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Broken Time  作者: うぃざーど。
第3章 ボーイ・ミーツ・ガール
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3-22. 魔術鍛錬(Ⅳ)





「前に、防御魔術の強化は自身への強化でもある、とお話しましたよね?」



「……あぁ。確かに、聞いた気がする」






二人は魔術鍛錬のために、いつもの道場ではなく家の近くを流れている川辺にやってきた。

歩いてもそう距離はかからないために、フォルテはアトリとの鍛錬場所を今日はここにしたのだ。

その理由は幾つかある。

だがこの場において、アトリが考えられるその理由は、道場では好き勝手に魔術行使を行えず、しかもそれを満たせるだけの広さが無いということだろう。

たとえば、彼女が前に彼に見せた魔力弾というのも、それほど絶大な威力を発揮するものでなかったとしても、室内でそれを扱うのは建物に損害を与える可能性が非常に高い。

そのため、四方八方出来る限り開けたところで鍛錬を行う方が、都合が良い。

もっとも、自然系にダメージを与えるような過度な鍛錬を行う気はなく、この辺りの土地には訪れる人もいないので、その点誰かに見られるという心配はない。

近くに同じ魔術師であるパトリックがいるが、彼も自分の作業中であれば気にすることも無いだろう。



彼女の話す、防御魔術の型としての強化。

既に彼女は彼に物自体を強化する方法を教えており、そして彼はそれを習得済みである。

構造変化にやや時間が掛かるものの、それでも形としては強化に成り立っている。

今日、彼女が彼に説明をし始めたのは、物への強化ではなく、自身への強化だった。

つまり、自分の体内にある魔力を使用して自分の体内を強化するという魔術である。

今までは魔力を外に放出したり、強化するために外にある物に魔力を発動させるなどしていた。

だが、今回は違う。

自分で自分を強化するという、今までとは異なる魔術を行使する必要がある。




「自分自身への強化というのも色々ありますが、貴方が戦闘中に魔力を自然的に放出しながら戦っていたのも、ある意味で自身への強化とも言うことが出来ます」



「確かそれも、出来るなら意識して切り替えが出来るようになると良い、と話していたね」



「はい、その通りです。魔力を扱うということに対しては軽々しく考えられないために、意識して力んでしまうこともあります。自分で発生させるタイミングと効力を把握しながら、なおかつそれが不自然ではなく流れるように、意図的に発動させるようになると、より強い恩恵を受けられるでしょう」





フォルテの言っていることはとても分かるのだが、

とてもすぐには実現できそうにもない話だ、と彼には思えてしまう。

確かにこの段階での彼の適応は、初心者の魔術師にしては十分すぎるほどだが、彼女の言う自然的で流れるように魔術を行使する段階には至っていない。

驚くべきは、彼は一つの魔術を習得する過程がとても上手で、効力を発動させる時間はかかったとしてもその効力は一人前の魔術師が扱うものに限りなく近いところまで行使出来ている、というところだった。

