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Broken Time  作者: うぃざーど。
第3章 ボーイ・ミーツ・ガール
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3-40. いるべき場所





「パトリック、さん………」





彼らは、南の町サウザンから帰宅したパトリックより、

現在のウェールズ王国の情報を得た。

王国の象徴たる王城と城下町、またその南部周囲を制圧され、国王が亡くなったことが

情報として知られている。

国王が斃れたという情報は、そう時間が掛かることなく各地に拡がるだろう。

王国に限った話では無く、あらゆる自治領地にその情報が流れて行くはずだ。

これからはウェールズの力が衰退し、逆にマホトラスの勢力が拡大していく。

誰もがそう考えることだろう。

マホトラスの連中が各地を掌握して政治権力を振りかざす前に、せめて占領の中心地である王城は取り返さなくてはならない。

時間が遅くなれば遅くなるほど、自分たちにとって不利な状況となる。

だが、今まで散々負け続きだった自分たちが、いかが犠牲を払った相手とは言え勝つことが出来るのだろうか。

その疑問や不安は拭い切れない。

やらなければならないと分かっていても、何が最善で何が最悪なのか、その見極めは難しい。

そんな時。





「アトリくん一人でどうこうなるものでもないが、君の力が必要とされているのは事実だ」




「………」




「その情報屋というのも、中々どうして細かなところまで知っているようで、アトリくんの名前を知っていた。面識はないと思うが……」





曰く。

兵士たちの間で呟かれることの一つに、強い味方が周りからいなくなってしまった、とのこと。

その中にアトリが含まれていると言うのだ。

彼は死地の護り人としての役目をこなしていた経歴があり、その存在を知る者も兵士の中にはいる。

隠れてそのようなことをしていた訳では無いし、味方の兵士たちからもおかしな存在か、あるいは必死に役目を果たそうとする努力家か、などという評価を受けていた。

決してその役回りが理解されることは無かったが、彼は誰よりも戦闘経験がある。

言ってしまえば、直轄地の防衛部隊の隊長や、兵士たちを統率する上士よりも経験していることもある。

そのため、戦闘になれば周りを引っ張るだけの力も技量も、器量もある。

もし彼が生きているのなら、彼の力が絶対的に必要である。

パトリックは、情報屋と会話をするときは、アトリと面識があることを伏せてその話を聞いていた。

その中に、幾人かの名前が挙がったという。





「帰って来て、すぐに感じた。俺がここから出発する時と今とでは、中身が変わったようにも見える。まるで今まで見えていなかった、黒ずんだものが洗われたようなものだ」






パトリックには分かっていた。

無論、彼が出発する前に比べ、遥かに、遥かに魔術の才を伸ばしていることも。

魔術師は魔術師を感知できることがある。

パトリックにはその能力が当然身に着いていたし、今は辺境であるが故に魔術師であることを

ここで隠す必要は無い。

相手の状態を感じやすい状態にある。

一番の確認方法は接触することなのだろうが、それをしなくても伝わるものもある。

魔力の貯蔵量は格段に増え、その質も密度濃く高まっている。

そんなアトリの存在を今日ここで見た時、パトリックの迷いはもう無かった。

この提案は、彼がサウザンの町を出る時から既に決めていたことではあった。

彼がこの情報を聞きつければ、ここを離れる決断を下すことだろう。

ならば話すのは心苦しいが、彼にありのままを伝え、その決断に至る過程を援護しようと、

パトリックは考えていた。





「そしてフォルテ、君もな」




「えっ………」




「………随分と、明るくなったじゃないか」





何があったのかは分からないが、色々と感じることが出来るよ。

そう彼女に言う男の顔は、穏やかで安らかで、自分の子供を見るようなもの。

何より本人が安心した、というような素顔を彼女に見せていた。

彼が今まで見ることのできなかった一面を、今日帰って来て何度も見ることが出来た。

もしこのまま変わることがないのだとしたら、これからどうすれば良いのだろうか。

あの雨の日に彼女を助け、ここに連れて来て、彼女の為に色々と時間を費やそうと決意した。

だが、この身体では限界がある。

そんなことより、彼女が知らない色々なことを、教えてあげたい。

その過程で、彼女が今まで見せて来なかった一面、隠し続けてきたものが打ち明けられれば良いと、

思っていた。

いまだ知らないものもあるし、知って聞く側が辛い経験もした。

しかし、これならば安心できる。






「………パトリック、お願いがあります。お聞き苦しいかもしれませんが……私も、アトリと共に王国領へ行きたいのです。今まで私には将来に関する望みが無かった。それは、私自身が望みのある、欲ある自分を偽りだと押し付けて、考えることから逃げていた。ですが、アトリとの話の中で……いや、アトリとの出会いの中で、気付いたものがあります。誰かの為になるのは良い。けれど、その中に自分という存在も忘れてはならない。アトリの生き方を見て、私自身が今まで自分を蚊帳の外に置いていたことが、よく分かりました。これからは……まだ分からない未来の話ですが、アトリを支えて行きたい。アトリが国民を、人々を護ることを理想とするのなら、私はアトリを支えることで、アトリを成り立たせていきたい。それが私の望みです」






