番外篇13. 叛逆の剣
彼だけが感じ取ることが出来た、突然の異変。
そして訪れた、大地を震わすほどの“悲鳴”の数々。
「誰だ!?」
「何っ………」
ユダの町の民は、町を占領せんとする者たちとの戦いに、勝利した。
その勝利は恐らく今後のユダに大きな影響をもたらすものだろう、と考えられた。
急進派と保守派という二つの派閥が、共通の目的を前に共闘し、もたらされた結果の一つ。
これからの施政や町の運営、領地の再奪取など、考えることとやることは様々だ。
あらゆる状況が民たちの未来を包み隠そうとしていたのだが、彼らはこの戦いに勝利することが出来た。
幕切れが思っていたものと違ってはいても、それでも勝利したことに変わりはない。
アトリという少年が導き、アトリという少年が提示した、最善の選択肢。
その選択肢によって失われた命も数多い。
だが、もし彼らがこの選択を選定して戦いを行っていなければ、彼らに待ち受けていたのは死よりも辛い未来であったことだろう。
彼らは、彼の示した選択肢によって、その結果と共に未来を与えられたのだ。
戦うことで抵抗し、勝利することで機会を得る。
その後のことは、残った者たちのすべきことで、彼の立場で出来ることなどほとんどない。
戦いが終わった。
多くの犠牲を出しながらも、救われたものがある。護られたものがある。
喜びや嬉しさというような気持ちは僅かにしか感じなかったが、それでも………。
だがその時だった。
事は突然にして起こる。
誰もがその悲鳴を、断末魔を聞いてその方角を見た。
元々黄金色だった丘を覆うように響き渡る、男性のその声。
それが、アトリが瞬間的に感じた“空気の違い”、発動された察知能力だった。
長い間死地に赴き戦闘に参加していると、そうした空気の入れ替わりや突発的な違和感を感じやすくなるものだったが、
今回のそれは起こる前の強く感じられたもの。
人間の強力な「殺意」に対して、危機感を訴えられたものであった。
「ハハハハ!!やっちまえなおまえら!!」
「へええええいっ!!!」
………そんな、馬鹿な。
ある種の感情噴出だった。
しかも声や姿で表されたものでもなく、ただその光景とその主の姿を見て、少年は心の中で思い顔だけにその思いを浮かべる。
悲鳴の本人の胸部には傷ついた剣が根元まで貫通しており、身体の正面に向けてそれは貫通している。
切っ先が身体の正面に出ているのだから、その男は背後から“攻撃を受けた”ことに間違いはない。
しかも剣であるのなら、その攻撃方法が対象から刺されるか、あるいは剣を投げ込まれた末に貫通したものしか想像することが無い。
だが、それも僅かに一瞬の時間で確認することが出来る。
何故なら、刺した張本人が斃れ征く男のすぐ背後にいて、不気味な笑みと奇声にも似た言葉とも取れない音を発していたからだ。
「どういうことだ!?これはっ………!」
「領主、危ない!!」
そして、その張本人と取り巻き、“彼らの仲間たち”は、明らかに保守派の人間たちを狙っていた。
はじめにこの丘に響き渡った断末魔も、保守派の生き残りの人間のもの。
更に追い打ちをかけるようにして呼びかけられ、攻撃を開始する男たちは皆若手揃い。
今まで戦闘をしていたというのに、それをもろとも感じさせぬ勢いで、瞬く間に襲い掛かって来る。
火種は領主ダリウスやエルクにも及び、彼らも自分たちが狙われることでハッキリとその状況を察することが出来るようになっていた。
無論、彼も。
いや、この可能性というものは、彼は遥か前からその可能性を考えていた。
「馬鹿な……………何をしている………!!」
―――――――――――戦いは、まだ終わっていなかった。
一人だけでは無い。
二人、三人、四人………若い男たちの多くが、次々と残された別の者たちに向けて攻撃を仕掛ける。
そして攻撃を受ける側の男たちは、全身に疲労を感じ何とかここまで生還した、数少ない派閥の人間。
はじめに攻撃を仕掛けた男の正体で、既にこの残された戦いの構図は決定されていた。
ダリウスやエルクもその正体を確認していたし、彼らよりも少し遠くに離れていたアトリも、その男の姿はハッキリと見えていた。
戦いが終わった直後というのに、再び戦いがここで発生している。
否、これはまだ終わっていない戦いの続きだった。
勝者はその矛先を自ら下ろすというが、彼らにとってはまだ本当の勝者たる存在となっていない。
これが何を意味するのか、分からない彼らでは無かっただろう。
心も身体も、全力で否定したかった。
