日常だかなんだか
夕べの夜更かしがたたったのか、その日オレが目を覚ましたのは正午を回ってからだった。タオルを巻いた枕からはすっかり汗を吸い込んで厭な臭いが鼻腔をくすぐり、TVではライオンの着ぐるみが右へ左へ大暴れしている。まだだるさの残る体をのっそりと起こそうとしたそのとき、オレは目玉が飛び出るかと思うほど驚いた。
オレの眼前、1メートルほどに、見覚えのない若い女が立っているのだ。
女は白い着物を身にまとい、病的なほど青白い顔色でオレを見下ろしていた。オレは何か言葉を発しようと思ったが、どうしても声が出ない。
きっと寝起きで喉が渇いているからだな。
オレは二度寝することにした。
「えぇぇっ?!」
女が何か言った。
「なんで寝るんですか?!」
眠いからに決まっているだろう。
「だって、私幽霊ですよ?驚かないんですか?」
いや、これはきっと夢だ。夕べ夜更かししたからなあ。ドラクエのレベル上げをしていたらいつの間にかすっかり朝方になっていたのはさすがに驚いた。ハハハハ。
「ねぇ、起きてくださいよぅ」
女が震えた声でオレを揺さぶる。寝苦しいので脇腹に蹴りを入れた。
「ギャイン!」
女は尻尾を踏まれた犬みたいな声を上げて吹っ飛んだ。その拍子で後ろにあった電子レンジの角に後頭部をしたたかにぶつけた。ゴリッ、とかいった。
「ひぃぃ〜」
女が脇腹と後頭部を押さえながら部屋をばたばたと走り回る。うっとうしいので手元にあったドラクエの攻略本を女めがけてブン投げた。ドラクエの攻略本は女の膝あたりに当たり、女は前のめりに倒れ込んだ。
「ぅわ、脇腹がぁ〜……アタマが〜……膝小僧が〜……」
女は倒れ込んだままそう言った。
「うぅ〜〜……驚いてくださいよぅ〜幽霊ですよ〜うらめしや〜」
オレはベッドから起きあがった。一瞬ぱあっと明るい表情を見せた女をオレは一瞥してから、一本背負いのあとに直下型エルボードロップをぶちかました。
「はヒン!!」
と声を上げ、女はようやく静かになった。オレはやっと安らかに眠れることに安堵しながら、ゆっくり夢の世界へと落ちていった。
また、真っ昼間から変なものが出ないことを祈りながら。あぁ、眠い。