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Broken Time  作者: うぃざーど。
番外章 剣の墓地
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番外篇10. 目的の剣





何と醜い争いに乗ってしまったことだろうか。

と、彼はその日の夜に半ば後悔するような思いで、簡易キャンプの敷物の上に寝転がる。

顔が熱いのが何もしなくても分かるのだが、周りの空気がひんやりと冷えているため、上手く利用させてもらっている。

あの男、シェイドは無事だろうか、と彼は冷静に考えながら夜を過ごす。




そう。

人間というものは、醜いものだ。

何も戦いばかりではない。

自分が気に入らない相手はとことん潰しにかかる。

まるで自分が正しいのだと言い張る子供の喧嘩のようだ。

それに付き合う自分もまた、醜い存在だ。

どうしようもないくらいに。

彼は自らの存在を自らで罵倒し、情けないと思っていた。

つまらない勝負だったし、二夜連続の試合のようなものだった。

シェイドという男がどうしても勝負したそうにしていた為に、彼もそれに乗ることにしたのだが、結果としては興ざめするほどのものだった。





………。





「お~いいねぇ!!イケる口じゃねえか!!」




「………」





男の機嫌は底なしか、酒を含んでいくごとに上がっていくようにも感じられた。

一方のアトリは、何と酒を飲んでも無反応。

見た目からして何も身体に異変も起こっていなかった。

対する男は上機嫌だし、先程の様子と違い立ちながらグビグビと酒を飲み続けている。

酒飲み勝負は、どちらが限界に辿り着くかを競うものだとシェイドは教えてくれた。

だが、まさかこのような展開になるとは思わなかったのだろう。

周りの男たちも遂に、シェイドを制止にかかるほどだったのだから。





「かああぁっ!!おめえなっかなかやるなあ、ムカつくぜ若造があ!!」




「………もう、よろしいのでは?」




「……だな。止めてやれ」






後でその場にいた男たちに確認したのだが、

シェイドという男はそう酒に強い人間ではないらしい。

男の人となりは勝負師のようなもので、かけ事や誰かと何かを競い合うことがとても好みなのだという。

時に力量、時に酒。

悪さをすれば町内随一の存在とまで悪評を植え付けられた男の方が、先に醜態を晒した。

身体はみるみる不安定になっていき、立ちながら飲んでいた男はやがて足元も覚束ない状態となっていた。

それに対し、彼は腕を組むほどに冷静で、顔に変化すら現れない。

それを見た周りの男たちが、アトリという少年に驚愕したほどだ。

本当にこいつは子供なのか、もしかしたら歳を偽っているのではないか、と。

グラス一杯に注がれた酒を飲むシェイドは、既にはじめの一杯を飲む時間の何倍もかけて、続きの一杯を飲んでいた。

明らかに無理をしている。

子供相手に何を示したいのだろうか、と彼は呆れてしまったが、

とにかく酒というものは分不相応に入れ過ぎると、命の危険を与えてしまう恐れがある。

彼が冷静に彼の思考とはけ口に蓋をするように求めると、男たち数名が別室へと彼を連れて行った。

「おれぁまだのむぞおおおお!?」という、若い歳に似合わないだみ声で叫んでいるのが、残った彼らにも聞こえていた。





「………」





彼は腕を組んでいた状態から、頭を掻いて溜息をついた。

溜息の一つ二つ出ないと、おかしいだろう。

男が飲んだ酒は、グラスにして10杯。彼は先を越して12杯飲んでいた。

それでも彼はふらつくこともなければ、何も動じることもない、至って普通の状態だった。

残った男たちからすれば、“あり得ない”。

だからアトリに、ある男がこう聞いた。





「お前、本当は何者だ」




「………?」






シェイドが連れていかれた後の居間は、静けさというよりは、驚愕とある意味恐れを含んだ沈黙の空気に包まれていた。

それを向けられている対象は、無論アトリ。

彼の“子供ならざる姿”に、さすがの男たちも疑問に思うほどだった。