その意味が分かるものと知りながら、確信さえ持ちながら、それでも否定したい気持ちでいっぱいだった。
だが、それさえも拒絶する剣戟の猛攻を受け、何人も何人も犠牲者が増え続ける。
斃すべき者は斃したはずなのに、その矛先を下ろされることがない。
彼らと対する一つの集団――――――――――“急進派”の者たちが、自らの目的を果たさない限りは。
「やめろ………もう戦う必要など無い………よせ!!!」
心も身体も、否定したい。
その気持ちや思いというものは、アトリとて共通だ。
彼は保守派でも急進派でもない王国の兵士だが、この状況では明らかにどちらに非があるかは分かる。
今まで共通の目的を前に共闘していた間柄だったが、ここにきて急進派の者たちが急に彼ら保守派の人間たちを襲いにかかった。
次々とその矛先に身体が穿たれ、犠牲者が拡大していく。
地を這う風のように剣戟が繰り出され、保守派の生き残りたちがあっという間に殺されていく。
少年は、その攻撃を止めさせたい思いを一身に、すぐさま領主たちのいる方へ向かおうとした。
だが、その少年の征く手を阻む者が現れる。
「ぐっ………!!」
「おおっと、ここは通さねえ。おめえは黙って見てるんだ。このありさまをな」
先程までその剣で人を喰らっていたというのに、その男が今持っていたのは、剣とは別に弓だった。
アトリが提示したその作戦で使われた弓。
彼の前に突如として現れたその男は、弓矢の束を担いで、剣と弓を右手で持ちながら、左手で弓を持ち彼に向けて放った。
自分が行けばこの戦いは止められるかもしれないが、まるでそれさえも予測の内だったかのように、目の前に現れた男は彼の行く手を阻む。
男が発射した弓矢は彼の左肩に命中し、勢いを身体の貫通によって殺された。
大した衝撃があった訳でも無いが、この状況下と更に襲い掛かる痛覚によって、彼はその場に転倒してしまった。
「これを見れば、おめえは必ず俺たちを止めにかかる。だがな、それをやられると俺たちの目的が果たせなくなるんでね。ちと黙ってろや」
「………!!!」
更にその男は、束から一本の矢を取り出して、それを高速でアトリに向けて撃ち出す。
風を切る高鳴りを響かせながら向かってきたその矢は、またも彼の身体に直撃するコース。
だが彼はその矢の動きを正確に見定めて、ギリギリでそれを回避する。
直撃を受けた左肩から全身を硬直するほどの痛みが襲い掛かってきているが、そればかりを気にしてもいられない。
早く戻らなければ、領主が、皆が殺されてしまう――――――――――!!
その思いを踏みにじるように、目の前の男“シェイド”は、冷酷な目で転倒するアトリを見下す。
シェイドからすれば、この瞬間というのは待ちに待った瞬間だったのだ。
まず一つ。
彼ら急進派が今まで企み続けていた計画があった。
急進派と保守派の意見が合わないというのは分かっていたし、保守派の人間たちは頭の固い頑固な老体ばかりと急進派の若手は貶していた。
シェイドも無論、そのうちの一人だ。
だから、彼らは土地が奪われる危険性というのを逆に利用して、自分たちが新たにこの土地を支配運営する手綱を握ろうとしていたのだ。
だが、その計画はシェイドが目の前にする、この少年一人に掻き消されてしまう。
シェイドたちからすれば、保守派の人間が王国に救援要請を送ったというのが、誤算だっただろう。
そして、それに応えてまさか子供がやってくるとも思わなかっただろう。
少年はこの土地を護りつつ今後の未来を征くためには、戦って勝つしかないと言った。
本来考えていたものとは違うものではあったが、それでも計画を遂行しない訳にもいかない。
アトリが、保守派と急進派を協力させて戦闘に臨むという状況を作り出す前から、彼ら急進派の計画というのは秘密裏に進められていたのだから。
「そうだそうだ。一発も二発も変わんねえだろ?嫌だってんなら、上手く躱せ」
「っ………!!」
少年が現れ、少年の作戦案が提示され、それを実行する。
今までとは違った状況が進められており、急進派としてはどのように計画を遂行するか。
そう考えた時に、今のこの選択が取られることになったのだ。
この戦いに勝つことに、全力で努力する。
確かに少年の言う通り、相手と和平交渉など結べば、自分たちの人権は失われるだろう。
それよりは、相手を打ち破って犠牲を出しても自分たちが生き残ることが出来れば、それこそ支配という体制を築くことが出来る。
問題は、その前に立ちはだかる邪魔者をどうするか。
答えなど、一つしかない。
