3-8. 内なる事実(Ⅰ)
「なっ…………!?」
「………」
無理もない。
突然そんなことを言われて驚かない人などいないだろう。
彼は魔術師に対抗するために、魔力を得るキッカケが欲しかったとも言える。
槍兵や黒剣士といった、魔力の恩恵を受ける強敵を相手にするには、魔術で対抗するしかない。
それが導き出した答えの一つだった。
そうでなければ、常人は彼らに勝つことは出来ない。
彼らに肉薄し、こちらに勝機を引き付けるためには、まず相手と同じ立場にならなくてはならない。
だが、その壁が既に分厚く高く、絶対に不可能だろうと考えられるほどに遠い存在であった。
しかし、意外にもその存在はもっと身近なものであった。
彼の使用していた剣。
特注で受け取ったその両手剣の一部は、魔力を帯びた石で構造されていたのだ。
「あの剣に……石、が………」
「そうだ。つまり言うと――――――」
俺は、既に魔力の石からその効力を得ていた、ということになるのか………?
いや、だがそんなものは初耳だ。聞いたことが無い。
確かに、以前よりもあの槍兵と対峙した時、少なくとも戦いにならないという状況では無かった。
その理由は、
あの剣に石が仕込まれていた、から………?
「――――――と、言いたいところだが、恐らくその石の半分も恩恵を受けていないだろう」
「………?」
パトリックは、彼が所有していた剣の一部には、魔力を帯びた石が含まれており、その石を媒介に彼の力が強化されていた可能性があることを話した。
彼にとっては寝耳に水。
この剣は鍛冶氏のレイモンから作ってもらったもの。
もしそれが事実だとすれば、一体レイモンはどのような意図で石を混ぜて作ったのだろうか。
気になるところは多くある。
それに、魔力を教える術があるこの二人だと分かるのだから、それが間違いだとも思えない。
だが、パトリックはその恩恵を充分に受けられていない、と彼に話す。
「魔術師っていうのは、普通石を持っているものだが、ただ石を持っているだけでは魔力の行使は出来ない……というのが、普通の考え方だ。な、フォルテ」
パトリックが横目でフォルテを見ると、彼女も真剣な表情でそう答える。
「はい。魔力と人との関係は親密でなくてはならず、ただ鍛錬を積み重ねれば良いというものでもありません。更に、魔力と人、もっと言うならば、魔力にある適性と、その人の適性が合わないものであれば、満足に魔力を行使することも出来ませんし、大体そのような場合には行使そのものが出来ないことが多くあります」
そう簡単に魔術師としての能力を発揮することが出来ない理由でもある。
誰もが扱えるようなものでもなく、石を見つけられる可能性も少ない。
更に使い手は選ばれ、魔力を持った者すべてが膨大な力を手に入れるというものでもない。
魔術師が希少価値と呼ばれる存在で、なおかつ秘匿された者たちであることは、魔力と人の適合だけでも考え得ることが出来る。
彼も宝物庫で魔術本を目にした時には、この適性というものを見たことがある。
誰もが石から魔力を受けそれを扱えるようになるわけではなく、人によっては石から得た魔力の影響が風邪を引き起こし、それが魔力の獲得だと永遠に気付かない人もいるかもしれない、と。
身体の違和感だけなら、確かにこれが魔力による副作用だと気付かない者もいるだろう。
これほど近しい存在であるにも関わらず、遠い存在にもなり得る。
寧ろ後者が目立ち、前者が本来遠いはずの存在とも言える。
身近に魔術師がいることなど、普通はないことだと考えさせられるのだ。
「アトリくんは、このことは初耳なのだろう?」
「はい……」
「なら、魔力の行使を知らずとも当然だし、ただ石を所有していただけで恩恵を受ける訳でも無い。その点は安心しても良いかもしれないさ」
彼は内心、あの剣に含まれていた石が既に自分の力として作用していたのであれば、自分は魔力を得てもなおあの槍兵や黒剣士に勝てないのか、と失意を感じるところであった。
だが、言われてみれば確かに単純なことだ。
まさか石がそこに含まれているなどと思いもしなかったし、魔力の行使の仕方など見ても全く分からなかった。
