第11話 宿とミストの素性
「おおー!宿だ!」
「宿がそんなに珍しいのか?どんなとこに住んでたんだよ本当。」
ギルドを後にしたミスト達は【妖精の隠れ家】という宿に来ていた。アガンが現在利用している宿であり、高ランク冒険者が泊まるだけあって、かなりグレードも高い。ついでに言うと料金も高い。本来なら、駆け出し冒険者でも泊まれる宿の中から1番良い所を教えて連れて行ってやるつもりだったアガンであるが、ミストがいきなり大金を手にした事で、どうせパーティーを組むなら同じ宿の方がいいだろう、と考え直したのである。
部屋をとるためにカウンターに向かう。と、
「あら、アガンさんたらまだその女の子捕まえたままだったんですか?確かに可愛い子だけど、犯罪者になっちゃいけませんよ。」
「冗談はよしてくれよキャシーさん。グレイスのやつに俺が変態紳士になったなんて言ったらしいが、他にも言ってないよな?」
「あはははは!あんな風に噂が立つような歩き方してるからですって。それで、そちらの方もうちに泊まるのでしょうか?ようこそ【妖精の隠れ家】へ。」
そう、あの、通りで《アガン変態紳士化疑惑》を立てていたらしいキャシーさんである!50代半ばくらいの、見た目上品な女性だった。子供とかお嬢ちゃんとか言わずに普通に客として扱うあたり、ミスト的には好評価だ。
「はい。取り敢えず1週間お願いします。食事は付きますか?」
「1人部屋で1週間でしたら、銀貨8枚頂きます。朝食と夕食は無料ですが、昼食は別途で料金が発生いたしますのでお気をつけください。お食事の際は食堂担当の者におっしゃって下さればすぐにお作りいたします。また、湯浴み用のお湯は銅貨1枚でご用意させていただきます。他に何かご質問はありませんでしょうか?」
「いえ、ありません。ご丁寧に有難うございます。」
「かしこまりました。こちらがお客様のお部屋の鍵です。205号室となっております。」
ミストは軽く感動した。何気にこの世界に来てから初めて丁寧な対応をされた気がする。ちなみにミストに湯浴み用のお湯は必要ない。【清潔化】という便利な魔法があるのだ。ユグドラシルは所々リアルなゲームだった。故に普通に剣を使えばモンスターの血で汚れ、頻繁にメンテナンスに出す必要性が出てくる使用になっており、その血をどうにかする為に治癒士なら魔法、その他のジョブならアイテムで【清潔化】が使えたのだ。
「ミストは二階か。俺は1階の105号室に居るから、何かあったら来るんだぞ。」
「わかった。明日はどうすんの?」
「そうだな・・・まずは朝ギルドに行って討伐系の依頼でも受けるか。ああ、言い忘れてたが、お前は別の遠い街から来た冒険者って事になってる。ぽっと出の初心者がいきなりランクCとか普通はねぇからな。できるだけ面倒な事が起きないようにってやつだ。」
「ふむ。」
なお、ミスト本人に絡んでくるような輩がいるとは、アガン自身思っていない。というか、こんな幼い子供にしか見えない相手に喧嘩をふっかける阿呆がいると信じたくない。ミストに言ったまた切れる危険性があるから言いはしないが・・・。
何はともあれ、こうして1日を終えたミストであった。