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Broken Time  作者: うぃざーど。
第4章 時間(セカイ)の歯車
133/271

4-21. 別動隊の出撃




その後のことだ。

翌日の昼間に開かれた会合にて、アトリは昨日の晩に話し合った作戦案を提示した。

フェデラー、ルイスの二人も彼とは異なる作戦を提示したが、彼のものとは性質が異なり、

本隊との全面衝突の中でどのように策を講じるか、というものに限られていた。

何も二人の作戦案が穴だらけであった訳では無い。寧ろかなり堅実的なものだった。

兵士たちが町の中や臨時のキャンプで待機し続ける中、彼らは1時間以上も同じ議題を協議し続けていた。

今後のウェールズの運命を変えるやもしれない一戦だ。

そう簡単に決められていいものではない。

だが、その中でもアトリの作戦案が広く認められており、“成功した場合”の効力は絶大だという期待が寄せられた。

無論、昨晩の借家の会合にいなかったアルゴスでも、この作戦の鍵は察している。

間違いなく魔術師が介入することを想定としたものだ。

具体的な部隊編成案も、同時にアトリは提示する。

これは、アトリたちが今朝話し合って決めたことだ。

主力部隊の指揮にはアルゴスとフェデラーが行い、その下にルイス、バーグマンと続く。

そして、別動隊の指揮を執るのは、アトリだ。

アトリに同行する上士は、その補佐であるフォルテ、そしてグラハムとクロエの三人。

本隊から割く別動隊の割合は、僅かに2割以上3割未満の兵士たち。

この兵士たちの割り振りも、すべては王城から本隊への増援部隊が行き届いているという前提の話だ。

本隊は接触と撤退を繰り返しながら、王城への別動隊の動きを待つ。

具体的な日時も示された。

主力部隊が敵本隊と衝突するまでの期間は、5日。

偵察の為に3日間の時間を要する。

その後、2日間で移動し本隊への攻撃を開始する。

別動隊が王城へ辿り着くまでの期間は、7日間。

つまり、今日より7日後に別動隊は王城および城下町への攻撃を行い、制圧する。

今日より5日目から7日目の間は、味方の主力部隊は攻撃と撤退を繰り返す。

城の制圧が出来た場合、別動隊は8日目にかけて移動し、敵本隊の背後を強襲する。

味方の主力部隊は、今日より8日目に全面攻勢に転じる。




「8日目の午前10時。全面攻勢に打って出る」





難点を言うのであれば、

味方の主力部隊は別動隊が城と城下町を制圧したことを知らされないということだ。

もし別動隊が城と城下町の制圧に失敗した場合、味方の主力部隊は8日目に攻勢に転じたとしても、

別動隊との挟撃作戦が展開できなくなる。

戦況でそれを確認することが出来た場合には、本隊は直ちに撤退するように作戦案には盛り込まれた。

南北から本隊を挟み込むという作戦が通らなければ、勝算の低い戦いとなる。





「これでいいのだな、アトリ。お前たちの行動にかかっている」



「はい」





失敗は許されない、と告げるようにアルゴスは彼に確認を取る。

それに対し、彼はハッキリと強く返事をするだけだ。

誰に言われるまでもない、たとえどのような状況であろうと、この作戦が開始されるには、

別動隊を率いる自分たちが城と城下町を制圧しないことには始まらない。

上士の中でもルイスはそれなりの心配を抱えてしまっていたようだが、もう話を変えることも出来ない。

別動隊に編成された者は、直ちに準備に取り掛かる必要がある。

明日に出発したとしても、6日後には城まで辿り着いていることだろう。

アルゴスの名において、別動隊たる先発隊の人員が発表され、明日の早朝に出撃することが決定された。

元々この町に来た時点ですぐに出撃することが分かっていた為に、それほど大掛かりな準備を必要ともしなかったのが現状だ。

会合がお開きになり、各々が解散していく中、アルゴスはアトリを引き留めた。

すぐ近くにフォルテもいる。




「何でしょう」




「アトリ。あの城は本来難攻不落であるべきものだ。敵もそれを承知で、城や町に細工を施しているだろう」





現在、ウェールズ王城外縁の城下町では、

城塞都市計画が進行中である。

無論、この二人にはそのような計画が進められている、ということなど知る由もない。

だがあらゆる障害が城下町や城にあるだろうことを、アルゴスも彼も予測している。

その中に、しかも少人数で立ち向かうことになるのだ。

たとえ魔術師という都合の良い存在を利用したとしても、一人や二人が戦争の根本を覆せるものでもない。

勝機は自らの手で引き寄せなければならない状況だ。

すると、アルゴスは。





「教えておこう。城の表口はすべて封鎖されているだろうが、それを回避して城内へ入る方法が一つだけある」




「っ………」




「城の東側の郊外に、荒れ果てた教会がある。王国が管理する建造物の一つだが、もう何年も前に使われなくなっており、今は扉に鍵をかけている。この教会の地下には物資を貯蔵する穴倉があるが、その穴倉から城内へ至る地下道がある」