自分たちが上に立つのであれば、それに従わないであろう邪魔者は、消せばいい。
だから、シェイドを含む保守派の人間たちは、
共通の目的を前に共闘したが、その矛先を下ろすことなく保守派の人間にも向けたのだ。
彼らにとって保守派などという派閥は、単なる邪魔者で足枷にしかならないのだから。
邪魔なら殺してしまえば良い。
そうして、このユダの町の戦いさえ、彼らは利用したのだ。
「貴様っ………!!」
「ほお、憎いか?俺も同じだ。最初に会った時からな、おめえのことが気に食わなかった。ずっとずっとこの瞬間を待っていたんだよ俺自身の手でお前を殺す、この瞬間をな………!!」
シェイドは、剣の間合いの外から矢を放ってくる。
だがアトリは、それに応戦することが出来ない。
この男が明確に彼を狙い殺そうとしていることは、誰の目にも明らかだ。
もっともそれを眺める者など、この周りには誰も居なかったが。
他の急進派の者たちは、生き残った保守派の残党狩りに集中していた。
保守派の人間たちより急進派の人間たちの方が生き残りの数も多いため、この戦いは早々にケリがつく。
そう思われていた。
だからこそ、彼は早めに急行しなければならない。
だというのに、自分を狙う存在が自分の行動を阻む。
「どうした?何故反撃して来ない。おめえほどの腕があるにも関わらず、手も足も出ないってか?」
この男を殺すことなど容易い。
だが、それをしてしまえば、自分の内なるものが崩れて行く予感がする。
決定的なものを失ってしまう気がする。
だってそうだろう。
今、確かに彼は明確に命を狙われている。
急進派のシェイドという男に襲われているという状況も、痛いほどによく分かる。
だが、反撃が出来ない理由も確かに分かる。
――――――――――ユダの町にいる彼らを護ろうと決意したのは、誰だったか?
そう。
彼はこの土地の人々を護るために、戦いに参加した。
この町の人々がこれからを生きていくために、これからの幸せを掴むために、その機会を用意するという目的で戦いを起こしたのだ。
彼が護るべき対象とは、この町の民すべてを指す。
元々救援要請に応え、その土地に出向き、死地で起こる戦闘に参加する目的というのは、殆どがそういったものだ。
戦いになれば、民たちに戦える余力はないかもしれない。
だから、王国の兵士である自分がそれに代わって戦闘をする。
周りの者たちと協力しながら、何とか土地や民を護るために戦い、その末に訪れた結果で人々を護れるのであれば、それでいいと。
すべてがすべて求める結果をもたらすことなど出来るものではないが、その土地一つひとつで救われた命や護られた命があるのなら、彼としてもある程度の目的を果たすことに繋がる。
だが。
今彼が目の前にしているのは、この町の民。
“救うべき相手であり、護られるべき相手――――――――――。”
その相手に自分が殺されそうになる、などという状況はいまだかつて存在しなかった。
領地の民に憎まれ、恨まれることなど幾らでもあった。
その者たちの中には、王国の救援要請などという正義の体現者を殺したいと思った人もいることだろう。
だがそれが実際の行動に具現化するというのを、彼は今までに経験して来なかった。
そして何より。
彼は自らの理想を持ち得る。
その理想がこの町の民を救済し、その機会を与えることだと言っている。
シェイドも、急進派の頭首であるダリウスも、その枠組みに存在する者たちだ。
この手で護れるものがあるのなら、せめてこの眼に映る人々くらいは――――――――――――。
ユダの町に例外はない。
たとえ急進派で今自分を襲っている相手であろうと、その相手は救われるべき存在だし、自分が護るべき存在だ。
彼自らの理想を以て、その事実を否定することは出来ない。
しかし。
放っておけば、自分は幾度も矢を撃たれ、死ぬ。
だが。そんな時。
「領主!!!」
「………!!」
少しばかり離れたところの状況が、その声を通じて目を向けるキッカケとなる。
丘のすぐ頂上付近で戦闘が継続されていることに変わりはない。
アトリがこうして足止めをされている間に、急進派の若い男たちは次々と保守派の人たちを殺害した。
そして、その時が来てしまった。
アトリも目の前にいるシェイドも、動きが止まる。
領主、と叫ぶ彼の側近の声を聞いて、その瞬間が来たものと確信する。
だから、シェイドは笑いながらこう言った。
「あいつ、くたばったぜ。馬鹿な領主殿の結末だ。ざまあねえな」
………。
これが、待ちに待った瞬間、だと?
