番外篇14. 理想の剣
“――――――――――――――彼らも、排除されるべき敵だ。”
それが分かった瞬間、彼の行動もまた決定されたようなもの。
今までこのユダの町に住む民たちの為に戦ってきたのは、事実だ。
彼らが今後の時間を自分たちが求めるように過ごすためには、やはり脅威を排除しなければならなかった。
だが、その末に訪れた機会に、彼らは早速自らの答えを出した。
元々共通の目的で共闘した間柄で、二つの派閥の関係が解消された訳では無かった。
保守派の人間たちにとっては、全力で戦いこの土地と自分たちを護るために剣を取った。
だが、急進派の人間たちにとって、共闘とはあくまで建前。
それ以上に自分たちの願う理想の計画があり、それを成就するために、彼らは動いた。
自分たちと同じ土地に住むもう一つの派閥を殺戮し、町に一つだけの派閥を成り立たせ、自分たちこそがこの町やこの領地を支配するのだと。
だから、急進派はずっとこの瞬間を待ちわびていたのだ。
アトリが現れてから、この計画は随分と逸らされることになった。
だが、それでも彼らはあえてこの作戦案に踊らされ、いつか逆転する時を狙い続けていた。
そして、機会が訪れた。
彼らは外敵、異民族との戦いに勝利し、これで脅威が排除され安定がもたらされると、急進派以外の人間たちは誰もがそう思ったことだろう。
だが、急進派は自らの領地に共に住む者たちを、攻撃した。
次々と殺害し、自分たちの計画の瞬間を最後まで遂行させようとした。
残されたのは、アトリのみ。
保守派の人間たちは、元々黄金色に染まっていたはずのこの丘に、躯と成り果てた。
もう彼らが目覚めることはない。
魂が生きている人間の夢に食らいつくような、そんな非現実的なことがあるはずもなく、
かといってこの躯となった者たちが死から蘇ることもない。
彼らは等しく、その機会を与えられたと同時に、死を与えられた。
アトリがもたらしたはずの機会に、
アトリが望まない結末を機会として、彼らが用意したのだ。
それに対し、アトリが取った行動は、ただ一つ。
「残ったのはおめえだけだ。皮肉なもんだなぁ、この土地の人たちを護りたいって、遥々ここまで来たってのにこのありさまってのはな」
「………そうか。はじめから、お前たちはこの瞬間を待っていたということか」
最期まで戦い続けていた、領主ダリウスも、その側近であるエルクも、彼らの計画の前に斃れた。
残された保守派の人間は誰もおらず、文字通り急進派の者たちがこの土地を支配し運営する機会を得た。
ただ一人だけ、アトリという存在が全員に一致して邪魔者であった。
この時から既に、彼の用意したものとは別の機会を、彼ら自身で手に入れていた。
ならば、その機会ではじめに行うことと言えば、自分たちにとって邪魔な存在を消し去ること。
つまり、アトリを殺害してこの計画の手向けとすることだった。
シェイドとアトリが対峙しているところへ、生き残った男たちが近づいてくる。
間合いは充分に開いているが、やがてアトリとシェイドを取り囲むようにして布陣した。
彼はそのように言うが、彼はこの瞬間に彼らの計画に気付いた、というような反応は一切見せない。
シェイドはこの瞬間がこの少年にとって驚きのものであったと、確信している。
両者の思うことや感覚にはズレがあった。
確かにシェイドはこの計画でこの少年を陥れ、してやったと思っていることだろう。
だがアトリにとっては、あらゆる場所あらゆる戦場では、最善と最悪を想定するようにしていた。
ただ。
今回のこの結果が、彼にとって「信じたくはないもの」であっただけのことだ。
「そうよ。確かに外敵は駆除出来たし、町もこれで暫くは安泰だろう。けどなぁ、俺たちははじめっから保守派の人間たちと一緒に領地を運営するつもりなんざ、思ってなかったんよ。おめえの勘違いだったな」
「………」
「第一、俺たちの間柄を調べて本当にそれが可能って、普通思うか?ハハハ、これだから育ちの良い餓鬼ってのは気に入らねえ。まあ、おめえの理想も叶えられないものだってことで」
