番外篇4. 使役の剣
これが、国に仕える兵士として、
誰よりも彼が戦闘経験を積んでしまった、経緯となる物語だ。
彼にとって人々を救うことが出来るというものは、今まで抱き続けてきた願望のようなもの。
自分が誰かの役に立つという実感が欲しいと共に、誰かを護ることが出来ている、その人たちが幸せであり続けられるという願いを実現させたいと思うこと。
もし、この時代がこのように荒んだものでなかったとしたら、
あの時、あの雪の降る寒い日に事が起きていなければ、
今の彼は存在しなかったのかもしれない。
理不尽に殺されかけ、奪われそうになった命がある。
何も罪がある訳でないというのに、失われた幸せがある。
それを奪うことは絶対に許されないし、誰でも平等に自由や幸せはあるべきだ。
そのためには、戦いが蔓延るこの世の中をどうにかしなくてはならない。
そうして、彼はその道を歩み始める。
はじめ、彼が死地に赴く兵士だと知る者は少なかった。
派遣された先の自治領地ですら疑いを持たれたほどに。
まず、子供という存在で剣を持ち軽装で土地に赴いたところで、王国の兵士だとは思われなかった。
だから、王国の兵士であるという証明が必要だったし、そのために兵士団の紋章も手に入れた。
やがて彼がここに送られた兵士であると分かると、大体の人は落胆した。
ああ、世も末か、と。
子供が送られたが、子供に何が出来るというのか。
幾ら兵士といえど、まだ自警団として成り立たせていた大人たちの方が優秀ではないだろうか、と。
とんでもない偏見の持ち主もいれば、即刻追い返そうと企む者もいた。
あらゆることが彼の身に起きたが、いずれにせよ共通して言えるのは、彼は呼ばれた人間であるにも関わらず、招かれざる守護者であったということだ。
子供に出来ることなど限られている。期待をしていた自分たちが馬鹿だった。
王国は平気で他の自治領地を見捨てるのだ、と。
だが。
それが済んだ時、その考えが酷く思い違いをしていたと、気付かされる。
彼の記憶にも未だ残り続けている。
一番初めに、人を殺した時の記憶。
はじめに死地に派遣されて、あらゆる罵倒を受けながらも存在し続けた自分を。
小馬鹿にする大人たちが圧倒的に多かったが、実際に戦闘行為に発展した後では、
その見る目が一気に変わったこともよく覚えている。
だが、それを前に自分の力を誇らしげに思うことも無ければ、相手の謝罪に何か特別な思い入れを感じる訳でも無かった。
ただ、大体こういう手合いの人間は、後に自分の考えをひっくり返す。
そして自分の言い訳をして、不手際や羞恥心を無きものにしようとするのだ。
それでも、はじめの頃の彼にそのような、人間の愚かさは目立たなかった。
それ以上に、
彼を必要としてくれる存在がいて、実際に自分の手で護られた命があるからだ。
これから先も護られるかどうかは分からない。
派遣された兵士であるため、いつまでもその土地に留まる訳にもいかない。
だが、その土地の為に起こるであろう戦いに最前線で参戦し、夥しいほどの戦果を挙げてきた。
はじめの戦いは、相手の自治領地の規模も小さく、昔から犬猿の仲で争っていたなどと、町の民は話していた。
実際はそのような生半可なものではなく、本格的に領地侵攻を目指していた悪徳な集団と判断した。
そうして戦闘が起こった時。
「………なんだ、あの少年は………」
彼は、相手の自警団を全滅させてしまった。
敵となる対象の防衛人はすべて彼に殺され、無防備の状態を晒したところで勝敗は喫した。
戦いを恐れ子供を盾に戦闘を繰り広げようとした、大人たちが驚愕したほどだ。
だが、彼はその時は結果的にそれで良かったと判断している。
自分が後方にいることなどあり得ないことだが、もしそうしていれば間違いなくこの人たちは殺されていたことだろう。
彼に対した自警団の敵兵たちは、遥かに彼に劣っていた。
