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Broken Time  作者: うぃざーど。
第4章 時間(セカイ)の歯車
118/271

4-6. 夢か現実か










………。




今まで、何度も夢を見ることはあった。

それが遠く現実のものでないと思いながら、その夢に疑問を持つこともあった。

夢を見ることに対してではなく、その夢そのものに対して。

何故夢を見ているということではなく、何故この光景を見ている、ということ。

ただの夢として処理できるものであれば、何もここまで気にする必要も無い。

そうだろう。

それがただの夢であるのなら、夢とは現実を映し出す鏡ではない。

夢とは空想上の物語、己の中でしか語ることのない幻想の世界だ。

そう思い、そう信じて、そのことに目を向けることなく、これも日常の内の一つなのだと思い込めば、

あるいはそこで終わったのかもしれない。

その疑問が、いつかの確信に変わることもなく、それを見る機会も、それに気付くことさえも無く。




だが、それを赦さなかった自分という存在がいる。

疑問は決心とか決意とか、そういったものを鈍らせるもの。

時に邪魔でしかないと思うこともある。

しかしそればかりではない。

簡単に決めつけて事を放棄するよりも、疑問から考えだした方が気付くものもある。

とりわけ、彼の場合は後者であった。

ところが、彼はこの解のない選択肢を義務のように感じていた。

この光景には、必ず意味がある。忘れてはならない。憶えているべきものだ、と。

すべての夢に対しそう思った訳では無いが、彼がよく疑問に思ったその光景というものは、

今も彼の中で動き続け、存在し続けている。

解を求めるにしても、正体を見つけるにしても、選択肢を放棄することは決してなかった。

何度も、何度も見せつけられ。

何度も、何度も疑問に思った。

これは一体何がそうさせているのか、何を意味しているのか。

その姿が気になりながらも、解を得ることなど決してなかった。

今も、これからも得られない解であるのかもしれない。

疑問は常に残り続け、思考の中、どれほど小さなものでもどこかで必ず動き続けていた。






この光景は、何かを意味している。

それがどのような意味を示すかは、今は分からない。

だが、きっとこれはただの夢では無く、

何かを伝えようと心の中に働きかけた、情景なのだと。







白く輝く世界から解放された時、

彼の身体は同じところにあった。



少しだけ位置はずれていたが、

間違いなく空洞と呼ばれる空間の中にあった。

その身体は、動かない。

自らの意志で動くことのない人形のようなもの。

意志が伝わることも無ければ、身体が動くことも決してない。

何故なら、彼の心のみがそこに現れ、他の誰にも彼の心など見えるはずがないのだから。




少し距離を置いて視界に映るのは、広い空洞とその中央で対面する、四つの姿。

一つは、逞しくもどこか物悲し気さを感じてしまう、憶えのある背中。

残りの三つは、見たことも無い人間たちの姿で、ハッキリとそれを見ることは出来ない。

そして何より目を奪われたのが、並んだ三つの姿の後ろに浮き上がる、一つの大きな鉱石。






光り輝いている。

人間たちの持つ姿などお構いなしに、この空間、この空洞一杯を照らす輝き。

その光の源は、浮き上がる一つの大きな鉱石だった。

鉱石は石であるにも関わらず自らで光を発し、この空間と、その者たちを照らしている。

周りの空気は暗がりであることを気にせず澄んでいた。

濃密な空気と光り輝く鉱石。

それを、ただ見ることしか出来ない彼にとって、解など得られるはずもない。

だがその場の雰囲気は、それが夢であったとしても捉えることが出来る。




背中を向ける男が手に持つものは、紛れもなく剣。

そうして、それと対面する三つの姿のうち、並び合い両端にいる者たちは剣を持ち、

真ん中にいるであろう姿は、そもそも手前にいる憶えのある者の背中で確認することも難しい。

しかし、三つの姿が武器を持っているということは、その場の状況が彼にはよくわかる。

何を理由にしているかは分からないが、想像することは出来る。

