そんなファンタジー求めてなかった
ブックマークしてくださった方が10人を超えました!!
稚拙な小説ですが、気に入ってくださってとても嬉しいです!!
今回はちょっと説明チックな文章が長くなってしまいました・・・反省。
戦闘描写って難しいですね。
何というか・・・、魔狼の狩りは、私の知ってる狩りとはレベルの桁が違った。
木は倒れ、土は抉れてクレーター、地面の広範囲が赤く濡れてるみたいな。
感想、“魔獣vs魔獣”っていうアクション映画だった。
母さんから、近くに魔鹿の群れが来たから狩りが行われることになったと聞いて、様子を見ようと兄妹3匹揃って巣の外から草原を眺めている。
今回の狩りに母さんは参加しないらしいので、実際には4匹揃ってお座りしている。
はたから見たら微笑ましい光景だろう。
魔狼は目が良いらしく、成長して視界がはっきりした私たちも、少し離れた草原にいる魔鹿が見えた。
魔鹿と呼ばれるだから、魔法を使うのだと思う。
大きく立派な角を持つ魔鹿は、草食動物なのに何だか強そうだ。
『あれ、ルゥル。なんで後ろにいるの?』
『ルゥルは一回崖から落ちたもんな、怖いんだろ?』
『うるさい、ロゥロのバカ!』
後ろと言っても、3歩ほど離れて見ているだけだ。
ロゥロはからかってくるが、あまりギリギリに座ってまたボロッと行かないとも限らない。
安全第一で私がそこに座り続けると、ラゥラが隣に来て並んで座った。
『大丈夫だよルゥル、一緒に見よう?』
うちの妹は本当に優しくて可愛い天使である。
それが面白くなかったらしいロゥロはふてくされた表情になって、意地を張って1匹でそこに座り続けた。
『俺は怖くないから、ここで良いもん!』
さいですか。
ちなみに魔狼は記憶力も良く、そう簡単に物事を忘れないらしい。
言葉も話せなかった時にあったことまで覚えているものだから、ロゥロはこうやって私の弱点を面白がってからかってくる。
これだから小学生男子は嫌なのである。
子どもの内に何か恥ずかしい事をして、大きくなってから忘れられない自分の身を怨めば良いのに。
中二病だった自分を思い出して悶える大人みたいになれば良いのに。
あ、ダメだ、私も魔狼だからブーメランだわ。
群れの狼たちが、岩の間を降りていくのが見えた。
上から見れば狼たちの様子が見えるが、草原や森からは突き立った岩が壁になっていて見つかることはないだろう。
そのままそっと森へ降りて、木々に隠れながら草原にいる魔鹿達を目指すらしい。
母さんが、狩りの時には魔狼たちは魔法を使うのだと言っていたから、とても楽しみだ。
『わぁ!』
じっと見ていると、強い風が吹いて毛並みが乱れた。
毛並みが乱れることを嫌う母さんは、すぐさませっせと毛繕いをする。
2匹は母さんのマネをして毛を舐めて整えているつもりなのだけど、毛の流れに沿えてないのか舌を引くタイミングなのか、そこだけ逆にボサボサになってる。
私はそんなことするつもりはない、放置だ。
口の中が毛まるけになる、あんな思いはもうしたかない。
毛がボサボサだろうと死にゃしないのだ。
上手くできない2匹を見かねて、母さんが上手いこと毛を整えている。
ここぞとばかりに私も整えてもらった。
2匹も上手くできてないみたいだし、しばらくは母さんに毛を舐めてもらって毛繕いを済まそうと思う。
2匹とも『頑張って上手くなるんだ!』意気込んでる。
ロゥロはライバル心が光る眼でこちらを見てきたが、張り合うつもりはないからね。
良かったねロゥロ、毛繕いは私より早くできるよ!
