1-19. 死地での激戦(Ⅰ)
「隊長…指示を」
「分かっている。アトリ殿、戦闘中は貴殿を援護できるかどうか分からない。王城からの派遣者をお護りできないのも不甲斐ないが…ご容赦願う」
「気になさらないで下さい。目の前に集中するのみです」
ヒラー隊長はアトリを気遣ったが、彼はそれを無用な心配だと言い宥めた。
もとより兵士として、剣となり戦う身。兵士たち同士では、互いに敵と戦うことでそれが援護と言う形にもなる。
態々固定して護衛をつけさせるものでもない。
これが対一般の民たちであれば話は別だが、民たちの移送には既に他の兵士たちが護衛についている。
少数の戦力で目の前に広がっている大勢の「脅威」と対しなくてはならなくなった。が、何としてでも時間は稼がなければならない。
幸いと言えるかどうか、民たちが移動を開始してから奴らは現れた。
町は既に防衛線に変わっており、民たちはほぼいない。
移送されていると気付いて追手を出す頃には、遠くまで逃げきれているだろう。
尚更、ここで食い止める必要はあるが。
「皆の者!!」
町の外周。
遠い距離にあった脅威が近く迫っている。
既にお互いの距離は数百メートルほど。相手も自分たちの存在を確認してか、
一度進軍を止め左右一列に整列している。
その立ち振る舞い、尋常ならざる戦いの予兆であっただろうか。
アトリはそのように感じていた。
厳しい戦いになる。だが、意義のある戦いだ。
避けられないものであれば、出来るだけ相手を排除しなければならない。
そのうえで、生き残る選択肢も捨ててはならない。
ヒラー隊長が同じく左右に整列する兵士団の中央で声を上げる。中には町に残って一緒に戦うと言った民たちもいる。
彼らとて、自分たちの領土を、生活を、護りたかった。
その手で、確かに。
「敵はこの領地のみならず、王国にとって脅威となる存在。既に幾つもの領地が奴らの手に堕ち、その余波は民たちを震えさせている。いつまでもそのような脅威を野放しにしておく訳にはいかない!!…だが、今この場では奴らを滅ぼすことなど到底出来ない」
―――――耐えるのだ。耐え抜くのだ。耐えて耐えて凌ぐのだ!!
刹那。
整列した兵士たちの口から大きな声があがり、瞬く間に大地に響き渡る。
男たちの叫び。この戦いにどれほどの意味を求めるか、どれほどの価値が求められているか。それを身を持って証明するために、戦うと決意した者たちの叫びだ。
見た目で既に数は劣勢。相手の噂を察するに、強力な兵士団。
だが、はじめから勝ち目がないとは言い切れない。
少なくとも、兵士として、王に仕える国の従者として、出来ることはある。
それに、男たちも、民たちも、全力を尽くすと決めた。
アトリも静かに。
だが、確かに力強く、拳に握られた剣の柄を握りしめる。
「攻撃せよ!!!」
「うおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!!」
さらに直後。
ヒラー隊長の一声が男たちを動かす。
駆けだしの一歩は整わずとも、進む方向に一切の間違いはない。
敵は自分たちに対し、自分たちは敵と対す。
対峙する両陣営の構図に何ら変わりはない。
『夜明けの烽火』
霧の晴れてきた晴天の青空の下、一斉に両陣営が駆け出し前進していく。
お互いに雄たけびのような声をあげながら。はじめは剣を交わさず、その声のせめぎ合いとなった。
やや起伏のある大地の表面に声がこだまする。
美しい自然の上を、鉄の塊を被った人間たちが疾走していく。
その姿を見れば誰もが両陣営はこれから戦うのだ、と分かるだろう。
かの一声が、奴らの行動が、すべてを「戦場」へと変えていく――――!!!
キイィィン、ガキィンッ!!!