そこで彼は気付いた。

自らの魂に目がついたように、この光景を見届けていることに。

しかも、今までとは全く異なる夢ではない形で見せられた、この光景。

そして、彼と最も距離の近いその背中を向けた姿は、彼がよく知る者の背中だ。






「この地獄を回避できるのなら、俺は――――――――――――――――。」







そう。

一度だけ、その男の言葉を聞いたことがある。

あの夢、現実では無いと思い込んでいたあの光景。

いつも見るあの光景の中に、決まって映し出されていた一人の男の姿。

彼がこの空洞の中で見たその景色と、その男の背中とは、一致している。

紛れもなくあれは“本人”だ。

しかも目の前の光景は、夢でないにも関わらず、夢と同じ人間を見ている。

そして場所もここの空洞。

これほどまでに「偶然」が重なっているものだろうか、普通。

何故ここに来てもう一つの目の前の光景を見せられているのかは分からない。

だが、この空間と夢に出てくるあの男とが関係していることは、間違いない。

彼はそのように思った。

何度も同じ夢を見て、何度もその男の姿を見て、そして今度は夢でない世界にその情景が現れた。

まるでこの空間がその姿を見せつけるために、魔力の残滓を発動させたかのよう。

ただの残滓ではなく、その場に漂い続ける空気そのものが、ここにある情景を記憶していたのではないだろうか。




対峙する者たち。

剣を取り今にも戦闘が始まろうとしている。

それも気になるが、もう一つ。








――――――――――――――自ら輝きを発する、謎の鉱石。







自ら輝きを放つ石というのも、たとえ憶えがあったとしてもあまりに珍しいものだ。

普通はそのようなことは起こり得ない、と決めつけてしまうほど。

その石の輝きはとても美しく、綺麗で、だがどことなく寒気を感じさせるようなもの。

この空洞一杯に光を拡げるそれは、外界からやってきた者たちを歓迎するというよりは、

外界からやってきた者へ警鐘でも鳴らしているかのよう。

そのくらい美しくても無機質で、綺麗でも冷ややか。

何故そう思ってしまったかと言われれば、正直なところ分からない。

が、これがいつもの直感によって生み出されたものだとすれば、もしかしたら。







………。






気付けば、その景色は先程のものに戻っていた。

いや今も殆ど同じ景色を見ているようなものだが、状況が異なる。

輝く鉱石は消え、四人の人間たちは消失し、この空間に灯っていたはずの明かりは無くなっている。

今この景色を見られているのは、彼が単純に夜目に慣れたから。

僅かに数十秒しか見ることの無かったその光景。

しかも特段動きがある訳でも無く、ただその場の状況を推察することくらいしか出来なかった。

それでも彼にとっては収穫となったのだが、疑問に思うことも多々ある。





「………」








間違いない。

あの男は、生きている。







彼は一つの疑問を解消する確信に至った。

この場所であの男が立っていた。何かは分からないが、妙な三人組と対峙する姿が見られた。

そして剣を取るその姿は、間違いなく攻撃して倒そうとする意志の表れだろう。

自分の身の周りにあのような男の憶えは無い。

そもそも顔すらはっきりと登場していないその男の正体など、今の段階で掴めるはずも無かった。

しかし、彼が何度も夢見て、その中に現れたあの男は、この世界に生きる者だと彼は確信した。







「――――――――――――――――」







二つの光景の中に浮かび上がる、その男の背中。

炎に燃え盛る大地と、何もかもを止めてしまった白黒の世界。

そのどちらでも、その男は現れてはただ一人、その光景を見届けるしかなかった。

少なくとも唯一その光景を知る彼には、そう見えてしまったのだ。

その男は何かをしようとして、あらゆるものを背負い続けて、それでも敵うことも無く。

あのような“地獄”の光景を目の当たりにして、それでも何とかしたい気持ちを持ち続けながら、

己の力のなさに失意を覚える。

自分の知らないどこか別の世界の話ではないだろうか、と夢物語を抱いたほどの景色。