アルゴスは衝撃の事実を彼に口にした。

城内へと至る地下道の存在。

今まであの城に何度も出入りし生活をしていた中でも、

全くと言っていいほど気付くことの無かった存在。

宝物庫への生き方とほぼ同じくらい秘匿されていた事実ではないだろうか。

アトリも、東側の郊外にある教会には覚えがある。

あれが教会だということも意識しないほど、ただ通り過ぎていただけの建物だ。

アルゴスが言うには、あれも何年か前までは使われていた。“人が出入りする”という意味で。




「元々この地に信仰というものはあまり栄えない。だが数年前までは、あの地下道はよく国の魔術師が使用していた」



「国の、魔術師が………!?」



「そうだ。マホトラスが生まれるより前は、国に仕える魔術師がいた。だが存在を公に出来ない以上、その行動も秘匿されるものだった」





彼はその存在を知っている。

かつて国には魔術師がいた、という事実は、今は亡きヒラー隊長や、行方が分からない王家の娘エレーナから教えてもらっている。

その内情までは知るところではなかったが、アルゴスの口からその一部が語られた。

マホトラスの叛乱勢力の台頭で、国は魔術機関なるものを抹消しにかかった。

魔術というものが外部に知れ渡るのを阻止するためである。

魔術はこの世の神秘の一つ、外界に触れられることのない幻想世界の出所のようなものだ。

世間に知れ渡ってはあらゆる混乱の種となるだろう。

国は魔術師を処理しようとしたが、結局逃げられてしまった。

マホトラスに魔術師が流れて行ってしまう可能性を、摘むことが出来なかったのである。

国の魔術師があらゆる調査活動に出る時は、出来る限り人目につかないようにする。

そのために使用されていたのが、城と東側の教会とを結ぶ地下道だという。

国の事態の時、魔術師たちはその地下道を通って外へ抜け、各地へ散ってしまったらしい。

地下道はその後、一部の上士と王家によって発見されたが、潰すことはしなかった。

事実は覆らない、もう彼らを戻すことは出来ないだろう。

だが、この地下道は非常時には使えるかもしれない。

ということで、封鎖せず出入りのみ行われていた教会そのものを封じることで、この道を世間から闇に葬った、というのが経緯だ。




「今は人が近づくこともない教会だ。何があっても不思議ではないが、必要であれば地下道を利用すると良い」



「………しかしその、地下道は城のどこへ繋がっているのですか?」



「無論、国の魔術師たちがいた地下組織の詰所だ。そこからでも城内へ侵入することは出来る」





一応確認をした。

その詰所に入って不都合なことは無いか、と。

いつか取り戻せるかもしれない王城とはいえ、一般人が立ち入るべきところでは無い。

国が繁栄を続ける中、その存在をずっと隠され続けてきた場所に、普通の人が入ろうというのだ。

だがアルゴスは、重要なものはすべて回収してもぬけの殻になっている、と言った。

城の出入り口が塞がっているのであれば、城内への侵入は厳しいものがある。

しかし、他の誰もが想像もしない侵入経路があるのだとしたら、それを利用する価値は充分にある。





「………分かりました。ありがとうございます」





アルゴスに礼を言い、家から出る。

今日は曇天の空。もしかしたらこの後に雨が降るかもしれない。





「アトリ。この後はどうしますか?」



「そうだな。補給物資担当の人と会って打ち合わせをしてくるよ」



「分かりました。では、私は一度家に戻ります。アトリの分も準備しておきますね」



「ありがとう、すまないな」





彼女としてはごく自然な対応だったのかもしれないが、

それが彼には心にじーんと来る優しさ、というものを感じられていた。

彼は笑みを浮かべて感謝の言葉を伝え、その場を離れて行く。

別動隊にかける人員はそれほど多くはない。本隊とも別行動となるので、

補給を受けられない状態となる。

せめて同行する兵士たちの食事だけは確保して行きたいと考えているが、それも一週間ほどある全日程を困らず過ごす、というのは厳しい。

そこで必要となるのが、迂回する町にある物資を分けてもらう、ということだ。

王城の東側から迂回するために、幾つか領地の町を通過することが考えられる。

本隊との接触が考えられるのであれば、東側の警備が厚いということは考えにくい。

目前に控えた戦闘に集中し、いずれ起こるかもしれない未来の戦闘に対処する余裕はないだろう。

彼の別動隊の作戦も、それを狙ってのことである。

だが、それでもマホトラスの兵士との接敵はあるだろう。

たとえ少数といえど、迂回して王城へ接近するという情報が知れ渡れば、何もかもが台無しだ。




出会う敵兵士は、すべて斬り殺さなければならない。





「非常時ということであれば、何とか工面してもらえるだろう。俺たちも国民の為に戦っている。いつまでもこの状況ではいられないというのが理解されれば、物資は分けてもらえるはずだ」