心の中でそれとイメージしろ、と言われたところで、魔力を行使するために「それ」が彼には分からないのだ。
かえって、パトリックにそう言われたことで安心したアトリ。
そして。
この剣を作ったレイモンのことを思い出す。
もしこの石が意図的に入れられたものだとするのなら、
自分の身体に魔力の作用をさせることで、普段では得ることのできない力を発揮させようとする。
結局のところ石の力を発動させる術を持ち得なかった彼は、その力を満足に引き出すことが出来ず、またそのせいか魔力の存在に気付くこともなかった。
だが、もしこれが意図されたものであるのなら、期待されていたことだろう。
「剣を回収しなかった、というのはそういう理由だ。回収すべきものはすべて回収している。そこで……アトリくんの身体のことで、少しばかり疑問点が出てな。驚かずに、聞いてもらいたい」
「………?」
今度はどのような話がされるのだろうか。
自分の持つ剣に魔力を帯びた石が入っていた、ということでさえ驚きだったのだが、この先の話もそうした驚愕の事実に匹敵するものなのだろうか。
彼は息を飲み、今度はフォルテの話に耳を傾ける。
「貴方が倒れているところを発見したのは、パトリックです。彼が私に倒れている人がいる、と駆けつけ教えてくれました」
「………」
「正直、あの時の貴方は、もう死んでいた、と言ってもいいくらいです」
パトリックもそのようなことを話していた。
ほぼ瀕死、いや死亡したような状態で見つかった。
それでも完全に斃れ閉ざした訳では無かった。
生と死の狭間を彷徨う徘徊人のようなものだったのだろう。
あのような無茶をすれば、そのような状況になるのも無理はない。
「瀕死であった貴方を助けるためには、普通の治療をしていては間に合わない。いや、そもそもあの状態であれば、普通の治療を施したところで、目覚めることは無かったでしょう。私はパトリックと、貴方の命を助ける選択をしました」
「……、ありがたい限りです」
「私は、パトリックに言われたことをしたまでですから」
………。
嬉しくはあるが、少し寂しいというか、悲しい。
いや。
見ず知らずの男を助ける心境など、その程度のものか。
パトリックは話していた。
人を助けることに出身は関係ない、本当は誰にでも救いがあるべきだ、と。
今まで多くの死地で多くの人と関わってきた。
護られた命もあっただろう。奪ってしまった命も多くある。
だが、普通は他人が他人にかける事柄など、そう深い心意気があるものではないのかもしれない。
すると、彼女は自らの懐、スーツのポケットから、光る透き通った大きな石を取り出す。
「この石が、今の私が持つ石。これを使って、貴方を助けました」
「………?」
「ああ、補足するとだな、彼女の魔力適性は『支援魔術』なんだ。その石もそう、誰かを治癒する、自分を治癒する効果に長けている。もちろん、それだけではないけどな。その手の話は知っているかな?」
支援魔術、と聞いて彼はそれに反応した。
王国の魔術本にもそのような記載があったことを思い出す。
主に、魔術として使用できる分野は三つ。
【攻撃】 【防御】 【支援】
支援魔術の中に、治癒魔術という種類のものが含まれている。
誰かを治療したり、傷による深手の影響を軽減させ、早期回復を促す効果をもたらすもの。
三つの型の中で最も高度な魔術と言われており、その担い手を見つけることがまず不可能とまで言われている。
彼女が支援魔術を使う魔術師であるのなら、希少価値というレベルを超えた存在とも言えるだろう。
そして、支援魔術は他の魔術に比べれば、遥かに魔力消費量が多いとも言われている。
フォルテさんは、
そうまでして自らの石を使って自分を助けてくれたのか。
そう思うと、感慨深い。
「はい。支援魔術は……その、最も会得し辛いもの、と聞きますが……」
「型は知っているようだな。確かにそういう言われ方もする。術者としては使い慣れればどうってことも無いが、如何せんこれを使える人が世の中にはいない。だから、そういう評価をされるのだろうな」