これは彼女が前から驚いていたことであり、自分の時はそうはいかなかった、とある意味適応の早さを羨ましがるほどであった。





「では、まずアトリに問いますが、防御魔術の中で、それも自分自身への強化を施す魔術で、一番先に何を習得したいとお考えですか?」





そう言われても、中々パッとは思いつかない。

彼女自身もそうだが、彼も防御魔術の詳しいところを把握している訳では無い。

無論、それは彼らに限らずあらゆる魔術師も同様である。

ある程度の知識は魔術本に記載されているため、そのようなものを参考にしている人にとっては、繰り出す魔術もそれに則ったものとなる。

だが、世の中には使用例の少ない魔術も数多くあると言い、種類は未知数である。

防御魔術も、彼らにも、他の魔術師にも知り得ない効力を発揮するものがあるかもしれない。

しかし、今の彼にはそんな未知なる力は必要としていない。

確かに気になるところではあるのだが、今必要としているのは、それが実戦でいざという時に活用できるものだということ。

それが、復調後に自身の戦闘に役立てるものであれば、積極的に覚えたい。

彼の魔術鍛錬の基本もそこにある。




「では……定番だとは思うけれど、特定部分の強化にしてみよう」




あの槍兵や黒剣士と対峙して、何度も思い知らされた。

たとえ彼らと互角に戦いが出来たとしても、やはり身体への直撃コースを辿る攻撃は幾つもある。

まして、彼らが魔術を使用した攻撃を繰り出して来るのであれば、尚更身体に対する防御は必要なものとなる。

剣で弾くものには限界があるし、そう長く続くとも思えない。

ならば、せめて相手の隙を見つけることや、相手の渾身の一撃にも耐えられるような魔術を行使する必要があるだろう。

すぐにでも使えるようになって、なおかつ戦闘時に大きく役立てられるものと言えば、特定の部分の強化。

例えば、相手の槍が心臓部分を突き刺すことが予想される場合、その一閃が心臓に直撃する前に、防御魔術の行使によって胸を強化し、相手の攻撃を耐える。

乱発行使は難しいと聞くが、一度でも耐えられるのであれば、可能性は十分に見出せる。

彼はそう考えていた。





「いいでしょう。私には中々できないことですが……そうですね、イメージするのはその部分の強化をするときに、どのような攻撃から自分を護るのか、その攻撃手段を具体化させて頭の中に思い浮かべてみてはいかがでしょうか」



「………なるほど」





つまり。

相手の攻撃手段、それが魔術行使によるものなのか、あるいは剣や槍などの物を使った攻撃なのかをイメージすることで、その物に対しての防御を身体への強化という形で展開する、ということか。



アトリは自身でそのように解釈をする。

ただ防御を布くことも出来るのだろうが、防御を必要とする対象をイメージすることで、より具体的な効力を発揮することが出来る、というのがフォルテの考え方であった。

あくまで彼女の考えであって、それが防御魔術に則った話であるかどうかは分からない。

彼女はどうしても専門外の型については、知識はあるが実行が難しい。

魔力の多くを消費することもあるし、彼女にだって出来ない魔術の一つや二つ、あって当然である。

しかし、今はまだ分かる範囲で教えることが出来る。

この魔術には決定的な利点と欠点がある。

例えば、相手の攻撃が剣であるとするならば、剣の硬さをイメージしてそれを防御という形で展開させられれば、あの硬い材質に身体は耐えることが出来るだろう。

それが利点なのだが、一方で欠点は、相手の攻撃が全く予想できないもの、あるいは魔術を行使する前に相手の攻撃が到達してしまうものがある。

相手が魔術を使用した攻撃、攻撃魔術の魔力弾のような攻撃を繰り出して来る時、魔力弾にはどの程度の威力があり、それが防御を貫通し得るものなのかを目で判断しなければならない。

すべての攻撃を防ぎきるような防御魔術も恐らくは存在するのだろうが、そのような大それた魔術行使をアトリが出来るとは限らない。

今彼が行使しようと鍛錬を積み重ねようとするのは、特定の部分を護るための行使。

魔力による攻撃や未知なる攻撃まで防ぐことが出来るような、高度な魔術ではない。

更にこれは、相手の攻撃が自分に到達する前に発動させなければならない。

発動自体はすべて自分の体内で行えば良いのだが、発動から効力の発揮までに時間が掛かりすぎる場合は、効力が表れる前に相手の攻撃が直撃してしまう可能性も充分にある。

そのため、相手の攻撃により早く反応し、なおかつどれだけ素早く正確にイメージできるかがポイントとなる。




「剣や槍のような具体的な武器を用いた攻撃であれば、その硬さを知っている貴方に大きく分があります。恐らくすぐにこの魔術は完成するでしょう。ですが、私にも理論上には貴方にも作り出せる魔力弾に対しては、その硬さや効力は計り知れない。未知なるものに対してはイメージするのも難しいですから、別の何かに代用して防御を布くか、ある程度大雑把に受け流し出来るようなものにしなければなりません」