だが、そんな男がこの世界の、しかもこの場所にもし、本当にいたというのなら。






「………あの光景は………」






思えば、彼の懸念が強くなったのはこの時だった。

夢とは現実を映す鏡ではない。

本来それらは現実には起こり得ないものを見せているだけ。

時々自分自身の過去を夢見ることはあっても、それは既に過ぎ去ってしまった時間。

これから起こること、この先直面するものを夢で見通すことなど出来るはずもない。

それが当たり前の考え方だった。

だが、この時に彼は思った。

もしこの景色が以前ここで本当に存在していたものなのだとしたら。




あの光景は、

ただの夢では無く、いずれ起こる現実を映しているのではないだろうか、と。









………。






一方。

彼らとはいまだ遠く離れた土地、カークス。

町はそれなりの大きさを持つが、流石に夜も更ける頃には人通りは少なくなっている。

幾つかの広い街道は、その道の脇に火で灯された明かりがあり、周囲を照らしている。

お店や宿、一般の住宅もあるため少し距離を離しているが、それでも道を照らすには充分だ。

町の外は、物騒な格好をした男たちが幾つかの集団を作っている。

彼らは皆王国軍所属の正規兵だ。

大体の人間は肩や胴体、太腿や関節部に防護服を纏い、腰から鞘に入った剣を持っている。

物騒だと考えるのは周辺住民だ。

昼間も夜も明け方も、交代制で町の外で見張りをしている。

いつどこで敵が近づいても対応できるように。

カークスにも駐留部隊は存在するが、今はその規模を遥かに上回るほどの兵士たちがこの町にいる。

すべては、王国が南部へ撤退を繰り返し続けた結果だ。

周囲からは王国は大国だと言われ続け、あたかも他人が思う王国の姿が本当の国になっていた。

だが、そんな人間たちの認識が変わりつつある。

あの王国と言えど、負けることはあるのだ。

いつまでも自分たちが「常に護られている立場」であることはない、と。

日常的にこの町は警備活動が行われているが、今は戦時下でありマホトラスの侵攻を確認するために、周囲の警備は増員されていた。



そんな中。

空き家を借りた兵士たちの一部、上士とその側近たちが詰所にして集まっている。

普通空き家だからといって入ることは無いが、この非常時にはそれも致し方ないと思うしかない。





「王妃は、もう寝たか?」




「はい。先程まではずっと仕事をしておりましたが、今は」





王城を失い、逃げてくるしか方法の無かった者たち。

自分たちの根城を奪われ、国である象徴も取られ、自らの地位に辱めを受けながら、それでも生きて再興を実行する指導者としてここに来るしかなかった者。

それが王妃―――――――――――フリードリヒ。

国王であるエルラッハは、王城戦において最期まで一人の戦士として戦った。

その結果、国を担う最高位の男は滅ぼされた。

これが事実であり、この事実を端的にまとめれば、もうウェールズなどという王国の体制は崩壊している。

マホトラスという外敵に奪われ、意のままにされるまでは時間の問題。

彼らがウェールズをすべて滅ぼしてしまえば、マホトラスに反する者は消える。

あの場ですべての王族が殺害されてしまえば、その状況が限りなく近づいてしまう。

王族なくして誰が国を導くことが出来るだろうか。

何故なら、この国は王が納める国、なのだから。




その場に集まった上士とその側近は、合計で6名。

一人はアルゴスとその側近扱いを受ける、グラハム。

別の二人も同じく上士で、名をフェデラーとルイスという。

フェデラーは普段は王城に勤務する上士で、アルゴスと同様各地の兵士たちの統括を行う一人だ。

彼も王城戦で激しい戦闘を行ったが敗れ、傷を負ったままここまで撤退し続けてきた。

ルイスも上士ではあるが、彼は何と王国領北部のとある僅かながらの残存部隊をここまで撤退して生き永らえさせてきた。

北部と北西部の部隊は壊滅状態にあり、特に北西部にいたであろう部隊は全滅との報告がある。

北部もほぼ希望無しの状態ではあったのだが、ルイスは全滅寸前にあった部隊を撤退させ続け、一足先に王城へ到達。治療を受けた後に発生した王城戦で奮闘し、敗れはしたもののその部隊の誰一人として死なせずにここまで撤退し続けてきた男だ。