領地の町外れ、大地のうえで次に声ではなく、鉄の塊が削り合う激しい音が鳴り響く。
剣の種類は実に様々。短いものから長いものまで。装備の物もばらばら。
だが、「奴ら」の身に着けているものは、奴らの間だけでほぼ統一されていた。
特に鎧の色はややグレー色に近い白色に包まれており、頭部を守護するためのヘッドヘルムは黒に包まれていた。
身体の大部分を防具で覆っている兵士たちと、バラつきで身体の一部分を護っている兵士たち。
ただ、両者とも変わらないのは、相手を倒そうとしていること。
相手を斬り倒し、その果てに得られる結果をもたらすこと。
その意思、信念は決して揺るがない。たとえこの大地が世界とは隔絶された戦場と成り果てたとしても。
「てやあぁっ!!」
「はっ!!!」
鉄の響きと交わるようにして、両側の声が入り乱れる。
剣は主の魂を受け、相手の懐を打つために攻撃行動に移る。
主は魂の限り身体に命令を送り続け、行動を継続させる。
左右一列に並んだ兵士団、双方の牙が交わり剣戟を発生させる。
時より鉄の塊が交差する火花を発生させる。
力強く、早く、正確に。
両者の攻撃は次々と続いていく。
ヒラー隊長も最前線に出て戦いに乗り出した。奴らとなる相手兵士の攻撃は正確かつ力強く、一人ひとりと対するように動き方を工夫した。
幾ら戦闘経験があるからとはいえ、囲まれては思うように戦いもできない。
複数を相手にすると厳しいというのであれば、出来るだけ一対一の状況を作り出し、相手を誘い出して攻撃する。
「うわぁっ!!」
「…!!」
それはアトリとて同じことであった。
彼は相手からの攻撃をすべて受け止める。剣戟によってではなく、防御によって。
ひたすら剣戟が放たれる相手からの攻撃を、流すようにして受け、そして隙を見ては攻撃を加える。
その攻撃速度は素早く、相手が反応するより早く相手の懐を貫いた。
臓を貫き、肉を寸断し、骨を断ち斬る。
静かに、だが強気にアトリは敵を殺す。ただ一度の剣戟が相手を絶命させる。
武器さえあればこのようなことも可能。
人が何年何十年も積み重ねてきた時間を、命を奪うことによって否定する。
それが出来てしまうのも武器であり、それを扱うのは人間のすることだ。
だが、そのような状況でさえ戦わなければならないというのなら、戦う以外に道は無い。
突き差した剣を、相手の身体を蹴り倒すようにして抜き取り、次に向かってくる敵兵士を相手にする。
「このぉっ…!!」
「…くっ…」
しかし順調には進まない。
はじめからこの戦いは逃げる民たちの時間を稼ぐもの。
そこに勝利はない。が、敗北は存在するだろう。
相手の力強い剣戟に押され、アトリは二、三歩後ろへ下がる。
よろけを取れた相手はそれを見逃さず、すぐさま突きを入れてくる。
激しい刃の一閃に、彼は破壊されていない手の甲を護る防具で受け止める。
瞬間、防具は破壊され腕に衝撃は発生するが、腕の力で相手の剣を押し返し、その隙を突いて再び一度だけの太刀を浴びせる。
血潮が降り注ぎ、間合いを取ってもその死体から溢れ出る赤黒い血に染められるのが分かる。
最早防具さえしていないアトリ。元々彼自身が重装甲を好まないものだったが、敵兵士からすればそのような兵士など自殺行為に等しいだろう。
しかし、アトリは確かに相手の剣戟を受け止め、受け流し、その隙をついて斬り倒していた。
次から次へと現れる敵兵士。間髪入れずに、続いて複数の脅威がアトリに迫る。
「アトリ殿…っ!ぐっ…」
数では劣勢。力は相手が上。技量にも劣る。
だがそれでもこの場を維持できているのは、一人ひとりの努力が現実に現れている証拠なのだろうか。
相手はただ自分たちを殺せば良い。
しかし、自分たちは相手を倒すだけでなく、時間を稼ぎ護らなければならない人たちがいる。
その思いが戦闘にぶつけられていたのだろうか。
複数人に囲まれながら戦いを続けるアトリに、声を荒げるヒラー隊長。
だがヒラーとて目の前の敵を放っておくわけにもいかない。
アトリの援護に行きたいところだが、その余裕はなかった。
まるでついこの間の、アトリの立場のよう。
ヒラーはそれを知らないが、アトリは味方の兵士も、味方となる自警団の民たちも護ろうとして、その余裕が無かった。
自分の戦いで精一杯。それでも負けることが無かった彼の姿。
子どもにしてはあまりに豊富な経験を持ちすぎてしまった、兵士の姿。
そこに大人と子供を分け隔てるものなど無かったのかもしれない。
「はぁっ!!」
「うっ…!」
―――――しまった、斬り込まれたか…!