――――――――――ここで死ね。
彼らが戦うというのなら、俺も剣を手に取り戦おう。
護るべきものは、もうない。
失われた命もその時間さえも、最早取り戻すことなど出来ない。
護るべきものは今、敵となった。
確かにこの瞬間に、己が理想を貫くうえでの「悪」に認定されたのだ。
この土地のことではない。
彼が自身の信条として持ち、自らの行動と位置付ける理想を前にして、既にこの者たちは護られるべき存在ではなくなった。
寧ろ、その逆。
出来ることなら、すべての人が護られ、幸せでいる結果が欲しい。
せめてこの目に映る者たちを、自らの手で護れる人がいるのなら、この身はそのために剣を取る。
その理想を前にして、この者たちはそれを脅かす存在だ。
彼らを生かしておいては、今後彼らが脅威となって再び弱者が虐げられることになる。
それこそ、今は奪われてしまった、別の領地などの民たちが危険に晒される。
であるのなら、戦う目的はもうただ一つ。
その後に脅かす存在となり得るのなら、その危険な芽を摘むことが。
死地の護り人としての、役目。
「っ………!?」
その時。
その光景を見ていた誰もが、戦慄した。
アトリを殺すために立ち塞がった男、シェイドの放った一撃。
剣とは別に持っていたその弓から矢を放ち、アトリの顔面に向けて飛んでいく。
空気を斬り裂く一矢の音が誰の耳にも明らかに聞こえてくる。
顔面に向かっていくそれを避けられなければ、たとえ兵士として幾多の戦場を越えてきた彼とはいえ、即死するものだろう。
アトリとシェイドの間合いはそれほど開いてはいない。
弓矢を避けられるような距離感でも無い。
そう思い、シェイドは言葉を残してその矢を放った。
だが、男からすれば有ろうことか、そのまさかを彼はしてしまった。
「何っ………!!」
しかも、彼はその矢を避けるのではなく、剣を持っていない左手で、掴んでしまったのだ。
人の眼でしっかりと確認できるほどの遅さで飛んでいる訳では無い。
高速で飛翔する物体を、しかも完璧に身体に直撃する前に受け止めていた。
左手にはあまりに高速で飛んできたそれを掴んだ衝撃か、皮膚から血が流れだしているのが見える。
だが、そのようなかすり傷など、顔面に矢が刺さることに比べれば遥かに軽いものだ。
少年は掴んだその弓矢を持ちながら、一歩、また一歩と間合いを狭めて行く。
もちろん、その対象は弓を放ったシェイド。
まずはお前からだと言わんばかりに、確実にその一歩を踏んでいく。
少年の顔は、ただひたすらに暗い。
自らに決心したその気持ちと行動とは裏腹に、とても少年が持つべきものとは思えないものだった。
「野郎っ………!!」
つづいてシェイドは、まだ間のある間合いを意識しながら、
一歩後ろに下がって次の矢を放つ。
アトリは確実に一歩ずつ、シェイドの間合いにゆっくりと入り込もうとしていた。
放たれた矢は先程と同じくして、鋭い音を立てながらアトリの胴体目がけて飛んでいく。
先程よりも間合いが狭められ、しかもアトリは前進しながらその矢に立ち向かう。
距離が狭くなっていることに対し、矢の加速は変わらず早い。
僅かな間合いだというのに、アトリはシェイドの第二射目を回避し、続く攻撃に対し。
「………!!」
それは、ほんの僅かな時間、ほぼ一瞬と言っても良いだろう。
あらゆる一連の動作がすべて同じタイミングで放たれたと、見えた人がいても良いくらいだ。
飛んでくる三本目の矢に対し、アトリは左手で持っていた矢を宙に浮かせた。
それとほぼ同時か僅かに時間差を生み、彼は開いていた間合いを一気に詰め寄った。
もはやシェイドには、驚くほどの時間さえ与えられなかった。
そんな余裕はどこにも無かった。
何故なら、気付いたら少年が目の前にいたのだから。
アトリを襲う三本目の矢は、かなりの近距離から放たれたもの。
普通の人間であれば回避できるはずもないし、直撃すれば酷く言って身体の臓を吹き飛ばすほどの威力はあったことだろう。