さらにもう一人は、アトリの師でもあるクロエ。

彼女も同じく王城戦で戦い奮戦したものの、部隊が撤退するということでここまで来た。

あと一人は、王妃の就寝を報告した衛兵オリバーだ。




「王妃もよくやる………閣下を失った喪失感はあるだろうに、必死に政務をこなしている」




「そうですね………少し心配になりますが、今は一刻も早く城を取り戻さなければなりません。その気持ちもあるのでしょう」





この町に来てから、彼らはこうして毎晩会合を開いている。

今カークスの町は外来からの兵士たちが次々と集結しているため、別の意味で活気的だ。

カークスの町内と郊外とを含めて、兵士たちが何とか駐留できるほどだ。

町の中には別に駐留部隊の詰め所も存在しているが、もうこれ以上は入りきらないというほどに溢れそうになっている。

今、この国の正規兵を動かせる存在にあるのは、ここにいる最も年上にあたるアルゴスと王妃フリードリヒ、アルゴスほど歳はいってないが王城で兵士たちの配置や補給のやり取りをしていたフェデラーくらいなものだ。

元々アルゴスやフェデラーのように各王城に勤めていた上士はまだいたが、他の彼らは皆王城戦で命を落としてしまった。

この町の駐留部隊の司令官とも連携を取り合っているが、今はここにいるクロエと協同して兵士と新人兵士の教育を大急ぎで進めているため、とてもこの会合に来られるほどの余裕が無い。

司令官に比べクロエはまだ教える立場が主体でこの時間帯に公務をすることが無い。そのためクロエを通じて基地司令と連携を取ることが多い。

また彼ら以外にも、町から離れ国境付近で警備活動を行っている者たちとも連絡を取り合っている。

国境付近は一触即発を起こす可能性が非常に高い。

そのため、毎日交代で兵士たちを行き来させ、状況を報告することを義務としている。






「さて。そろそろ聞こうか、クロエ」






と、他の人たちが話しているところに、アルゴスの声が乗せられると空気が一変する。

無論王妃の話をネタにして楽しむことなど一切なかったし、そのような気持ちなど誰一人として持てなかったのだが、ここでの本題は王妃ではない。

基地司令と彼女との間に連携する線がここにも繋がっている以上、彼女から話を聞かなければならない。

王国のこれからに直結する内容、現在進められている兵士たちの訓練について。






「簡潔に言うと、数も質も足りないね。前者は最近若手や国想いの大人たちが名乗りを上げたから何とかなりそうだが、後者はもうどうしようもない。元々私たちとて兵士の訓練として、大体は数ヶ月から一年以上の時を使ったんだ。それを、僅か一ヶ月未満で出来るところまでやるというのが、無理な話ってことさ」






と、クロエは簡潔に話した。

周りには上士たちが座って彼女に視線を向けているし、その話の中身にも注目していた。

だが彼女は一切の礼節を持たず、いつもの彼女(クロエ)として話をしている。

何も知らない上司がこの現場にいれば怒鳴り散らしたかもしれないが、彼女の存在を知る彼らの内輪ではこのような態度などを気にしてはいないし、寧ろこれがクロエらしいとも思うほどだ。

彼女はこの場において、衛兵とグラハム同様に、上士の階級を持たない下級兵士だ。

ただ、今までの経歴が他の兵士たちなどとは比べ物にならない。

彼女は実地経験があるだけでなく、数多くの兵士たちを育て上げ、成功例も作り上げてきた。

剣の腕も女性としては桁違いに強く、男性にさえ引けを取らない。

冷静かつ鋭い洞察力に確かな技量、そして自らの手で生み出した功績を、数年前からアルゴスが高く評価し、今回もアルゴスの機転でこの会合に出席している。

彼女が乗り気だったかどうかは別にして、彼女の力量や才能は充分に上士レベルに至っている。





「でしょうね。兵士はそれなりに身体強化もしなければならないし、何より警備員などとは違う特殊な訓練を重ねている。私たちの腕に到達することは不可能にせよ、それでも私は前者の存在を尊重したく思います」