全く、人が恥ずかしくなるようなことを堂々と言う人だ。

素直というか何と言うか……。




横で聞いていたアトリは、顔に熱が持つのを感じながら、それでも平静でパトリックを見る。

一方のアトリックは、笑顔だった。

親が成長した子供を見て嬉しく、喜ぶ思う様。

自分はあまりそういうものを経験して来なかった身だが、彼にもそういう顔は分かる。

そして何より、その笑顔がすべてだ。

その片目には優し気な雫が少しばかり浮かんでいた。





「………そう言うと、思っていたよ。戻ってきてからの二人の雰囲気も良かったからな」





と、パトリックが言うと、思わず同じタイミングでアトリとフォルテが顔を見合う。

そしてふと何かに気付くような反応を見せ、また同時に顔を逸らす。

フォルテは少しばかり顔を赤くしたが、それさえもパトリックからは嬉しく思えていた。






「……それがフォルテの望みなら、それを信じて進みなさい。親としては、そう決めた子供を信じて見送るだけさ」








………。






これは、転機だ。

そう思ったのは、あの晩アトリくんと話した時だ。

彼女の話をして、自分ことを打ち明ける人かどうか、と色々尋ねた時のこと。



アトリくんは、誰しも語りたくない一つ二つの出来事がある、と俺に伝えようとしていた。

言葉はそんなものではなかった気がするが、そう捉えて間違っているということは無かっただろう。

人間誰もが自分を隠すようなことばかりではない。

だが、それはもしかしたらキッカケによって、変わり得るものなのかもしれない、と。




アトリくんこそが、キッカケ。

彼女の心の内を動かし、揺らがせる、良きキッカケになり得る。

そう考えた。

彼が彼女の過去を知ることになれば、必ず思うことがある。

あのような結末を自らの手で起こし、ここまでやってきたフォルテを、

放っておくはずがない。

彼女もそれで、自分の異質さに気付くことになれば、そこから彼女が変われる機会を

作り出すことが出来るかもしれない。



俺には、出来なかったこと。

ついに自らの手で彼女の闇を解き放てなかった。

だが、そんなことはいい。

代わりと言っても、確かにアトリくんが彼女の心の内を見て、伝えたことがあるだろう。

二人の顔、やり取り、雰囲気や空気を見て感じれば、分かる。

俺がいないこの期間に、二人はかつて想像もしなかったくらいに、接近し、お互いを認め合っている。

お互いがお互いの異質さに気付き、それを変えていけるだけの機会をお互いに作り出せている。

フォルテに、自らの望みが出来たというのも、その成長の証だ。




………ああ、やっぱり俺の見る目は、間違っていなかった。

これを逃す手は無い。

それが彼女の為になるのなら、彼にもそのキッカケの台座になってもらいたい。

それどころか、彼女は彼の為に、彼は彼女の為に、お互いがお互いの為に支え合おうとしている。

これ以上のことはない。

だとしたら、もう俺から言えることは何もない。





アトリくんが経験してきたこと、またこれから経験することは、

心に傷をつける苦しいものばかりだろう。

だが、二人ならきっと乗り越えられる。

一人で成し得ないものも、二人ならば近づける。

親としては、後はその時が来るのを、遠くからでも応援するくらいだな………。






………。







自分の将来を決める可能性を十分に秘めたその決断は、

フォルテからすると意外にもテンポよくパトリックは受け入れた。

パトリックとしては、今までフォルテのことで多くの苦労を背負ってきた。

目の前にいる彼女が、突然現れた彼と出会って、変われるキッカケを掴んでくれた。

本来あるはずの自分と、ある時失われてしまった自分。

この境目に聳え立つ巨大な壁を打ち破り、どちらの自分の姿も知る機会を持つことが出来る。

そのためには、この家は世間が狭すぎる。

もっと多くのものを見て、学んで、感じていくためには、外の世界を知る必要がある。

アトリと同じ考えを同様にパトリックも持ち合わせていた。

彼女もまた、いつまでもここにいるべき存在ではない。

彼と共に歩むのなら、まずはその道の上であらゆる物事をその目で見ると良いだろう、と。



王国の今後には、そう時間的な猶予は無い。

マホトラスとウェールズ両国の戦いで、お互いが疲弊して戦力も大幅に削られたと言う。

拡充するのは難しいだろうし、状況によっては備えも上手く回らない可能性がある。

マホトラスもその状況に似ているものがあるだろうが、いずれにしてもここに留まっている訳にもいかない。

もし、この状況を打開できるものがあるとすれば―――――――――。





「………」






まるで、心の内から語り掛けてくるようだ。

これほど目に見えないものに縋り頼ろうとするのも、おかしなものか。






「パトリックさん。私たちは、明後日の朝にここを離れます。もうあまり時間も無いようだ、一時の遅れが取り返しのつかないことになる。そうなる前に、まずは彼らと合流します」



