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Broken Time  作者: うぃざーど。
第4章 時間(セカイ)の歯車
117/271

4-5. 幻惑





カークスへの町の道筋を進めていた彼らではあったが、

土砂降りの雨に遭い足を止めざるを得なくなった。

彼らが進んでいる道は、マホトラスの占領地の中でも人里離れた、というよりは人が寄り付かないような険しい道のりであった。

もはや道とは言えないところも多数あったが、それでも人が通るほどの余裕はあったし、マホトラスの人間に見つからずに済んだということは好都合だった。

だが、激しい雨は彼らの行く手に阻み、パトリックの本家を離れて4日目は、もうそれ以上移動することが出来なくなったのだ。

彼らは奇妙ながら天然の洞窟を見つけ、その出入り口付近で雨宿りをしつつ寝泊まることにした。

夕食を済ませ、休むことになった二人。

夕刻を過ぎて夜の静けさが漂う時には、もう土砂降りの雨は小降りとなっていた。

これならば移動に支障はないのだが、どちらにせよもう暗くて外を出歩くのは危険だった。



彼らは、他愛のない話で眠気が来るまでの時間を過ごす。







「なるほど。そのような師がいたのですね」




「あぁ。普段はサッパリした性格だけど、よく考えてくれたんだと思う」






かつてこのような状況があったな、と思いながらも話を続けるアトリ。

話の内容は、アトリの兵士時代のことについて。

特に、彼が兵士としての道を歩んでいる最中の、過ごし方に関するものであった。

フォルテはこうしたアトリの王国での過ごし方、状況にとても関心を持っていた。

彼が今までどのように過ごしてきたのか。

どうなれば、あのような理想を夢見る人になるのだろうか。

これだけの技量を持つことになった理由とは何なのだろうか。

あらゆる昔話を通してアトリという存在を分析しようと考えていたのだ。

だが、それは彼の支えになりたいから知りたいという気持ちで話していること。

それ以外の理由としては、純粋に一人の人間として、この男性のことが知りたかったのだ。

彼が話す師とは、ウェールズ王国軍の正規兵士であるクロエという女性のことだ。

彼に剣を教えた人でもあり、彼の死地の護り人としての経緯を詳しく知っているであろう人物。

本人以外に聞くとすれば、彼女が一番適任だろうと考えるほどだ。

彼は“生きていれば、これから会うことになる。”とフォルテに伝えた。

そう、生きていれば、クロエの兵士としての力を借りなければならない、と。



クロエが戦っている姿をアトリが目撃することは無いが、

彼女が兵士としてかなり腕の立つ人であることは、アトリのみならず同僚のグラハムや上士であるアルゴスも知っていることだ。

戦わせれば剣術において引けを取るものではない、と。

男性以上に強い一面もあり、更に気迫で押し込み負けんとする剣気も持ち合わせている。

恐らくはアトリでさえ想像するもの以上に、彼女は強いと考えている。





「クロエは、俺が死地に往くことを反対したんだ」




「………!」




「結論から言えば、それは出来なかった。国の命令というのもあるし、幾ら俺のそばで剣を教えていた師であったとしても、止める手段は無かったんだ。まぁそのおかげで、俺は多くの人々を救うことが出来ている訳だけが」