「………分かりました。そう信じます」






本隊との連携確認で、その場にはルイスもいたが、

別動隊への補給物資の移送は不可能であることが示された。

補給部隊を統括する上士と下士の間、中間職にいるロボス補給担当士官は、

町を干上がらせる訳では無いが、“明日勝つための措置”として、途中立ち寄る幾つかの町や村に協力を要請するように、アトリに助言を与えた。

国の危機にある中、国の為に戦おうという兵士たちが幾人もいるのだ。

今こそ、その彼らを支援するのも国民としての務めだ、と。

国の理想である自由や平等、生活の豊かさや幸福さという意味では、一時的に疎外されるだろう。

何しろ、戦う兵士たちの為に食糧をよこせ、とお願いするのだから。

受け入れてくれるという確証に近い考えは持ち合わせていたが、アトリとしては気乗りしてその方針を進めようと考えている訳では無かった。

だが、一方で思う。

これが勝つための手段に直結するのであれば、それも最善で最悪な選択肢なのだ、と。




町の中に戻ると、

小さな町だが明日の人員で出撃すると告げられた兵士たちが、準備をしている。

アトリはその途中何度も兵士たちに話しかけられた。

今の彼は兵士たちから見て、大いに期待されるまるで星のような存在だ。

“共に戦いましょう!!”、“活躍を期待しています!!”などという言葉が聞かれる。

義勇兵には今まで彼の存在はそれほど広く明らかにされていなかったが、

やがて噂が広まっていったのか、彼が強大な存在であることを盾に戦おうという意志を持つ者が多く現れた。

こうして彼は頼られていく。

広く普及されていく。

あたかも他人がそれを本人の本当の姿だと決めつけた、偶像としての自分が。




家に戻ってきた。

まだグラハムとクロエは帰って来ていないようだ。

既にフォルテは次なる出征の準備を終えていた。

食事も、またいつものように干し肉を詰めていく。とても健康的な食事とは言えないが。

だが、それ以外にも彼女が用意しているものがあった。




「………?フォルテ、それは?」



「あぁ、これは夜ご飯です。今日は私が皆さんの分を作りますから、アトリは少し休んでいて下さい」



「し、しかし良いのか?量が多いし手伝えるけども」



「はいっ。お任せ下さい」





彼女はハッキリと、まるでえっへん!と自慢するかのように答えた。

そこまで自信ありげに言われてしまうと、アトリとしても手が出なくなってしまう。

この後再び予定が入るかもしれないが、少しだけはゆっくりできる時間がありそうだ。

彼はお言葉に甘えて、別室で休むことにした。

その際、彼はフォルテがパトリックの家から持ってきた魔術本を借りて、それを読むことにした。






「………」





彼には魔術適性がない。

いや、正確に言えば何らかの適性があるのだが、それが不明なままだ。

より強い効力を持つ魔術行使が適性によって行えない以上、それは適正なしと言われても仕方が無い。

唐突ではあるが、アトリはそのヒントがどこかに無いかと考え、本を読むことにした。

魔術本というのは、ただ読んでいるだけでも知識として頭の中に入っていく便利なものだ。

そのすべてが彼の前に立ち塞がる魔術師たちが会得しているものではないとしても、マホトラスにはいまだ彼が知らない魔術師がいることだろう。

何故か、マホトラスの魔術師はウェールズ側より多い気がしてならない。

まだ自分たちが知らない脅威がそこにはあるだろうと考え、それらに対処できるように知識を蓄えようとする。

だが、魔術本もただの小説などではない。

厚みは普通の書籍の倍、内容は小刻みに羅列したシルエットのごとく、隅々にまで書かれている。

これを読んで勉強するフォルテは、本当に凄いと思う。

彼は改めて彼女に感心しながら、魔術本を読み進めた。




既に幾度も魔術師との戦闘を経験している。

先日は長刀使いブレイズ、またその前は暗殺者ゼナ。

それ以前に遡れば、幾つかの経験がある。

だが、彼が魔術師としての力を身に着けた後では、まだ二回しか魔術師との戦闘を経験していない。

そして、適性が不明なまま、これから敵の懐に行くことになる。

不安が無い訳では無い。

彼がこうして魔術本で知識を得て、それを実戦で対処できるようにしたところで、

心にある先行きの見えない不安が消えることはないだろう。



この後も魔術師と接触するだろう。

そうなれば、魔術行使もやはり必要となって来る。

“彼は本来の力を出して攻撃を行うことが出来ない”。

ただ純粋に適性が不明で、本来できるはずの行使を知らないという状態。

その状況下で戦闘が発生した時、どのように全力で戦うか。




魔術本を暫く読み続けた彼。

流石に疲れも回ってきたので、本を机に置いて、腕を組む。

やるべきことはこれから幾つも出てくる。

この作戦を上手く遂行するために、部隊を率いて行くことになる。

この作戦を開始するために、無事に王城まで辿り着く必要がある。

上士の立場にいる自分は、兵士たちを率いる代表者としての責務を果たさなければならない。

他の者たちとの共闘も必要だし、同行する上士との連携も重要だ。

戦った後はどうする?

