えたかのように塔の頂上に巨大な影が降り立った。

 白い雪と対をなすように黒い身体、それは見覚えがあった。


 「塔の方からすごい音が聞こえたから来てみたらアンタたちの仕業?」

 「オズ家の当主!?」


 オズ家の第十四代当主にしてタカノの妻、クラリス・オズと彼女たちタカノ家のペット、フェアリードラゴンのクロだ。

 

 「ちょうどいい、そのドラゴンを俺たちに貸してくれ!」

 「いいけどちょっと荒っぽいわよ」


 クロから降りたクラリスはその座をグレイたちへと譲った。


 「それでもいい、さあ行くぞ!」

 「うおっ!?なにすんだ!?」


 グレイはアルの首根っこを掴むとクロの背中へと飛び乗った。

 

 「ドラゴン、白い猫を追いかけろ!」

 「バウッ!」


 グレイとアルの二人を乗せ、クロは巨大な翼をはためかせた。

 巨体が宙に浮きあがり、スノウを追ってギルドの上空へと飛び立った。


 「まあ、あの二人なら上手くやるわよね」


 グレイとアルを乗せたクロの影を見届けながらクラリスは帽子を深く下げ、召喚魔法の金色の円陣の中に姿を消した。

 彼らならきっとうまくやってくれる。

 ぶつかり合うけれど、常に同じ方向へ進んでいるあの二人なら。

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