3-23. 不安
「大事な、こと………?」
右腕を掴むその彼女の手に、力が込められていることがよく分かる。
防御魔術の鍛錬で彼女の攻撃を防ぎきれなかった、その腕が痛みを発し顔をやや歪ませる。
彼女は強い口調で言い放ち、鋭い目つきで、ただひたすらにアトリの瞳を見続けている。
腕を伝う血が彼女の手にも流れて行く。
防御魔術の行使自体は成功しており、魔力弾の威力も大幅に殺すことが出来ていた。
それでも、魔力弾の威力は彼の腕を負傷させるほどのものであった。
もし次があるとすれば、この威力を受け止めた経験を基に更に強力なイメージをすることだろう。
そうなれば、魔力弾に対しての防御魔術は完全なものに近づく。
だが、次へ次へと励もうとするその姿を見て、彼女は一度彼の思考を止めさせた。
「私も少しやりすぎました。手負いの時の魔術行使は身体にかかる負担も大きいです。それに、本来防御魔術というものは、それが突破されれば負けを意味します」
「っ………」
「忘れないで下さい。貴方は防御魔術の型に傾向があるものの、その適性を知ることが出来ない。であれば、他の魔術師に比べ大きく劣っているのです。無茶をすれば自分に対して反動も強くなる。あらゆる事態を想定するのも大切ですが、自分の身を第一に考えて下さい」
その時、彼は自分が思い違いをしていたことに、気付かされる。
魔術師という常人離れした能力を身に着けることで、自分自身が強くなることに期待を持ってもおかしくはないだろう。
今まで手も足も出なかった相手に対し、これまで以上に善戦をする機会が与えられる。
かつて戦友として共に戦ったヒラーという男も言っていたが、魔術師を倒すには魔術で干渉するしかない、という結論が出てしまっている。
今のアトリにはその結論を実行することが可能だ。
まだ覚えたてのものばかりとはいえ、既に自身に対する強化魔術も行使し始めており、今までより格段に戦闘に対しての心構えもその技量も変わってくるだろう。
だが、アトリには他の人には無いであろう欠点がある。
それこそが、この鍛錬を始める前に打ち明けられた、自分自身の魔術適性が見当たらないということだ。
彼はそもそも魔力をいつ手に入れたのかさえ分からない、その起源を辿ることが出来ないという経緯を持つ。そのため、適性のある特徴的かつ効力の強い魔術を行使することが出来ず、その点他の魔術師よりも魔術戦では劣ってしまうという欠点がある。
それを前に、無茶をするべきではない。
本来防御魔術とは、それが破られてしまえば魔術戦としての負けを意味する。
一度でも完全に防げる防御が展開できるのであれば、乱発さえしなければその後の戦い方を有利に展開させることも出来るだろう。
だが、一度も防ぎ得ることのない強力な攻撃を前に、その防御魔術が無力なものとなってしまえば、その時点でアトリは命の危機に瀕するだろう。
まさに彼女の言うところはその点にある。
元々状態の悪い時に実行する魔術は不安定で、それだけで術者に負担を与える。
そこに負傷した状態を考えれば、満足に魔術を行使することも出来ないだろう。
つまり、
自分の身を一番に思うこと、
そして勝てない相手には戦いにすらならない可能性があることを、彼女は伝えていた。
想定するのは良い。
だがそれはあくまで頭の中で連想させる情景であること。
鍛錬においてそこまで自分の身を傷つけることはない。
「痛い時は痛いと思って良い。弱い時には弱くても良い。そこからまた励めば良いのです」
やや慰めるような構図にはなっているのだが、彼が彼女の言葉に傷心した訳でもなく、ただ純粋にその忠告を受けて自分の中で納得していた。
だが、彼女には自分でこう言っておきながら、いざ戦時下に行けばそのように言っていられなくなるのだろうということが、既に分かっている。