もし仮に、王城が再び国に戻ってきたとしても、マホトラスがそれで消える訳では無い。

課題は山積みだ。

そして、いつかは自分がどのような立場で動いていくかも、想像がつく。




………国の為に。

国民の為に。

そして、いまもどこかで苦しんでいる、人間の為に。






………。






「失礼します。アトリ、そろそろお夕食にし………」





別室の扉をノックしても、返答は無かった。

彼女は自ら進んで彼の出征の準備をし、借家に住む他三人の夕食の準備もした。

クロエとグラハムは既に家に戻ってきている。

アトリが別室で休んでいると聞き、そのままにしておいたが、食事はきちんとするべきだ。

何より食べてもらいたい、という気持ちもある。

返答が無いまま部屋に入るのに少しためらいながらも、明日からの出征の為に必要なことなので、慎重に入っていく。

部屋から入って見えるのは、椅子に深く腰掛ける彼の背中。

そして机に置かれている魔術本。

返答が無いという状態ということは、睡眠をとっているのだろう。

本はきちんと閉ざされている。





「っ………」





彼の横顔が見えた。

全く微動だにしないその姿に、思わず声をかけようとする彼女が息を飲む。

彼の顔は酷く険しい表情を浮かべていた。

まるで眠っている間でも何か考え事をしているかのような。

何故だろう。

もしかしたら、本当に眠りについている間でも、この先のことを考えているのかもしれない。





「………」





本当は違うのかもしれない。

眠っている間に、何か夢でも見ているのかもしれない。

彼女の考えていることとは異なるものを、抱いているのかもしれない。

それでも、何故こうも確信めいた疑問を持たなければならないのだろうか。

彼は恐らく、こうして眠っている間でも今後のことに囚われている。

自分には求められているものがあり、それに応えなくてはならない責務もある。

彼はそうした生活を、もう何年も続けている。

求められればそれに応じ、またどこかで彼を必要とする者が現れる。

終わりなき連鎖、飽くなき要求への対応。

そんな責任を常に果たし続けてきたというのに、自分も含め彼に求める期待は大きい。





だとしたら。

この人は一体、いつ休んでいるんだろう?