こんなものが?
本来与えられるはずのない、この結末が?
………。
「………あぁ、馬鹿者ども………」
領主ダリウスは、膝を折り、その後で地面に倒れる。
すぐそばに援護をしていた側近のエルクがいたが、彼の援護も虚しく、その身体に大きな傷が刻まれた。
脇腹を抉り取り、肉を切らせて多量の出血を起こしている。
まるで身体の一部を獣か何かにかじられたように、その傷が深く浸食していた。
更にもう一つ、胸を突き刺した剣の突き。
それがダリウスにとっては致命傷だった。
斃れ征く男の姿を、エルクは傍で何とか生き永らえさせようと支える。
だが、エルクには分かる。
ダリウスの体温が徐々に自然と調和し、人のものでなくなっていく、その感覚が伝わる。
僅かにその言葉を周りに伝えて、そして最期にエルクにしか聞き取れない、細い声で。
――――――――――私が、間違っていた。
そう言って、目の輝きを手放したのだ。
「………」
少し離れたところに、ただ一人残された男、エルク。
彼の周りにいる男たちは、彼から見れば紛れもなく「敵」となった者たち。
ダリウスに対してトドメを刺したのは、その敵の頭首であるデューイだった。
すべて、彼らの思惑通り。
彼らの計画通り。
それをもし早めに知っていれば、あるいはあの少年にさえ………!
「残されたのはお前一人と、離れのあの少年のみ。もう勝ち目はあるまい」
「………」
戦場となった黄金色の丘が、静かになる。
先程までの町民たちの争いは、圧倒的に急進派の者たちの優勢だった。
元々若手が多くそれなりに戦うことが出来る筋力や体力を持ち合わせた急進派が、保守派の一歩も二歩も先を行っていた。
エルクは急進派の面々とそう変わらぬ歳だが、彼が保守派の人間であるということが、このような経緯と結末を招いてしまった。
彼の周りには、十名ほどの部下とデューイ。
更にその周囲には、戦いを終えてその光景を見ている十数名の部下。
そして、少し遠く、声を張れば届くであろう距離に、シェイドとアトリの姿がある。
今まで鳴り響いていた鉄の音は消え、忙しく足場を踏む靴の音も消え去った。
そこへ。
「………、者………」
「ん、どうした。遺言くらいなら聞いてやってもいいが、ハッキリと………」
―――――――――――この裏切り者!!!!!!!!
………。
それが、エルクという男の最期の言葉だった。
その張り上げられた声は、ハッキリとアトリにも聞こえていた。
大地を震わすほどの声には、憎しみと怒りと恨みと、そして後悔の念が込められていた。
アトリがその言葉にあらゆる心情を察することが出来るほど。
男はデューイの言葉をすべて掻き消し、その一言でその場にいたすべての者たちを震撼させた。
心からの叫び、この結末に対しての込められた思い。
最期の最後に残されたこの気持ちが、激しく己の生涯を後悔させるものであり、それを一身に示したものであったことだろう。
この男たちは、自らの命や過ごしてきた時間のすべてを否定するのだ。
少しでも、この男たちと力を合わせて事を成そうと考えた自分が、間違っていた―――――――――!!!