彼が素早く斬殺するものだから、戦意を失うほどにまでなってしまっていた。
あとは、されるがまま。
未来はその時点で決し、そして未来を思う間もなく彼らは皆殺された。
子供でありながら、彼は自分の心と武器を切り離すことが出来ていた。
後にその状態を知ったクロエは、その少年への評価の一言に「あり得ない」と呟いた。
何故、こんな人間が生まれ、こんな人間がここに来てしまったのか、と。
確かに、はじめは誰かの役に立ち、しかも護られた命があることを考えれば、
次も、また次も積極的に動いて人々の為になろう、と「素直な気持ち」で思っていたことだろう。
だが、彼に心境の変化が訪れたのは、こうした死地への派遣で殺した人の数が数え切れなくなった頃からだ。
とある自治領地、王国領から遠く遠く離れた土地に派遣された彼は、
いつものように領主に挨拶をして、町の状況を詳しく知ることになる。
死地に派遣されるようになってからそれなりの月日を重ねてきた頃だが、この時には既に
大人と間違えられるほどの顔立ちになってしまっていた。
それなりに大きな町であった為に、自警団もいまだに存続していて、兵力というものも存在していた。
これから戦闘が起こる。そのために備えるべきだし、あらゆる準備をすべきだった。
だが、彼がさせられたのは、町全体の雑用と掃除だった。
敵地から侵略を受けているというのに、町にも陰りが頻繁に訪れていた。
陰は時に人を凶器へと変化させる。
だから、彼が任された掃除というのも、そういった類のものだろう。
人は悪事を蔓延らせることで、自分もそれに便乗しても何ら問題ないと思うものらしい。
彼は指示を受けた。
この町には悪党が山ほどいる。悪党を殺害すれば、悪党にこき使われる者たちが助かる、と。
彼はその指示通りに動いた。
何故なら、たとえ派遣要請を受けた町の中であっても、“弱き者を虐げるのは悪”であり、“悪を排除しなければならないのが、正義の立場”であると考えていたから。
掃除はいとも簡単に行われ、僅かに二日で町中の悪党と犯罪者は一掃された。
町の中には死体ばかりが転がる。
これほどの数の悪党がいたのか、と思うよりも先に、あの少年一人でこれほどの死体を生み出せてしまえるのか、というある種の恐怖が町中を襲った。
彼は純粋過ぎた。
これが人の為になっている、だから悪い奴は皆殺しだ。
そうして、彼は虐げられている少数の人間を救うために、悪党となった多数の悪を排除した。
「君は充分に働いてくれている。おかげで、この町の浄化も進んでいることだよ」
不敵な笑み。
まるで面倒事をすべて片付けてくれた彼を見て、「馬鹿な男だ」と言わんばかりの姿勢。
彼がこの道の真実に感づき始めたのは、この時だ。
人の為だと言いながら、彼は人を殺し続けてきた。
それが誰かの為だと考えることで、この真意に気付くことなく走り続けた。
だが、人の幸せを護るために誰かの幸せを奪う、掃除屋のようなことをしていると気付いたその時から、
彼の心境は一気に暗くなった。
人の為に戦うことも、護り通すことも悪いことでは無い。
人助けは大いにすべきだし、善行であるのなら尚更だ。
しかし、醜い人間たちの飽くことの無い戦いとか、くだらない争いは無くならない。
自分はただ使役されているだけなのだ、と。
ここで気付いて、
彼がこの道を止められるのなら、更に未来は変わっていたことだろう。
だが彼はこの道を歩き続けるための選択肢を、選び続けてきた。
敷いた道の上を正確に歩くように。
誰もこの真意を正そうとせず、国もこれを止めさせることはしなかった。
自治領地に防衛を行い成功すれば、
その報酬が国に対して支払われる。
農作物の提供や金品の提供、そして直轄地としての認定願い。
最後の一つが、彼が死地に派遣されるようになってから増えた事例の一つだ。
自分たちは確かに助けられた。
だが、これから自分たちでこの町や村を護れるかは分からない。