何者かと問われても、彼の身分は王国の兵士であり、ここに救援要請を受けて派遣された者でしかない。

理由にならない理由を応えると、男からの返答が来る。






「………もういい、目障りだ。今日は出ていけ」






………。







と、退出を要求されたので、彼は簡易キャンプに戻ってきた、ということだ。

我ながら大人げない、と思う自分がおかしいということに気付いている。

悪気は無かったのだが、まさかこのような展開になってしまうとも思わなかったので、彼自身少しやりすぎたと感じるところはある。

今頃シェイドは鼾をかいて寝ているだろうが、願わくば夜の記憶の欠落があると信じる。

アトリは今までこの歳で酒を味わったことがあった。

今回のように勝負事を仕掛けられることは無かったが、成り行きで飲まされた経験はある。

だが、それは彼も“この町で誰かと接点を作っておけば、何かと自分が行動しやすくなる”と思って慣れたことで、彼が本心から酒を飲みたいなどと思うことはなかった。

すべては、自治領地を護る過程で必要な要素の一つだろう、と。

それを知る者はいなかったが、他人に言えば誰からも理解されないことだっただろう。



だから。

昨日の剣での勝負も、今日の酒での勝負事も、彼が望んだものではない。

ただその状況が、彼にとって都合のつきやすいように動くのであれば、それすらも利用するだけだった。





「またシェイドがあの男に?」




「はい。今はぐっすり眠ってますよ」




「懲りない奴だな。そんなにあの男が憎いか」






騒ぎが一段落した後の、静かなデューイ宅。

彼も二階から一階へ降りて来て、いまだ飲み続けている少数の男たちと共に、デューイも酒を飲んでいた。

酒を含んでも殆ど姿の変わらない、冷静沈着なデューイ。

他の男たちもある程度酒に強いのか、顔を赤くしながらも自我を失ったりはしていない。

話は必然的にあの男、アトリとシェイドの話になる。

必要以上にシェイドがアトリに対して敵対心を抱いていることは、誰の目にも明らかだった。

子供に対して本気になるなどと情けない、と思うところが正直なのだが、男たちの一人が次の発言をしたところで、話は少しばかり切り替わった。




「しかしあの男、恐るべき男です。あまりにも冷静沈着だ」




「同感です。私も、あの男は警戒した方が良い相手だと思います」





男たちがここでの騒ぎを口にしたうえで、彼に対する見方を打ち明けると、

デューイも半ば驚きつつも同調した。

殆どの者が、今は口を揃えて「あの男は要注意だ」と思っているのだ。

彼が特段何かをした訳では無いし、王国の兵士だからという理由で警戒するのはいつものことなのだが、

急進派の者たちが抱いていた疑念やら不安やら警戒心というのは、彼の人となりに対してのものだ。

明らかに子供らしからぬ行動や言動をする、それに力量が備わっている。

彼が本当に各地に行き戦争を経験してきたという表れだろう。





「あの男なら、俺たちを見抜くかもしれない」





デューイがそう話した。

彼のこの町の盲点であり、その時が来るまで気付かれないだろう、と男たちが思っていたこと。

自分たち内輪の人間だけで交わされる秘密に触れるものだ。

アトリへの警戒というのは、彼の人となりに限ったものではない。

あの冷静な性格でいて、大人にも負けないほどの強い技量を兼ね備える。

更に洞察力や思考が優れているとすれば、自分たちの存在にも勘付くかもしれない。

急進派頭首のデューイもその存在を警戒する。

アトリは単純に、救援要請を受けてこの町の危機を脱するために戦うという。

本心では何を考えているか分からないが、利用する手段があるのなら最大限に彼らもアトリを使うつもりでいた。

その彼が、そんな自分たちの本心を既に見抜いているのではないか、と危惧していたのだ。





「あれは放っておくと厄を呼びますよ」




「そうだな。あの男が出来る布石は既に打ち終わっている。後は敵がここに来るのを待つだけだろう」






この場合においては、早く敵が来てしまった方が都合が良い。

時間を空ければ空けるだけ、ここでのやり取りが増えてしまい彼が勘付いてしまう。

