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Broken Time  作者: うぃざーど。
第2章 混迷の戦時下
54/271

2-30. 託された未来(Ⅰ)



「……何……」




一時戦線は膠着するかに思えた。

絶対防衛線で戦闘をし続ける両軍。共通して言えるのは、戦闘が長時間となり犠牲者が拡大し、またお互いが疲弊しているということ。

バンヘッケンの郊外が死地となり戦闘が行われていたが、広範囲にわたり戦場が拡大したことによって、両軍ともに状況把握が難しくなっていた。

誰が生きており、誰が戦い続けているか、など分かるはずもない。

だがそこへ、状況を一変させるほどの存在がウェールズ王国軍の前に現れた。


黒剣士ブレイズと、長刀使いのリッター。

この二人の名前を知る者は、この戦場に誰一人いない。

だが、強いて言えばブレイズに対してはヒラーと面識がある。

かつて、アトリが死地の護り人としての任務を遂行していた頃、マホトラスの動向を掴み派遣された先で接触した兵士の一人だ。

ヒラーは、この黒づくめの男がどれほどの力量を持っているか、把握している。

一から戦った訳ではない。

熟知するほどの時間があった訳でも無い。

ただ、絶対に消えないであろう印象が目に焼き付いている。

誰にも言うことのできない真実を持ったその男の正体は、魔術師。

魔術師には魔術師でしか対抗できない、と言うのが魔術師を知る者の知識のようなもの。

アトリと共有した、答えにならない一つの回答がそれだった。

つまり、魔術師と接敵した時点で、普通の兵士には勝ち目がない。

ヒラーとグラハムが再び発生した戦闘で前線にやってきた時には、たった数分で夥しいほどの死体が山積みのようになっていた。

そのような残酷な光景を、たった数分で、しかも二人だけで起こすことが出来てしまう。

魔術師とはそういうもの。

戦いに利用するとなれば、彼らを相手に数など関係ない。

たとえ数で有利になったとしても、根本の戦闘が一般兵とは全く違うのだ。

今まで魔力の行使を確認したことは無いが、アトリから受けた槍兵の行動、そして自分自身が見たアトリと黒剣士との戦闘。

それを見れば、この男たちがどれほど強敵なのかが分かる。



それを前にして、味方の兵士たちが逃げ惑うのも無理はない。

そしてそれらを対峙した自分たちも、本来であればそうすべきであった。





「そうか、まだ情報が錯綜していると見える」


「アトリが……死んだだと……!?」




淡々と事実のように述べるブレイズに、驚愕の色を示すグラハム。

黒剣士の言う『偽善者』がアトリのことというのはすぐに分かった。

アトリは北西部の部隊に派遣されて以降も、戦闘を続けている。

複数回の撤退をしなければならないほど、北西部の部隊は壊滅的な状況だ、というのは既に知られている。

が、詳しい状況はやはり入って来ない。

情報がどれほど正しい成分なのかが分からないというのもある。

だが、目の前の黒剣士は、そんな偽善者たるアトリは死んだ、と告げているのだ。




「皮肉なものだな。他人の命を護るために戦い、その戦いで自らの命を落とすのだから」



「そんなはずはない!!あいつが、死ぬわけが……!!」



「そう思うのは勝手だがな。だがもし仮に生きていたとしても、身体を穿たれ海に転落した男が無事であるはずがない」




その黒剣士の言葉だけでも、ある程度の状況を推察することは出来る。

ヒラーは目の前の敵に驚きながらも短時間で分析をする。

既に海岸線にまで撤退を続けていた西部の部隊。

恐らくあの男であれば、兵士や民たちも巻き込んで撤退を続けていたことだろう。

それが、身体を突き刺され海に転落したと言うのだから、状況はより厳しいものとなる。

身体を貫かれただけでも、部位によっては致命傷となる。

特に臓を傷つけるようなものであれば、助かる見込みも薄れる。

だがそれに追い打ちをかけるように、あの男が海に転落したと黒剣士は言った。

大陸西部の複雑な海岸線で、どれほどの高さから落下したのかは分からない。