「………」



「フォルテ、のことは、俺がしっかり責任を持ちます。まだ知らない世の中が多い彼女が、良き影響もあることを忘れないように。無論、自分のことも」





アトリの短くも強く伝えられたその決心は、

パトリックの心の内を強く打ち付けるように、その刺激に深く頷いた。

あくまで彼が引っ張りつつも、お互いを支え合うことに強い意味を感じているアトリ。

その心は、この男にもきちんと伝わっている。



アトリがその覚悟を決め、

日時を定めた。

明後日の朝8時、それが運命の時。

彼からすれば、違和感がありながらも新鮮味を感じさせ、多くのことを教わった日常。

彼女からすれば、自らの居場所をここに作ってくれた、大切な人との別れ。

次にいつ会えるかは分からない。

だが、願わくばそれが無事な姿であることを、お互い切に願う。



彼女は食事が終わり風呂を済ませると、

少しばかりアトリの鍛錬の復習を手伝い、彼は彼女を家まで送る。





「では、また明日。準備等で忙しくなるとは思うが……」




「はい。まだ一日ありますから、アトリもあまり根を詰めないように。おやすみなさい」




「ああ。おやすみ、フォルテ」





そう言い彼は笑顔を彼女に向けると、

彼女もまた笑顔で返してくれた。

扉の閉まる音が、周りには響かなかったが彼の心の中にはよく響いて聞こえるようだった。

空一面を覆うかのような、満天の星空。

その中で今日のお別れを伝えると、少しばかり妙な気持ちになる。

そうなりながらも、彼は今来た道を元へ戻っていく。

まるで星々の大海を歩くかのような、そんな光景だった。




彼は頭の中で行先について考え続けていた。

無論、目的地はサウザンから東の地にあるカークスという町に決まっている。

そこに王国軍や中枢が集まって、国民で溢れかえっていると言うのなら、そこへ行き戦いを終わらせるための準備をしなくてはならない。

だが、考えても見れば、王城とその周囲、つまりここもマホトラスの占領下におかれている。

その範囲が更に南に続いているようであれば、自分たちが途中で立ち寄る町や村も、マホトラスに占領されている可能性が充分にあるだろう。

直線的に行くことも出来なくはないが、短縮にはなっても危険性は大きく高まる。

強行すべきか、それとも回り道をすべきか。

彼が自信を持っている訳では無いが、この時点での彼の力量は、以前のものと比べ物にならないほどになっている。

フォルテとの剣術鍛錬で強化したのもあるし、魔術鍛錬で新たな力を得たのも理由としてある。

それでも彼は慢心すること無く、倒すべき敵を目の前にした時、全力で立ち向かうことを考えていた。

遠回りをすれば、時間的余裕が無くなる一方。

だがもっとも近い道を辿ると、この本家からすぐ東に抜けて王国領の中に入ることになる。

さて、どうしたものか。




彼は本家に戻ると、

月明かりを頼りに、借りている自室の前の縁側に地図を広げてそれを眺めていた。