核心に触れれば、こちらとてすぐに行動に移さなければならない。

デューイとしては、表向きの顔で相手を信じ込ませて、裏では密かに自分たちの為の計画を推し進めている。

子供だからという、油断などは一切存在していない。

彼のいないところで話を進め、それを他の者たちにも伝え、絶対に口外させないようにする。

アトリという少年がここで協力関係を結んで敵を討つと決めた時から、彼らの持つ計画は変更された。

彼すらも利用して、いずれはその存在ごと排除しようというものだった。





「しかしまぁ、物好きですね。態々他人の領地に足を踏み入れて、俺たちを救おうだなんて」




「全く持って、理解できません」





保守派の者たちも急進派の者たちも、

お互いが共通して言えることといえば、まず第一に自分たちのことを優先しているということ。

思惑も異なるし目的も異なる、更には考え方や今後の在り方についての思考さえもが異なる。

何もかもが違うものばかりではあるが、一番に共通しているのは、両者とも自分勝手だということだ。

だがそれが当たり前なのだ。

人間とは自分勝手な存在であり、常に自分の為に行動する。

時には仲間や周囲の人間たちも巻き込んで、己の求めるものを追い続ける。

欲求を充たす為に自分だけの時間を使うし、求めてもいる。

彼が危惧した「奴隷になれば貴方たちに未来は無い」というのも、ある種彼が急進派の人間たちに自分だけの時間を奪われるということを忠告していた。

だから、急進派の人間たちもその事実を前に保守派の人間たちと共闘することを約束した。形の上では。




だが、彼は違う。

まず第一に俺たちのことを考えている。

それはデューイだけが考えていることでは無い。この場にいる若手の男たちも、

そして恐らくはダリウス一派も同じようなことを考えていることだろう。

デューイの部下の男は、そんな彼の質を物好きだと評価したが、デューイは。






―――――――――馬鹿らしい。そんなことまでして、あいつは一体何がしたいんだか。






そう、吐き捨てる。

彼の明確な目的がこの地の救援だと分かっていながら、その目的を抱く心に対してはまさに愚そのものだと、斬り捨てたのだった。







翌日。

その日は厚い雲に覆われ、日差しの恩恵を受けられるような自然ではなかった。

黒と灰色ばかりで構成された空は、時折太陽の光がそれに勝ろうと奮闘するのだが、どうしても厚い雲を前に優勢を築くことが出来ない。

おかげで大地は日差しによる暖かさを得ることが出来ず、涼しいくらいの気温がもたらされていた。

風も少々吹いているだけで、無風とは言わないが殆ど意識するほどのことでもなかった。

逆に、過ごしやすい日と言うことも出来るだろう。

明け方にかけて雨が降ったせいか、町中は湿気が漂っており、涼しいとはいえ雨の匂いが残っているのが分かる。

簡易キャンプを敷いて一人外で野宿をしているアトリだが、雨に当たると目を覚まして、雨に打たれても気にせずそのまま考え事をしていた。





考え事。

自分が今まで取ってきた行動の数々を思い出して、彼の脳裏が刺激されていく。





朝になり町の民たちが行動し始めると、

簡易キャンプのところに領主ダリウス自らがやってきた。

笑みを浮かべながらやってきた彼は、アトリにこういう。

「保守派の者たちも全員了承してくれた。後はその時を迎えるだけだ」と。

事実、彼に出来ることは殆どしてきた。

作戦案をすべての民たちと共有し、民たちの配置を考えそれを決める。

デューイとダリウスとの間に会談の場を設け、必要な情報を共有するとともにお互いの連携を確認する。

万が一の場合にも備えるために、補給物資の有無と運搬方法なども話し合っておく。

そして時が来たとき、すべての民が自分はどのように動けば良いのかを、伝達する。

そのすべてが了承され、ここに保守派と急進派の共闘関係は完全なものとなった。

両者が仲良く時を過ごすのは難しいとはいえ、利害の中にも共通した一致の目的を見出すことが出来、その中で共通した敵を排除するという目的を実行することが出来る。

今までの体制から出は絶対に成し得なかったであろうこと。





