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04

山は山を必要としない。しかし、人は人を必要とする。


               スペインのことわざ

「おーい! ビショップ!? いるんだろ?」


 時間は5時。少し早いかもしれないが、今回は他でもないビショップのために話し合いをするので、ヨルクが起こしに来たのだ。

 ドンドンとドアを叩くが反応は無し。鍵も掛かっているためヨルクはどうしようもない。だが、それをどうにかしてしまうのが11隊であり咎眼持ちだ。


 ヨルクはフゥーと息を深く吐く。吐き終わった瞬間、ヨルクの目が蒼に輝く。輝くと同時にヨルクの腕が影に取り込まれていく。そのままゆっくりと取り込まれていき、右腕が全て影になる。ヨルクは右腕をドアの隙間に入れて、指だけを実体化させ内側から鍵を外す。

 これが彼の咎眼。身体の一部、もしくは全身を影にできる。影になると物体に干渉できず、されることもない。また、厚さも影になるので今回のように隙間に入ることもできる。


 ガチャリとドアを開けたヨルクの目に入ったのは、あられもない姿でベットで寝ている紫髪で眼帯の少女だった。


「あいつ初日から女連れ込んだのかよ!?」


 予想外のことに大声を出してしまったヨルク。その声で目覚めが悪すぎるはずのアリアが目を覚ます。普段から起こされることのなかったアリアはヨルクの大声に驚き、眠気がぶっ飛ぶ。


 ——なんでヨルクが!? どうする私!? ……よし消すか。(記憶を)


 眠たさなど微塵も感じていないアリアは、ヨルクが昨日、地雷を踏み抜いたときと同じように拳を振り抜く。当然のことながら予測していないヨルクは壁に一直線に飛んでいき激突。気絶する。女の子に気絶させられたのだから彼の定義で言えばご褒美なのだろう。


「ふう、素晴らしい朝」


 窓の外を見て呟いたアリアは、汗をかいていない額を腕で拭ってすぐに朝の準備にかかる。まあ、フードを被ってボタンを閉めるだけであるが。








「起きて」


 かなり低くなった声でヨルクを起こしながら頬をぺちぺちと叩くビショップ。ぺちぺちからペしペし。ぺしぺしからバチンバチンに移ったところでようやくヨルクは起きる。


「あれ? 俺は何やってたんだっけ? あとなんか頬が痛いんだけど?」


「知らないよ。廊下で倒れてたんだから」


 「あれ~」と頭を傾けるヨルク。うんうんと唸って何も思い出せないことを理解したヨルクはさっさと本題を切り出す。


「あ、ビショップ。隊長がお前に説明することがあるからから集まれだって」


「ん、分かった」


 ヨルクはビショップを引っ張って11隊の隊室へ連れていく。

 朝早いこともあり、廊下を歩いている者はほとんどいない。この時間で廊下を歩いている者は朝練をしにいく真面目な人種。ビショップとは真逆の人種だ。見習ってほしいものである。








 隊室に辿り着いたビショップとヨルク。ビショップは初めて隊室に入る。緊張はしていないのにもかかわらず、ビショップの少し動きが鈍いのはここにいる者達がただ者ではないから。


 隊室のドアを抜けるとすぐに広間に出る。広間の右側の扉から先は通路となっており、11隊の騎士達の部屋が並んでいる。その部屋は学校を卒業した11隊の者達が住む部屋となっている。しかし、11隊の騎士自体が少ないためほとんどが空き部屋となっている。

 広間の左側の扉は会議室となっている。11隊にくる依頼はそのほとんどが、極秘依頼なのにそんなところに会議室を設けるのはどうかと思うが、そこが会議室となっている。ちなみに、会議中に聞き耳を立てた他の隊の騎士は三人中三人が行方不明となっている。その行方不明事件の犯人に繋がる証拠は『確認』されていない。

 入り口から入ってまっすぐ行くと執務室に着く。この問題児だらけの11隊のボスの仕事部屋ということになっている。


 ドアを抜けるヨルクに続くビショップ。ヨルクはそのまま直進し、中央のドアを開ける。


「新人を連れてきました」 

  

 普段からおちゃらけているヨルクからは考えられない、緊張が混じった声で報告をする。ビショップからはヨルクが邪魔でこの部屋の主が見えていない。


「結構。ヨルクは下がっていいよ」

  

 ヨルクは「はっ」と言いながら敬礼をすると、踵を返して戻っていく。ヨルクはビショップとすれ違う際に小さな声で「あんま失礼なことすんなよ」と忠告を入れる。そこに限って言えば、いい先輩である。