もしアトリがこの世で一番硬い物を知っていたとしても、

魔術とあればそれすら貫通してくる可能性もある。

相手の攻撃が槍だったとしても、その槍に魔力が込められていれば、防御を破る攻撃も繰り出して来るかもしれない。

アトリはこの時に改めて感じた。

ああ、だから防御魔術は術者があまりいないのだろう、と。

具体的にイメージできるものに防御を布くのであれば、鍛錬を積み重ねれば確実に防ぐことも出来るようになるだろう。

だが、魔術のような不可解な現象に対しては、絶対という防御を展開することが難しい。

あらゆる魔術を無力化できるような防御魔術があるのなら、魔術師としては相当高度な魔術を駆使する術者という扱いになるだろう。

そのため、知らないものに対しては「これならば耐えられるのではないか」というような、曖昧なイメージで防御を展開しなくてはならない。

もしそれが火球による魔力弾であった場合、イメージするのは魔力弾の破壊力と火球の持つ温度、接近してくる速度や火球の大きさ等で、それに対応するための防御を布かなければダメージを受けてしまう。

そうなれば、魔力弾が爆発することも想定して、防御する部分を拡大させながら、耐熱加工も施すというように、幾度も思い浮かべながら、しかもそれを短時間で行使しなければならなくなる。

そんなことより攻撃などかわしてしまえば良い、と考えるような人にとっては、ほぼほぼ無縁の魔術と言っても良いだろう。




「では、やってみましょう。アトリの思い浮かべる物、とは?」




「………じゃあ、まずは剣、で」






周囲には誰もいない。

今日の天候はほぼ晴れ間が広がり、雲の割合は少ない。

陽の光を浴びながら、涼し気な風を受けながら、彼は直立のまま体内の魔力を発動させる。

魔力を発動させた瞬間、フォルテは彼の周囲の空気が魔力により圧迫され、空気が一変するのを肌で感じとる。

はじめは微弱ながら長々と放出するだけだった彼の魔力発動だが、まだ一週間も鍛錬をしていないというのに、切り替えも良く魔力の効力も格段に上がっていた。

そのため、発動する瞬間の空気の入れ違いに、彼女は敏感に反応してしまう。

彼の体内から外部へ放出される魔力の力そのものが、とても強いものだと分かってしまうほどに。

彼は静かに、周りの音や自然の景色なども忘れて、

ただひたすらに集中力を高め発動を維持する。

イメージするのは、相手の剣を防ぐ程度の防御。

防御する元となる身体の部分は、今回は左腕全体に定めた。

体内の魔力が体内で波打つのが分かる。

今までとは違う種類の魔術行使に、まるで体内の魔力が高揚しているかのような、そんな反応の仕方。

波打ち渦を巻き、主の唱えに従おうとする魔力の動きが、アトリ自身にもよく分かる。




「………」




彼が目を開け、周りの空気が落ち着いたのは、発動させてから30秒後。

魔術鍛錬を一番初めに行った、魔力の放出や木の枝の強化の時に比べれば、疑ってしまうほど早い時間であった。

フォルテは、魔術行使を終えた彼の姿を見る。

流石に慣れない魔術の行使に汗を流す姿はあるものの、その左腕からも魔力を感じ取ることが出来る。

どうやら成功したようだ。

彼女が思った通り、具体的にイメージが出来るものの魔術行使に関しては、彼はすぐに適応してしまうだろう。




「どうですか。自分の感想は」



「どことなく、違和感はある。だけど、それが行使による影響というものかな」



「そうかもしれません。どのような形であれ、自分の身体に魔力による効果を付随させるのなら、多少の違和感はあっても不思議ではないでしょう」




彼がイメージした剣とは、嫌でもその存在を思い出すもの。

彼のここ4年以上の生活の必需品で、何度も折ってダメにしてはいるものの、彼の持つ剣で多くの人々を斬り殺してきた。

そのような物を連想して魔術を行使するのだから、イメージし辛い訳が無い。

彼自身剣戟による負傷を負ったことがあるので、剣の切れ味でどの程度傷が深くなってしまうのか、などは想像することが出来る。

フォルテは頷きながら彼のそばにやってきて、その効力を近くで確認した。

目で見えるようなものではなく、魔力の発動によってその部分から魔力が発せられていることを、確認することが出来る程度のものだ。

だが、それでも彼の魔術行使は完璧とは言わずとも、普通に効力を発揮できそうなものだと彼女はそばに来て判断した。




………だからこそ、次の行動を起こしたのだろう。





「っ………!?」





突然、その場の空気が一気に入れ替わるのを、彼は強く感じる。

目の前にやってきた彼女がその手に魔力を込め、体内の魔力を自在に操り、そして突然右手に剣を生み出したのだ。

その瞬間を間近で見ていた彼は、その行動だけですべてを把握した。

彼が空気の違いを敏感に感じ取れるのは、無論彼の体内にある魔力が彼自身に警戒しろ、と訴えていることもあるが、彼女が物を投影する時に多く魔力を使用し発動させているからである。