たとえその現場に居合わせていなかったとしても、彼女が兵士でなくとも、彼のその姿を見れば容易に想像がつく。
目の前に敵が現れ戦闘が始まってしまえば、後は殺し合い。
どちらかが勝ちどちらかが負ける。
兵士として国や民を護る立場の人間のことを、上手く理解することは出来ないが、戦争がこのような少年にさえ焦燥感を与えるものであるのなら、よほど厳しい状況にあるのだろう。
だが今は違う。
人間の本能を抑え込まなければならないような状況ではない。
鍛錬であって実戦ではないのだから。
「一度休みましょう。少し経てば元に戻りますから、その後にでも再開しましょう」
「………あぁ。そうしようか」
彼女の提案に、彼は優しくそのように頷き、答えた。
右腕を掴んでいた彼女の手から魔力が発動し、治癒魔術が彼の腕に働く。
すると、瞬く間に出血が止まり、傷口が消えてなくなっていく。
腕を包み込む光は安らぎをももたらす光であった。
違和感はあるものの、痛みは自然と和らいでいき、力の入らなかった右腕はその力を徐々に取り戻していく。
彼女の魔術行使もまた自然的で、行使している時間も僅かなものであった。
30分もすれば良くなるだろうという彼女の言葉を聞き入れ、暫く休憩を取ることにする。
川辺の近く、やや風も流れ涼しい景色。
上空には青空の下に白い雲が所々流れて行くのが分かる。
空だけを見つめても雄大な景色だと言えるほど、実に美しいものであった。
その空の下で危険な鍛錬を積み重ねていることなど、忘れさせてくれるように。
二人は少し距離を取り、お互い大きな岩の上に座っていた。
アトリは右手の感覚を何度も確かめるように、手を広げては閉じる行為を繰り返していた。
フォルテは、特に何をする訳でも無く、空を眺めているようであった。
ここまでの魔術鍛錬はいつも以上に時間をかけている。
彼がそのようにしたいと望み、彼女も彼の真剣かつ一生懸命さに付き合っているという形だ。
覚えたての魔術であり安定はしていないものの、たった一日でモノにしてしまうほど彼の適応は早い。
まるで、魔術を行使すればするほど身体に馴染んでいくかのようなものであった。
それを見る彼女は、明らかに自分よりも素質があり強力な魔力を持っていると彼に対しては思っている。
だが、魔術というものは確実に人間に負荷をかけるもの。
魔力による恩恵は絶大なもので、特にそれが戦争において使われるものならば、尚更である。
一方で、魔術を教える立場としての考え方は、身体に負荷をかけることを率先して取り組む彼の姿に
不安や心配さえ覚えてしまう。
これが正しいかどうかは分からない。
彼がどのように魔術を今後駆使していくのかは分からない。
ただ、今はこの鍛錬を彼から止めることは無いだろうし、私も教えるのを止めようとは思わない。
彼がそう望んでいるのだから。
――――――――死地では、自分のことを言っている余裕は、無かった。
「え………?」
突然。
少しだけ距離があるものの、彼の声はハッキリと聞こえた。
その言葉も正確に聞こえてきた。
彼女はそれに反応する。
「国の中で、国に属さない他の領地に救援に行く仕事をする人など、殆ど居なかった。兵士の多くは自国の町や村を防衛し、他の自治領地へ出向いたりする機会は殆ど無かった」
「………」
それが、彼の身の上話に直結したことであることを、彼女はすぐに理解する。
兵士として今まで数年間もの間、戦い続けた記憶の一部なのだと。
フォルテは、身体を彼の方向に向け、その話を真剣に聞き始める。
彼が自ら口に出す、珍しい機会かもしれない、と。
「自治領地は、まさに悲惨という感じでした。俺が派遣されるのは決まって窮地にある自治領地だった。そこで生きる人々に活力なんてものは無かった。ただ相手からの攻撃に備え、毎日怯えながら眠りもせず生活をしている。だから、王国という恵まれた土地からやってきた人は、たとえその人が少年であろうと良くは思われなかった。助けに来たというのに軽蔑され、罵られる。お国柄が良いとこんな少年をよこすものなのか、と」
