人生ならぬ、「狼生」は苦労ばかり
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まだ10ページ足らずの小説なのに、見てくださる方が多くて嬉しいです。
ありがとうございます!
ノミや臭いへの嫌悪感と抵抗感で苦労して。
巣から出るために母さんの説得で苦労して。
岩山を歩き回って水場を探すのに苦労して。
何だか生まれて間もないのに、苦労ばかりの狼生である。
そして、訪れる。
私の前に、新たな出会いが。
どうしても身体を洗いたかった私は、水場を探すために外に出たいと母さんに訴えたが、光の速さで却下された。
本当に一瞬の出来事でビックリした。
『ねえ母さん、おねが『ダメよ』』
取りつく島もない。
母さんは意外と過保護だったようだ。
『身体を綺麗にするのは大切だけれど、水浴びはそこまで重要ではないでしょう? 外を歩き回るなんて危険をわざわざ冒してまで巣を出る必要はないわ』
しかし、魔狼にとってはそうでも、元人間だった私にとっては現在の最重要項目なのだ!
例えば授業ノートへ、蛍光ペンで塗りつぶした上で、赤のボールペンでグルグル線を引くほどの大事なのである。
いくら訴えても『魔力の把握も出来ないくらいルゥルは幼いのだから』『ウッ・・・』となっていたが、私は諦めなかった。
諦められるはずがなかった。
前世で培ったプレゼン力で、私が岩山を歩き回っても大丈夫である根拠とメリットを挙げ連ねた。
粘りに粘って交渉し、許してくれなかったら死ぬ!ってくらいの必死の熱意が伝わったようで、最終的に母さんは首を縦に振ったのだ。
私のプレゼンが素晴らしかったのだろう。
勝利をもぎ取った感動に、思わずガッツポーズをした。
その時、母さんが恐ろしいものを見る目をしていた気がするのは、気のせいだろう。
ラゥラが『ルゥル、凄い顔してたよ・・・』って近寄ってくれなくなったが、気のせいだ。
外に出ても良いのは、私は歩くのも走るのも一番上手いし、一度崖から落ちかけたから気を付けるだろうという、さっき私が熱弁した事が理由として挙げられた。
これぞ怪我の功名ってやつだろう。
母さんは本当に渋々許可したって感じだから、落ちかけていなければ却下されていたに違いない。
一度落ちかけた不注意さが直ってなければ二度目もあるんじゃ・・・、なんて思うが、そこは上手いこと話をすり替えさせてもらった。
気を付けるのは本当だし、落ちなければ万事OKだ。
『母さんはロゥロとラゥラを置いて行くことは出来ないから、ルゥル一人で行くことになるのよ? 本当に良いの?』
『私一人でも大丈夫だよ! さっきも言ったじゃない』
『そうだけれど・・・。行っても良いのは岩山だけで、森はダメよ。あと、あまり遠くに行かないようにね。迷子になってしまうわ』
『大丈夫だよ!』
母さんは心配性である。
巣から出て行こうとしても、何だかんだと話しかけられて引き止められてしまう。
その後ろで私に先を越されたロゥロはずっと文句を言っているが、ロゥロはまだ走ろうとすると転ぶのだ。
岩山でそんなことをしたらヒューッゴロゴロゴロ、チーンである。
岩山で水たまりみたいな場所を早く見つけたい私としては、人手は多い方が良いので早く走れるようになって欲しいものである。
文句を言う暇があったら足を動かせ、足を。
そう言ったら噛み付かれたから、また取っ組み合いが始まった。
取っ組み合いのケンカなんて、前世ではほとんどしていないのだが。
やっぱり幼児退行だろうか、やぁだー・・・。
ちなみに、取っ組み合いになると大体が私が勝つ。
一生懸命にまっすぐ飛び掛かってくるから、少しフェイントを入れたりしてやれば簡単に上を取れるのだ。
それが更に不満らしくてブゥブゥ言ってるが、ケンカは良いから岩山を歩けるようになってください。
『ルルルンルンルン~♪』
やっとのことで巣から出て、とっとことっとこ岩山を探検し、水場を探す。
初めての巣の外に、私のテンションは上がりに上がる。
少しは上手になった鼻歌を歌って、ご機嫌である。
それとは別に、水場を探す目は真剣である。
とにかく、水浴びがしたい。
それで人間の頃のように、奴らの存在を感じない綺麗な身になるのだ。