そうして現実世界にやってきた架空の剣は、鞘も無い。

ただ、剣とは言いながら物を斬る刃となるものは、片方にしか存在しない。

もう片方は、見た目は鋭く綺麗であったとしても、鈍らで叩くことしか出来なくなった打撃武器のような厚みを持っている。それを刃と言うのは厳しいものがある。





「では早速」



「あ、あああちょっとまだ心の準備もっ………!!!」





あまりにも無慈悲な間合いだった。

彼女は投影したその剣の刃で、すぐさま彼目がけて剣を振り下ろした。

それがもし、彼女から見て魔術の行使に失敗していたとあれば、このような行動を起こすことは絶対にしなかっただろう。

何の心の準備も出来ていない、と焦る彼は、それでも彼女が振り下ろした剣の軌道を正確に見ていて、咄嗟とはいえ確実に防ぐために、魔力を行使した左腕を突き出す。

彼女の力の入った一振りは、言うまでもなく左腕に直撃した。





「っ………!」





確かに無茶な試し方にも思えるが、それが一番効率良く確認できるとも言える。

何の躊躇いもなく繰り出された彼女の一振りであったが、左腕は確かにその一撃を受け止めていた。

身体に衝撃は走るものの、普通であれば腕ごと斬り落とされていた攻撃を、確かに阻止している。

左腕にかけられた魔力が強く反応しているのが分かる。

だが、それもただの一度。

フォルテが剣を左腕から離すと、左腕の魔力は次第に拡散しその効力を失っていく。

これが、防御魔術で自身を強化させるというものの一つ。

ただ一度の攻撃を耐えられる程度の魔術を行使した効力の表れであった。




「分かりやすかった、ですよね」




「………そ、そうだね」





とはいえ、彼女も多少は無茶があったと感じていたものだろう。

この場の状況においては最も確かめやすかったことだろうが、剣を地面にゆっくりと突き刺して、まるで相手に確認を取るように、アトリの方を向いて声をかけた。

今更どうこう言われても、というところではあるが、確かに効力があることを一番に確かめる良い手段ではあった。

それに、万が一腕を負傷したとしても、彼女が治癒魔術を使って治したことだろう。

流石に腕を断ち切られてしまえば、どうすることも出来ないのだろうが。





「それにしても、相変わらずお見事ですね。今度は初手で術を完成させてしまうだなんて」



「だが、まだ確実に一撃を防げるようになったかと言われれば、不安は残る。もう少し付き合ってもらっても、良いだろうか」




フォルテは言う。

既に魔術行使としての効力は表れているため、そのイメージで防御を布くことに関してはほぼ完成されている、と。

だがそれはあらゆる攻撃を無力化するものではない。

現実では魔術を大っぴらにすることが出来ないし、いざという時の行使に限定されるのだから、いつも相手の武器が槍や剣であるとは断定できない。

魔術師同士の戦いになれば、もっと高度な魔術戦を要求される場合もある。

その場合は、攻撃の型でない自分に不利な状況が付きまとう可能性が充分にある。

彼はこの出来に満足することは無かった。

いつまでも多少の不安は残すことになるだろう。

それでも、ちゃんと効力として現実世界に現れているという自信だけは欲しかった。

控えめながら、彼がそのようにお願いすると、彼女はこう返答した。





「はい。貴方がそう言うのでしたら、私もそれにお付き合いしましょう」





それからも、暫く鍛錬は続く。

彼は同じように身体のあらゆるところに強化をかけ、まずは防御という要素に集中させた。

彼の戦い方も剣で相手の攻撃を流しながら、隙を突いて攻撃するというもの。

特定の部分に強化を加えて攻撃に耐えるのは有用な手段だと、彼も彼の戦い方を知っている彼女も思っている。

アトリの頭の中では、次第に普通の兵士との交戦から、魔術師を想定した相手との交戦のイメージに切り替わっていく。

普通の兵士相手ならば、今まで何度も経験してきたこと。

強い兵士もいれば、自分ひとりで対処できる兵士もいる。

だが魔術師相手にはそうはいかない。

