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Broken Time  作者: うぃざーど。
第3章 ボーイ・ミーツ・ガール
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3-31. ただ独りの歩み




昨日は鍛錬を軽めに終わらせたが、この日は一昨日までと同じように鍛錬をすることになった。

彼が彼女に提案したように、鍛錬というのも毎日継続することも大事だが、いつも厳しいものをする必要はない。

かつて、彼の師のような存在であったクロエという女性は、自分の身の丈に合わない鍛え方は身体を壊すことになる、と言ったことがある。

鍛錬も無論該当し、特に魔術行使ともなれば、身体にかかる負担は通常よりも大きくなる。

普通の人には手に入れられない効力がある、それが魔力なのだから、それを操る術者、魔術師の負担が大きいのも当然と言えるだろう。

彼が魔術鍛錬中に怪我をして以来、教える側の彼女も魔術鍛錬に関してはそれ相応の注意を払って指導することにしている。

彼の技量が優れていて、初手の段階としては桁外れの能力を有する術者だったとしても、基本を疎かにしてはいけない。

彼が成長するのは教える立場としては喜ばしいことだが、間違った認識を植え付ける訳にはいかない。

かつて、間違った魔術を教えられ、身体を蝕まれたことのある経験者としては、尚更強く思うことだった。




今の彼は、この時点でフォルテの考えを凌駕するほどの才を見せつけている。





「はっ!!」




「っ………!!」





彼が今取り組んでいるのは、彼女の魔力によって生み出された剣を借りて、その剣をアトリの魔術で強化すること。

他人の魔力が介入している物に対し、更に他人が魔力干渉を行うことは決して簡単ではない。

他の人の魔力を打ち消すことは難しい。特に、フォルテはアトリよりもはるかに魔術の経験が豊富で、その力も強い。たとえ他の魔術師と戦ったことが無くとも、もう十数年も魔術の経験をさせられている彼女は、彼から見れば多くの魔術師との戦闘にも耐えうることが出来るだろう。

彼女の魔力と行使が強力なものであるため、いくら才能があるアトリの魔術行使だとしても、彼女の魔力を上書きしたり消去することは出来ない。

ある意味、この鍛錬はそれを逆手に利用したものとなっている。

彼女の魔力が消されない以上、その剣は現世に存在し続ける。彼女のイメージによって生み出された剣は、彼女の魔力量が続く限りは存在していられるが、常に消滅させることなく現実世界に投影し続けるのは難しい。

消されない物に対し、彼は魔力をかけ剣そのものを強化する。そのため、鍛錬中は剣も消えないし、効力は弱いが剣も強化されている。この作用を利用して鍛錬に励んでいた。



だが、その鍛錬の内容というのが、実に滑稽というか、常識離れしていただろう。





「くっ………!!」





いつものように、魔術鍛錬を満足にできる川辺に行き、全く人目のないところで鍛錬に勤しむ二人。

彼は彼女の生み出した剣を持ち、彼女は少し距離を話して、彼にむけて魔力弾を放つ。

鍛錬としてはこの構図で大体絵が完成されている。

だが、彼女もこの話を聞いて驚いたのだが、彼は彼女に「自分のすぐ横に向けて魔力弾を撃ってくれ」と頼み、何をするかと思えば強化された剣で、その魔力弾を剣と接触させたのだ。

魔力弾は決して緩やかに滑空するものではない。人の目で見極められないということも無いだろうが、その飛翔物は明らかに高速で、近距離で放たれた場合かわせるようなものではない。