多くの海岸線は港で形成されるのが普通なのだろうが、王国領の西部は別である。

見たことは無いから想像でしか語ることは出来ない。

しかし、だとしても海に転落して誰かに救助されるような状況だろうか。



「………」



そしてもう一つ。

身体を穿たれたという黒剣士の言葉。

彼に傷をつける兵士はいたとしても、致命傷を負わせるほどの傷をつける兵士がそう多くいるとも思えない。

何しろ、この目の前にいる黒剣士でさえ、彼は普通の身でありながら切り抜けたのだから。

そう簡単に誰かに負けることなど想像したくはない。

それはヒラーの心からの願望に近いものであったが、そんな彼ですら負けてしまう相手。





考えられるのは、やはり魔術師。

そして、彼を退ける力を持ち得る魔術師の中で、この場に居ない者。

黒剣士でもなく、謎の長刀使いでもなく……知り得る限り、人の身体を「穿つ」ことの出来る武器を持った者は、ただ一人。

あの晩、増援を送ろうと準備を進め始めた中で帰還した、あの月下の出来事。

あの男が打ち明けてくれた、一人の存在。

そして、あの男が語ってくれた、ある事実。







覚えている。

覚えているとも。



あの夜の、あの男の話を。




『死地の護り人』と言われ、

王国領から外れた地域にある自治領地で起こる混乱や戦争を解決し、

戦いによって辛く苦しめられる民たちを護る。

それが、あの男の戦う目的の一つ。

自分の手で護れるものなら、そのすべてを護りたい。

そうすることで、その人たちが平和で幸せな時間を過ごしてもらえるのなら、それで良い。

あの男はそう言った。

だが一方で、自分の力の無さに護れなかった命が大勢ある、とも言った。





「…いつかのように、あのような悲惨な日になることも…」



「”あのような”………?」






――――――私は、彼らの未来を奪ったのです。すべて、一つの命も残さずに。








………。








何も言えなかった。

何も返す言葉が無かった。

ただただ、その事実があまりに衝撃的だった。

若くしてその判断を迫られ、導き出した答えがあまりに過酷であった。



だからこそ。

彼はいまだに自らを無力と判断し続けている。

たとえどれほど戦えたとしても、

どれほど優れた才能を持っていたとしても、

その信条が決して揺らがないものであったとしても。




護られたはずの命を、護ることが出来なかった。

救えたはずの命を、自ら摘んでしまった。

それが、あの男の直面した現実。過去に起こった事実。





傍から見れば、そのような話を聞いた時点で誰もが思うだろう。

どれほど自身の信条が何人にも冒されないものであったとしても。


それを持つ者の心は、既に折れている、と。





それを理解していながら、彼は剣を持ち続けた。

求められれば、何度でも戦い、大勢の人々を護り続けてきた。

子供でありながら、護り人としての責務を果たし続けてきた。

一度も敗れることなく、理解されることもなく。





そんな子供に未来はない。

……などということは、思いたくはない。

今隣にいるこの男とてそうだ。

どれほど苦しく辛い出来事が現実に投影されたとしても、

「それでも」と言い続けられるのなら。

たとえどれほど絶望に満ちた世界が訪れようとも―――――――。





それでも、彼らに未来が拓けるのだとしたら。









ヒラーは、その場で腕を組み片足を一歩だけ前に出した。

そして会話でさえ圧倒されている雰囲気の中、自身の言葉を放つ。





「なるほど、アトリ殿を倒したその男は、噂に聞く槍兵か」



「………」



「子供の身でありながら、この国の剣となり死地へ赴き、多くの人々を救ってきた男……それが偽善者に思えるのであらばそれは構わない。しかし、大人とて敵うことのない、ただの一度の敗北も、諦めることもしなかった男がもし本当に敗北(しぬ)とすれば、それはよほど強大な敵を相手にした激闘だったのだろう。だとしたら、その相手として考え得る可能性は、ただ一つ」