彼は胴体に防具を身に着けない。
自分の身軽さを優先する為に、防具は一部の部分にしか身に着けていなかった。
だから、胴体を狙うというシェイドの考えは正しい。
正しいが故に繰り出した攻撃であるのだが、相手がまさに人外と呼べるに相応しい者だっただろう。
彼は、左手から浮かせたその矢と、シェイドが放った矢を意図的に直撃させ、飛んでくる弓の方向を強制的に変更させてしまった。
それとほぼ同時のタイミングで、彼はシェイドとの間合いを一気に詰め、そして一刀両断する。
ながら動作ではあったが、あまりにも違和感なく同時に攻められたものだから、それを見た多くの人間たちはそれが同時の動作に見えてしまったのだ。
あり得ない。こんなものは、人間のすることではない。
まず第一に、あの動きは早過ぎる。
どのように身体で行動を繰り出しているのかが、全く分からない。
シェイドからすれば、そのようなことを思う間もなく、その時を迎えたことだろう。
切っ先に入る剣の間合いギリギリから放たれた彼の攻撃は、シェイドを瞬時に絶命させた。
言い残すことも、やり残すことも、彼はその場ですべて奪った。
血が飛散する。川の水のように流れるようなものから、泥のように粘ついたものまで、様々だ。
「ヒッ………」
「………」
「貴様ああああぁっ!!!」
たった一撃で斬殺し、命を絶つ。
よく考えれば、この少年がそういった手をよく知っていることくらい、簡単に想像がつくじゃないか。
だって、この戦闘が始まった時から、この少年は誰にも遠く及ばない比類なき技量を、いかんなく発揮していたのだから。
彼を囲む急進派の者たちは、総勢20名以上。
既に一人は命を失ったが、彼の目的はこの全員を斃すことになった。
彼らは等しく敵。護るべきはずの者たちを、その機会を永遠に踏みにじった敵。
そして、その敵は自らを敵と断定して殺しにかかる。
ならば、自分がそれに屈する訳にはいかない。彼らに負けては、これから先に虐げられる者たちがどうなるか。
敵の一部は激昂し、敵の一部は恐れを抱く。
それから、一人対多数の、望まれない戦いが始まってしまった。
………。
“敵を倒さなければならなくなった”
そうしなければ、この者たちの存在は周囲にとって脅威となる。
目の前でそれを示されてしまっては、もう取るべき手段など他に無かった。
護るべきはずの者たちが彼らに殺され、護られるべき存在であった彼らが敵となった。
ユダの町の民たちを、護るための戦い。
そのはずだったというのに、その目的は根底から覆されてしまった。
護るべき時間も未来も、人の命も、何もかもがすべて、敵となってしまったのだ。
彼が追い続ける理想。
この手で誰かを護ることが出来るのなら、そのために出来ることをする。
死地の護り人としての、信条。
せめてこの眼に映る人々くらいは、今後のための機会を与えるために出来ることをする。
それを目指していたはずの彼が、護られるべき存在を殺さなければならなくなった。
そのような機会を一蹴して自分たちの欲望を示すために、味方さえ殺した彼らだ。
もし、この時の状況と詳しい内容、そして彼の取った行動が世間に知れていたとしたら、彼が取った行動をどのように評価したことだろうか。
あるいは、こう思ったことだろうか。
“それでも、彼の判断は仕方のないことだった”と。
この一件が他の人間に知られることは、殆ど無かった。
彼が一つひとつの状況を詳しく話そうとも思わなかったし、彼にとっても後悔の嵐だった。
だから、結局のところほとんどの人が知らないことを誰が評価する訳でも無い。
等しく敵だと決めつけ、それを排除するために戦ったとしても、
それでも、彼はとてもこうすることが正しいものと思ってはいなかった。
確かにこの者たちを始末すれば、彼らによって虐げられる民はいなくなるだろう。
だがそれでも、彼の本来の目的から逸れたことに変わりはない。
これではまるで、都合の悪くなった者たちを速やかに排除するための役割でしかない、と。