お互いに距離を取っているとはいえ、高速で飛来する物体を剣で接触させるという離れ業を、彼女は目の前で見せつけられているのだ。





「ほ、本当によろしいのですか………?」



「ああ、大丈夫だ。少し加減してくれれば。良い反応の練習になる」






と言って、彼は彼女に頼みこんだ。

彼がそう言うのなら断れないと思いながらも、何とも斬新な鍛錬方法だ、と思わずにはいられない。

まさか今までこのようなことをしてきたのだろうか、と。

世の中の戦い方は、基本的に剣や槍、時に薙刀などが使われる。

片方にしか刃のない剣や、長刀(なががたな)と呼ばれる珍しい武器を持つ人もいるだろう。

飛翔物体といえば、弓と投擲に使う石くらいなもの。

特に弓を扱う者は数知れず、見かけることさえないと言われるほどだ。

もし彼が弓を弾くための鍛錬だ、と言って彼女に頼みこんだのだとしたら、彼女は恐らく断ったことだろう。そんなことしても無意味だ、と。

だが、彼は鈍った反応を取り戻すために、あえてそのような鍛錬をしたいと言った。

実際に戦いにおいて反応が早いというのは、大きな利点になる。

剣戟においてもすぐに反応できるのであれば、隙を窺って相手を貫くことも可能だろう。

直撃を受けそうな攻撃に対して、素早く防御を展開できるのであれば、命の危険も少なくなる。

彼は今まで10日間あまりも眠り続けていた身体が鈍っていることを理解しているし、それを解消させるために鍛錬をしている。

彼にとっては斬新な発想であっても大事な鍛錬であることに変わりはない。




「………ふぅ」




普段の倍は一瞬で魔力を浪費していることだろう。

剣に魔力をかけ、その剣を持つ腕にも魔力をかける。

万が一魔力弾が直撃しても軽傷で済むように。

彼女も力を抑えて魔力弾を撃ち放っているので、速度は落ちずとも力は弱まる。

直撃しても身体に貫通したり、抉ったりするようなものではない。

ある程度時間を重ねて鍛錬を続けた後、休憩を取ることになった。

彼は一息ついて、近くの大きな岩の上に腰を下ろす。





「何故こうも戦えるのか、本当に不思議です」



「まぁ………そうだな。ここまで来て私は素人です、なんて言えないからな」



「あ………」





彼女は静かにしまった、と思う。

そんなこと彼に聞くべきでは無かった、と。

彼が今までどこでどのような生活をしているのか、事実の多くは知らずともその概要は分かる。

死地の護り人として各地を転々としながら、数多くの戦闘を繰り返してきた人なのだ。

戦い慣れていないという方がおかしい。

本当に聞くべきは、そこではない。





「フォルテのおかげで、大分調子も取り戻したよ。魔力の回復も自分で分かるようになったし、はじめに比べれば進歩した」




「それは良かった。調子が戻れば身体もよく動くようになりますね。あと、貴方が求めるものがあるとすれば、それはどんなことですか?」




「あー………そうだな………」





彼は悩む姿を彼女に見せる。

岩に座りながら足を組んで両腕も組む。

もし更に求めるものがあるとすれば、それは何だろうか。

彼の魔術行使は既に実戦レベルで扱えるものだ。それは彼女が自信を持って言うことが出来る。

問題はその魔術をいつ行使するか、だ。

常に魔力を放出しながら戦う訳にもいかない。

彼もまだはじめたばかりとはいえ、既に魔術師としての掟、暗黙の了解に触れている。

魔術師は魔術師であることを隠さなければならない。それが世の為だ、と。





「まだ覚えられる魔術があるならやってみたいが、今はこれまでに習ったものを効率よく、効力高く発揮することが優先かな」




「そうですね。新しいものを覚えるのも良いですが、詰め込み過ぎも良くありませんからね。私で良ければお付き合いしましょう」





「ありがとう。フォルテと一緒に鍛錬が出来るなら、俺も嬉しい限りだ」






俺の勝手な思いだが、出来ればフォルテもこう思ってくれていると嬉しいな。

とても良き相手だと思っている。

あの話以降、少しばかり雰囲気が柔らかくなったような気がする。

相変わらず黒いスーツ姿に変わりはないが、フォルテの持つ雰囲気が黒ばかりではなくなった気がする。

今までのものから劇的に変わることは難しいだろうが、少しずつこうして話す機会を作って、一緒に作業や鍛錬をする機会を増やしていけば、フォルテももっと豊かな人になるだろう。