以前の発狂後、身体に付いていたノミは全力で足で掻きまくり、岩壁に身体を擦りつけたり、ブルブルッと身震いして大体落とせた。
全身がひりひりするが、名誉の負傷である。
ただ、全部ではないのだ。
少なくなったが、居る。
今も、私の身体を徘徊している。
あ、ダメだ、考えるとゾゾゾッと背中に悪寒が走る。
見ないフリ、知らないフリをして一生懸命考えないようにした。
今は水場を探すことだけ考えるのだ、それだけを目指して頑張れ、私。
他にも、前に雨が降った時に、水に濡れた地面に仰向けになって背中をぐりぐりこすりつけて洗ってみたりしていた。
すぐに後悔した。
『ガハッ! ゲフグヘッ、はががッ!!』
目にも鼻にも耳にも、いろんなところに水が入ってきて死ぬかと思った。
その後も体温を奪われたせいで、寒くて震えて、更に死ぬかと思った。
雨が降ったせいでそもそも気温が低いし、身体をブルブルッとしても下っ手くそな身震いでは大して水が切れず、風が吹けばあっという間に凍えた。
何故やる前に気付かなかったのか、私。
人間だって雨の中で仰向けになったら、そらそうなるわ。
ただ、この世界にはタオルや暖房器具などない。
汚いとか言ってられなくて母さんにしがみついて震えた。
そうしたらラゥラもロゥロもくっついて温めてくれた。
みんなでぺろぺろと舐めて水気も取ってくれた。
家族の温かさが身に染みて、自分のバカさが目に染みた。
涙が出るよ、ほんと。
ただ、母さんとラゥラは心配そうだったけど、ロゥロはゲラゲラ笑い転げてバカにしてきた。
魔狼はずっと覚えてるんだからね、後々覚悟しとけよ。
しかし、私はただでは起きなかった。
その日の雨を含んだ私の寝床の藁を見て、雑巾のように使えば地面を綺麗にできるのでは!と気付いたのだ。
魔狼の体で掃除するのは大変だったが、使ってみれば地面は結構きれいになった。
代わりに藁がとても汚くなり、寝床に再利用できなくなったが。
これだけ汚れていたのかと思うと恐ろしい。
あまり藁がなくなると寝心地が悪くなるため、とりあえず自分の寝床の周りだけでも綺麗にした。
母さんたちは気にしていないので大丈夫であろう。
いずれは巣の全体を綺麗にして、ノミの居付かない巣を作るのだ。
そんなこんなで雨の日大作戦は、掃除の面ではぼちぼち成功だったが、一番重要な身体のノミ取りの面では大失敗に終わったのだった。
そして今は、水溜まり大作戦の真っ最中なのである。
見つかると良いなぁ。
歩いていると、少し離れた岩壁にぽっかりと穴が開いており、そこから魔狼たちが顔を出しているのが見えた。
同じ年頃の子狼もいるようだ。
巣を出る時に、母さんからいくつか岩山を歩き回る時の注意事項を言い渡された。
1つが『他の魔狼に会ったらニコニコと愛想良くして、何かあっても怒らないようにするのよ』との事だ。
ご近所付き合いは大切だという事だろう。
それか、私がロゥロと取っ組み合いをよくしているから、余所様の子と喧嘩をしないようにという牽制だろうか。
あれはロゥロが噛みついてくるのが悪いのであって、私は無実である。
『こんにちは!』
円滑なコミュニケーションに挨拶は欠かせない。
笑顔ではきはきと挨拶することは社会人のマナーである。
今は魔狼だけれど、これは世界や種族を超えても共通の行動だろう。
けれどそれ以上に、初めて他の魔狼と出会ったので、普通に野生の狼と出会った時のような好奇心が溢れた興奮状態の私は、全力でニコニコと声を出していた。
満面の笑みである。
母さんの言いつけを守れたに違いない。
しかし親の魔狼は戸惑った顔をして、そのまま子狼たちを巣へ引っ張っていってしまった
魔狼はあまりご近所付き合いをしないのだろうか。
けれど、狩りとかでは連携をして獲物を仕留めるのだし、前世で狼は高い社会性が~とかコミュニケーションを密接に~とか聞いた気がするのだが。
良く分からないがここは異世界だし、まあ、そういうものなんだろう。
引っ込んでしまった魔狼たちの巣のすぐ近くには、他にもいくつか洞窟があって、集合住宅みたい並んでいるようだ。
顔を出している魔狼たちもいたのだが、そちらも私と目が合うと子狼を引っ張って巣に籠ってしまった。
・・・良く分からないが、まあ、そういうものなんだろう。
え、私の鼻歌が酷かったとか、まさかそういう理由じゃないよね?