反対したが、止めることは出来なかった。

止めようとしたが、もう何もかもが遅かった。

彼の師であるクロエは、彼がそのような思いを以て死地へ行こうと決心した時、

どう思ったことだろうか。

他の人より強く、歳も若い。

いつまでも兵士の見習いとして置いておくにも惜しい人材で、戦い慣れすれば恐らく王国にとって鍵を握るほどの大きな存在になることだろう。

一人の人間、自らの弟子が成長していく姿を見るのはいい。

だが、少年が往こうとする未来に、明かりは見えないかもしれない。

それを知っていたクロエという女性は、何を思って止められない彼を見送るしかなかったのだろうか。

フォルテは、そう心の中で考えていた。

確かにクロエという師が止めたとしても、彼は突き進んだことだろう。

自らの理想を叶えるために。




彼女は思う。

昼間みたあの姿が、彼の死地での姿だったのだろうか、と。

目前の敵を前にして堂々たる姿。

そうさせているのは、自らの力と新たに加わった魔力とが共鳴し、持ち主に絶対の力量を確信させているからなのだろう。

かつてのアトリは、そうではなかったかもしれない。

だが、彼は等しく敵が現れれば、それを殺す。

いつかの幸せと平和を取るために、小さな犠牲は厭わない。

昼間の魔術戦も、そうとも言えるだろう。

マホトラスに魔術師が何人いるかは分からないが、相手に魔術師がいるという事実、ただそれだけでアトリの理想からは排除されるべき存在として認定を受けるのだから。





「アトリは………その、自分の願いと国の方針とが重なって行動できた時、後悔はしなかったのですか?」






―――――――――――今まで自分がしてきたことに、後悔は無いのか。





情景が蘇る。

雪の降る静かな日だというのに、それを打ち消す赤い炎の連続。

多くの躯が転がり、天からは雲の切れ間に光の梯子が現れた、(つるぎ)の墓標。




彼女に過去何度か聞かれたことだ。

だがアトリの想いは変わらない。

壮絶な過去を経験し、あまりにも悔しい思いを抱くことがあったとしても、

この選択が自分にとって間違ってはいないと言い切るために、彼は今も理想を掲げ続けている。

彼女が問いを投げたのは、アトリという存在の原始、根源に至るか、あるいはそれに近づくものだろう。

師が止めようとしている。

だけど、国の命令で国にとっても、また理想を掲げる自分にとっても、損にはならない選択肢。

それを選ぶ決定権は国にあったが、彼はそれでも従い、今の暮らしを得ることになった。

あの時のあの選択肢、ここへと至る道の前に、後悔というものが無かったのか。







「………いや。俺としても、苦しんでいる人々を助けられるのなら本望だ。少なくとも、その時もそう思っていただろう」







そして、今もそれは変わらない。

どのような光景を手にしても、どのような結末に向かっていたとしても、

自らの身が役立つ場所があり続ける限り、彼の本望、彼の理想は変わることは無いだろう。

彼女はそれを支えると決めたから、今ここについてきているのだ。

問いを投げかけるだけ迷惑な話だったのかもしれないが、逆に彼女にとっては安心できる。




いまだ、

とある可能性を棄てきれていなかったのだから。







「――――――――――――――――」






既に時刻は夜の11時半を過ぎている。

今回は奇妙だが天然の洞窟に出くわしたために、そこに宿とすることにした。

野宿であることに変わりはないが、簡易キャンプを敷いて寝る必要が無い、というのは少しばかりありがたい。

彼の過去の経験にもあるのだが、夜に何重もの風呂敷を敷いて頭や胴体などを保護するのだが、明け方に雨が降って目が覚めたということもある。

洞窟にいれば、まずそういう懸念は必要ないだろう。

彼らは洞窟の出入り口に近いところで場所を取っていた。





「………」





夜更けではあるが、

既にフォルテは静かな寝息を立てて寝ている。

その顔を見ることは出来ないが、雰囲気はよく伝わるものだ。

一方のアトリは、全く寝付くことが出来ずにいた。

既に夕刻の雨は上がっており、洞窟の広い出入り口から外を眺めると、月夜に厚い雲が流れて行くのが見えている。

雨の匂いは外から中へ、洞窟にも浸透するほどハッキリとしていた。





「………」





明日は天気になるだろうか。

今日はあまり道を進めることが出来なかった。

進められなかった分の支払いは、次の日に行うことになる。

時間を使えば使うほど、状況は刻一刻と変わっていくものだろう。

自分たちに残された猶予は、そう多くは無い。