「貴方は、王国でそうした魔術の享受を受けたことがあるのですか?」
フォルテが彼にそのような疑問を投げかける。
享受というものではない。
マホトラスとの戦闘を経験し、相手に魔術師がいるという判断を付けてから、彼は王国の上層部、王家の者たちに情報の開示を求めたのだ。
限定的に彼のみがそれを許され、その時は王女エレーナと共に情報を閲覧したのだ。
王女の名前までは口にしなかったが、そのような経緯を説明する。
「……、やはりマホトラスには、魔術師がいるのですね」
と、無表情ながらその言い方は魔術師という存在を危惧する、警戒する言い方であった。
それが分かる彼女も魔術師だし、恐らく魔術師同士そういった存在には警戒するものなのだろう。
彼でさえ、殺される覚悟をしたうえでの戦闘を経験してきたのだ。
ウェールズ王国を潰しにかかるマホトラスに魔術師がいて、一方ウェールズには魔術師がいない。
昔、王城に魔術師が務めていたという時もあったそうだが、マホトラスとの内乱が始まった頃にどこかへ消えてしまった。
「それで、疑問点というのは……」
「石を使って貴方を助けた時のことです。魔力を得るためには、魔力を帯びた石に触れる必要があることはご存知ですか?」
「はい。………ん」
――――――ということは、私は既にその石から魔力を受けている………?
「そうなります。普通であれば」
………確かに、それは納得できる。
あの本にも書いてあったように、まず魔術師になるためには、根本からなる魔力を得なくてはならない。
魔力を得るためには、魔力を帯びた石に触れることが大前提だ。
それから人の適性と、魔力の適性とが適合すれば、そこに魔力の行使をするための準備を行うことが出来るのだろう。
つまり、俺の身体は、助けられたその瞬間に、彼女の持つ石から魔力を受けた。
その力を作用させ、彼女は俺を助けてくれた。
「………ということは、その石が持つ適性が私に乗り移る………?」
「はい。”本来であれば”そのはずなのです。石が持つ魔力の適性は、物にもよるのでしょうが、基本的には接触することで相手に移すことが出来ます。つまり、この石が持つ支援魔術の適性と、貴方の適性とが適合した場合には、貴方は支援魔術を会得することが出来る。たとえば、既に魔術師として適性のある魔力を持った者に、別の魔術師の石を接触させたとします。その場合には、術者に二重適性の魔力が送られることになり、魔力の混同が起きます」
「魔力の混同?」
今まで本で得たような情報もあれば、初めて聞くような話もある。
目の前の本当の魔術師を交えて話をすると言うのも、彼としては妙な機会と言うべきだろうか。
「魔力の混同とは、文字通り自分の持ち得る魔力適性とは違うものが入り込むことです。人は魔力との適合が出来た瞬間から、その適性を第一とします。ですので、他の魔力適性と適合しようと魔力が混同すると、術者の魔力適性が混乱し、重傷を与える恐れがあります」
「……なるほど。つまり同じ一人の人間が、複数の石から魔力の適性を受けたり、魔力の供給を受けるということは出来ない、ということですね?」
「基本的にはそうです。もっとも例外があるとも聞きますが………。魔力の混同は、魔力の行使にも影響を与えますし、術者の身体的な負担も大きいものになります。ですから、基本的には術者は一人につき一つの石を所有し、他者の所有する石には触れないようにします」
魔力の混同による術者の影響は、身体的な影響のみならず、魔力を行使することそのものにも影響を与えるものだという。
自分が所有する石の魔力適性と、別の石が持つ魔力適性とが混同することで、適性が混同し今まで使うことが出来ていた魔術が行使できなくなる場合もあると言う。
所謂、適性の上書きというものである。
たとえば、低難易度の魔術行使を基本とする石に、高難易度の魔術行使を基本とする石がぶつかり合うと、強い力を持つ高難易度の魔術適性が体内に流れてしまい、低難易度の魔術を行使できなくなってしまう。
しかも、高難易度の魔術は行使自体が難しく、魔力の消費量も激しい。
