「魔狼」は魔獣で害獣らしい
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感動に打ち震えております。ありがたや、ありがたや。
母さんから、私たちは魔法を使う狼で“魔狼”と呼ばれているのだと聞きました。
魔と付けられる獣は総じて“魔獣”と呼ばれ、人間たちには害獣として扱われるのだと聞きました。
人間たちの呼ぶ“魔狼”には、悪魔の狼という意味も込められているのだそうです。
・・・、・・・うん。
魔法に興味を持った私に、母さんが色々と説明をしてくれることになった。
『ルゥルはメスなのに、オスのロゥロよりも歩くのも早いし、頭が良いのね』
『メスとオスでは何か違うの?』
『そうね。まず、生き物には性別というものがあって、オスとメスの2種類がいるのよ。ロゥロがオスで、ルゥルとラゥラがメスね』
母さんの話によると、どうやら魔狼はオスの方が全体的に能力が優れているのだそうだ。
成長の過程でも身体、精神、頭脳、全てにおいてオスの方が優れ、大人になればその差はさらに大きくなっているのだという。
何だか、魔狼はメスに厳しい種族のようだ。
『ただ、魔力においてはメスの方が優れている場合があるわ。ルゥルたちも大きくなったら母さんのお乳じゃなくお肉を食べることになるけれど、そのためには群れで狩りをするの。魔法の扱いが上手ければ狩りの時にとても役に立てるから、そういうメスはオスからの人気も高くなるのよ』
『そうなんだね!』
つまり、魔法の上手なメスはオスからモテモテということだろう。
前世では諦めていた野望が叶うかもしれない。
元々は人だった私が狼にモテても、男の人にモテた時と心情が全然違うのだろうけれど、キリッとしたカッコ良い狼に囲まれるのはそれはそれで楽しそうである。
ワクワクしてる私に、母さんは『ルゥルはおませさんね』って言いながら微笑ましそうな顔をしている。
人間の成人女性だとガツガツしているようで引かれるかもしれないけれど、子狼なら可愛く見えるのだからお得である。
『頑張ってお兄ちゃんのロゥロよりも魔法が上手くならないとね』
『あれ、ロゥロがお兄ちゃんなの?』
歩くのも話すのも早かったから、てっきり私が一番お姉さんなんだと思っていた。
『魔狼はね、オスがお兄ちゃんで、メスが妹になるのよ』
『え?』
『え?』
よく理解ができなかった私に、母さんがかみ砕いて説明をしてくれた。
どうやら身体の違いだけではなく、存在全てにおいてオスが上でメスが下と定義付けられているのだそうだ。
魔狼ってそんな感じらしい。
『え、じゃあ、私とラゥラではどっちがお姉さんなの?』
『お姉さんって?』
『え?』
母さんと顔を見合わせて、お互いに首絵を傾げた。
話を聞いていると、魔狼はオスが兄でメスが妹だということは決まりきった事だから、弟や姉という概念がないようだ。
同性の場合は関係に上下はなく、ただ単に同じ親から生まれた同等の存在とされるらしい。
同じ時期に生まれたならまだ分かるが、どうやら生まれた年が違っていても絶対に兄と妹となるのだそうで。
生まれた順番で上下の関係が決まる人間とはその辺は全然違うのだなと思った。
何だか、魔狼って随分と男尊女卑な種族じゃない?