考えも根本から異なるし、期待をしたこともあった。
あの少年の語りを信じたし、それに乗ってまとまりを掴んだこの町も信じていた。
だが待ち受けていたのは、この結末だった。
“この身を誰かの為に使って、それで誰かが救われるのなら良いと、本当に信じています。”
だから彼は。
そう言われたその彼に対しても、今目の前にいる男たちに対しても、
ここで躯になり果てたこの領主に対しても。
あらゆるもの、あらゆる人、あらゆる事。
そのすべてを憎み、恨んだ。
それらの思いが一つに、『裏切り者』という言葉に凝縮され、大地を駆ける。
………。
皆、死んでいく。
これ以上の犠牲は無いと、そう思っていたのに。
再び時が訪れれば、彼らが決める新たな時代が訪れるだろうと、信じていたのに。
俺は、そのために彼らに機会を与えようと、戦っていたのではないだろうか。
いや、それ自体に間違いはない。
確かに機会は用意された。
俺が望んでいない、殺された彼らも望んでいない、新たな機会が今この場にあるというだけのこと。
基盤を整え事を成し、その後のことは彼らが決めるものだろう。
そう自分自身で決めつけていたではないか。
俺は、彼らの未来が消えゆく定めであるそれを救うために、ここにやってきた。
その目的を果たすために、彼らを護るために戦うと、決めていたのだから。
………それが、この“結果”だと?
敵を討つことには成功した。
これで、失われた命もあれば護られる命もある。
確かにそのはずだった。
機会を与えることも出来たし、彼らの今後に幸あれと願うことだってした。
………なのに。
これが、新たに用意された機会だというのか。
彼らの出した決断で、用意された機会に事を起こした、結果だというのか。
いや。
俺が導いた結果が、この機会の訪れだったのか。
こんなものが。
こんな結末がまかり通ってしまうのだから。
いつまで経っても。
どれほど戦っても。
どんなに努力しても。
“誰も護られないし、誰も幸せになれるはずもない――――――――――。”
ああ、そうだ。
確かなことが、まだ残されている。
俺が護ろうとしていたのは、弱者だからと虐げられていた者たち。
その代わりに戦う対象として選んだのは、弱者を貶す都合の良い者たちだ。
彼らに幸せの席が無かったのだから、その彼らに幸せになって欲しいと、その席を用意することにした。
何にせよ、その席に一度座ってしまえば、どれほどの時間が経っても、彼らが自分たちの時間を過ごすことのできる機会が与えられるだろう。
幸せになれるかどうかは、その席に座ってからでないと分からないし、それを見届けることも出来ない。
ただ、席に座れない者と、席に座って過ごせるものとでは、自分の持ち得る時間が異なる。
自分のことにさえ使えない時間を送る者たちも、中には居るのだから。
生き残った彼らすべてに、その席を用意した。
俺が護るべきは、このユダの町の民たちだ。
どの派閥にいようが関係なかった。
そのはずだった。
だが。
彼らは、用意された席に座るために、邪魔な者たちを排除した。
席は民たちの分、あったというのに。
その機会は彼らが彼らを殺さずとも、すべて均等に与えられていたというのに。
彼らは、その席を奪ったのではなく、壊した。
彼らの時間を過ごす機会を壊し、
自分たちの欲望を叶える機会に汲み取った。
時間を奪った、彼ら。
幸せを壊した、彼ら。
元々あったはずの機会も、彼らの姿も、命さえも支配した、彼ら。
だから一つ、確かなことがある。
………。
少年の顔に陰が満ちる。
空は厚い雲に覆われ、時折日差しがその隙間から現れるくらい。
天から降り注ぐ梯子にも似た光だった。
だが、そんな光を、今の彼は必要としていない。
否、もとよりそのような光などを身に纏う者ではなかった。
自分の存在そのものも、自分の持ち得る理想でさえも。
そうして、彼はその場に立ち上がる。
彼と対する男は、ようやくその気になったか、と少しばかり高揚する気持ちを得て、
再びその彼に弓を向ける。
ある一つの言葉と、今あるこの状況を得て、彼は胸の内に決心した。
酷使すれば折れ砕けるであろう剣を取り、痛みを伴う全身を動かし、確かな足取りを経て対面する。
その時の彼の顔を見た者は、もうこの世にはいない。
ただ一つ言えるのは、その彼が現れた瞬間、今まで気持ちを高ぶらせていた男でさえ、身震いしたほどだ。
目に光は無く、その姿に輝きは無く。
自らの信条に対して“決して抱いてはならなかったこと”に気付いてしまった彼は、
それでもこの瞬間には目的がハッキリと決められていた。
彼らを護るために戦っていたはずの男。
護るべき者が護られるはずの者を殺し、護るべき者に襲われた。
彼らは、彼らの幸せを奪った存在だ。
ならば。
………。
“――――――――――――――彼らも、排除されるべき敵だ。”
番外篇13. 叛逆の剣