それでも、彼は兵士としての役割を果たし続ける。
彼の理想である、誰かの為に剣を振り続け、一人でも多くの人を護る為に。
たとえ味方である民に何を言われようとも、それが自分の役目であるのなら、果たさなければならない。
「戦場に出始めの頃は、特に負傷することが多かった。酷い時には死体に躓いて転んだ時もあった」
「……それは……」
「だからこそ、そういうのには慣れていった」
その役割を否定することは、つまり彼の理想を否定する、彼の存在をも否定することに繋がる。
彼が持ち得る理想は決して揺らがず、今もなお彼の気持ちはそうした民たちを護ることに向き続けている。
だから、たとえどのような状況であろうと、人を護るために人を傷つけることを行い続けてきた。
自然と死体の山は築かれていく。
彼が斬り殺してきた人々の数は計り知れない。
幾度も戦場を経験し、もうその数さえも把握できないほどに。
ただ、それでもすべて思い出すことがあるとすれば、多くの人の為に思いながら、多くの人の命を奪い続けて来て、それにさえ慣れてしまったということ。
彼もまた、そうすることで多くの人が護られると信じ続けながら、それを当たり前のように行い続けてきた。当然と思い人を斬るようになった。
護られなかった命のことを考えれば、確かに悔しさも計り知れない。
だが、彼は次々と各地に訪れては敵を倒し、味方を護り、多くの人々を救ってきた。
そうして彼は、死地の護り人となった。
「正直、驚いたんです。こんな俺に対して気を遣ってくれる……というか、嘘でも心配しているように接してくれる人がいる、ということに」
彼の話すことに嘘偽りは無い。
死地の護り人としての歩み、もう取り戻すことのできない日常を棄て、彼は戦うことを選んだ。
彼にとっての選定は、遠い昔にすでに終わっていたのだ。
死地では自分のことを気にしていられるほどの余裕が無い。
余裕が無いのは自治領地の民たちも同じで、窮地に追い込まれた者たちのことを考えるのに精一杯だった。
彼らがどうにか安心して、平穏な毎日を送られるように努力するのが、彼のすべきこと。
求められれば、何度も、何度も、何度も戦った。
たとえ味方であるはずの人に裏切られたとしても、それでも救われる命が一つでもあるのなら、と戦い続けた。
そんな生き方、誰からも理解されるはずもない。
孤高なる少年はただ人々の為と剣を振り続け、その結果今もその理想を掲げて生き続けている。
取り返しのつかない道を進みながらも、それが正しいと信じ続け、今も歩み続けている。
彼女には、彼のそういった現状と彼の気持ちとが、分かる。
彼が護ろうとした、護ることの出来なかった、自治領地の民たちの気持ちも分かる。
――――――――ねぇ、私……この世に生まれてきて、良かったの?
いつの日か、そのようなことを口にした。
それを思い出すと今でも後ろ体重になる。だがそれは現実だ。
そのような経験をしたからこそ、奪われた日常、取り戻したい平穏に対する気持ちは分かる。
彼がするような死地の護衛人としての仕事も、分からなくはない。
理解できなくもないのだが、それでも納得がいくものではない。
彼女が受けた境遇は、彼女が彼女自身で抜け出したいもの、解放されたいものであった。
彼が成すことは、他人がそうした不幸や弾圧から解放させたいという、他人指向を第一としたものであった。
アトリは少しだけ笑みを浮かべながら、腕を心配し鍛錬を一時中止してくれた、フォルテの方を向いてそのように話す。
そうか、この人は他の人を心配するあまり、自分のことは二の次と考え続けてきた。
先程、彼が鍛錬を急ぎ傷を負った状態でも行使できるのかどうかを確かめようとしたのは、自分の為ではない。自分の力がいかなる時も誰かの為に使えるようにするためだったんだ。