気を取り直して岩山を歩いていく。
さすがに扉のない出入り口全開の魔狼たちの巣の前を通っていくことは憚られて、違う方へ移動した。
すると、先日降った雨で出来た小さな水溜まりを発見した。
『・・・! やった、見つけたぁ!!』
喜んだものの、ここは岩山である。
水溜まりができても、バシャバシャすると砂で濁ってしまい、体を洗おうとすると余計に汚れてしまう。
何とか洗えないかと上澄みを手で掬って毛に撫でつけてみたが、水の数滴を付けただけでは毛の表面が若干濡れるだけだ。
身体全部と思うとどれだけ時間がかかるのか。
しかもノミはきっと落ちないし、体の構造上、手が届かないところが多いし。
『・・・。』
水溜まり大作戦、ダメかもしれない。
いや、諦めるのはまだ早い!!
きっときれいで大きな水場が見つかるはずだ!!
ていうか、見つからないと困るんだ!!!
めげない心でその後もウロウロと歩いてみるが、いい感じのきれいな水たまりは見つからなかった。
悲しい。
せっかく巣から出てきたのだ。
見つけるまで帰れま10、な気分である。
これ以上ノミどもの好きにさせてはならないのだ、絶対に。
下の方にないのなら、上の方にならあるだろうか。
そう思って岩壁を見上げてみる。
母さんの注意事項その2で『上の方に登って行ってはいけないわよ』というのがあったが、落ちたら危ないから言われたのだろうと思う。
一度崖から落ちているし、母さんは心配性なのだから。
気を付けて登れば大丈夫だろう。
探してみたら上に登れそうな場所も発見した。
ごつごつとした岩壁の段差は大きいが、ジャンプすれば届く距離なので、移動できないほどではない。
うんとこせー、どっこいせー、と段差を上へ上へと登って行く。
子どもとはいえ、さすがは野生の魔狼である。
岩壁からいくつも突き出る大きな足場へジャンプを繰り返して、時にはロッククライミングのように張り付いて移動しているが、少し息が切れるけれどそこまで疲れた感じはしない。
疲れたー、もうダメだーと思っても、少し休めば息が整ったし、疲労感もそんなに感じない。
初めて巣から出たにしては、体力があるのではないだろうか。
すごいな、魔狼。
運動不足の前世だったら、こんな重労働しようものならゼーハー息を切らして動けなくなっていただろう。
生まれたての小鹿みたいに足がプルプルになっていたに違いない。
数日はベットの上である。
しかし、登るのは良いが、なかなか平面になってくれない。
上を見ても、斜面がまだまだ続いている。
これ、頂上近くまで続いてるんじゃない?
いや、まさかそんなことは・・・。
けれど斜面はまだまだ続く。
何で登る前に気付かなかったの、私。
最近こんなことばっかりだな。
しかし、下を見ても結構な距離がある。
これだけ登って今更降りるなんてことも負けた気がするし、今までの頑張りは何だったんだってなるから、やはり上を目指すことにした。
ちなみに、察せれないメスである私は、降りる時のことはこの時に全く考えてなかったりする。
『っはぁ~ー!! やっとついたぁー!!』
けっこうな距離を、けっこうな時間をかけて登って、さすがに疲れがすごかった。
しかし、やっとのことで水場を探せそうな、歩ける平面にたどり着いた。
ふぃー、と息を吐きながら座り込む。
何だかとっても達成しきった気分だが、本番はここからである。
これだけ頑張って水場が見つからなかったら、落胆どころの話じゃない。
とりあえず、水場を探そう。
喉もカラカラで干乾びそうだ。
よっこらせと身体を起こすと、すぐ近くにぽっかりと口を開ける洞窟があることに気が付いた。
あ、と心で思った。
ただの洞窟ではない。
中から臭いがする。
これは、他の魔狼の巣だ。
微かに爪の擦れる音がして、気配が近づく。
じっと見守る中、洞窟から1匹の魔狼が顔を出した。
『誰か、いるのか?』
数年後の私は、こう言った。
この日のこの行動が、1つ目の大きな分岐点。
ターニングポイントだったと。
他でもない、出会ったのがこの時だったから。
彼との、彼らとの出会いは、私の狼生を大きく左右する事となる。
・・・主に、望まぬ苦労へと、ね。
描きたい場面が多くて、文章が長くなってしまいます。
要らない文章を削るというのが苦手です。
あと、伏線を張ったりとかって難しいですね。
あらすじや設定がざっくりしているので、矛盾とか出てこないか心配しながらちょっとずつ書き進めています。
現段階では分かりにくい、細かい伏線も張ってるつもりなので、後々回収していけたら良いな。