「………」











だが。

今はそのようなことを考えている、余裕が無かった。






「――――――――――――――」





考えるべきことは沢山ある。

思考することも考慮することも山積みだというのに、

他の要因がそれらをこの場から遠ざけてしまっている。

アトリは一人、全く眠気が訪れずに石壁に寄りかかっていた。

天を仰ぐこともなく、地を見ることも無い。

彼は夕刻から今に至るまで、その意識をあの洞窟の穴奥に向けたままだった。

これが人の本能というものなのだろうか。

あるいは、子供じみた好奇心というものだろうか。

意識を持っていかれそうになった先程から今に至るまで、ずっとこの奥が気になっていた。

彼が眠気を持てなかった理由も、それにある。

どことなく見覚えがあるような、それともただの夢見た憶えでしかないのだろうか。

意識を集中させられるほどの他意がそこにはある。

だというのなら、もしかしてこの洞窟で感じさせる何かの要因は、アトリという男に関係するものではないのだろうか。

そう思わずにはいられない。

今までこのような思いをどこかでしたことがあっただろうか。

一体何の憶えから、この既視感にも似た感覚が生まれ出ているというのだろうか。





「………」





それを、確かめなければならない。

この洞窟は何かを伝えようとしている。

何かを訴え続けている。

気付かなければ素通りするだけの洞窟にも見えるし、

そもそもこのような荒地に人間の手が及ぶこともない。

だが、まるでこの洞窟はアトリという少年を引き込み、何かを伝えようとしている。

それがただの錯覚だったとしても、そう思ってしまう当人がいた。



彼は、

静かにその場を後にする。

洞窟の奥に生き、転がっていた木の棒とボロボロになった布を巻いて、

マッチで火をつけ洞窟の奥へと進んでいく。

彼女は、寝たまま彼の動きに気付くことが無かった。





洞窟内部は、彼が思っている以上に深いようだった。

風が通っている実感がある。

明かりの役割を持つ火は充分に燃え続けているために、

今はまだ何も気にする必要は無い。

だが、この空間そのものがどことなく奇妙というか、不気味にも思えた。

暗闇から明かりを照らして慣れた目で、その洞窟の奥を見て行くが、

ひたすら微々たる下り坂が続いていくだけであった。





「………行き止まり、すらないか………?」





そう思ってしまうほど、その道は酷く長い。

明かりがそう大きなものではないから、どうしても長いように感じる、というのもあるだろう。

同じような大きさの穴が永遠と奥まで続いていくようにも感じられるこの道中。

だが暫くすると、変化が訪れた。

相変わらず感じるか感じられないかの微々たる下り坂ではあるのだが、やがて洞窟のこの穴は左回りで下り始めていることに気付いた。

ようやく道に変化が現れたのは、彼が淡々と奥まで進んでから10分後のこと。

今度はやけに左回りが多く、まるでずっと円を描いて下っているようなものであった。






「っ………」





そして、自らの内なるものに意識を向ける。






「………魔力が、波打っている………」






静かに呟きながら、その感覚を彼は確認する。

心臓の鼓動が伝わるのは、彼もよく経験していることだし、何も彼でなくてもそのような機会は多くあることだろう。

だが今は、心臓の鼓動とは別に、不確かで挙動不審な魔力の波が現れている。

外界に魔力を放出している訳では無い。

しかし、彼の内なるものが体内で動き回っていたのだ。

左回りの下りが続いてから、その感覚がより一層強くなった。

まるでこの波うちで、魔力が外に出たがっているようにも感じられる。

空間から読み取れるものはまだなく、ただひたすらに道が続いているだけとも思われた。

不気味で、挙動不審で、理解に苦しむ現象。

自然と額に一滴、また一滴と汗が流れていくのが分かる。








引き返すのなら、今のうちだ。

何も知らないでこのことを忘れてしまった方が、都合が良いというのもある。























ソレデモミタイカ?


























もとより、この洞窟などただ見つけて都合良く雨宿りしていただけに過ぎない。

一晩過ごすことになったとしても、ただの天然の洞窟だと思い切り、それ以上深読みしなければ良い。























ミタイノダロウ?





