考えることは沢山あるし、明後日と決めた日程を変えるつもりもなかった。

いずれにせよ時間が無い中で、時間をかけずに済む方法を取りたかった。

だがそれには大きな危険を伴う可能性がある。

周囲の状況が分からない以上、どこまでマホトラスが南部に侵攻しているかが分からなかったから。

彼は何度も何度も、自分たちが通るであろう道と町を線でつなぎ合わせ、指で這う。

ここを通れば安全か、あるいはマホトラスと接触するか。

こちらにすれば遠回りは出来るがその分時間はかかる。

この道を行けば近道にはなるが、幾つもの町を転々とすることになる。

町の外側を通るのでは、道なき道を行くことになり不便が生じる。

小さい町なら、マホトラスの駐留部隊もいないのではないだろうか。

などと、あらゆる可能性を考え地図を眺めていた。



そんな時。





「やあ。こんな夜更けに予習かい」



「あっ」





その男、パトリックは現れる。






「なるほど。明後日行くとは決めたが行く道に迷っている訳だ」





正直なところ、それで間違いない。

彼は素直にその言葉に頷いた。

カークスという町まで行くのに、どの道を使っても最低5日は掛かるというのが、

彼の予想。

そこから前倒しになることはなく、後ろに更に5日以上伸びる道を行くことも考えられる。

遅すぎず、かつ危険すぎず。

ちょうど良い道を地図で見て模索しようとしているのだが、これが中々見つからない。





「確かに、二人だけで最短ルートを通るのは難しいだろうな。かといって、カークスまでの道のりで仲間を見つけられるとも思えない」




「………はい」




「ただ、お前さんたちはほら、ポーラタウンでの一件があっただろう?」






忘れていた訳では無いが、彼は思い出す。

あの時、フォルテが魔術で剣の投影品を生み出し、それが武器になり何倍もの敵の数を排除したことを。

彼女の力量はあの時、鍛錬をしている時以上に分かるものがあった。

あれほどの力を持っていれば、普通の兵士を相手に苦戦することは無い。

それこそ魔術師クラス、あの槍兵や黒剣士などといった相手が目の前に現れれば、彼女も苦戦する可能性がある。

幾人かの対象がこれから通る小さな町や道にいるとは考え辛い。

それがパトリックの考えだ。





「マホトラスにも魔術師は何人もいるんだろうが、王国領の西側はここと同じように栄えた町が殆どない。奴らは城から南、あるいは南東へ軍を進める可能性の方が充分にあり得るだろうさ」




「……確かに。では奴らは何故、ポーラタウンに……?」




「ハッキリとしたことは言えないが、この一帯もマホトラスの占領下と考えるべきだろう。あの町のことは恐らく上層部に報告されている。流れ者があの町を救い民を逃がした、という報告が上にはいっているはずだ。10人程度の兵士が一つの町を統括することなど、多寡が知れてるからな」