「私たちが望んでいたことを、アトリくんはすぐに実現してくれた。素晴らしい才だよ」




「いいえ。私では無く、決断された皆さんのおかげです」




「謙遜か、まぁ良いだろう。だが皆の感謝は忘れんでくれよ?」





誰に言われた訳でも無い、“感謝”という言葉。

少なくともこのユダの町で、という意味ではある。

今まで彼が多くの死地を経験してきた中で、無事に民たちを護りきれたところと、

多くの犠牲を出してしまった死地とがある。

求めていた結果と異なるものが与えられ、考え違いな未来を定められてしまった場合もあった。

彼がある一つの土地のために大勢の人々を殺し、助けたことがあった。

だが、領主の家族が殺され護られなかった事実を、領主は兵士の責任だと押し付け、土地にもたらした未来への機会とは別に、彼は追い出されてしまったことがある。

その時、他の民や側近の者たちは、彼に感謝を伝えていた。

だが自治領地というものは領主が運営し施政するというのが普通で、誰もその者に敵わなかった。

ウェールズで例えるなら、あり得ない話ではあるが「王は絶対」などという絶対王政を取っているようなものだ。

思えば、そういった事案が幾つも重なった時からだろうか。

いつしか、感謝というものが自分ではなく、彼らの輪に向けて表されているものではないだろうか、と思うようになった。

自分のことに対しての感謝など、いつの間に気付かなくなっていた。

自分が自分に疎いという状態を、自分が創り上げてしまっていた。

そして、その事実を、彼は気付いていない。

だから、感謝などという二文字を並べられても、それに対して笑顔を見せることも無ければ、具体的な反応を示すことも無かった。

ただ言えることは、それは結果的に貴方たちがもたらした決断による気持ちで、“貴方たち自身に向けられるべき感情だ”というのが、彼の主張だった。





「さあて、後は敵が来れば本丸を構えるだけだ!全力で戦わなければな。アトリくん、もしこの作戦が上手くいったら、君には必ず褒美を取らすからな」



「褒美、ですか」





そう。

それも感謝が自分に対して向けられていない、無意識に退けてしまっているものと、同じ。

自分が対価として何を望む訳でも無く、求めている訳でも無い。

もしこの作戦が終われば、王国の立場として少しの支援を頂くということにはなるだろうが、それは彼の褒美ではないだろう。

国としての考え方で、自治領地を無事に救うことが出来たという一時的な結果に対して与えられるもの。

だがこの時ダリウスが言っていたのは、あらゆる物事をこなし、今日の状況をたったの三日で創り上げてしまった、彼個人に対しての報酬のこと。

彼は全くそれが自分のものであると考えなかった。

だから出た答えが、次のようなものだった。





「いえ、寧ろ国としてそのようなものを頂けるとは、恐縮です」





彼自身に向けられたものではなく、

彼は兵士として勤める国に対して求められた褒美である。

どれほどの真意を抱いていたかは定かではないが、ダリウスがそれを聞いた時に、確かにハッキリとした違和感を覚えた。

問いを投げても解決するようなものでもないだろうが、アトリという男に対しての、間違いなく違和感を表していた。







昼下がり。

彼は昨日と変わらず干し肉で食事をし、考え事をしながら空を眺め続けていた。

あとすべきことは、戦うのみ。その時は間違いなく訪れるだろう。

彼はすべてを信じていた。

この町の民、保守派も急進派も、この共闘関係も、武器も防具も、大地も空も、すべてを信じていた。

自分の思い通りに事が運ぶことが無くても、きっと今日のこの状態は、自分にとって『間違いではない』。

こうすることで、必ず最善の選択肢としての効力を可能性という形で発揮してくれるだろう、と。

保守派と急進派が今まで犬猿の仲でもめていたということも、一つの共通の目的を前にして関係なくなるだろう、と。

彼は信じていた。心から今のこの状況を。








………そして。







「敵だ!!敵が来たぞー!!!」




ユダの町に、その一報が鳴り響く。

町の中を轟かせる不気味なまでの鐘の音は、鈍い音を鳴らしながらそれが警戒すべき存在の来襲だと訴えるに充分だった。