「だから……ありがとう、フォルテ」
自分のやろうとしていることが、間違っているとは思わない。
ただ、確かに浅はかな考えであったことに違いは無いだろう。
彼女はこの時、奇妙な違和感を感じ取っていた。
身体に対してではなく、精神面に関して。
何か言おう、何か返答しようとする彼女だが、何を言うべきか、何を言ってあげられるのかが、分からなかった。
だから、心臓の鼓動を早くしながらも、何も成すことが無いと心の中で考え込んでしまっていた。
彼は静かに、空を見上げる。
空はどこまでも高く、青く、白い雲が流れて行く。
その景色を見つめ続ける、彼の瞳を見る。
「………」
赤の他人から見れば、ただの普通の目をしているだろう。
だが、この時の彼女には、そんな彼が背負わされてきたものに対して、辛い思いをしているのではないかと、そのように見えた。
それから40分が経過し、再び鍛錬は再開される。
身体の感覚を短時間で取り戻した彼は、まず簡単にストレッチを彼女と共にする。
そして先程と同じように、右腕に魔力を発動させ構える。
彼女も同じようにして、指先に魔力弾を形成し、先程と同等の威力と大きさのものを用意する。
彼の考えでは、一度その威力や衝撃を身体が覚えたのなら、次はそれをイメージするためそれらの威力や衝撃を上回る防御を展開できるだろう、というもの。
安定して強固な防御を展開できるかどうかは、数を重ねて見なければ分からない。
防御魔術に詳しくない彼女はあまり勝手な発言は出来ないと自分では考えておきながら、確かにアトリなら次の防御は無力化できるほど展開できるだろう、と考えていた。
「いきます。充分に注意して下さい………」
「いつでも」
やや念を押すように注意を促すと、アトリもそれに応えつつ魔力を更に強く発動させる。
先程、はじめに魔力弾を受ける時とは異なるものだとハッキリ分かる強さだった。
つまり魔力弾の威力を防ぐためには、今の彼にはそれほどの魔力が必要なのだということ。
彼の魔力の貯蔵はまだ底をつくようなものではないが、まだ魔力弾への防御に関しては二回目ということもあって、魔力の制御も不安定のままだった。
それでも、彼女から撃ち放たれるそれを無力化するには充分だった。
彼が考えたように、一度その衝撃の強さや威力を理解すると、彼はそれに適応してそれに見合うだけの防御を展開することが出来るようになる。
はじめから確信した強さの防御を布くことが出来ていない、というのは防御魔術にとっては欠点とも言える。
だが、魔術戦において彼を一撃で仕留められない攻撃が繰り出された場合、彼は相手の二撃目を阻止するのに必要なだけの魔力を発動させ、防御を展開させられる可能性がある。
そうなれば、彼への攻撃は一度通用したものは、二度は通用しなくなる。
一度で仕留められない場合は、別の手を打つしかなくなる。
彼がもしその領域にまで足を踏み入れることが出来れば、と彼女は思う。
「見事です。身体の具合はいかがですか?」
「あぁ。今回は何ともない。上手く防ぐことが出来たみたいだ」
いや、もしかしたら、もう既に彼は片足を入れ始めているのかもしれない。
まだ魔術の存在を知って数日しか経っていないというのに、これほどまでに出来の良い魔術を行使する。
純粋に彼の身体能力が高いことも作用しているのだろうが、それ以上に彼の持ち得る魔力が強いというのもあるだろう。
彼女は、ますます彼の魔力を得た経緯が気になっていた。
元から魔力を得ていたことを知った彼女は、確かにそれならば魔力への適応も早いだろうと頷くことも出来た。だがこれはその理解を越えている。
このまま、ある程度の魔術を習得していけば、3週間と経たずに復帰することが出来る。
そうなれば、彼は再び戦場に戻ることになる。
それは、喜ばしいこと?