「それじゃあ、ビショップだったか? 入ってくれ」


「ん」


 それだけを言うとビショップは執務室に入っていく。早速忠告を無視だ。

 執務室の中は、良く言えばシンプル。悪く言えば殺風景だ。ドアから少し離れたところに執務机。その後ろの壁には長い刀が立て掛けられている。それだけである。壁も木板のまま、床も当然。

 執務机のセットの椅子に座っている彼がここのボスであり、常識人であり、11隊の良心のイザークだ。

 適度に切られた髪と、しっかりと剃られた髭からは彼特有の爽やかさが滲み出ている。そして彼は宗教に傾倒している。が別段、珍しい事ではない。


「君が新入りのビショップか。私はイザークだ。よろしく頼む」


「ご存知の通り、ビショップです。よろしくです」


 ビショップが手をイザークに伸ばす。イザークは一瞬目を見開いて驚くが、笑みを浮かべて握手に応じる。

 握手すらも二人にとっては判断材料だ。ビショップは手の硬さ具合から相当のトレーニングを積んだ者。さらに見た目は細いことから、無駄を剃り落とし必要な筋肉だけを鍛えている強者だと感じ取る。

 イザークは想像以上に手が柔らかかったことから、あまりトレーニングをしない者。もしくは咎眼に合わせた身体作りをしているのかも知れない、と考察した。

 

「それで、何か話すことがあって私を呼んだのでしょう?」


 ビショップはイザークを急かす。


「できるだけ手短に話すこととしよう。初日は学校に必ず行かなければならないのだが知っていたか?」


「いいえ、まったく」


「ならばそこから話そう。この学校は隊と同じ番号のクラスに振り分けられている。11隊は特例として、1隊と同じクラスということになる。ここまでで質問は?」


「ん~。無いですかね」


「なら続けるぞ。君が11隊ということはすぐにバレるだろう。1隊に居ないのに1隊のクラスにいるのだからな。だからあいさつだけして帰ってもいい。そのあと二時に必ずこの隊室に集合だ」


「分かりました。以上で?」


「そうだな……。細かいところで困るかもしれないが、ヨルクとアデレードとトビアスは君と同期ということになる。彼らと一緒に行動すればいい。初日だ、いろいろ大変かも知れないが頑張り給えよ」


「了解です!」


 そう言うとビショップは執務室を後にする。執務室に残されたイザークは何故か分からない不安な表情を浮かべて「大丈夫か……?」と独り言を零す。がすぐにその不安を意識内から勢いよく投げ捨てると、執務机に突っ伏して眠り始める。彼もビショップと同じく朝は弱いのだが、かわいい新入りのために頑張ったのだ。


 一方ビショップはゆっくりとした足取りで自分の部屋に戻っていた。部屋に戻る途中の階段でふと、窓の外を見るとビショップの一回りも二回りも大きい男達の素振りが視界に入る。がそれを興味なさげに一瞥したビショップは足の歩みを速める。


「あれに意味を持たせたくないものだね」


 ビショップの零した独り言に答えてくれる者はいなかった。




 部屋に戻ったビショップが適当にくつろいでいると、学校に行く時間になる。それをビショップが確認したのと時を同じくしてドアがコンコンと叩かれる。

 先ほどと違って起きているビショップはすぐにドアに向かう。ビショップがドアを開けるとアデレードとトビアスがドアから少し離れたところに立っていた。


「今日は登校しないといけないことは分かってるよね?」


「イザークから聞いた」


「そう、なら大丈夫ね。別段持っていくものなんてないから」


 ビショップがイザークを呼び捨てにしていることに苦笑いをするアデレードだったが、後ろにいるトビアスから小突かれてキュッと気を締める。


「コホン——。めっ!! イザークじゃなくて隊長でしょ!!」


「……『めっ!』? 『めっ!』ってなんだ!? 私は子供か!!」


「子供だろう?」


「私はれっきとした十三歳だ!!」


「嘘! 精々十歳よその身長は!」


「なああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」


 アデレードとビショップの大声が廊下に響く。幸運なことにここは三階。11隊しか使っていないため、苦情がくることはない。


「うるさいんだけど、何があってんの? お祭り?」


 ビショップの隣の部屋からヨルクが耳を押さえながら出てくる。若干寝ぼけているからか、普段の元気の良さが全面に押し出されていない。この方が好感持てるのに、とトビアスは思う。


「ああ、ビショップと一緒に学校に行こうと思っていたら、二人が口喧嘩してこのざまだ」


「え? ビショップを誘ったのに俺を誘わなかったの? 俺ハブなの?」


 トビアスはヨルクの言葉を無視して問題の二人を見る。すでにビショップとアデレードは互いに手を取り合って笑いあっている。

 トビアスは意味が無い事だと判断して考えるのを止めた。


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