時間は15時を過ぎるころ。

あと2~3時間も経てば夕刻を迎え、やがて漆黒の闇が空を覆う。

相変わらず空の様子は雲が厚くて、やはり時折そこから光が隙間を縫って差すくらいのものだった。

鐘の音が鳴り響くと、町中の民たちが言われたように一斉に動き出した。

彼らの動きに緊張感が高まっていく。

アトリからすれば、これは何度目の瞬間だろうか。

あらゆる状況を彼は経験しているが、このように町に襲撃警報が鳴り響くのも慣れている。

だがその瞬間というものは、やはり少しばかり気が入ってしまうものだろう。

保守派の人間たちが武器庫を開けて、民たちに急いで剣や弓を渡していく。

手筈通りだった。

保守派の人間たちが、あらかじめ説明されていた北の丘の上に配置するよう、急いで案内をした。

手筈通りだった。

保守派の人間たちが、現地の丘の上で敵の接近を確認していた。

手筈通りだった。

保守派の人間たちが、丘の上にすべての派閥の民たちを整理させ、その時を待っていた。





何もかもが、手筈通りだった。

作戦はこのまま遂行される。あと十分も経てば、状況が始まる。






「いよいよだな、アトリ殿」




「はい………!」






アトリも、丘の上にやって来る。

この瞬間町の中には、誰一人として民はいない。

一つの共通する目的のために、皆がこの一ヵ所に集まっていた。

ゴーストタウンと化した町を背後に構え、前方に迫り来る敵の姿を確認する。






「多いな~。大丈夫かよ?本当に」





その場には、急進派でデューイの部下であるシェイドの姿もあった。

流石に大勢の敵を目の前にして動揺しているのか、少しばかり目の焦点があっていないようにも見えた。

彼らユダの町の民は今、この丘にいる自分たちを目指さんと侵攻する異民族たちを見下ろしていた。

その数は、パッと数えることが不可能なほど多い。

自分たちと比べてもそれ以上の数の兵士がいるのではないだろうか。

しかも彼らと状況が違って、相手は戦える兵士だけで構成されているのかもしれない。

だがこちらは、戦えない、兵士でも無い人間ばかりで構成された、素人の集団だ。

幾ら作戦案として伝えられているからとはいえ、中には武器を持ったことの無い大人たちもいる。

共闘するとはいえ、やはり緊張感に苛まれ飲み込まれそうになる。

だが、アトリは言う。





「敵が多いということは、やはりこの場所に全勢力を固めてきた、ということです。であるのなら、勝てば必ず機会は訪れる」




「お、おおおぉ、そそそうだな。や、やるしかねえや、ハハハ!」




「………」





敵が本隊を投入してきたということは、このユダの町を全力で奪いに来たということだ。

もし今見える多数の兵士が敵のすべての戦力であるとすれば、これを全滅させれば相手を黙らせるどころか、形勢逆転を狙うことすら可能となる。

ここも、彼の読み通りだった。

相手は多少の余力を残している可能性があるにせよ、これほどの大部隊を侵攻させてきたのだ。

もしこれを相手に勝利することが叶えば、相手にとって相当な痛手となるだろう。

自治領地同士の戦いは、犠牲が拡大すれば拡大するほど、自分たちに影響として返ってきやすい。

王国やマホトラスの戦闘はその規模が更に肥大化したもので、収拾がつかなくなるどころの話ではないが、それに比べれば微々たるものだ。

敵が多数で侵攻してくる。そこへ致命的な打撃を与え、この土地の難を逃れる。

彼の読みが凄まじく的中していたことを、ダリウスやデューイも確かに認めていた。

丘の上、ダリウスが彼のそばに寄って来て、そして言う。





「勝算はある。だが、アトリくん次第というのも無論あるだろう」




「分かっています」





彼の持てる力をすべて出す。

周りの人たちや、彼自身でさえ気付かぬ力を行使して、この土地と民たちの為に戦う。





ここに、状況は整えられる。

そして同時に、明確な終わりに向かって進み始めるのだ。





番外篇10. 目的の剣





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