『そろそろ始まるわよ』
母さんにそう言われて見ると、森と草原の分かれ目から狼たちが体を低くして出てくるのが見えた。
森に近い草原には、背の高い草が生い茂っている。
姿を隠し、魔鹿に近づき、背の低い草に切り替わるあたりで、加速した。
魔鹿の群れの左右から囲い込むように数匹の魔狼が駆け抜け、ゆっくりと駆ける魔狼が正面から向かう。
Vの字を描くように迫る魔狼たちに、まず魔鹿たちは敵の存在に驚き、反対方向に逃げようとした。
しかし、Vの字の両端の魔狼たちが逃がすまいと更に加速し、左右から魔法で突風をぶつけた。
質量を持った風に突き飛ばされた魔鹿達は、互いに身体をぶつけ合い、足を絡め合って倒れ、混乱に陥った。
その隙に魔狼たちは魔鹿の群れを完全に囲い込んだ。
『まず、ああやって魔鹿達を逃げられないようにして、そこから小鹿やケガをして弱ってる獲物に狙いを定めるの。確実に仕留められそうな獲物を、一瞬で選ばなければならないのよ。そうしたら目線でどの獲物か伝え合って、予め決めていたいくつかのチームに分かれて襲い掛かるわ』
ここまでは、何となく想像していた魔法を使用した狩りの様子だった。
けれど、本番はここからだった。
4つのチームに分かれた魔狼たちは、それぞれの獲物の元へと走った。
その先の地面から、鋭く尖った木がドシュッ!と勢いよく付き出した。
『え・・・!?』
危うく串刺しにされかけたが、魔狼たちは横へザッと飛んで回避した。
その間にも、魔狼たちへ向けていくつもの木の槍が地面から突き出て、あっという間に不規則な網目状に立ち並んだ木の壁ができる。
隙間はあるが、ズァッと有刺鉄線のように棘が付き出したので、その間を通り抜けることは難しい。
『魔鹿達は、木魔法を使うのよ。ああやって先を尖らせて武器にしたり、身を守る盾としたりするわ』
魔狼たちが一瞬立ち止まった隙に、体制を立て直した魔鹿達は逃げようとするが、魔狼たちはすぐさま突風で木をバキバキとへし折り、飛び越えて後を追った。
行く手を阻むように、再び木の槍が地面のあちこちから飛び出すが、木が飛び出しきる前に隙間を縫って駆け、飛び、動く木も足場にして、物凄いスピードで風を纏い、走る。
足が木から離れた瞬間に棘がブワッと生える。
駆け抜ける先々で首を、腹を、足を狙って木が突き出る。
魔狼たちは木の凶器が鼻先を掠りながらも、獲物を見据える。
少しでもタイミングを間違えば命が簡単に飛ぶような、荒れ狂う木々の嵐。
そこから飛び出した魔狼が、獲物の脚に齧り付いた。
『ピィーーっーっ!!』
『ひっ!』
甲高い悲鳴が上がる。
体を捩じって魔鹿を転倒させたところを狙って、止めを刺すべく何匹もの魔狼たちが群がる。
血飛沫が上がり、魔狼たちが、地面が、赤く染まる。
すると、他の魔鹿達は動きを止めて狼たちを狙って正確に木の槍を飛ばす。
させまいと、周りの魔狼たちが風魔法でそれを粉砕して吹き飛ばす。
獲物を1匹仕留めたかに見えた。
だが、いつの間にか辺りには太い幹の木がいくつもメキメキ音を立てて生え、小規模な森を形成していた。
森は魔鹿たちを守り、敵を殺すべく蠢いた。
『今回は獲物が魔鹿だから激しいわね。普通、草食動物たちは襲われると、狙われた獲物を置いて逃げるのよ。けれど、魔鹿たちは普通の鹿より賢くて情も深いから、襲われた者を助けようとするの』
襲われた魔鹿の下からワサッと葉が湧き出て、そのままグンと成長した木が魔鹿を上へ持ち上げて魔狼と引きはがし、追おうとする魔狼の命を狙って再び木の槍が突き出て、距離を取った。
ボタボタと血を垂れ流しながらも、助け出された魔鹿は立ち上がり、血を撒き散らしながら逃げる。
四方八方から飛び出す木の槍をひたすら避け、防御に徹するしかない状況へ追い込まれた。
魔鹿の領域、森の檻に囲い込まれ逆境に立たされた魔狼たちは、それでも獲物を諦めない。
数匹で風魔法を操り、台風を巻き起こして、周りの木々を根こそぎ薙ぎ倒す。
重量のある木々が地面へ沈み、ゴォオオンッ!!と地を揺るがす轟音が、巣まで響いてきた。
『ひぇっ!!』
私とラゥラは抱き合い、2匹してフルフルと震えた。
何あれヤバい、私が知ってる狩りと比べ物にならないくらい過激なんだけど!?
洞窟へ引っ込みたくて母さんへ目を向けるが『怖くてもちゃんと見ていてね』とニコリと微笑まれてしまった。
魔鹿を獲物として行う狩りは珍しのだそうだ。
『魔鹿は魔法を使う分、普通の草食動物より厄介なの。私たちもまったく獲物が取れないのでは飢えてしまうから、ケガを負おうとも狙った獲物は絶対に仕留めようとする。だから魔鹿を相手にした狩りはいつも激しくなるの』
珍しいとはいえ、魔鹿相手だといつもあんな災害じみた狩りが行われるの!?
見れば、魔狼も魔鹿も数匹が負傷しており、あっちにもこっちにも血が飛散している。
いやぁぁあ、ケガしてるのにそんな暴れるからぁ!!