なら、王国領の一部として併合してもらい、平和で安定、自由で平等な暮らしを得る方が効果的だ。
彼は死地で護り続けながら、そうした国に対する成果もあげ続けていた。
誰もが、彼は人の為になっている、国の為になっていると思い込んだ。
その結果、その本人でさえも「これが正しい」と思うようになった。
止めることなど誰にもできないし、誰も止めようなどとは思わなかった。
彼が望んだことだから。
人々の為になることをする。
それが国の為にもなる。
国は強い兵士を手に入れ、自治領地を手に入れ、物資を手に入れる。
彼は自分の理想となるものを負い続けられるし、人々を救うことも出来る。
これは、両者の取引で全く不整合がないことだ。
周りの人間はそう思っていた。
ある一点だけ、だがその決定的な一点を全く知らなかったが為に。
誰かの為になることで、その誰かが救われ幸せになれる。
その姿を見られるのなら、自分としても嬉しいし、これは幸せと呼べるものだろう。
そんなものはあり得ない。
断じて違う。
自分で求めた幸せであったとしても、その幸せは他人のもので自分のものではない。
彼はこの長い生活の中で、勘違いしながら進み続けてきた。
それが間違いであるとも正しいことであるとも判断せず、
気付く間もなくここまで来た。
彼の目的と目指すものを知る誰もが、お互いの利害関係が気持ち良いくらいに整っていると考えた。
だが、実際は彼はひたすらこの国と、誰かも分からない人間たちに使役され続ける運命だった。
彼は、こうして未来を選定していったのだ。
………そして、ある日から。
時は牙を持って、彼にその先を向けた。
………。
今日くらい、休んでいても誰も文句は言わない。
そう信じたいところだ。
アトリが夜中に城から戻ってきて、自室で一休みしようと腰を下ろす。
身体は確かに疲労を訴えていた。
長い間愛馬に揺られながら大地を駆けるのと、
幾人もその手その腕で斬り殺してきた者たちの怨念とで、
身体の節々が精神に問い続けている。
そろそろ休むべきではないか、と。
身体のことは、彼も自分のものなのだからよく分かっているつもりだった。
だが、思うより先の行動に発展しない。
休むために寝ようと思ったのだが、耳の奥でずっと地鳴りかのように、声が聞こえてくる。
殺した者たちの、聞こえるはずもない生の声が。
だが、それが聞こえても不思議ではないと思えるくらい、
人を殺し続けてきた。
その何倍もの人々を救ってきたというのに。
彼には、その者たちの声が届かない。
自分に対してあらゆる言葉が向けられていることに、気付かない。
朝。
結局彼は殆ど睡眠を取ることもなく、
ただ自らのボロボロになった剣と鞘を抱いたまま、夜を過ごしていた。
その間にも、留まることなく聞こえてくる声があった。
幻聴、と言うことさえもう阿保らしい。
食堂が開く時間に彼も部屋を出て、壊れた装備品を持参しながら食事をする。
食事をする場所は、壁側に近い席。
あまり注目されないところで、静かにご飯を食べる。
大衆料理であるせいか、美味しくない訳では無いが、すんなりと喉を通るという訳でも無い。
大人数のために作らなければならないから、大変なことも多くあるだろう。
食事が終わったら、彼はすぐにその場から撤収し、工房に向かう。
「なんだ。また折ったのか」
この城に勤める兵士であるのなら、その男の気難しさには頭を抱える。
が、それもアトリには気にならないくらいだ。
この城の鍛冶職人で、兵士たちの剣を打ち続けている『レイモン』のもとに、彼はやってきた。
再び新たな剣を受け取るために。
兵士であれば誰でも無料でこの剣を受け取ることが出来る。
無論、基本支給品以外の剣を買うことも出来るのだが、もうアトリは長いことこのレイモンの作る剣をもらっては折り、砕き、というのを繰り返している。
丈夫な剣も欲しいところだが、戦う頻度が明らかに周りの兵士よりも多い彼には難しい話だった。