そのために、適性を上書きすることは推奨されない行為だということをパトリックが補足してくれた。
ただ、フォルテも言うように例外も存在すると言う。
そのような人たちを見たことは無いが、稀に二種類の適性を持つ魔術師もいるのだという。
魔力行使の型となるものは、主に三種類。その種類一つひとつから、適性が幾つも分類されていく。
例えば、攻撃魔法であれば、大地を成り立たせる五代元素の一つひとつが、適性の一つとして数えられる。
風を使うものは風の適性を受ける。
が、稀にその種類が複雑に混同している魔術師もいるのだという。
彼女の使う治癒魔術も、支援魔術の中の一適性と言える。
「ですから、魔力を持つことのない貴方は、私が持つ支援魔術を基本とする魔力を受けているはずです」
理由はいたって簡単。
彼女が彼を救い出す時に、その石を使用したのだから。
一つ、何も入っていない器がそこにあるとする。
アトリは何の魔力も受けず適性も持たないため、空の器に注がれる支援魔術の適性で器は満たされる。
それが人と魔力との適性で適合した時は、魔力を行使するための支援魔術の適性を受け、使用することが出来る。
もし適合しなかった場合は、ただ支援魔術を使用できるための魔力が体内に残ることになるが、魔力を行使することは一切出来ない。
つまり、宝の持ち腐れである。
考えてみれば、適合しないと分かれば別の適性を上書きして、別の魔術を行使できるようにするのも一つの手ではあるだろう。
だが、石がそう簡単に見つかるものでない限り、それも愚策と言うべきなのだろうか。
剣に内蔵された石に彼が触れることは無かった。
そのために、剣をもらった時にその魔力の適性を受けることは無い。
「ですが貴方の場合、私の持つ魔力を一切受けることが無かったのです。適性も、魔力も、すべて」
「………え………?」
何も魔力に触れたことも無い、石にも接触したことの無い人間が、魔力の石によって助けられた。
石がどれほどの効力をもたらすかは分からないが、死の淵にある人間をここまで復活させるほどの高位魔術なのだろう。
その石の効果も絶大なものと見る。
にも関わらず、その石の適性はおろか、魔力すら一切受けることが無かった、と………?
「……、確認しますが、私を助けるためにフォルテさんの石を使用したんですよね。であれば、その石が持つ適性と私とが適合せず、ただ石の持つ魔力が私の体内に残ってしまった、ということでは……」
「いいえ、違います。普通であればそうなりますが、貴方の場合は違う。確かに私とこの石の魔力によって、貴方を助けることが出来た。ですが、私の魔力は貴方の体内に留まることは、一切なかったのです」
………どういうことだ………。
元から空の器に入るはずの魔力さえ、俺は拒否したということか………?
彼の中で疑問が更に浮かび上がる。
フォルテの言うことは納得できるし、パトリックの表情を見てもそれが事実であると察することも出来る。
元々何もないただの器に魔力を行使することで、その者の身体に魔力を通すことが出来る。
そうすることで、術者の魔力が何もない人間の器に入り、器を満たすことが出来る。
それが普通の考え方だ。
だが、アトリはその魔力の恩恵は受けても、その魔力を体内に保有することが無かった。
空の器だというのに、その器は彼女が持つ適性の魔力を体内に保有することを拒んだのだ。
「それを、確かめる方法は………?」
「そいつは、普通であれば今のお前さんには無理なことだ。けれど、俺たち魔術師には出来る。魔術を会得する者は、他の魔術師の存在に気付きやすい。魔力の適性が違ったとしても、根本としては魔力であることに変わりはないんだからな」
「はい。何度も適性適性、とお伝えしていますが、その大元となるものは主に二つです。魔力には型もあり、型によって種類も分かれ適性も分岐する。ですが、それ以前に私たちは石という存在から魔力を得て、石もまたこの世界から魔力を得ているのです」
「この世界から、魔力を………?」
「呼び名こそ違うものもあるかもしれませんが、一つには『生命を司る力』、もう一つには『大地を司る力』があります」