何故だろう。
どうしてそこで、頷けないのだろう。
彼の為に力になれるのであれば、それでも構わないと、彼女自身は思っていた。
だが、何故か心の奥底で、そのような気持ちに純粋に従うことのできない自分がいるようだった。
元々これはパトリックのすすめもあり、その彼が言うのだからアトリのために教えようと思ったこと。
だというのに。
……何故、不安ばかりが残るのだろうか。
「………いうのは出来るかな」
「………」
「?………フォルテ?」
2度呼び掛けたが、彼女は気付かなかった。
自分の世界の中だけで何かの思いを巡らせていることを、彼は想像する。
少し強く呼び、彼女をこちら側の意識へと戻す。
するとようやく気付いた彼女は、「あっ」と思わず声を出し、アトリの方を見る。
既に彼は腕にかけた魔力を拡散させており、その手応えを充分に感じていたところだった。
先程と同等の威力で発せられた魔力弾は、彼の魔力により威力を相殺された。
魔力弾の阻止に見合うだけの強固な防御を展開し、それを防ぐことに成功した。
だが彼の施す防御魔術はそれで型崩れを起こし、魔力は自然的に拡散した。
つまり、この時点で第二撃目があるとすれば、もう一度はじめから魔術を行使しなくてはならない。
彼が目指す一撃を耐えることが出来た。
「どうかした?」
「い、いえ何でもありません」
「?、そうか。もう少しだけ今のを練習したいんだけど、良いかな」
「は、はい。お付き合い致します」
何かを考え込むように、思い悩むように。
この時の彼女を見て、彼はそのように思い浮かんだ。
珍しい彼女の一面であっただろう。
いつものように表情は無い。
それでも、彼女の内面には何か動揺のようなものがあるように、彼からは見えた。
その後も二人は同じような鍛錬を繰り返し、回数を重ねる度に彼は防御魔術に慣れて行く。
物体への強化、自身の身体への強化。
そして魔力を発動させた状態での、剣戟。
この三つに関しては、彼女の見立てでは既に実戦に通用するレベルにまで達している。
まだまだ取得できる魔術はあるが、この三つだけを行使してもある程度戦うことは出来るだろう。
特に、魔力を持たない普通の人間に対しては、恐らく敗北することの無い強さを持っている。
しかし魔術師は魔術師であることを隠さなければならず、日常的に魔力を発動させられない。
魔術を行使するのであれば、それは相手を口封じという意味も含めて絶対に処理しなければならない。
魔力の発動、行使の使い時は常にタイミングを見計らうことになる。
恐らく、彼の調子は戻りつつあるだろう。
そうなれば、普通の兵士を相手にした戦闘で、彼が遅れを取ることは無いだろう。
その後、鍛錬は夕刻まで続けられ、これまでで最も長い時間鍛錬していた。
彼にとってその意味は大きく、新しい魔術を習得しただけでなく、更に今までの魔術を強化することにも成功しており、着実に魔術師としての道を歩き始めていた。
彼も成功が多くなり、更に効率的に強力に魔術が行使出来ていることを自覚していた。
だが、まだ更なる高みを目指している。
それでは足りない、もっともっと強くなれると、自分に言い聞かせていた。
決して今の自分に満足せず、明日何が起こるか分からない時の為に、ただひたすらに鍛錬を重ねる。
それは、今日の魔術鍛錬が終わり、夜ご飯や風呂を終え、夜寝る前に至るまで続いていた。
休む時は休んだ方が良い。
それはフォルテの教えでもあったが、この時の彼は鍛錬では魔力の貯蔵が尽きないほどになっていた。
そのため、寝る前に何度か簡単な魔術行使をして感覚を染みつかせ、寝るようにしたのだ。
………一方。
「……さて、明日からは大変だな。………ん?」
明日から一週間ほどかけて、隣町へ必要な物資を手に入れるための移動をする、パトリック。
片道三日程度というのは、もう隣町などという次元の話ではないかもしれないが。
無論野宿だろうし、都合良く空き家や小屋があるとも思えないので、食料も持っていくことにしている。
食糧補給はその町に辿り着いてからでも出来るだろうが、もしポーラタウンのようなことがあっても困るので、念には念を入れ5日分の食料を持参することにしている。
あとは道中天候が悪くならないことを祈るばかりだ。
明日からのことを考え早めに寝ようとしていたパトリックだったが、部屋の外からノックの音が聞こえてきたので、近くまでやって来る。
「お?フォルテか。まだこっちにいたのか?」
「はい。その、話を聞いてほしいのです」
「………?あぁ、良いぞ」
………。
3-23. 不安