だが、思考が引き返すという選択肢を浮かび上がらせるよりも前に、

その光景は現れようとしていた。

歩き始めてから15分程度。

変化という変化は左回りの下り道だけであったが、それも終わり、先にはまるで入口のように佇む道の穴があった。



















オマエシカワカラナイコトダ。



























―――――――――――――入った先に見えたものは、ただの空洞の世界だった。




この洞窟が本当に天然のものであるのかを疑いたくなるほどの光景。

狭い景色から広がって見えたその光景は、今までに見たことの無いくらい広い空間であった。

少なくとも、周りを石壁で囲まれていながら、これほどまでに広い空間を持つ場所など、そうそうあるものではないだろう。

希少価値というべきか。

天然の自然体だというのなら、ここまで広い空洞を作り上げる自然の力とは何者だろうか。

そう思わずにはいられないほど、空間の広さに驚きを持つ。

既に暗い空間に目が慣れていて、遠くまで見通すことが出来る。





「これは………」





しかも、その空洞は下まで降りることが出来るようだった。

円形の空洞の外縁を沿うように、下り坂が続いている。

空洞の下、地面の方を見てみるが、特に目立って何かがあるようには見えない。

本当にただの空洞なのか。

だだっ広い地面が周囲に広がっているだけ。

強いて言うならば、その地面と空洞の中心部分だろうか。

綺麗に整地されたかのような平たい石段があるように見えた。



ここに来て、

彼の体内で動き続けていた魔力の波打ちが静まっていた。

先程の動悸にも似た現象は解消されている。

かといって、この空間が安心をもたらすような要素を含んでいるとは一切思わない。

魔力の活動に落ち着きはあるとしても、いまだハッキリと感じるほどの魔力の残滓がある。

自然な形でありながら、ここまで出来過ぎたような空間は、必ず何かあるに違いない。

見た目は空洞、中にあるものは何もなく、大きな壁が広く円を描いているばかり。

アトリは、静かに坂を下っていく。

この空間では少しの音がすぐに響いてしまう。

誰かいたらと考えると少し怖い気もするが、今はとにかくも下に降りて確認してみよう。





「………、本当にただの空洞か」





しかし、何故このようなところに意味ありげに空洞があるのだろうか。

意味も無く見つけたかと思えば意味を持っているかのように見えるこの不思議な感覚。

彼は下り坂を降り、地表とも言える平坦な土地を歩く。

地面は単純に硬く、特に何かを感じさせるようなものはない。

だが、彼は一つそれも不可解なように見えるそれに近づいて行った。

まるで「台座」が意図的に作り込まれたかのような、石段。

というよりは、まるで何かが添えられていたか、飾られていたような舞台や演壇のような見た目。

彼はその石段のすぐ傍までやってきた。

大した段差も無いが平地の土地のうえに設けられた別色のもの。

台座のようなそれは綺麗に大きな正方形を模っているようだ。





「………」





ただ、近づいただけでは何も起こらなかった。

いや、そもそも何かが起こるという前提でこの空間にいるというのも、本来おかしなものか。

ここが自然によって生み出された大空洞であるのなら、このくらいの見た目は普通なのかもしれない。

自然がその牙を残したまま、とも言える危険な場所もあれば、こうして谷の中に洞窟じみたものもある。

人間がまだ知らぬ世界は多くあるし、彼も死地の護り人として多くの土地を行き来してきたが、

彼でさえ通ったことの無い道、行ったことの無い場所、まだ見ぬ自然というものは沢山ある。

これもそのうちの一つなのかもしれない。

だが、そうとは思わせられないものが、やはりそこにはある。

――――――――――――――――魔力の残滓。

魔術師は魔力を感知することが出来る。

それは相手が人間である場合に限らず、自然界に溢れている魔力のうち、その色が濃色であるところは自然の中といえど感知することが出来る。

すべての魔力を感知することは出来ないし、もしそれが出来るのであれば日常生活に支障が出る可能性がある。この世界の魔力とは、大地と生命の二種に分類され、それらは人間が普段感じられない自然界に流れ続けているのだから。