「まぁそうだな。兵士になりたいのではなく、国を護るために協力してくれる、というところだろうが………それでも居ないよりは遥かにマシだ」






はじめにルイス、続いてフェデラーが言葉を口に乗せる。

ルイスは壮絶な数ヶ月間を送り生き残って入るものの、上士としては若年層であるためか、礼儀正しく敬語を用いて話をしている。

一方立場もアルゴスと並ぶほどのフェデラーは、ルイス以上に歳もあるし、アルゴス以下とはいっても立場は上であるから、そのような場の礼節などを気にしない。

なので、礼儀作法などを気にしなくても平然としていられるクロエが、少し尖った存在だったのだ。

一方、この場の最年少であるグラハムは、腕を組み片手を顎に触れ、話を真剣に聞き続けていた。





「アルゴスさんは、どう見るんだ」




「君と同意見だ。あまり言い方は綺麗ではないが、少しでも協力者がいるのなら、彼らを利用することに躊躇う必要は無い。城の鍛冶職人は失われたが、この町の鍛冶屋も協力的だ」






カークスの町の鍛冶屋は何人もいて、生産ペースもそれなりに速い。

こうした状況を受け入れているため、新たに増えるであろう兵士たちの為に剣を打ち続けている。

もっとも、この指示を出したのは王妃フリードリヒだ。

彼女はこの町に来るなり、兵士たちの補給物資の供給と生産を指示した。

ただ休息を与えるだけでは無く、その後の反抗作戦や防衛戦を上手く機能させるためには、何より兵士たちが動くことのできる血肉を得る、その役割を担うものを充分に整えなければならなかった。