赤い液体が流れ、衣服を侵食していくのが分かる。
よく考えれば、防具をほぼ身に着けていない者が真っ先に狙われるのも、当然のことだろう。
刃で鎧を突き刺すのとは違い、刃で相手の肉を断ち切ることが容易に出来るのだから。
彼は敵兵士からの直撃を受け、左肩から出血し始める。
胴体でないだけまだマシだ、と思い切り、防御に徹していた彼が急に一歩踏み込んだ。
これまで防御に徹していた者の姿が一変し、その一歩が兵士たちにとってあまりに速く見えた。初速の駆け出しから剣の一閃に至るまで、数秒と経たずに入れられた。瞬きをする暇などない。そして、受け止められるような速さでもない。
「何っ…!!」
その兵士にとっては悪夢の到来であっただろう。
敵の左肩に直撃を入れ、怯んだところ次の一撃を加えようとしていたところ。
だがその一瞬に相手は自分の懐まで踏み込んできた。衝撃的な瞬間。回避すら間に合わない疾風の一閃。今までただ攻撃を受け、流していた者の姿とは思えないほどの力量がそこで発揮される。
彼は自分に直撃を浴びせた兵士を、僅か数秒後に絶命させていた。相手の心臓を深く抉り、身体の内部をことごとく破壊する感覚を貫く。
あまりに速い、その攻撃を目の当たりにした他の兵士たちが驚きを隠せない。だがそうも言っていられず、次の人がすぐさま攻撃を仕掛ける。
今までの姿は何だったのか。これを見せるための余興に過ぎなかったのか。
―――――王国には、こんなにも強い兵士がいるのか。
ヒラー隊長率いる兵士たちは、今敵となる奴らが相当に強い存在であることを実感させられていた。
ではその逆はどうか。
彼らが対峙した相手、アトリに対しては一瞬でも強い、勝てないと思う人たちがその場で続出した。
アトリの一転攻勢を目の前で見ていた者たちや、その攻撃を今も何とか防ぎ続けている者たちの直観である。
彼がただ防御で相手の隙を突こうとしていたのは、反撃の隙を伺うだけでなく、防御から攻撃に転じるこのギャップを戦力の一つとして考えていたからなのだろう。
戦いながら横目でその様子を見ていたヒラーにも、内心で驚きが発生した。
子どもでありながら、あれほどの瞬発力と力強い剣戟を振り下ろしている。
いや…違う、そうではない。
先程から感じていたではないか。
兵士という器、道具そのものに、大人も子供も関係ない。
分け隔てるものなど、本来無いのだと。
彼は静かに、だが強気に、攻撃と防御を繰り返す。
敵の兵士が放った垂直に下降する一振りを身体ごと回避させ、次の一撃に対応する。地面に激しい音を鳴らせ切っ先が折れたその剣を持っても、相手の兵士は攻撃することを止めない。
左方向に瞬時に避けた彼の姿を見て、その兵士は殺気立つ声を上げながら、続く第二撃目を右方向に繰り出す。大振りの剣戟。その姿を彼はよく確認しており、受け流すのは簡単であった。だがそれでは次の一撃も来るだろうと予測し、あえてそこに踏み込む。
二撃目とアトリの一撃が互いにぶつかり合い、激しい鉄同士の接触を生み出す。火花は散り、音は鳴り響く。だがその時点で勝負は決まった。
相手の兵士の武器は弾かれながら天を舞い、砕けながら地面へと降り立つ。
力の差は同等か、それ以上。アトリが真っ向から立ち向かえば劣勢になる。防御を交えて攻撃をすることで、相手の消耗も強いることが出来る。その技量は、相手の兵士から見ると計り知れない脅威となっていた。
アトリの一撃が頸動脈から胸部までを斬り裂き、痛みを感じることなく相手を斃してしまう。
一対一でなら、強い敵とも対することが出来る、と考えていただろう。ヒラー隊長も、他の味方の兵士たちも、複数人を相手にすると劣勢なのは揺るがないが、一人を相手に一人が戦うことが出来れば、まだ勝機を見出せる。そのつもりでこの戦闘を続けていた。
だが、今のアトリは複数人を同時に相手にしている。幾つも飛び交う剣戟を避けながら、受け流しながら、でも攻撃は一人だけに行い、すぐに回避行動を取る。