この時の彼女の表情は複雑、という言葉が浮かぶものだった。

夢の中でさえこの先の未来のことを考えている、など確証を得られるはずもない。

だがそんな確信めいた疑問を浮かべてしまい、それが事実なのだと勝手に思い込んでしまっている。

自分も含め、多くの人間が彼に期待をしていることだろう。

頼らざるを得ない状況で、彼女は兵士として、国の人間として彼という存在が必要なのだという実感と事実を確かに感じ、そして同時に悔やみもした。

彼に代わる存在は現れないだろう。

彼が背負わされてきたものを引き継ぐ者はいない、なら彼がこの先も往くしかないのだ、と。

そう思ってしまっていた。




その後、

彼女は静かに彼を起こし、そして4人で夕食を取った。

他愛のない、世間話をしながら。

この4人は全員同じ別動隊に所属するために、この後の行程も共に歩むことになる。

この10日ほどの行程は、恐らくマホトラスとウェールズ、両者を変える大きなキッカケを生むことになるだろう。

どちらかが勝ち、どちらかが負ける。

それは、両者が対立して相容れない存在になった瞬間に決められた、最初の法則だ。

戦いともなれば相手を潰し合うことしかしない。

それがルールであり、法則でもあり、不可逆的決定でもある。

そこに和解も妥協も無い。





「あの二人も別動隊に入れたのかい、アトリ」



「あぁ。………まぁそうだね、少し縁があるものだから」




気になってね、と彼は言う。

クリスとエクターはこの作戦の立案に関わっている人たちで、理解もある。

それに、純粋に一人の年上として、二人の動向が気になっていたアトリ。

自分の目に映るところにいれば、いざという時に対処できることもある。

それに、まだあの二人は優れた才能の持ち主とはいえ、戦闘経験が浅い。

アトリの経歴から言わせれば大半の人間が浅い経験だが、それでも子供たちの心配は尽きない。





「あの二人には、何となくだが俺たちと似た空気感があると思うんだ」



「ん?」



「そう思わないか?皆」




そのように口にしたのはグラハムだった。

その言葉を前に皆が彼の方を向く。

すかさずアトリがその言葉の真意を確かめようとする。





「いや、なんというか………これはいわゆる魔術師の直感ってやつなのかな。あの二人もいずれはそうなる気がしてな」



「………!」





同じ空気感。

魔術師としての直感。

いずれ辿る未来の推測。

グラハムは明確な理由を持ち合わせていた訳では無いが、

ただ何となくあの二人が他の人たちとは違う兵士、あるいはその存在へと進んでいくのではないか、と

彼には思えたのだ。

アトリとしては、昨日の今日ということもあり複雑な心境だ。





「そうですね。私もグラハムと同じく、あの二人には他の者たちとは違うものを感じます。素直で良い子たちだ、立派に成長することでしょう」



「おいおい、まさかこれを機に魔術師量産計画とか立てようってんじゃないだろうねぇ?」



「………何故、俺を見るんだ」




ほんの少しの笑みと、あからさまな呆れ顔。

そんな顔をクロエはアトリに見せた。

まるで魔術師のあらゆる案件を彼が主導しているかのような流れ。

決してそんなことは無いし、ウェールズの魔術の歴史は彼が知る以上に古い。

そして、あらゆる問題が国の根底にこびりつくように存在している。

とても新参者の彼がどうこう出来る問題ではない。

だが、この戦争において魔術師が必要だということは確かだ。

今にして思えば、これほどまでに魔術を知る知人がいるとは思わなかったが、

