第5話 冒険者アガン
新しく入手したスキルの検証と、とんでもない称号の確認を終えたミスト。ともなれば、つぎにすべきは
「よし、さっそくこの森出よう。さっさと出よう!多分街道に出られたら、商人にとかに道案内してもらえるだろうし。」
と、歩き出すがここでお約束。
「グルァァァァァァァ!」
そりゃ出るわなモンスター。
「お、フォレストウルフだ!【妖精の悪戯】」
パァン!
魔法の当たった頭が弾けた。ちなみに今のは、治癒士が使う数少ない攻撃魔法の1つであり、初級【妖精の悪戯】である。フォレストウルフの戦闘力は駆け出しプレイヤーが余裕で討伐できるほどでしか無いので、いまいち威力に欠ける治癒士の攻撃魔法でも特に問題は無い。・・・あんなステータスで放てばオーバーキルにしかならないが。
「素材は・・・面倒いからいいや。【送り火】」
【送り火】対アンデッド用の治癒士専用攻撃魔法である。アンデッド以外に打った場合、ミストのステータスだろうと殆どダメージは与えられない。今回はウルフの死体を燃やすのに使う。
ウルフの死体が完全に燃え切ったのを確認し再び森の中を進む。3時間ほど歩いただろうか、森が開けた所に出る。商人はいなかったが、ご丁寧にも休憩中の冒険者らしき人物がいる。濃い茶髪に、緑色の瞳をした、剣士らしき男だ。歳は19〜20、背は190センチを越えたくらいだろうか。かなり高い。
「お、ラッキー。こんにちはー!ちょっと宜しいでしょうかー?」
「ん?っておい!なんで嬢ちゃんみたいな子供がこんなとこにいる!?親はどうした!?」
「ーーーは?」
ミストが声をかけると、その冒険者らしき男が驚きながら駆け寄ってくる。
「いいか、此処は嬢ちゃんみたいな子供が来ていい場所じゃない。Dランクのフォレストウルフとか、ひどい時だとCランクのブラックサーペントまで出るんだぞ!?」
「フォレストウルフってDランクだったんだ。てか、やっぱりあるんだなランク設定。ま、それは置いておくとして・・・つかぬ事をお聞きしますが、この辺の一般的な成人年齢はいくつなのでしょうか?」
「置いといてって・・・いいから質問に答「貴方が私の質問に答えてくださったら私もお答えします。」はぁ、16だがそれがどうかしたか?まさか成人してるとか言わないよな?ははは。」
「そのまさかですよ。私は今17です。もうじき18になります。とっくの昔に成人です。」
「マジで?」
「マジです。」
「もしかして嬢ちゃん小人族か?金髪の小人族なんて初めて見たが、そうじゃないとせいぜい10「【ラウス】」グボァ!」
【ラウス】は主にパワーレベリングの際に使われる、ダメージを100で固定して与える魔法である。
「誰が嬢ちゃんだ。あと私は人間です。」
「おう、わかった。わかったからその手に集めてる魔力をどうにかしてくれ!」
「お分かりいただけたようで何よりです。さて、私が此処にいる理由ですが、住んでいた村から出てきたはいいものの道に迷っただけです。大した理由ではありませんよ。」
「本当かどうかはわからんが今はそういうことにしておこう。で、俺に道を教えてほしいって事でいいんだな?」
「はい、1番近くにある人のいる場所を教えて下さい。」
「こっから1番近いとなると、これから俺が帰る【要塞都市アルカディア】だな。2時間くらい歩けば着く。なんなら嬢ちゃ・・・いや、お前も一緒に行くか?」
「あ、それいいですね。楽そうだし、ぜひお願いしますよ。あと、ミストといいます。」
「・・・口調は丁寧なのに中身は図々しいな。Bランク冒険者のアガンだ。」
「あ、口調も図々しい方がいい?」
「わかった俺が悪かった悪かったから怖い顔すんな!」
ついでに言うとさっきのミストが考えていたことは、「タダで道案内が見つかった!やった!」である。なかなかに酷い。
「で、見たところミストは魔術師か?ちなみに俺は見ての通り剣士だ。もしできるならモンスターが出たときの後衛を任せたい。」
「いえ、回復職ですよ。ですがこの辺のモンスターくらいなら後衛での攻撃もできます。何なら私も前衛にまわりましょうか?」
フォレストウルフなら杖で殴れば勝てる。
『その格好で!?』
もっともな意見だが口には出さない。睨まれるから。
ミストがジョブを【賢者】と言わずに【回復職】と言って濁したのは、アガンがまだ【剣士】だったからだ。Bランクならばそれなりに高いランクなのだと推測できるが、上位職に就いていないことから、言わない方が得策だと判断したのである。実際、人が多い所で言えば大騒ぎになっただろう。
『深く考えるのは駄目だ。にしても、治癒士か。だが、自分の怪我くらいは自分で治せるだろうし、全く戦えないわけでもなさそうだ。モンスターが出ても大して危険はないだろう。』
案の定アガンはミストのジョブが、治癒士だと勘違いした。そして、森でさまよっていたらしいというのに全くの無傷である事から自分の身を守る程度の戦闘力は最低限持っていると判断する。ミストに後衛を任せたいと言ったのは、戦力としてよりも、モンスターから守ることが目的であった。何気にお人好しな奴だ。
「わかった。色々ツッコミ所はあるが、前衛だけは止めてくれ。こっちの心臓がもたん。」
「わかりました。さぁ、早く、早く行きましょう!」
「ちょ、おいコラ待て!そっちじゃないぞ!」
ミストは空腹だった。