―――――――――そうだろう。マホトラスの魔術師よ。







え、と思わず隣で小さく声を出すグラハム。

流石にその単語に驚いたのか、眉を動かす長刀使いのリッター。

そして、微動だにしない黒づくめの剣士ブレイズ。

言葉を放った主の視線は、ブレイズでもリッターでもない。

身体は正面、彼らと対しながらも、その目線は隣にいるグラハムに向けられていた。

これまで以上に、その空間内に凍てつく空気が立ち込める。

グラハムにとっては今までに感じたことのない冷めたもの。

そして激しく動揺する要素である、ある一つの単語に対する疑問。

それを確認するように顔をヒラーに向けるグラハムと、そのまま視線を維持していたヒラーとの目線が合う。

真っ直ぐな瞳がまるで何かを訴えているようだ。

グラハムにはそう見えたし、そう思えた。


今この瞬間。

ヒラーは魔術師の世界における禁じ手を公表したのだ。

しかもその禁じ手を使った主は、誰も魔術師だとは思っていない、一般の兵士。

まさかその存在を知ろうはずもない、ただの男。

魔術師は魔術師であることを隠す。

もし明かしたのならば、時にそれが敵であれば殺す。

そして、魔術師はこの自然界において公となる人物にはならない。

魔術師の掟が勝手に彼らに抑止力として働いているし、彼らもそれに従っている。

だが今この瞬間、たった4人という小集団の中で、その掟は一瞬にして消えた。




「お前、自分が何を言っているのか分かっているのか」




長刀使いがそこで口を開く。

その問いにヒラーは頷くこともせず、表情を変えることもせず、ただ視線をグラハムから彼らに戻して、それが事実で既知であることを、その視線だけで伝える。

長刀使いリッターの確認したかったことは、その放つ言葉の意味が掟破りのことだと訴えるものではなく、その話が「この世の事実」であることを知って、なおそう言い放つのか、という確認のものであった。

魔術師が存在する。

そのような話はこの世界のどこに行っても聞いたことが無い。

精々物語の中の設定。

言葉で語られたとしても、それを事実と思う人はまずいないだろう。

明らかに空想で人の域を超えた存在として登場する、魔術師。

そのような異界の人間が現世に足を踏み入れているのだとすれば、それはもはや人ならざるものなのかもしれない。

だが、ヒラーはその存在を知っているし、その存在が目の前にいることを、隣にいるグラハムを含めて彼らに伝えたのだ。




「無論。事実であるのならいつか晒されることもある。こうなってしまっては、今の私にはもう隠す意味もない。…もっとも、私とて話す場所は考えたつもりだがな」


「魔術師…ま、魔術……それって―――――」



「グラハム殿」




恐らくグラハムも何のことか全くわからず、それを言った本人にその場でも確認したかったのだろうが、ヒラーはそんなグラハムの言葉も思いも断ち切って、自分の言葉を割り込ませた。

また、対峙する二人の剣士のことも無視して、ヒラーは鎧の中の上着を触り始める。

その間グラハムも、敵対する二人も動かなかった。

ただ数秒間だけ全くの沈黙がその場に訪れ、聞こえるのは遠くの悲鳴やら鉄の音やら足音やら、周囲の音だけになった。

数秒経過し、ヒラーが上着の懐から何か黒い巾着のようなものを取り出した。






その瞬間。

対峙する二人の男の表情が一瞬にして変わる。









「お、こ…これは…」




すると、手に持った黒い巾着を彼は隣のグラハムに手渡した。

姿勢も彼の方に向け、敵対する二人などお構いなしに、話をし始める。




「グラハム殿、ここは私に任せて、君は去れ」



「え………!?」





先程まで何十名も斬り殺して対峙した敵を目の前にして、ヒラーはとんでもないことを口にした。

相手は相当な腕の立つ剣士。しかも、ヒラー曰く魔術師だという。

魔術師がどのような存在でどのような強さを持っているのかは知らないが、明らかに絶望に満ちたこの戦闘。

そのような中で、ヒラーは二人で共闘するのではなく、子供であるグラハムに逃げろと告げたのだ。

驚かないはずがない。

二人であれば何とか戦える、とも思えないが、少なくとも全くの可能性を見出せない訳ではないだろう。先程の兵士が散り散りになった時もそうだったが、一人より二人の方が戦闘では安心できる。