あぁ、それを見るのも少し楽しみというやつだろうか。

今まで見てきたものに加えて、今まで見られなかったものが見られるようになれば………





「アトリ。顔が少し赤いようですが、どうかしましたか?」




「えっ?」





太陽の光にあたっている彼の表情は、たとえ少しばかり距離が離れていてもハッキリと見えていた。

彼女は少しばかり首をかしげながら、「何故顔を赤くしているのだろう?」と言いたげな顔をして、彼の方を向く。

そして彼は、まるで我に返るように「えっ」と言葉を発し、驚いた表情を彼に見せた。

いかんいかん、心象が顔に出ていたかもしれない。

と、彼はほっぺを一度つねって、彼女になんでもない、と言う。

だが、彼の心の内に思っていることは、無論事実だ。

今まで見ることのできなかった彼女を、あの話をきっかけに見られるようになれば、もっと彼女のことを知ることが出来る。

特に、それが彼女の雰囲気を明るくするものであれば、なお嬉しいこと。

まるで黒いスーツと共に心を暗く遠くへ閉じ込めていた彼女だったが、少しずつ明るみに転じていけば、あの話を聞いた時間は良かったものと言えるだろう。

これまで、ここの一家の話を聞くことはあまりないだろう、と考えていた。

だが、今の彼は彼女の為にもなりたいという気持ちが強くある。

彼女の過去を知って、なおその思いが強くなった。

自分が彼女にしてあげられる幾つかのことで、彼女が少しずつ「自分」というものを感じてもらえれば、と。




「フォルテが俺の鍛錬に付き合ってくれるのだから、俺も何かフォルテに出来ることがあれば良いな。何かしたいことが出来たら、遠慮せず話してね」




「わ、私のしたいこと、ですか………」




「そう。すぐに見つけろ、というのは難しいかもしれないが、きっとあると思う」






先程彼女が彼に聞いた時と同じように、彼女も考える姿を見せる。

今までの彼女の生活が、自分から望まないものを繰り返し繰り返し続けていたものだから、いざ「自分は何がしたいのか」と言われても答えられないこともあるだろう。

だから彼も気を遣って、何も今すぐにということではない、と付け加えた。

彼女が彼女自身の欲求を多く見せるようになれば、それも彼女が変わる一つのキッカケとなるだろう。

少しだけ沈黙が出来たが、彼女はある一つのことを口にした。





「そうですね………私は、ここで飲むお茶が好きです。お茶を飲む時間があれば、私にとっては喜ばしい」





彼は、少しの微笑みを彼女に向けながら、彼女が口に出した一つの欲求に対し、頷いた。

そして同時に思う。

もし、これが普通の人の間柄で生まれた家庭であるのなら、このようなことを態々欲求にはしないことだろう、と。

それは彼自身にも共通して言えることがある。

彼は、フォルテの過去を知ってから、その生き方が明らかに普通でないことを知っている。

普通になろうとした訳でも無く、苦痛というものから逃げるために苦痛と思う自分から逃げたのだと。

彼も、死地で多くの人間を殺してきた。

死地に向かうために、馬で相当な距離を走った。

彼がこの仕事をはじめてから歩いた距離は、もうとても想像できるものではない。

普通の人であれば、毎日の生活を営み、時に買い物をして、娯楽を楽しむことだろう。

彼も彼女も、それを当然のこととは思えない生活を送っていた。

普通の人が抱くような夢や希望を持つことも無かった。

だからこそ、彼女のその細やかな欲が、逆に彼には嬉しく感じた。




「いいね。俺もご一緒してもよろしいかな?」




「はい。もちろんです」




「いつもは、夜に一人で?」




「そうですね。自室で飲んでいる機会が多いかと」





だろうな、と彼は一人心の中でつぶやく。

年頃の少女を気にしたパトリックに非がある訳では無いが、彼女はパトリックから言われるままにあの家に住み着いているのだろう。

いつもは夜ご飯を一緒にし、本家の湯船を借りて風呂に入り、そして家に戻る。