『な、何で、わざわざ魔鹿を狙うの?』
魔獣相手でなければ、魔狼は負傷せず獲物を狩ることが出来るだろう。
抵抗の激しい相手を狙って狩る必要はないように思う。
『私たちがこの場所に住んでいることを草食動物たちは知ってるから、ほとんど近づいて来ないの。ルゥルたちは知らないかもしないけれど、森にいる小さなウサギやネズミを取るためにだって、魔狼たちは遠くまで歩いて狩りに行くのよ』
森の小動物たちは、個々で様々な場所に広く分布しているので足を延ばせば狩ることが出来るのだという。
けれど、鹿や牛など体の大きな獲物は群れを形成して、常に固まって私たちの住処を避けて移動をするのだそうだ。
群れを見つけることがまず難しいし、例え狩れたとしても棲み処まで持ってくることも難しい。
しかも、ここしばらくは体の大きな獲物を狩れていないから、成狼たちのほとんどが飢えている状態だったそうだ。
『賢い魔鹿たちが何故私たちの棲み処の近くを通りかかったのかは分からないけれど、距離が近い場所に体の大きな獲物がいて、狩らないでおく何てことはしないのよ』
母さんに監視されているため、凄惨な狩りの様子から目を反らすこと出来なかった。
泣く泣くラゥラと狩りを見ていて暫くすると、魔鹿たちの群れがどこかへ去っていった。
魔狼たちはそれを追うことはもうしなかった。
地面がボコボコになった狩りの現場には、3匹の魔鹿の死体が横たわっている。
魔狼たちは、負傷して横たわる仲間の傷を舐めていた。
狩りが終わったのだ。
これくらいの距離であれば、風魔法を駆使して棲み処へ肉を引きずって来れるそうだ。
それから狩りを実際に行った狼たちを優先的に、魔狼の各家族に肉が分配される。
木が倒れて潰された魔鹿の中に、特に体の大きな獲物がいたので、十分な量の肉が分け与えられるとのことだ。
ファンタジーな世界で魔法を使えるんだ!と思ってワクワクドキドキしていた気持ちが、膨らました風船の結び目を解いて手を離した時のように、プシューッ、ヒュルルルーゥとしぼんで、ポテンと落ちた。
狩りであんな目に遭うなら、魔法とか普通に要らないわ。
ファンタジーの存在を拒否したい。
前世で見た狼とかの狩りの様子が、何とも穏やかに感じられる。
大きくなったら今見たあれをやるの?
え、私が?
魔力を感じる事すら欠片も出来ていないのに?
出来るわけがないよね!!
でも魔法を使えるようになって強くならないと、ああいう場面で真っ先に死んでしまうわけだ!
魔力が分からないとか言ってる場合じゃないわ。
魔法を使えるようになるのは急務だわ。
目に見えない魔力は難しいけれど、まずはせめて存在を認識できる耳と尻尾は上手く動かせるようにならなければ。
本当に、一刻も早く!
『・・・すっげー! 狩りってすっげーんだな! 俺もあんなふうにカッコ良く狩りができるようになれるかな!?』
『ロゥロならなれるわよ。魔法の練習と、狩りの練習をいっぱいして、棲み処のみんなをお腹いっぱい食べさせてあげられるようになりましょうね』
ロゥロは興奮してピョンピョン跳ねている。
確かにすごかったが、あれはアニメとか特撮とか、映像を画面越しに見たりして『すっげー』ってするものだと思う。
現実世界で起きても良いものではないでしょ。
あれをやりたいと思うのか、と私はロゥロの神経を疑った。
『ルゥル・・・』
『ラゥラ・・・』
2匹で、あんなの無理だよね?と目で語り合う。
母さんも勿論狩りを推奨するのだから、味方はラゥラしかいない。
魔狼に生まれたからには、いずれは狩りとかをして野生の動物を殺して食べないといけないんだろうな、とは思っていた。
お乳を飲んでいる期間にその辺の覚悟はしようと思っていたが、狩ること自体にも大きな覚悟をする必要があるようだ。
気分は死地に向かう兵士である。
今からでもファンタジー要素なくならないかな。
なくならないよね、うん、分かってる。
えー、でも、寝て起きたらせめて普通の狼になってないかな。
うん、分かってる。
分かってるんだけどさー・・・。
『そんなファンタジー、求めてなかったわー・・・』
鹿は音読みでロクと読むので、魔鹿だとマロクになるかと思いますが、魔狼と読み方が若干被る感じがあるのでこの小説ではマジカと読んでます。
あと、マロクと聞いても何を指してるのか分からないかなとも思ったので。
ルゥルの頭の中ではそう呼んでるよーってだけの事なので、読者様の読みやすいように読んでいただければ大丈夫です!