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05

「おおー! 結構人っているんだねー!」


 ビショップは寮から学校の道中、自分と同じように登校している周りの生徒をじろじろと見まわしている。一緒に登校している三人はそれを微笑ましそうに眺める。

 アデレードは微笑みながらも、目の前で子供のようにはしゃいでいるビショップを窘める。


「あんまりじろじろ見ない方がいいよ。大体が貴族だから絡まれたらめんどくさいし」


「貴族しか騎士にはなれないの?」


「貴族しかって訳じゃないけど、厳しいのが現状だ。1隊には貴族しかいないし、10隊にはパトロンがいない平民しかいない。1隊に入れるぐらいの実力があるのに、だ」


「そ、トビアスの言う通り。差別が激しいのよ」


「あと、10隊には女の子が多いよな」


 アデレードとトビアスの説明会にヨルクが参戦してくる。相当混じりたかったのだろう、彼女らが説明を始めたころからうずうずしていた。


「ほんと、男女差別なんて何世代前よって話」


 アデレードが肩を竦めながら返す。


「男女差別まであるの?」


「身分差別よりもひどくはないが確かにあるな。だが、1隊にも女性は存在しているぞ」


「あーあいつね。私無理」


 アデレードが珍しく苦い顔をする。当然、無駄に知りたがりなビショップは彼女に突っ込む。


「誰?」


「王立騎士団学校の女王」


「……へ?」


「ん、アデレードの言った通りだぜ。剣技も頭も美貌も兼ね備えている優等生。ついでに公爵家の令嬢さんだ。だからめっちゃ気が強いな。あとビンタも強い」


「お前一体なにしたんだよ」


「口説こうとした」


「命知らずもここまでくると尊敬するわね」


 四人が話しながら登校しているとすぐに学校に着く。元々、寮から学校までは十分ぐらいしかかからないが、楽しい会話をしながらだとほんの一瞬だ。


 

 学校に入り廊下を歩く四人。ビショップは歩きながら近くにある教室の中を覗き見ている。


「たくさんだね!」


「生徒についてか? ここは基本一クラスに四十人で十クラスあるから四百人。いや、俺達11隊を含めて四百と四人の生徒がいることになっているからな」


「学校をやめる者も辞めさせられる者もいないもんね」


「なんで?」


「知らなーい」


 この学校は全部で三階建てとなっている。一階には7隊~10隊までのクラス。二階には3隊~6隊までのクラス。そして三階には1隊と2隊のクラスがある。

 ビショップ達が所属しているクラスは1隊のクラスなので、階段を上らなければならない。


 上るたびに人が少なくなっていく階段を上りきると手前には2隊のクラス、奧に1隊のクラスがある。2隊のクラスを横切ろうとするビショップは、2隊のクラスに所属している生徒から睨まれていることに気付く。


「なんかすごい睨まれてない?」


「あれは嫉妬よ。1隊のクラスに所属してるってだけでこんな感じよ」


「へ~。嫉妬なんて初めて」


 ビショップは興味無さげに目を細めている。他三人は睨んでいる者を視界にすら収めていない。


「他のクラスからは1隊のクラスってことで嫉妬されて、1隊のクラスからは11隊ってことで嫌がらせを受けるのよ。これくらい慣れときなさい」


「ん」


 1隊のクラスに入るとアデレードの言う通り、敵意の視線にさらされるビショップ。もちろん、他の三人にもそれは向けられているが割合は圧倒的にビショップが多い。理由? 決まっている。服装が浮きまくっているからだ。


 教室の中は椅子と机をワンセットとして、縦横七×七で四十九セット設置してある。

 まばらに埋まっている席からは、さっきの2隊よりも激しい負が混じった視線を浴びる。それを気にした様子がない四人はさっさと席を探す。


「席って決まっているの?」


「いや、決まってねえよ」


「好きな席に座っていいよって事。まあ、すぐに帰る私達には関係ないでしょ」


 ヨルクとアデレードの言葉を受けて、そそくさと席に座るビショップ。その席に面している席にヨルクとアデレードとトビアスも続けて座る。

 