フリードリヒは戦略家ではないが戦術家だ。

彼女は一度とて戦いに自らを向けたことは無かったが、国王エルラッハが軍務に励む傍らで助言をしたこともあった。

今、この戦争は重大な局面を迎えている。

お互いに多大な損失を発生させ、すぐに持ち直すことが出来ずにいる。

一方で、奴らは象徴を奪い国としての機能を整えようとするだろう。

それを阻止するためには、また戦うしかない。

戦うためには物資がいるし、補給路や物資は戦争における生命線だ、と彼女は言った。

確かにそれらは事実だ。

それが王妃の口から出たというのだから、多少の驚きもあるだろう。




戦うことのできる人数は限られている。

しかも、連戦を積み重ねてきた正規兵たちが傷を負い、戦闘経験のない者たちが次々と賛同し現れる。

それはそれで良きことではあるのだが、懸念すべきことも多い。

特に、この場にあの男がいたとしたら、恐らくは肯定的に思わなかったことだろう。

一般人が正規兵と同等の力を有することはまずない。

いや、中にはそういう人もいるかもしれないが、そんなもの百人いて一人いるかどうかのもの。

希望として宛にするより、訓練によって最低限戦うことのできる人たちを増やした方が得策と言えよう。





「ではアルゴスさん。今後の作戦というものは………」




「………そうだな。先日も話した通りだが、今後一週間以内だ。まずは境界線の警備隊を破り、次の町まで進軍する。相手に余裕はないが、こちらにも猶予は無い」






それに、いつまでもこの町に駐留している訳にもいかない。

こちらが先に攻めることで生じる利点というのはあまり無いが、

奴らが先に攻めてくることへの欠点は多くある。

彼ら王国軍は幾度となく防衛に失敗している。

兵力分散をしている時も、兵力を集中させている時も。

防衛に徹した戦いで勝ちを導くことが出来なかった。

単純に防衛力が少ないというのもあるが、あるいはそういう気質の人間たちなのかもしれない。

戦いとは、基本的に好戦的に行われるものだ。

戦闘がしたいから進軍し、敵を倒す。

それが、町を護るために、人を護るために、といった戦いとなっては、自分たちの動きも制限されるに違いない、と思われていたのだ。

防御の防御は攻撃にはなり得ない。

だが、攻撃の攻撃は防衛手段としてなり得る可能性を持つ。

何故なら、攻撃こそが最大の自己防衛と謂われることもあるのだから。




城が奪われてから、数週間が経過する。

お互いに緊張感が張り詰めるようにして睨み合っている空気。

それがいつ張り裂けるのかは、分からない。

だがそれが相手の方が早かった時、更なる覚悟を決めなければならないだろう。

自衛というよりは、逃亡としての手段で。

だが、戦うからには戦力がいる。補給が必要となる。そのための人員が必要だ。

それらを総合的に判断しても、これは中々に厳しい戦いとなるだろう。

相手も同じ条件か似たような状況なのかもしれないが、こちらには専門の兵士と呼ばれる者たちが少ない。

一般の国民が兵士に志願し成ることを、彼らは「義勇兵」と呼んでいる。

義勇兵の存在は確かにありがたいが、戦闘が始まれば命を落とすことになる。

つまりこの戦い、国の象徴たる城とあの町を取り返すために、再び多くの犠牲を払わなければならない。

戦う以上は犠牲が出る。誰も死なずに成し得る世界など、もうこの世のどこにも存在しないのかもしれない。

馬鹿正直に平和とか自由だとかを求める者もいるが、それが綺麗ごとから成るものでないことは、ほぼ万人が共通して思っていることだろう。

義勇兵を戦力として加えられる要因はただ一つ。

それは、戦う力を持つ者としてではなく、戦う手段を分け与えた数としての力だ。

この状況でどれほどの戦術が起動させられるか。





「グラハムくんは、どう思う?」





若き上士であるルイスが彼に問う。

今まで真剣そうに話を聞いているだけで、特に意見をすることも無かった。

無理もないだろう、そういう雰囲気でもない。

衛兵とて彼とは年齢が違うが同じだ。

自分のような立場の人間が、王国の今後を決める重大な局面を左右するこの会合で、何を言うことが出来ようか、と。

しかし、大人子供関係なくして、ルイスは彼に発言を求めた。

彼なりの意見が聞きたかったのだ。





「初戦の心配はあまり無いかと思います。ですが、俺たちの侵攻を察知すれば当然、敵は城から本隊を投入してくる。その時、かつての繰り返しになる可能性は充分にあると俺は思います」




「………ううむ」






フェデラーが喉奥で音を鳴らす。

確かにその通りだ、と言っている。

彼らが必要としているのは、王城を取り返すこと。

そのために、既に占領された町々を解放しながら、本丸まで斬り込まなければならない。

敵は自分たちの侵攻に気付き、間違いなくそれを食い止めるために本体を送って来る。

戦いを始めたところで、本隊を倒せるだけの余裕が無ければこちらに勝ち目はない。

しかも、ウェールズ側は戦力の増幅は出来ないし、交代を行うことも出来ない。

つまり彼らは連戦に次ぐ連戦によって、城に肉薄しなければならないのだ。

果たしてそれが本当に出来るほどの力が、自分たちにあるだろうか。

王妃やアルゴスの考えが浅はかという訳では無いし彼らも想定のうちではあったが、何の打開策も見出すことが出来なかった。

そんな時、発言を求められたグラハムは、こう言ったのだ。





「せめて、アトリがいてくれれば――――――――――――――」








………。





あの男なら、何とかできるかもしれない。

何故だろうか、どこからともなくそうした考えが浮かんできたのだ。

明確な案など持ち合わせてはいないし、そもそもあの男が生きているかも分からない。

だというのに、その存在に最も高い期待値を乗せてしまう。

それはグラハムだけでなく、この場にいた大半の人間がそう思ったことだ。

あの男、アトリはこれまでも国の為、民の為に戦い続けてきた。

それは他の兵士たちや今回の義勇兵とてそのような思いを持っていることだろう。

だが彼の場合は異なる。

その経緯が他の誰よりも上回る経験を持っている。

国が求めた兵士、国の為にと鍛え上げられた純粋な化身。

その心は死地にあり、今も苦しみ喘ぐ人々を支え続ける。

アトリという少年がこの場にいれば、対案が無かったら無かったで頼りになるというのに。






だが、少年は、ここに近づいている。

それが分かる者は誰一人としていないのだが、

彼がここに現れた後の事の運びは、果たして――――――――――――。








………。








4-6. 夢か現実か




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