「はい。いつもながら未熟なもので」
「………否定はせん。お前が戦いすぎ、というのもある。………いつも通り、勝手に取っていけ」
レイモンは、それ以上のことを口にしなかった。
再び炉に鉄を入れ、人の手で扱えないほどの高温でそれらを溶かしていく。
何か珍しいことを言われたな、とアトリは感じながらも、いつも通りその剣を受け取り、
ボロボロになった剣を置いて、工房を去る。
戦いすぎ、か。
他に自治領地に派遣される兵士はいない。
この国を攻めてくる人たちもたまに現れるが、マホトラスほど大規模なものでも無ければ、
戦闘が長く続くことも無い。
それに比べ、俺はほぼ毎回の派遣先で戦闘を経験している。
………そうとも言うか。
だがそれも、彼にとっては普通のこと。
そういう生活をしてきたのだから、今更戦い過ぎたところで何か起こるかどうかなど、分からない。
あまりに慣れてしまったものなのだから。
武具の調整を終えた彼は、アルゴスの部屋へ行く。
「失礼します」
「………、アトリか」
相変わらずの完全武装姿で、机に向かって執務をこなしていたようだ。
彼がドアをノックして中へ入ると、僅かに驚いた表情を見せて、すぐに元に戻る。
アルゴスに座るように言われると、彼は一礼して椅子に腰かける。アルゴスも机から、
客間用に机の前に置かれている椅子に座り直した。
「いつ戻った」
「夜中です」
「なら、何もすぐにここへ来ることも無かろう。身体は良いのか」
「はい、大丈夫です。こうして、会話も出来ていますから」
男が言いたかったのはそういうことではない。
だがそれを伝えられないのも、己の不器用さとこの少年の純粋さに不純さが負けたからだろうか。
彼は一方で疲れている時は会話にすらならない、と言っているようにも思えた。
今の彼はそのような状態にはないし、アルゴスはそのような彼を今までに見たことが無い。
戦いの後、それこそ今日のように帰って来てすぐ次の朝には、新たな任務を受け取る為にここへ来る。
それすら慣れているためか、身体に極度の疲れがもしあったとしても、彼はこの一定の行動循環を維持するようにしていた。
だから、アルゴスは何もすぐにここへ来る必要もないだろう、と彼に言ったのだ。
夜中、アルゴスは知らないが衛兵が今日一日くらい休んでも誰も何も言わない、と彼に話した内容とほぼ同じ意味合いを持っている。
「………分かった。次の話はもう決まっている。少し厄介かもしれないが、これを見ろ」
その日に帰って来て、再びその日の内に次の任務を受け取る。
この循環に多少の時間の前後はあるにしても、いずれは必ず任務を受けるのだから、遅くても早くてもどちらでも良い。
ただ、今回はすぐにここを訪れただけのこと。
それに、もし自分が早くここで任務を受けてその地に行くことが出来れば、
状況は好転するかもしれない。
ある意味期待を自分の行動にも乗せている。
アルゴスは二枚の紙を取り出し、それを彼に見せた。
内容としては、
何度も見覚えのあるものだった。
自治領地からの救援要請で、自力での解決が困難と判断されたもの。
その理由は、最近の度重なる戦闘行為により、領地が幾つも奪われ警備兵士も失われてしまった。
隣接する他の自治領地が占領作戦を決行している為に、助力が欲しいというものであった。
今は町の民の一部が武装蜂起のための準備を整えている。
無論、自分たちの領地を護るためだ。
最後の最後に残された一つの町、「ユダ」と呼ばれる町を護るために。
だが、
実際にこの中身を詳しく見てみると、
はじめにアルゴスが厄介事と言った理由が見えてくる。
「………町の内部分裂………?」
「生憎、この自治領地はここから少し遠い。情報は限られているが、急を要するものに変わりはない。それに、この地の自治領地は、王国もこれから調査を進めたいと思っている。少しでもマホトラスに繋がる糸を見つけるためにな」
この時代から既に、