 四人で会話に興じていると、まばらだった席の大体が埋まる。大体の席が埋まったと同時に先生が教室の前のドアから入ってくる。


「はい。まあ、大体はいるようだな。僥倖僥倖」


(適当そうな先生だね)

 実際その通りだ。


「あ、今日は新しい生徒が入っている。ビショップだ。立ちたまえ」


 いきなりのことに驚くビショップだったが、すぐに平静を取り戻し席を立つ。立つとより一層、敵対の視線が突き刺さる。もし敵対の視線が物理的になっていた場合、ビショップは穴ぼこになっていることだろう。


「お前がビショップか。外套を脱がないのか?」


「脱ぎませんし、脱がされるつもりもありません」


「ま、別にいいや。皆よくしてやってくれ。はい拍手」


 ビショップに対して疎な拍手が贈られる。拍手しているのがヨルクとアデレードとトビアスだけなのだからしょうがないと言える。


「はい、とりあえずはこれで終わり。最初の授業に遅れるなよ」


 それだけを言うと、先生はそそくさと教室から退散していく。

 そしてヨルク達三人も席を立って教室から出ようとしている。それを見たビショップは慌てて追いかけるように教室を出ようとする。


 ビショップの進行方向にある席。その席に座っている生徒がビショップが通り過ぎる直前に足を通路に挿し入れる。それをビショップは軽く眇める。

 歩みを緩めることなく、ビショップは薄ら笑いを浮かべてその足を思いっきり踏みつける。


「痛ってえ!!」


「ああ、ごめん。汚かったからゴミと間違えちゃったよ」


 それだけを言い残すと、ビショップは走って教室をあとにする。ビショップが教室を出たと同時に教室内から怒号が溢れる。

 ビショップが出てくるのを待っていた三人は別々の反応を示していた。ヨルクはニマニマと、アデレードは笑顔で、トビアスは呆れたような苦笑いを浮かべていた。


「お待たせしました」


「とりあえず走るぞ。はぐれても知らないからな」


 苦笑いでトビアスが言うと四人は走り出す。後ろから大人数の足音と罵声が聞こえてくるが、ビショップは振り向くこともなく走り続ける。ビショップの前を走っている三人も同様だ。

 階段を五段飛ばしで駆け下りて、外に出るドアを開ける時間ももったいないと行動で示すように近くの開いている窓から外に出る。

 ここまですると追いかけてくる者もいなくなっている。


「あれだけ走ったのに息切れしてないのか。優秀だな」


 十秒ほどで息を整えたトビアスはビショップを見て心の底から呟く。


「鍛えてますので」


「はあ……はあ……。そうは見えないのにね。はぁ……」


 いまだ肩で息をしているアデレードは息苦しそうに絶え絶えで話す。


「アデレードは体力が無さすぎなんだよな」


 この場で息をまったく切らしていないのはビショップとヨルクだけだ。スタミナがあるビショップにアデレードは純粋な尊敬を含ませる。


「お前はもっと体力つけたらどうだ?」


「私の咎眼には関係ないからいいの!! 確かにあったほうが便利だけど」


 アデレードの発言にビショップは少し引っかかりを覚える。


「もしかして、咎眼って全員把握してる感じ?」


「そうだな。まあ、咎眼のお披露目会は今日の夜にしようか」


「なんで夜?」


「今日の二時になれば分かる」


 トビアスはそれだけを言うと、「それじゃ」と言いどこかへ去っていく。

 「じゃあ、2時にね」とトビアスに続き、アデレードは自分の部屋の方向に帰っていく。

 

 残ったヨルクはビショップに優しく話しかける。


「じゃあ、一緒に朝飯でも食いに——」


「あ、お先失礼しますね~」


 反射のような素早さで返答をして、背を向け部屋に帰ろうとするビショップ。


「奢るよ?」


「しょうがないなぁ、今回だけですよ」


 これもまた反射のような速さで返答を撤回する。ビショップの表情は発言に反して中々に嬉しそうにしている。


「ありがとう。……あれ? なんかおかしくね?」


 疑問を持ったヨルクだったが、ビショップの「そんなことないよ」という言葉でその疑問はバッサリと切り捨てられる。


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