私はそんな魔狼のメスなんだよなぁ・・・。
だけどまあ、私の中ではラゥラは妹で私が姉であると勝手に定義づけておいた。
人間だった私にとって、同性の関係が全くの同等という感覚が良く分からないのだ。
ちょっと頑張って、妹に尊敬されるような立派な姉になれるように頑張ろう。
人間と魔狼には色々と考えの違いがあることが分かった。
これから魔狼として生きることになるのだから、その点を意識して気を付けていかなければいけないなと思う。
他にも母さんとの話で、この世界にも人間がいると知れたことは私にとって大きい。
もう魔狼になってしまったのだけれど、今の“私”は人間だった時の“私”が基盤になっているのだから、同じ存在がいると思うだけで少し、何というか、心が軽くなるような心地がする。
全く違う世界ではないと思えるし、それは“私”の思考や知識が全然通用しない場所ではないという証明になる。
私にとって存在が大きい人間に、現在の私である魔獣は害獣と呼ばれるらしい。
それはどことなく、居心地が悪いような気分にさせた。
『ねえ、母さん。何で魔獣は害獣なの?』
『魔狼は決して、害獣などではないわ。私たちを害獣などと呼んでいるのは、人間共だけよ』
母さんの顔に、憎しみにも似た感情が浮かんだことに驚いた。
言葉からも、何故だか随分と人間を嫌っているようだ。
『奴らは数だけは多いの。それに、ずる賢いわ。色んな場所を勝手に自分たちのものとして、元々住んでいた獣たちを追い立てて住処を作ったわ。数が多く、住処とする場所がどの生物より一番大きい、だから自分たちが生物の中で一番優れていると思っているの。まるで、世界の支配者が自分たちであるかのように』
『そんなこと・・・』
ない、と言いたかったけれど、言葉にするのは躊躇われた。
私の言葉は、人間から見た人間の意見でしかなかったからだ。
この世界の人間と前の世界の人間は、在り方が同じように思う。
人が住む町で、人が作った家で、他の動物たちと共存しようとする人たちの姿をテレビで見てた。
動物たちの住む領域を確保し、人と動物が同時に快適に過ごせる道を探すような番組をよく見かけた。
人間だった私が知らなかっただけで、前の世界の動物達だって、そのように思っていたのかもしれない。
今思えばそういう試みこそが、そもそも人間のエゴや、優れているという誇示にすぎなかったのではないかとも思える。
『ルゥルはまだ人間のことを知らないものね。奴らは人間だけが栄えれば良いという考えを持ち、古より存在する私たちに敬意を払わず、恐れも知らず、挙句に害獣とまで言ったわ』
忌々しそうにそう吐き捨てた母さんを、私は初めて見た。
生まれてそれほど長くないが、愛情しか向けられたことのない私は、優しい母さんはこういう怖い感情を持っていないものだと勝手に思っていた。
『母さんは、人間が嫌いなの?』
『母さんだけではないわ。全ての魔狼が、そもそも獣自体が、身勝手な人間を決して好くことなどないのよ』
人間がそれほど広い土地を住処としているのなら、長い時間をかけて繁栄してきたのだろうと思う。
古から存在するという、魔狼を含めた獣と人間たちの確執は随分と根深いようだ。
『人間たちの考えが、全く分からないでもないわ。自分たちの敵となる者を害と呼ぶのは当り前よ。私たちからすれば、人間こそが最も害ある存在なのだから』
不安そうな顔をする私に気付いたのだろうか。
母さんはいつものように、私の頭をぺろりと舐めた。
『人間たちがそもそも愚かであることには変わりないけれど、普通の魔狼たちが人間たちに害獣と呼ばれるのは、まだ分かるわ。けれど、私たちの群れは人間ごときにそんなことを言われるような存在ではないのよ』
『どういうこと?』
『その話は、ルゥルにはまだ早いかしらね。ただ、私たちはとても誇り高く、尊い存在だという事を覚えておいてね。人間などという下劣で下等な生物とは違うのよ』
母さん、私、その下劣で下等な生物だったんすよ。
何だか一周回って笑えてきた。
まぁーじーかー。
前世と現世での、考えの根本の違いを見せつけられた。
違う生物として生まれたのだから、考えや視点はそりゃ違うに決まっているだろうけれど、何というか、何かなぁ。
元は人間だったのだから、人間に対して親近感というか、人間と出会うことがあれば仲良くしたいなー、なんて思ってたけれど、害獣と呼ばれるくらいだ。
人間だって魔狼のことが嫌いだろう。
こういう事もあるから生まれ変わる時は普通、前世の記憶がない状態で生まれるのだと思うのだけれど。
何で私は人間だった前世の記憶をそのまま持ってきてしまったのだろうか。
せめて人間として生まれていたのなら、まだ良かっただろうに。
話し終えてリラックスしたまま毛繕いをする母を真似て、魔狼らしくちょっと自分の身体を舐めてみた。
それで、すぐに後悔した。
『ゲホッ、ガハッ!! ぺーっぺっぺっ!!』
毛が!!
毛が口に入った!!
こんな肉球じゃ取ることもできないじゃん!!
舌に張り付いて取れないよ母さーん!!
咳込んで転がり咽びながら、私は思う。
魔獣としての考えや生活に馴染むのには、まだまだ時間がかかりそうだ。
投稿済みの前の話を読み直してみると、説明文ばっかりになっているなぁと思いましたのでちょくちょく修正しています。
改行の位置や誤字脱字の見直しもして少し変わってる部分もありますが、物語に大きな変更はないのでそのまま読み進めていただいて大丈夫です。