そうすることで、対峙しているのは複数人だが、攻撃を加えるその一瞬だけは一対一の構図を成立させている。
並大抵の技術ではない。
少なくともその光景を目にした味方の兵士たちは、そう思ったのだ。
男たちの激しい戦闘はかなりの時間を要している。はじめから数の上で劣勢であった王国正規兵たちは、いつの間にかその状況を逆転させている。
だが、戦えば戦うほど町の様相は荒れていく。
家の壁にまで血潮は飛び散り、地面には幾つもの破壊された防具や武器の欠片が散在している。
味方兵士の犠牲も増えているが、相手の兵士たちの被害も甚大だ。
はじめ、横一列に整列した状態から突入してきた兵士たちの姿を考えると、既に何十人という死体がこの町にはあることになる。
激しい戦闘はやがて町全体を使って行われるようになり、ある人は逃げ、ある人はそれを追いかける。そのような様子へと変化していく。
「くっ…まずい」
その中。
ヒラー隊長が一人の兵士を相手に苦戦を強いられていた。
激しい剣戟の末、右足関節部に切り傷を入れられ、右足に力が入りづらくなる。
更にその状態で鍔迫り合い、そして力押しで負けたヒラーは、家の壁に背中を激突させる形で転倒した。
口の中から血の味が一気に広がっていく。意図的にそれを吐き出しては、剣を杖にして立ち上がろうとする。
が、それを黙って見ているほど寛大な人間たちでもないようだ。
男の一撃が正確にヒラーの胸部を捉えようとした時―――――!!
「おっ…!?」
「アトリ殿…!!」
男の一撃に対抗し得る、もう一人の男の一閃が相手の一撃を防いだ。
強い衝撃が生じ、思わずその男は後ろに急後退する。
町の中では別の兵士たちが戦っているが、まさかここで急にアトリが現れるとは思ってもいなかった。
それはヒラーも今目の前に相手にしている男も同じ感想である。
そして、その男からすれば、とどめを刺す場面を邪魔されたアトリに標的が移っていた。
「間に合って良かった……」
「アトリ殿しかし、その男は…!」
分かっている。隊長が苦戦するというのなら、相当に手練れな兵士なのだろう。
心の中でアトリはそのように回答し、表面ではその表情と真剣な眼差しを見せてそう訴えた。
殺気の立つ目の前の男。今まで相手にしてきた兵士たちとは鎧の色が違う。ヘッドヘルムは身に着けていないが、その表情はよく窺える。
強い兵士から感じ取れる剣気というものを、アトリは強く感じていた。
しかし。
昨日対峙した槍兵のものとは全く異なる。
人が違うのだから当然とも言えるが、脅威であっても絶望的な相手とは考えられなかった。
「…黙って見てりゃいいものを、子どものくせに生意気な」
それが、アトリの聞いたその男の第一声であった。
問答無用で斬り伏せてくるような相手でもない、と率直に感じた。
生意気な、という言葉にどれほどの憎悪が込められていたかは、容易に想像できる。
兵士でありながら軽装甲。というよりは、鎧などの類は一切付けず戦う男。
そんな子どもまで相手にするのか、と呆れざるを得ない。
「黙って仲間の死を受け入れられるほど、粗末な生き方はしていないつもりだ」
しかし。
その言葉に多少の矛盾があったことを、アトリは発言後すぐに感じていた。
男は笑い、男は真剣な眼差しをぶつける。
そのような戯言、ただ人を護りたいだけの偽善者のすることだ、と軽蔑する。
「話が通じるような相手でもないようだ」
「最初っから通じる相手なら、攻撃なんてしねぇ」
もっともだ。
逆にその言葉を聞けて安心したアトリがいる。
そもそもこの相手に共生というものを求める方がおかしいのだ、と。
そして、この奴らに今まで多くの民たちが苦しめられている。
たとえ道は険しくも、この奴らを何とかしなければならない。
前から思っていたことではないか。
相手との戦いが避けられないのであれば、自分たちが護るべき者のために剣を取り、相手を斃す、と。
ただ、それだけのこと。
なら、その目的の為に全力を尽くす―――――!!