心強い味方であるヒラーであれば、尚更だ。

しかし、そのヒラーもやや強い口調で、グラハムにそう告げた。




「いいか、よく覚えておくのだ。その包みの中身は、他の人間には絶対に見せてはならない、君だけのものだ。中の物に手で触れる時は、戦いから遠ざかった時にするように」





―――――――――これは、私からの餞別だ。





全く意味が分からない。

だがとにかくこれはヒラーの手向けらしい。

黒い巾着の肌触りは、中の何らかの物体に反応しているのか、冷たい感触であった。

そして、何か胸の奥がざわめいたような感覚を、この瞬間から覚えたグラハム。

中に何が入っているのかも明かされず、ただこれを敵から離れた後に触れるよう言われた。

得体のしれない黒巾着が何を意味するのかは、敵から遠ざからないと分からない。

ヒラーはグラハムに逃げろと伝えた。

その意図は目の前を直視すれば明らかに無謀とも言えるのだが、この戦闘の状況を広く見れば状況は掴める。

目の前に現れた強大な脅威。

たった数分で何十名もの敵を殺してしまうほど、優れた技術と力量を持つ剣士。

それを目の前に、これ以上ウェールズ王国軍が戦っても犠牲が増えるばかりだと、ヒラーは直接そう言わずとも彼に伝えていた。

とすれば、既にこの絶対防衛線は陥落したようなもの。

バンヘッケンを制圧されれば、ウェールズ王国軍は拠点を失う。

町と拠点と命運を共にするのではなく、出来るだけ逃げて少しでも今後のことに備えるべき。

それが、ヒラーの言いたいことであった。

これ以上ここで無用な犠牲を払っても、ウェールズの為にはならない。

もとより、魔術師という存在を前に一極集中作戦は当てにならなかったのだ。

彼らを目の前にすれば、人外の兵士が普通の兵士を簡単に殺戮してしまうのも当然。




この戦いは、初めから敗北することが決まっていた。

しかし、それを知るのは魔術師の存在が事実であると知る人のみ。

それでも、戦わなければならなかった。

そうしなければ、何の為の兵士だろうか。





「いつかこの戦いは後に影響を与えることになる。だが挫けるな。諦めなければ、決して未来は潰えない。それが、未来を救い護ろうとした者たちの想いだ」





そう言い終えると、再びヒラーは剣を両手に構え、敵対する二人の剣士と対峙する。

グラハムの中で、この一瞬の光景が何度も頭の中で反響していく。

ヒラーという男が放ったその言葉。

先代の国王やその周りの人たちが成し遂げようとした、未来のあるべき姿。

誰もが自由かつ平等で平和な暮らしが出来るという国。

その歴史の事実を含みながら放ったその言葉の数々。

グラハムは、すぐにそれを理解した。

一方で、これがヒラーにとって生者へ送る遺言になるということも、理解してしまった。

相手がどのような人であれ、たとえ何か打ち明けることのできない事情があったにしろ、戦わなければならない時もある。

負けると分かっても、救いが無いと分かっていても、それでも挑まなければならない時がある。

そんなものは偽善だ、何の意味もない、と目の前の黒剣士は言うのだろう。

だが、それでもなお堂々と立ち続ける男は、やがて二人との間合いを詰め、グラハムに背中を向ける。

ゆっくりと、ただゆっくりと構えながら歩いていくヒラー。

それに対し、その場に立ち続けるだけの二人の剣士。




その背中は、逞しく、広い。

彼を含む視界に写る本来の景色は、どれほど美しく綺麗だっただろう。

しかし、今は絶望に満ちた死地に相応しい惨い世界。



にも関わらず、自分には何もできない。

何もしてあげられない。

出来ることと言えば、背中を向ける男が語った、未来の為に生きること。






だから今は、