そう言う意味では、この大空洞も魔力の残滓を強く感じることが出来る。

感覚的には、この地に残された魔力、というよりは、元々強く存在していたはずのものが、失われてしまったような。

恐らくこの場の残滓は、そのうち自然界に溶け込んで無くなってしまうだろう。

色濃く感じられるというものは、いまはまだ魔力の性質が強く、残滓とはいっても感知も強く働いているからだろう。



ただ。

その魔力の感知、魔力の質というものが、今までに経験したことの無いものだった。



残滓というからには微弱なものとなっている。

が、それでも自らの魔力と強く反応し続けている。

人間を相手にするときの魔力は、その多くが警戒を訴えるものだ。

今日の昼間も同じように、あの女の張った縄張りを警戒しろと伝えられていたようなもの。

魔力の感知が出来ると便利なことは多い。

だが、根本的に分からないものについては、それが何であるか判明させられないし判断も難しい。

アトリが今感じているそれは、性質としてはかなり強い魔力のようにも思えるが、詳しいものは感じ取ることが出来ない。

残滓がここを中心として空洞内に漂い続けているというのに、それがどういうものかは全く分からないのだ。

アトリはまだこのレベルに達してはいないが、フォルテの話では、優れた魔術師の中でも飛びぬけた才能を持つ者は、相手にその魔力が感じられる場合、どのような魔力の適性を持ち得るかを判断できることがある。かのパトリックやフォルテは、相手との接触を通じてそれが出来る分類だ。アトリにはそういった能力はまだ備わっていないが、優れた魔術師は態々接触せずともそれらを感じられるという。もっとも、自己の知識上存在するものだけだとは思うが。





「………何故だ。一体………」





どうしてだろうか。

空間に漂う残滓は、自分には判別し難いものだ。

ただ魔力としての感知は可能ではあるが、それが何であるかは読み取ることが出来ない。

だというのに。

どうして、今まで感じて来なかったはずのこれらを、“自分は憶えているのだろうか。”

頭では理解できない。だが、身体はまるでここにあるものを既に知覚していると言っている。

夕刻、この空間に対し既視感を感じたというものは、この魔力の残滓がそう導き出していたのだろうか。



石段の上にあがる。

まるで誘われるようにしてその身体を動かし続けてきたアトリ。

自分がどれほど迂闊な行動に出ているかも、理解できる。

確かに身に覚えはあるかもしれない。

ここが天然の空洞であるかもしれないが、もしここに敵となるものが潜んでいたとしたら、

それだけで自分の命は危うくなる。

魔術で対抗できても、彼は攻撃魔術を使用する型を持ち合わせていないし、剣も持っていない。

相手の方が数段上を行った場合には、命を落とす可能性だってある。

それを押してまでやってきて、ここには何もなかったのだろうか。

この既視感や身に覚えのある感覚は、嘘偽りのものであったのだろうか。




目を閉じる。

そこに何があると信じて。

目の前に見えるものは何もなく、感じられるものは魔力の残滓。

ただそれが、何の意味もなく漂流し続け、やがて消えゆくものであるとは思えない。

この空間が天然であっても何かの意味を持つものに違いない。




意識を集中させる。

かすかな音も聞き逃さないほどの強い集中力で、辺りの空気を掴み取ろうとする。

それが何の意味を示すかは分からないし、何であるかも分からないかもしれない。

だが、そこに意味を見出し、ここにあった憶えを浮かび上がらせ………。







「っ………!!」








嘘のように思えた。

本当に何かがあると信じて、まるで願うよう“知りたい”と思ったその男の願いを叶えるように。

いや、彼の中で信じたここへの誘いは、寧ろ彼がその起爆剤となっていたような――――――――――――。







「――――――――――――――!!」








空間が騒々しくなる。

周囲の空気が突然に反応し始める。

空気が風を纏い、風はこの空洞を回り始める。

まるで見えない竜巻のようだ。

強い風が吹き荒れ、髪も服も靡き、直立するのが困難なほどぶつかって来る。

次第に、これは幻想だろうか。

現実に起こっているとしたら、これも魔術ということで説明がつくだろうか。

空気の中で漂い続けていたそれらは、白く輝きを放ちながら、

竜巻の中央にいるアトリに向けて、その光を放つ――――――――――――――。










………。











白く輝く世界から晴れたそこには、

彼が今いる空洞と同じような世界が広がり。




そして。





憶えのある背中が一つと、

憶えのない陰が三つ、





存在していた。






………。






4-5. 幻惑





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