仕方ないという言葉で済ませることも出来なければ、それを拒否してこの行動を起こさないという選択肢も、彼には取ることが出来なかった。
自ら与えた機会を使おうとしたその者たちを、自らの手で殺し、その機会を奪う。
そんなことが、赦されていいものであるはずがない。
「………」
認められるべきものでもない。
「………」
許容できるものでも、ない。
だが。
それでも少年の身体と剣は一体化していた。
他の者たちが、その人外な動きを纏う少年の姿を見れば、そのように評価を下したことだろう。
あれはもはや人と呼べるようなものではない。
身体そのものが剣であるかのようなもの。
単純に戦いに慣れたという程度のものではなくなってしまっている。
少年は、止まらない。
留まることも知らない。
「………」
人間の骨を断ち切ることなど、容易かった。
血肉を抉りバッサリと斬り落とす感覚など、何もこの時に強く感じなくても、とうに慣れているものだった。
腸を切り開き、胸を抉り、首を落とし、おでこに剣を突き刺すのも、既に経験していたことだ。
今の彼は、明確な敵をただ倒すだけの道具である。
その道具に自由意志はない。
ただ目の前にいる明確な敵を排除する為だけに、剣を振るっている。
剣を持つ本人が、それが自分にとって望んでいない、正しいとも思えない姿であったと思っていたとしても、心も身体も、その理想を体現するために必要な剣でさえも、本人の意思に従わなかった。
人を殺す感覚など、とうの昔に慣れている。
だというのに。
………だというのに。
………だというのに………。
少年の相手をしたのは、20名を超える年上の男たち。
少年が自分たちの目的を前に立ちふさがるというのなら、殺すまで。
同じように、少年の理想を前に脅威であるこの敵は、斃さなければならない相手。
であるのなら、この剣は最後まで下ろされることはない。
血を塗られずして成し得たことは、一度とて存在しなかった。
どのような小さな戦いであっても、どれほど規模の薄い争いであったとしても、
正義は悪を斬り裂いた。
それからの戦いは、もう彼にとっても明確な意思を持ち合わせることの無いものであったかもしれない。
これが道具のような人生だというのなら、彼もその意味が分かり頷いたかもしれない。
剣と手が離れ離れになる瞬間は、最期が訪れるその時まで来ることは無かった。
一対多数の戦いをしているというのに、彼は全く衰えることもなく、劣勢になることも無かった。
相手に場の主導権を握らせることもせず、常に自分のされるがままに剣を振った。
心は、否定していた。
だが、その剣は素直だったのかもしれない。
己が理想を貫くための体現者となるその剣は、明確な目的を前に立ち塞がる敵を排除するだけの道具。
寧ろ、剣にその意思が乗っ取られてしまったと言っても良いくらい。
剣は止まらない。
死地において、次々に作られていく人々の躯。
空は暗く、厚い雲から時折差して来る光の階段さえ、憎く感じるほどに。
戦争そのものが開始されてから、数時間も経過している。
彼が信じていなかったから、信じたくなかったから、それでもこの結果を生んだ一人の人間ということにはなるのだが、戦いが更に深刻化し、泥沼化してから、その躯の数は圧倒的に増えてしまった。
彼自らの手で、その躯を増やし続けたのだ。
敵となる相手は皆等しく剣を持つ。槍や弓を使うものはいない。
否、彼の剣がそのようなものを使わせる間合いや時間そのものを、赦さなかった。
一撃一撃が、他の者たちにとっては絶望を発生させる道具。
剣の先が奔るごとに、身体からはあらゆるものが飛沫していく。
もう、それは戦いと呼べるものではなかった。
誰もかれも、彼に敵うことはない。
彼の奔る剣を前に、すべてが斃されていく。
死以外の結末を赦すことの無い切っ先は、瞬く間に相手の命を喰らい続けて行った。
彼の手に持つ剣は、今日だけで何十人もの命を奪った。
その剣もようやく刃こぼれが激しくなり、その一部が既に欠けていた。