結局はマホトラスも戦争で大きな痛手を負っている。

領土拡大に燃えるのは分かるが、傷をそのままに各地に侵攻しても、今度は逆撃を受ける可能性もあるだろう。

それを回避するのは難しい。

だから恐らく、この辺りまでマホトラスの手が及んでいるとすれば、それは物資を確保するため。

自分たちの生活を維持、もしくは栄えさせるために必要な物資を手に入れるためだろう。





「補給物資……なるほど、確かにその線はありますね。ポーラタウンは小さな町だが何もない訳では無い。畑もありましたし……」



「そう。逆に、それを求めているということは、奴らが領地と定める支配下に兵士を送り込んでいる可能性は充分にある」



「つまり、どの道を行っても兵士と遭遇する可能性は高い、ということですね」





それがパトリックの言いたかったことの、大部分だ。

ポーラタウンという土地柄や位置関係で、マホトラスにはあまり価値を見出さないところにも、少人数ながら兵士を送り込んできた。

それは町にある補給物資を奪い取り、町を干上がらせてついでに領地に出来れば良いという程度のものなのだろう。

そのために町を支配下に置く、ということも赦されざる行為だ。

同様に、王国領の西側から大陸西側、複雑な地形と高低差を持つ海岸線沿いには、幾つもの集落や小さな町が存在している。

小さな町や村と言っても、全く物資が無い訳では無い。

マホトラスが占領下に置いている周囲にある町は、恐らく兵士たちが送り込まれていることだろう。

だから結局、迂回しようが近道を行こうが、マホトラスの兵士たちとは遭遇する。





「まぁ、だからといって俺は、近道で良いとは言わない。だが出来るだけ最短ルートに近い方法で行くべきだ。だとすると……」





すると、言葉の後にパトリックも指を地図に触れて、道をなぞっていく。

彼の指が示す先には、小さな道ばかり。更には途中で道が無くなった大地の上をも指で這わせているが、それでも確実にアトリの考えていた迂回路よりは早く目的地に辿り着くことが出来る。

更には一晩過ごすに適した町や自然の只中、というのも提案してくれた。

野宿は必須、町で食料を手に入れるということも出来ればしておきたい。

だが、町を通る以上マホトラス軍との接触を考えなければならない。

パトリックは初めから接触することを前提に、出来るだけ駐留部隊の規模が居ない小さな町を選定して、それを辿る道を示してくれた。




「っと、こんな感じだな」



「……なるほど」



「お前さんたちは既に戦闘を経験している。それに、アトリくんが戦闘を引っ張る時も出てくるだろう?」





ポーラタウンの時は、まだ彼の体調が万全では無かった。

魔術の鍛錬も必死にこなしていた時期で、彼の力が十二分に発揮されたなどということは無い。

だが今は違う。

彼は調子を戻すどころか、以前よりも更に力をつけて状態を整えている。

その状態ならばフォルテも足並みを揃えられるし、たとえ相手が10人であろうとも向こうに策が無ければ打ち崩すことは出来ないだろう、とパトリックは言う。





「誰にも見られないのなら、その力を使っても良い。要は相手にこの存在を知られなければいいんだからな」



「………パトリックさん、色々とお詳しいのですね」




「?………っと、俺も口数が多かったかな」





だが、そのおかげで道も決められる、


と彼は心の中で思いながら、パトリックにそう呟いた。

彼が只者ではないと言うことは、フォルテから聞いている。

それに、瀕死のフォルテを石で救ったのは彼なのだから、アトリは彼が魔術師であることも知っているし、珍しい治癒魔術の保持者だったことも分かっている。

それを考えれば、魔術師としての実力も相当あるに違いない。

彼がそれだけ詳しいのも、彼がそういった経験を積んでいるか、あるいはそういった情報に長けているか、だろう。




アトリは思い切って、彼に聞いてみる。





「パトリックさん。貴方はかつて、王国領でどのようなことをしていたのですか?」




フォルテとの出会いは分かった。

彼が彼女を助けたことにより、彼も彼女もここでの生活が始まった。

それは恐らく、彼にとっても大きな転機だったことだろう。

だが、パトリックはある時話していた。

かつて自分もウェールズで暮らしていた。色々ありながらも、楽しくやっていたものだ、と。

この男の人となりであれば、そういった楽しみ方というか、日常の中に刺激的なものを求めていたことも考えられる。

しかし、そればかりでは無い気がする。

彼の生まれや育ちがどうかは分からないが、ここに来る前の経緯は気になる。

アトリがそう質問をすると、パトリックはどことなく懐かしいような表情を浮かべ――――――――。





「俺も、かつては国に仕える男だったのさ?」





と、一言笑顔で彼に伝える。






………。





3-40. いるべき場所






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