生命を司る力。
あらゆる魔力の大元とも言える存在で、人間界のあらゆる活力の源。
魔術や術者にとって、力とは神秘的なものでありながら、魔術の根源に至るものとも考えられている。
目に見えることの無いものであったとしても、人が生きるこの世界のあらゆる物、事にこの力が作用している。人間の状態、道具の状態、数え切れないほどの物や人の状態に、生命力が纏っている。
魔力を構成する一つの特性とも言え、この力があることにより、魔術行使による影響を自分や相手に与えることが出来る。
大地を司る力。
あらゆる魔力の大元とも言えるもう一つの存在で、自然界のあらゆる活力の源。
マナと同じく神秘的な存在とされながら、自然界に常に流れ人間や生物、植物らと同じように生活をする力と考えられている。
マナと同じくして目に見えないものの力と考えられているが、魔術の適性を与えたり、魔術の適性における効力を現実世界に投影する影響力がある。
その代表たるものは、自然界における五代元素とも言える、地、水、火、風、空の力。
五つの力を束ねつつも、分離させつつも、それらすべてをこの自然界に流し込み、一つひとつが息を吹き込むように生かしている。
魔力を帯びた石というのは、人間を対象とした術者にこの二つの大元の力を複合作用させ、それらによって得られた情報を人間自らが行使するというもの。
これらの力が作用することにより、魔術行使が現実世界で形を成すものとして実現するのだという。
どちらが良い悪いというものでもない。
両方ともバランスが常に取られ、常にこの大陸、この世界に生き続けている源なのだ。
「まぁ、そう言われてもはじめはピンと来ないだろう。程度魔術に心得がある者なら、魔術師が近くにいるとその存在を感知することが出来る。まずはそれを覚えておくといいさ」
「………」
「先程…昼間のことですが、貴方は鍛錬中に私に見られていることを、すぐに知覚しました」
「………あ」
そういえば、そんなこともあった。
彼が木材で素振りをしていた時、不意にその存在に気付き彼はすぐにその方向を向いた。
視線の先には、縁側で立ち彼の姿を見続けていたフォルテの姿があった。
彼女はその時の話をしているのだろう。
「実はあの時、失礼ながら貴方を試させてもらいました。パトリックも言うように、魔術師としての心得がある人はもちろん、そうでない人も条件が揃えば、魔術師の存在を感知することが出来るのです。私はあの時、通常生活時には絶対に発しない程度の魔力を気に変えて放出した。そして貴方は、それにすぐ反応したのです」
「……………!」
………。
――――――ほう、まさかこんなところにもいたとはな。
――――――……まぁ良い。事を急く必要はない。私も独断が過ぎたというものだ。
――――――私は気配を消しながらここにやってきました。にもかかわらず、その速度で反応できたと言うことは……。
………これは………つまり………。
「その条件、とは………」
彼の中で、数多くの記憶が蘇る。
初めて対峙した魔術師、月下の槍兵の記憶。
「………」
全く覚えがない訳ではない。
あの瞬間、明らかに自分の力以上の速さが出ていた。
そして、あの男はそれを見て、驚いていた………。
「身体の内に………」
………あの晴天下で会った黒剣士の時も、そうだ。
体勢を崩され、相手の剣戟が自分の身体を直撃する寸前に………。
そして、黒剣士も同じように、それを見て驚いていた………。
「既に………」
………そして。
気配を消しながら俺を暗殺しにやってきたという、あの女性に対しても………。
彼の中で再生される、幾つもの時間の記憶。
ここ一ヶ月あまりで経験してきた、あらゆる現象。
幾多の戦場を超え、幾つもの対峙を乗り越えてきた。
その要因の一つに、不可解な現象があったこと。
自身の力ではない何かが作用し、まるでその事実を自ら起こしたかのような、事象。
そして、ハッキリと残るその時間の記憶と、
彼女の説明とが、今この瞬間にかみ合う。
「………魔力を得ていることが、一つの条件です」
………。
3-8. 内なる事実(Ⅰ)