それ以降は自宅で一人の時間を過ごしている。

その時に彼女がお茶を飲んでいることくらい、容易に想像が出来る。

そこで彼はひらめく。

ならばそんな時間にも一工夫あれば、と。

彼は彼女に提案をする。自分もその席に一緒になっても良いか、と。




「じゃあ、今夜はこちらの家で飲もうか」



「本家、ですか?」



「あぁ。俺の我儘にはなるが、俺はあの家の縁側が好きでね」





彼が借りている部屋の戸を開けると、そこはすぐ縁側。

彼がよく一人で涼んでいるところでもあり、時に鍛錬をするところでもある。

フォルテが自室で一人の時間を作っているように、彼も夜は縁側で時間を作っている。





「昨日は鍛錬していましたね。まさかあの場所で寝ているとは思いませんでしたが」



「はは、耳に痛いな」



「あの場所では、鍛錬以外には何かしていたのですか?」






………。




何をしていたか、と言われると、考え事しか思いつかなった。

事実、彼がしていることなど殆ど数少ない。

そのうち、一人で考え事をする比率は、圧倒的に多い。

彼の今まで過ごしてきた時間のこと、経験のこと、たまに見る不可解な夢のこと。

この家でのこと、これからの王国のこと、離れ離れになった友人のこと。



父親のこと。






「ほとんど、考え事だね。一人でいる時間は、色々と整理する時間でもあるんだ」






―――――――今までしてきたことを、振り返るのも必要なことだから。






「………」






そうだ。

この人は、ずっとこうして、一人で考え続けていたんだ。




『誰に何を語る訳でも無く、語ったところで理解されるような話でも無い。』





彼が自分のことを一切話さないというような人間ではない。

特に最近では、僅かではあるが、彼女にも彼の身の内を話す機会がある。

それこそ、彼が今までの生活とは別の今を送っていることで、心の内に変化があったのかもしれない、と彼女は思う。

だが、少なくとも死地で過酷な経験を繰り返してきた彼の経験は、誰かに理解されるものとは言い難い。

自ら救いを求める人々のいる死地へ行き、命の危険を冒してでも誰かを救い、護る。

死地に派遣されるウェールズの兵士は殆どいない。

そのような役割は本来副次的なものにすぎず、しかも望まれるものでもない。

だが、彼は自らの理想に従いそれを本質としている。

彼は常に死地において、多くの人間を救うための立場に立たされ、人の生活の為に道具とされる。

それは、意志を持った道具なのだ。

人の為に役立つために動き続けている、道具のようなもの。

そんな彼は、誰かにその壮絶な経験を伝えるような機会を持たなかったのだろう。

話したところで、賛同してくれる人はいない。

自らの命の燈火を消しに行くようなものだった。

だから、彼は自らの行いを自らでのみ振り返ることが多かった。





その戦士は、孤高なる存在だった。

かの地にて一人、人々を救うために立ち上がる。





彼女も今まで経験してきたことだ。

思い返してみれば、何故そのようにし続けてきたのだろうか、と疑問を持つくらい。

自分一人のことを自分だけで振り返ること、そのものが悪い訳では無い。

だが、自分一人で出した結論が果たして良き結果ばかりを生むことだろうか。

彼は常に自分の求める理想の為に、結果を導き出そうと努力し続けている。

ずっと、一人で。






「………では、今夜は私が貴方に聞きましょう」






同じように、共有できる何かを持つことの無かった少年。

止められる術を持たず、止めてくれる者さえ持たなかった理想。

重い腰を上げて、一歩先へ進みたい。

彼が思っている以上に、彼の為に出来ることがあるのなら、そうしたい。

それは、力や技量といったものよりも、もっともっと大事なこと。




彼の心にこそ、問いかけるべきもの。