それでも敵に対して不安が無い訳では無い。





「戦いで必要だと言うのなら、その機会を与えてやるっていうのも、上の者のやるべきことさ。アンタだって、今まで王やアルゴスにそれを頂いてきたんだろう?」



「………確かに、そうだが」



「もう兵士になってから4年も経過するんだ。ましてこのご時世だ、立場が変わっても不思議では無いぞ。グラハムもな」



「お、おう」




魔術師になれば、誰よりも強い兵士になれる。

この世の神秘を身に宿すことで、常人には得られないものを掴むことが出来る。

それがすべて兵士として強くなれるかどうかは、全く分からない。

魔術は適性しなければ行使すら難しいものだ。

そもそも意図的な魔力を得たことに気付かない人間だっていることだろう。

誰もが強い力を手に入れられるとは限らないし、かつてフォルテの生みの親であった男のように、

魔術が自らの身体を侵食して駄目にすることも充分にあり得るのだ。

それに魔術は外界に広められるべきではない、秘匿されるべきものだ。

だが、アトリ他三人は皆、口を揃えてあの二人は恐らく適応すると答えた。

それがどのようなものかは分からないが、いずれそうなる未来が少しでも想像できるという。





「………必要であれば、考えるよ。だが、まずは王城戦だ」





クロエの時は驚いてしまったものだが、

彼女は数年前から魔力を得ていた。

だが、流石にあの子供たちが魔術の世界に足を踏み入れているとは思えない。

となれば、一から魔力を与え一から魔術を教える時間は無い。

機会があれば、それはこの戦いが落ち着いてから、ということになるだろう。

彼にも分かっている。

あの二人が他の兵士たちとは違う、ということは。

そして、クロエたちの言うことも分かる。





「まぁその気になったら、私に言いな。無事に王城を取り戻せたら、手段があるんだ」





と、彼女はこの場で言い残した。

この機会と、そしてその後の成長が、この場にはいないあの二人の生き方に大きく影響していく。








………。




時間などあっという間に過ぎていく。

幾つもの出来事、幾つもの考え事を超えて、常に時が刻まれていく。

人間が時の上を歩くと、後ろには過去という路が続いていく。

前に進むのと同時に、後ろにも路が進み続けているのだ。

ここでの生活も、戦いの歴史も、国としての在り方も、遠い未来になれば一握りの小さな時間(かこ)になっていることだろう。

それでも、今を生きる者たちは今とこれからの未来のために、しなくてはならないことがある。

今から流れて行く未来への時間も、後から訪れた路の上ではあっという間だったと思うことだろうか。

あるいは、それを裏切る何かが路を阻むだろうか。

もしかしたら、時間が刻まれることそのものが停止するかもしれない。




その現象が普通に発生するのが、戦争だ。

人一人殺せばその人間が持っていたはずの時間はすべて停止する。

世界は時間を流れさせても、その人間が持つ時間は破壊される。

残されるのは、他人がその人間と共有した、生きている時間の中にある記憶。

使っていた物、信じた思い。

残忍で残酷な世の中で、どうしようもないくらいに廃れてしまっているが、

これからも戦いは続いていく。



翌日。

作戦通り、別動隊が町を離れて行く。

一週間という短い時間の中で、人々と国の行く末を左右する時間(とき)が訪れるのだ。






………。





4-21. 別動隊の出撃





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