とくに、彼の思考はあの槍兵や黒剣士、女暗殺者などに向いていく。

自分が戦場に復帰することになれば、必ずあの者たちが障害として立ちはだかるだろう。

そうなれば、この魔術に限らずあらゆる手段で彼らの相手をしなければならない。

彼には攻撃を強化させる手段として、自分自身の身体や自分の持つ物などを強化することしか今は無い。

攻撃型の魔術のように、火球を飛ばしたり、属性攻撃を繰り出したりすることは出来ないのだ。

ならば、せめて自分の出来る限りの魔術行使には自信を持っておきたい、というのが彼の望みであった。

何度も、何度も彼は鍛錬を積み重ねる。

それに反論することなく、嫌という気持ちを示すこともなく、ただ彼女は従順に従う。

彼女に与えられた付加価値の魔術である、投影という手段を使い手伝ってもらう。

時には剣、時には槍、時には暗殺に用いられるようなダガーナイフを想像で投影してもらい、それを自分の身体にぶつけてもらう。

地味な鍛錬の方法ではあるが、それでも彼は暫くそれを続けた。





「本当によろしいのですか?」



「あぁ。やはり試さないことには分からないからね」



「分かりました。いざとなれば私が何とかします」





次に彼が彼女に頼んだことは、以前にも見せてくれた魔力弾を防御魔術で防ぐというものであった。

攻撃型の魔術を使用する術者は、魔力弾に五代元素の属性をつけて攻撃することが可能と聞く。

だが彼女には攻撃型の魔術は基本的には使用できない。

魔力弾は魔術攻撃の基本とされており、他の型を持つ魔術師にも使用可能だと言うことは、フォルテから教わったことだ。

属性を付随させることは出来ないが、彼女もまたその手で魔力弾を生み出すことが出来る。

魔力を発動させ、彼女は人差し指を伸ばしてその指先に魔力弾を形成する。

大きさは手で覆い隠せる程度のもの。

しかし、それが外界からは隔絶された能力であることは明白だ。

いきなり彼の防御に直撃させるのもイメージし難いものだと考えた彼女は、まずすぐ近くの地面にそれを着弾させた。





「………これくらいです」



「………、確かに道場での鍛錬には、限界があるよう、ですね」





と、思わずその威力にたじろぎそうになるのを堪えて、

彼もまた魔力を発動させる。

放たれた魔力弾は地面に着弾したのだが、その大きさをハッキリと理解できるほどの穴が地面に出来た。

土煙があがり、土やら小石やらが飛び散る。

確かにこれを道場で放てば、壁や天井などに大きな傷が入ってもおかしくはないだろう。

この川辺に来て正解だった。

身体の胴体などに防御を布こうかとも思ったが、万が一魔力弾を防ぎきれない時の衝撃を考え、彼は右腕に魔術を行使する。

彼も彼女も、間合いを十分に開ける。

彼女の作り出した魔力弾がどの程度の威力なのかは、見て何となく分かるものがあった。

まるで火薬を爆発させたかのような光景と、その威力。

地面にハッキリと弾痕が残るほどの攻撃。

それが直接身体に直撃する際、どれほどの衝撃を与えられるものか。

幾つも考えられる要素を付け足し、それをイメージに変えていく。





「………では、いきます」



「………」






彼はそのイメージのもと、右腕全体に魔術を行使し効果を生み出す。

そして、腕を伸ばし、手のひらを広げ、それを彼女に向ける。

放たれるものは未知なる力によって生み出された、強力な球体。

それを防ぎ得るのは、これも未知なる力によって加えられた、強固なイメージ。

お互いの距離は15メートルほど。

相手の全身はハッキリと彼に写っており、そしてその指先に作られた魔力弾の姿も見えている。

彼女は一言、そのように準備が出来たと彼に伝え、彼も同じように頷いて反応して見せる。

心の中でいつも以上に強く、魔力を発動させる。

たとえそれが命中して防ぎえぬものであったとしても、威力を殺せるほどの防御を展開するために。





「はぁっ!!」





気迫の籠った声を彼女が出した瞬間、それは放たれる。

主のもとから離れ目標のいる一直線上に魔力弾は直進していく。