彼女はようやく、その舞台を整える機会を得た。

今まで何度も思い続けながら、それを果たせずにいたこと。

この少年と出会い、この少年の歪みに気付きながらも、何もできなかった自分。

いつの間にか彼を意識し、彼の為に何とかしようと思っている自分がいる。

その真意は、実のところ彼女自身がよく分かっていない。

けど、今はそれを端によけておき、大切なことのために時間を使おう。

彼女は、強くそう思った。





「前のアトリが、そうしてくれたように」





「………」






分かっている。

分かっていたことだ。

この人は他人を優先するあまり、自分のことがよく見えていない。

他人に対する結果を求め続けるあまり、自分という存在を遠くへ置いてしまっている。

それには当然、理由がある。そうに違いない。

このような人は、何日か先の展開は簡単に読み通すくせに、目先のことに疎い。

それも深刻さを増せば、本格的に泥の中にはまってしまう。

いつしか自分というものを考えなくなる日が来るかもしれない。

既に来ているのかもしれないし、これからと言うこともある。

けど、まだ間に合う。

彼女はそう信じて、その一歩を自分も、彼にも踏ませようとしている。

たとえ彼の生き方が変わらなかったとしても。






そうして、夜を迎える。

昼間の話の流れで、アトリがフォルテの茶の席に同席する形が取られた。

だが、主目的はそれ以外にあり、彼が一緒にすると言ったのだが、彼にこの席の主導権はない。

彼女がこの場を握ることになるのだが、主目的の登場人物で主人公となるのは、間違いなくアトリ。

招かれた客人が主役となり、それを引き出すための彼女がいる。

その夜は冷えた空気が流れているが、寧ろ心地よいくらいの澄んだ空気とも言える。

月が空を彩り、その周囲には消されない明かりを保ち続けている星々がある。

二人は、それを時々見上げながら、お茶を飲む。





銀色の月が、あの日々の光景を思い出させる。






「フォルテ。この話を聞いたとしても、君には理解できないと思う」




「………」





フォルテは、彼に自由に話させるようにした。

特にどの時期の話を聞きたい、というようなことは言わず、ただ彼の今まで経験してきた話から、色々と窺おうとは思っていた。

無論彼女の心の内に思うことは、彼には伝えていない。

アトリという一人の存在が出来上がる、その経緯を彼女は知らなくてはならない。

そうしなければ、一歩先へ進むことが出来ない。

やがて、彼の持つ理想があらゆるところで利用され、酷使され、使いまわされる時が来る。

彼はその道を確実に進み続けてきた。

そして、恐らくこれからもその道から外れることは無いだろう。

止められないことに責任感を感じることもあるだろうが、今はそれよりも。

彼の、その経緯や思いを、分かち合うことが大切だ。





アトリも、そう言っていたのだから。






「構いません。すべてとは言いませんし、話し辛いこともあるでしょう。それでも、聞かせて欲しいのです。私はもっと、貴方のことが知りたい」



「………」





その言葉を聞くと、彼は少しだけ笑みを浮かべてその場に湯飲みを置いた。

そのような言葉、もし普通の男性が聞くことがあれば、別の意味で変に捉えられてしまうだろう。

彼と同じくそのような経験をしてこなかった彼女だからこそ、ある意味で純粋に満ちているのだろう。

すると、彼は両手を自分の腰の後ろ、床につけて空を見上げる。

彼女は、そうする彼の横顔を見た。
















『その理想(ユメ)は、やがて醒めて消えるだろう。』











「ある時、そう言われたことがある」






銀色の月が昇る夜空の下、彼がその内を語る。






………。







3-31. ただ独りの歩み

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