第30話 悪魔の拠点?と勇者パーティー
ミノタウルス兄弟の討伐依頼を受けてから3日後、勇者パーティーはとある小さな村にある屋敷の前に来ていた。なんでも、空き家であるはずのその屋敷、少し前から人が住んでいるような気配がするらしい。そしてその時期は魔王の足取りがつかめなくなったのと同時期であった。
屋敷は木造二階建て、広さは街にある領主館なんかとほぼ同じ。小さな村にあるにしてはかなりの大きさだ。そして、
「ねぇ、アガン。」
「なんだミスト?」
「ただでさえ狭い村なのになんでこんなに周りに家がないの?他のとこは普通に家あったよね?」
「ああ、それか・・・」
そう、その屋敷の周囲にだけ家が一軒も無いのである。いっそ不気味なほどに。と、シャロンがミストの質問に答える。
「なんでも、以前この屋敷に住んでいた方がご存命の時、誰もいないはずの屋敷の窓や庭から覗いてくる目が度々出たそうなんです。それで、この屋敷は呪われているのでは、という噂がたったらしくて・・・。今はそのような事も無いようですが、噂は消えていないみたいですね。」
「へ、へぇ~」
幽霊屋敷だった。3人の顔が僅かに引きつる。夏樹にいたっては膝が笑っているようだ。流石は残念勇者!肝心な所でカッコつけれないのはお約束である!
だがしかし、全く怖がる様子の無いメンバーがいた。聞いた本人のミストだ。
少しばかり首を横に傾げているミスト。と、
「あ、そっか!人形屋敷だ。」
「「「「人形屋敷?」」」」
「けっこう前に来たから忘れてたけど、確かここの前の持ち主、人形偏愛性だったんだよね。」
「「「「え?」」」」
そう、人形偏愛性。ここの主、人形が好きすぎて屋敷中に溢れかえるほどのコレクションを持っていたのだ。
ちなみに何故ミストが知っていたかというと、うっかり忘れていたのだが、少し前のイベントクエストで【人形屋敷の亡霊】というものがあったからである。このイベント、家主が死んだ後の残留思念によりモンスター化した人形達を倒すという、中々ホラーな内容だった。
なにせ、血塗れのナイフやフォーク、果てはチェンソーを持って襲ってくるフランス人形。もし後ろを振り向けば彼女達の顔が真正面に出現する素敵なオマケ付き。しかも5回に1回は天井から逆さまになって降ってくる。
何処かの部屋に入れば人形×100がお出迎え。
え?宝箱?・・・開けたらフランス人形が無表情で抱きついてきますよ?
「こんな感じ。」
「結局幽霊屋敷じゃねぇかよチクショウ!!!」
「なんでこんな強烈な所忘れてたんだ?お前。」
ちなみにミスト、このシステムが一切発動しなかったため、ぬるすぎて忘れていたのである。
実は運営側、裏攻略法として【外見で人形同士を判断させる】ように設定していたのだ。つまり人形のような格好をしているミストは襲われなかった・・・むしろミストを見たプレイヤーがショックで気絶した。それをゲームに関する事を抜いて説明すると
「そうか!なら俺らも人形の格好していけば「女装する気か?勇者様。」・・・ああ、うん、無理だな。」
「ん?勇者女装すんの?だったら被ってる服いっぱいあるからそれから好きなやつ「いやいやいやいや、着ない!着ないからね!?言葉の綾だから!!」
慌てて拒否する夏樹。だが甘い。ミストの手にはひらひらピンクのロリータ服。瞳は既に獲物を見るものだ。そして
「問答無用!」
「ギャアァァァァァァ!!?助けてぇぇぇ!!!」
「面白そう!僕も混ぜろ!」
「えええええ!?」
こんな面白そうな事、見逃すはずが無いではないか。フレイアまでもが敵に回ったのを理解し、それならばとシャロンへ視線を向けるも・・・
「ごめんなさい勇者様・・・私では止められません。・・・ボソッ『ちょっと見てみたい気もしますし』」
「最後なんて言った!?」
味方はいなかった。と、巻き込まれない位置まで避難したアガンから声が上がる。
「お前ら、この【日記】届けなきゃならねぇの忘れんなよ?」
「「「はーい!」」」
「助けてぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
よく晴れた青空に、夏樹の悲鳴が響き渡った。