風を斬るような音と周囲の空気さえ巻き込んでいくような速度で、アトリに向かっていく。

彼にはその軌道がハッキリと見えている。

真正面から捉えたその球体は、彼から見ればただの点にしか見えない。

だが、それでも彼にはその魔力弾がどれくらいの速度で向かってくるのかが見えている。

風よりも早く、大地の上を駆け抜けて行くように放たれたそれを見て、彼は再び発動を強化させる。

当たり所は間違いなく右腕、それも手のひら。

彼女が正確に打ち出したその軌道に彼も反応して、その防御を展開した。






………。






「ぐっ………!!」




「………!!」






その攻撃自体は、ほんの一瞬だっただろう。

ただの魔力によって生み出された球体が相手に直撃するまでの、僅か数秒。

いや、体感的には数秒というような時間の経過さえ感じられなかった。

彼にはその軌道が見えており、その速さも捉えることが出来ていた。

故に、魔力弾が自分の右腕、手のひらに直撃するまでの時間を感じとることが出来ていた。

魔力弾が来るよりも早く、彼は反応していたし対応もしていた。




………にも関わらず。

彼の防御は破られた。





「……っ、大丈夫ですか」




と、魔力弾を放った本人、フォルテが少し小走りでアトリのもとに駆け寄ってきた。

アトリの姿はというと、魔力弾の着弾と同時に発せられた爆風と土煙で、顔や上着が少し黒ずんでしまっていた。

彼女が気にしたのは、それ以上に彼の右腕。

立ち尽くして動くことの無かった彼の右腕は、まるで主からの意思を伝達されなくなった、ただの道具と化しているかのよう。

彼女の方に向けられていたはずの右腕は、力失くして垂れ下がっている。

手のひらや腕には切り傷が出来たのだろう、少量ながらも腕を伝うように血が流れている。

アトリもそれを確認して、だが冷静にフォルテに大丈夫、と伝える。

普通、この手の魔力弾をただの人間が受ければ、無事では済まないどころか致命傷にさえなり得る。

腕や足に当たればそれらが持っていかれ、身体から分離してしまう可能性がある。

身体の中心部に当たれば、良くて傷を抉るようなもの、悪ければ貫通することも考えられる。

そのどちらも、傷を治せる環境下に無ければ致命傷となる。

彼も魔術行使に失敗していれば、そのように腕に重大な傷を負うことになったかもしれない。

だが、フォルテは信じていた。

彼の施す魔術が、自分の攻撃に耐えられるものだろうと。




「このくらいの傷……平気だ。大丈夫」




確かに彼の魔術により、防御は働いた。

しかし、それは完全なものではない。

相手の攻撃を防ぎ得るものではなく、相手の攻撃に対する威力を減少させるものだった。

彼の読みは間違えていなかったし、魔術行使自体は成功している。

だが、魔力弾のそれが彼の行使を凌駕した結果だった。

彼はそのように口にするが、この時の彼は想像を絶する痛みを感じていた。

自分から彼女にお願いしたことだけあって、彼は強気なことを口にしていた。

腕に力が入らない、指先の感覚が曖昧だ。

右腕にかけた魔力は魔力弾の着弾直後に、自然的に消滅した。

まだ、この程度ではこの攻撃を完全に防ぐことは出来ない。

だが、今魔力弾の効力をその身で受け取った彼は、次はその効力を理解したうえで防御を布くことが出来る。

そうなれば今以上に強固な防御を展開することが出来るだろう。

痛手を負うことにはなったが、この経験を確実にモノにしてみせる。

自分の中で、そのように考えていた彼。





「次はもっと上手くやれるはずだ。それに、傷を負った状態でどのくらいの魔術が行使できるのかも、確かめるべきだろう」





と、彼は言い、その右腕を無理やりにでも動かせようとした。




だが、その時。







「………それは違う。今のアトリは大事なことを忘れている」






と、彼女が強い口調で、彼の右腕を掴んだ。






3-22. 魔術鍛錬(Ⅳ)





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