第7話 ギルドの酒場と変態紳士
食べ物を求めて街でフラフラしていたミストはアガンに保護された。現在、脇に抱えられながら移動している。はたから見たら誘拐現場に見えなくもない光景である。危険だ。
「メシならギルドの酒場で食わしてやるからもうちょっと待て。だいたい金持ってるのか?お前。」
「持ってません。」
ミストはつい先日、装備品の強化で金を大方使い果たしていた。故に今は金欠なのだ。食事をするためには、アガンについて行くしかないだろう。そうこうしているうちに冒険者ギルドに到着する。
3階建ての木造建築で、やはりというか見るからに頑丈そうな建物である。ギルドの中では、お昼時であった為だろうかなりの数の冒険者が酒場で飲み食いしていた。と、そこにミスト達が来る。
「お、アガンじゃねぇか。もう依頼終わったのかよ。流石Bランク様は違うねぇ!」
「ウィルのやつにも言ったが、今日は簡単なのしかなかったからすぐに終わっただけだ。そんなに儲かってないから絶対におごらんぞ。」
「けち臭い事言いなさんなって」
「・・・ところでアガン様、そちらの天使はどうなされたのですかな?」
皆アガンに絡んでくる。結構な人気者らしい。そして運の悪い事に今日の酒場には変態紳士がいた。
「よし、移動するぞミスト。」
「待てぇぇぇ!おいアガンどっから攫ってきたんだよそのガキ!?」
「お待ちください!せめて!せめて天使を私の腕の中に置いて行ってくだいぃぃぃ!!!」
「おいお前ら、アガンが遂に犯罪者になった事よりもあのガキを逃すのが先決だ。」
「だからウィルにも言ったが、俺は保護しただけだ!だいたいこいつは俺相手なら簡単に逃げ切るだけの実力はあるぞ!」
バァン!!乱暴に酒場の扉が蹴り開けられ、更に1人入ってくる。
「アガン!通りでキャシーさんから聞いて来たが、そこの変態紳士の仲間入りしたって本当か!?」
「だから俺は攫ってねぇっつってんだろがあぁぁぁ!!!」
此処でもかけられる幼児誘拐疑惑。ミストに変態紳士が見えないようにしているあたり、良い意味で紳士だ。
「私の天使ィィィィィ!」
「寄るな変態!あとこいつは17だ。とっくに成人してる。わかったら「なんと、それでは、彼女はもうこれ以上成長しない・・・!?素晴らしい!!今すぐ教会に行きましょう私の天使!!」逆効果かよ!?」
「なんかよくわからんが、取り敢えずそのガキ連れて逃げろ!」
・・・
「そうよ!子供に変態見せたらダメ!」
・・・・・
「なあ、変態紳士の仲間入りしたって本当なのか?」
・・・・・・・・・・ップチ
「ガキガキ煩いわこの飲んだくれ共!【毒蛾の舞】!!」
ブフォワ
切れたミストを中心にして、黄色味がかった鱗粉が撒き散らされる。酒場全体に広がり、無関心を貫いていた賢い者達までもがとばっちりをくらい、ほぼ全員が強力な麻痺状態となった。屈強な冒険者達が揃って倒れている様は、なかなかに壮観である。
「か、身体が動かん・・・」
「・・・・・・・・っっ」
「私の、私の天使ぃ」
実力、耐性の高い者は多少は喋れたりするようだが、殆どは喋ることすらできない。・・・変態紳士がなんかウゴウゴしてるが、こいつは例外だ。変態に常識は通じない。
「沈め変態」
ドゴォ!
「グフッ」
アガンがキッチリとどめを刺した。尊い犠牲の元、世界は平和になった。
「アガンさん凄いですね〜。私の攻撃至近距離でくらったのにぴんぴんしてる。もしかして聖騎士だったりしませんか?」
「バカ言うな、んなわけないだろう。あと、敬語じゃなくて良い。」
「んじゃ、お言葉に甘えて。で?ぶっちゃけどうなの?」
「だから違うって。」
「それは僕も気になるね。」
「!?」
突然カウンター席の端から声が上がった。黒い品のあるローブを着ており、フードで顔は見えない。が、声と一人称からして男だろう。
「ギルマスかよ。いたなら止めてくれ。」
「いやいや、僕には君が幼女誘拐犯になったのかギルマスとして見極める必要があるからね。しっかりと監視していたんだよ。」
「監視じゃなくて見物だろうが。」
「そうとも言うね。」
何たることだ。冒険者登録をし、絡んできた素行不良冒険者をぶっ飛ばしてからの呼び出しをくらう王道展開を通り越してギルマスご登場である。
「ねぇ、ご飯は?」
ミストは空腹だ。