王国領の東部、大きな山脈に向かっていく方面には、王国領に属さない自治領地が多く存在している。
地図で確認が出来るものと、地図の更新が追い付かず新たに発生している自治領地もある。
王国領の東部は、王国側も注意を向けるほど自治領地間の戦闘が勃発しやすい地域となっている。
だが、国全体として動くことは出来ない。
もし特定の自治領地に肩入れなどすれば、加勢と言う名の侵略行為と捉えられる可能性もあるし、王国の持ち得る理想の関係上、漁夫の利を得る、などという考えで行動することはしない。
更に現在はマホトラスとの情勢問題もある。
変に国が介入してマホトラス側の味方を増やすことも出来ない。
だからこそ、彼のような死地の護り人が活躍できる場面でもある。
こういった調査を国として大々的にできない以上、調査員を派遣するか、彼にその一部を担ってもらうことが国にとっても都合が良い。
ユダと呼ばれる町は、王国領の南東部に馬を使って一週間程度を要するところにある。
地図情報で見れば、元々はそれなりの大きさを持つ自治領地だったようで、大きさからもそれなりの人口があるように窺える。
だが、救援要請の中にもあるように、その隣の自治領地に多くを奪われ、民も警備兵も失っている。
今はあまり善戦を期待できるような状態ではないという。
最後に残されたユダという町が、その領地の中でも最も大きい町なのだというが、町の内部、民同士のいざこざが前から起きており、犬猿の仲になっているという。
「何故この非常時に………」
「腹立たしいのは、警備兵を出して戦闘を行ったのが、分裂する集団のうち半分。もう半分は警備兵を持っていないし、そもそも戦う気も無かったということだ」
領地の、町の危機だというのに、あまりにも身勝手すぎる。
彼が一番に思い浮かんだ考えがそれであった。
町が危機に瀕していて、町に住んでいる者たちであるのなら、それに加勢するのが当然だろう。
そうしなければ自分たちでさえ危ない目に遭うのだから。
そうなる前に相手を倒さなければならない。
そのためには、犬猿の仲などと言っている場合ではない。
二つの集団が一つになって協力しなければ、この戦いに勝ちは見出せない。
因みにこの救援要請を送ってきたのが警備兵を出した側の集団で、反発するもう一つの集団はこの事実さえ知らないだろう。
珍しくアルゴスも口に僅かながらの感情を乗せ、この身勝手な難題に難癖をつけていた。
「これと周囲の予備調査をお前にお願いしたい。手段は特に問わない。間に合わなければそれで構わん。どちらにせよ、この自治領地はそう長くはないだろう」
「分かりました。先々が不安です、出来るだけ早めに出ることにします」
「………そうか。くれぐれも気を付けることだ。下がってよし」
用件が伝わり、状況も分かった彼。
アルゴスから受け取ったその紙はそのまま託され、
彼はその執務室を後にする。
アトリがいなくなった一人の執務室で、アルゴスは一つ溜息をつく。
こんな身勝手な自治領地のお願いなど、一つひとつ聞き入れていては身が持たない。
だが、それでも何かしらの形で、アトリはやってのけてしまうのだろう。
今回はそう期待したものではないし、アルゴスも手段は問わないと予め伝えてある。
彼の技量でどこまで真に近づけるか。
難題を紐解く欠片をどこまで集め、そして一つの形にすることが出来るか。
それにかかっていた。
………と、その時。
「………!!」
アルゴスが愛用していた、
陶芸器が何の予兆も無く突然、机の上から落ちた。
「………」
元々あった形が崩れ、そして修復することさえ不可能なほどに折れ砕ける。
その一つひとつは確かな形をしているのだが、元々の姿などどこにも感じられない、
ただの割れてしまった欠片となった。
もう元には戻らない、欠片の数々。
それを見たアルゴスは、とてつもなく不吉な予感に苛まれるのであった。
………。
番外篇4. 使役の剣