その男に背中を向け走るしか、無かった。







………。






「おかしなものだな。世の中にはこんなにも秘匿すべき存在がいるのか」




ふん、と一言嘲笑うように、長刀使いは言葉を放った。

ブレイズはそれに同調しつつ少しだけ感心しながら、間合いを詰めてきたウェールズの兵士に身体を向ける。

二人の明確な脅威と対峙するのは、ただ一人の剣士。

歳は若くもなく、髭も生やし姿は不格好。

しかしそれでも逞しい身のなり方は、その男が紛れもなく兵士であることを証明するものであった。

リッターがそう言った後、ブレイズもすぐに言葉を放つ。




「しかし妙だな。あの巾着が出てくるまで、お前の存在を感知出来なかったが」




「……そうだな、世の中にはそういうことが出来る者もいる。見せたものだから言ってしまうが、あれには認識阻害の術がかけられている。術者が携えている間は決して外部には広まらない」




ブレイズの問いに対して、ヒラーは敵であれ事実をただ親切に言葉を並べてそう伝える。

認識阻害の術。

それは、紛れもなく魔術師が扱える者。

魔術師は魔術師に近づくと、その存在を探知することがある。

あらゆるところに浸透する魔力を肌で感じ取り、相手が魔術師であればそれを察知する。

魔力を持つ者であれば気付かれる可能性もある。

いくら表向きに魔力を放出しないとはいえ、魔術師同士が会えば完璧に秘匿することも容易ではない。

だが、ブレイズとリッターは、ヒラーが黒い巾着を表に出すまで、目の前の存在が普通の兵士であると思い込んでいた。

だが、その瞬間にそれが間違いであると気付かされ、一気に表情を曇らせた。

何十人という敵兵に囲まれるよりも、一人の魔術師と遭遇する方が、魔術師としては警戒する。

自身が魔術師であるように、相手も魔術師の在り方をしっている。

とすれば、自分の存在が知られることは、自分の弱点を晒すことにもなる。



もっとも、ヒラーは黒い巾着を取り出した瞬間に、

認識阻害の術を解放した。

使用者が遠く離れてしまえば、いずれにせよこの術は強制解除されてしまう。

しかも、二対一という状況と、劣勢に陥ったウェールズ軍の醜態。

その有り様を見て、ヒラーは確信したのだ。

ここで自分がすべきこと。

そして願いあの少年に手向けた。

今後あり続ける未来の為に。




「健気なことだ。態々あの時も私の存在を知っていながら、ずっと隠していたとはな」


「だが、この瞬間に解放して良かったと思っている。そうすることで、彼らに未来を拓いてもらうことが出来る」





――――――馬鹿げたことを。ただの少年に”この世のまがい物”を委ねるなど。





――――――それでも私は信じる。少年たちの征く道、この世の未来に、私は希望を持つ。










………。









「……、この世の未来、か」




ブレイズが、そう小さく呟いて会話は終わった。

これ以上、会話を必要としない。

必要とするのは、ただ目の前の敵と戦うための剣戟のみ。

彼らは等しく敵。

彼は紛れもなく敵。

敵であるのなら、語り合う言葉は要らず。

自らを証明し、自らを立たせるための武器だけが、この場に必要とされた物。

戦いでしかそれを証明できないとあらば、戦いによってそれを示そう。

それが、両軍に共通したものなのだから。





しかし。

その当たり前の考えの隅に、

この男の言葉。





『この世の未来に、私は希望を持つ。』






この時の光景が、言葉が、

黒剣士ブレイズの脳裏に焼き付いたのであった。






2-30. 託された未来(Ⅰ)






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