「はあぁっ!!!」
そして、若い兵士の一閃が瞬時に繰り出され、彼よりも年老いた男の兵士も同じように攻撃を繰り出す。
この両者の陣営に共生、共存などという答えは見出せない。
答えを聞く前から分かっていたことだったが、アトリはその可能性を捨ててはいなかった。
この時までは。
確かに、あの槍兵と対した時で既に、その可能性はほぼ捨てられていた。
だが、まだ活路があるとすれば、と若い感性なりに期待はしていたのだ。
しかし。
こうして戦ってみると、それさえ無駄な、無謀なことだと思えてしまう。
相手との共存が望めない?
それでも相手は自分たちを殺しに掛かってくる?
ならば、相手を斃して自分たちを生かし、人を護る道を取れば良い。
他者から見ればお互いの理屈をただ戦争という形でぶつけ合っているだけ、とみられるかもしれない。
そこにどれほどの意味があるか、理解されないかもしれない。
彼の行動、彼の信条、そして彼の姿そのもの。
だとしても、剣を取る以外に道は無い。
「この手で、護れるものがあるのなら」
あの時、そう決めたのだから。
彼の一撃は正確に男の身体の中央部を貫く。
剣先だけでなく、その根元に至るまで激しく貫通し、抉られる。
対して、男の一撃は空を切った。
アトリの攻撃は確かに相手を突き刺す一撃のもの。
それに対応した男の攻撃は、剣を薙ぎ払うことで相手を斬殺するもの。
男は真横に、右から左へ相手の胸部をめがけて斬り払う。
だが、アトリはその一瞬、極端に体勢を落とし、猛烈な速度で繰り出されているはずの剣戟をかわしてしまった。
その一瞬はあまりに速かった。男の攻撃は失敗し、彼の攻撃は成功する。
「フンッ…馬鹿者が。どうせ結末は、変わりゃしねぇ…」
だが、それが男の最期。
相手を軽蔑しながらも、静かに息を引き取る者の姿。
兵士としてなら、勝ちを得たアトリ。負けを知った男の末路。
この男が身に着けているワッペン、つまり部隊章と他の兵士たちの躯が
身に着けているものは一緒。
だがそこに、金色で縫い合わされた星の印があったそれを見て、この男が部隊長であることを知った。
「すまない、アトリ殿」
「いえ、お気にせず…周りも落ち着いてきましたね」
彼は血塗られた剣を振り払い、その血滴を落とす。
そして周りに脅威がいなくなったことを確認して、その剣を鞘に納める。
味方の兵士たちにも犠牲が発生してしまっているが、それでも数の上で劣勢だったはずの自分たちは、その状況をひっくり返していた。
ヒラーはその場に立ち上がり、何人もの起き上がらない死体を見る。
だが、その道を悔いていてはその先には進めない。
まずはこの場の戦闘を終結させ、逃げている仲間たちのもとへ追いつかなければ。
二人は町の大きな通りまでいく。
沢山の死体が転がっている、本来あるべき町の姿を失った光景。
アトリにとっては見慣れてしまった光景の一つ。
ヒラーにとっては物悲し気な、現実を知るような気分を得た。
隊長自らが残った兵士たちを集める。残り10名。
「…くそっ」
生き残った兵士の一人が、そう呟く。
それを聞くアトリの心境は複雑だ。それも経験がある。
それも現実だとしても、受け入れなければならない事実。
兵士たちの中には親しい者もいただろう。だが兵士となれば戦う道具。
そうだとすれば、その道具をいとも簡単に失ってしまうのが、戦争というもの。
「…遺品を集めろ。すぐに出る」
ヒラーとしても、そのような光景を受け入れられるほど心境が安らかでも穏やかでも無かったのだろう。
冷静に、いや冷徹に、その場の事実を目にしてそう指示を出す。
せめて残された兵士たちに出来ることと言えば、護るべきものを護ること。
そして、死んでいった者たちの記録を、記憶を、少しでも残すこと。
兵士たちが大通りの十字路から、味方の兵士たちの躯へ向かおうとした。
その時。
「その必要は無い。元よりお前たちの戦いはここで仕舞いだ」
直後。
胸の鼓動が一気に早まる。
急な強い刺激に、瞬時にその方向を振り返る。
その先にいたのは、全身を黒を基調とする服装で、両腰に剣を一本ずつ、二本の剣を下げていた男の姿だった。
1-19. 死地での激戦(Ⅰ)