剣としては見るも無残な光景になっている。
その存在がハッキリとした目的を失う形になりかけようとしていた時。
………。
「残ったのは、私だけか」
丘の上。
頂に残された動く陰は、二つ。
背後に町を構え、その先には見果てぬ大地が存在する。
アトリという少年と対峙する男はただ一人、この土地で急進派という派閥を作り、頭首として他の者たちを引っ張って来た男。
そして、この計画を遂行するために、保守派の人間たちを襲撃するよう作戦を立てた、張本人だ。
もしこの男がこのような計画を踏み込んでいなければ、このような結末を迎えることは無かっただろう。
だがそれを言っても始まらないし、終わらせることも出来ない。
起きてしまったことを戻すことなど、出来ないのだから。
彼の理想を貫くための殺戮行為とて、同じことだ。
誰に認められる訳でも、誰に理解される訳でも無いこの出来事は、たとえ彼がどれほど悔やんでも憎んでも、もう元に戻すことなど出来ない。
「何とも醜い結末だな。我々の選んだ答えが、これとはな」
「………」
少年は、何も言わない。
男が一人聞こえるように呟いたとしても、何も答えない。
「あるいは、これも貴様の想像通りか。我々がこのような手段に出た時、貴様には取るべき行動が見えていたし、それが出来ると思っていたことだろう」
それは、図星だった。
決して否定出来るようなものでもなかった。
自分の心を素直に覗けば、確かにこうなることくらい考え着いていた。
ただ、それが自分にとって信じたくはない、架空のことだと心の奥底に、その可能性を押し込んでいた。
もう語るべきものなど、何もない。
交わす言葉も無ければ、情をかける必要も無い。
この戦いの最期はただ、お互いが持つ剣のうち、どちらか一方が斃れれば、その時点で終わる。
刹那。
両者とも間合いの中で、その太刀が振り下ろされる。
男の剣戟は自身の左から右に向けて、横振りで放たれた一撃。
そのまま振り抜けば、彼の胸部に直撃するかというもの。
それに対して、彼は。
「………」
鈍い音が鳴り響く。
聞く人間は二人しかおらず、そのうちの一人は聞くことさえ意識を持たなかった。
最期に味わう痛みは、また格別であっただろう。
自分たちが創り上げるはずの機会で、それを果たし得なかった断罪の意味を込めて。
自らの選択肢が失敗したことによる自らの裁き。
あまりにも滑稽で、自分自身で思わず嘲笑いそうになるくらい。
男の一撃に対し、
少年は一瞬だけ姿勢を低くして、振り抜かれたその攻撃を頭上すれすれで躱す。
そして、少年の一撃は正確に、相手の身体のど真ん中を貫いていた。
剣の根元まで突き刺さるかという一撃。
男は致命傷を受けたにも関わらず、少年の左肩を右手で掴んで、手一杯に力を籠める。
強く握り締められた肩に、傷をつけることは出来ない。
だが、そんな傷よりも、遥かに抉る一撃が、少年に与えられた。
“―――――――――――――――見ろ。その結果がこれだ。”
「お前の理想は、はじめから誰かを犠牲にすることで成り立たせるものだ。そこに、善悪の区別など存在しない。お前は善を貫き、同時に悪にもなる。そうだろう。犠牲を出さなければ命は救えない。だが、お前が護ってきた多数の命の陰で、お前の理想によって多数の命が奪われた」
「っ………」
「そんなものは正義でも何でもない。何一つ護られている結果をもたらすことも出来ないだろう。お前に残されたものは、己が命が失われるその瞬間まで、決して抗うことの赦されない定めだ」
――――――――――――その理想は、やがて醒めて消えるだろう。
こうして、戦いは終結した。
長い長い戦いの終わりに、男は僅かに自嘲しながら、その命を閉ざした。
男の身体から剣を抜き取り、それで戦いの音はすべて消えた。
空は暗い。
雲に覆われた空。
その隙間から、僅かながらに下りてくる光の梯子。
風は殆ど吹かず、
大地は光の無い様に色褪せているようだった。
ただ独り。
これが、彼の手にした光景だった。
………。
番外篇14. 理想の剣




