0-0. 終焉の始まりに
その世界は、地獄であった。
少なくともその者には、そう見えた。
その光景の果てに何が訪れるのか、想像したくも無かった。
ただ。
その世界では、己の力など何の役にも立たなかった。
結局はこの光景を生み出してしまう、運命にあったのかもしれない。
何とかしたい、何とかしなければ。
そのような思いを最後まで捨てずに、何とかするために剣を振るった。
しかし。世界は地獄を受け入れた。
ならば。
いっそのこと、こんなものは夢であればいい。
夜明けまでには醒めて消える夢であればいい。
しかし、その果てには何もないことを、何も無くなってしまうことを
知っていた。
そう思って逃げられるのなら、はじめからそうしていた。見てみぬふりをして、
この地獄を見ずに済んだのだろう。
だが、それは出来ない。
己の持つ力と信条が、常にそう訴えている。
たとえどれほど絶望的な状況だとしても、僅かな希望があると信じて、この道が
決して間違いではないと信じている。
その世界は、地獄を迎える。
己の力は何の役にも立たなかった。
だが、それでも、諦めることは出来ない。
次こそは。次こそは。
――――。
世界が、赤く染まっている。
空も、雲も、大地も、そして太陽までも。
誰がこのような光景を覆すことが出来るだろうか。
誰もが平和で幸せな光景を手にするために、何故このような景色を残されなければならないのか。
否、こうなってからではもはや手遅れである。
どこまでも続く赤い炎。それに包まれた終焉の世界。
先程まで存在していた確かな空間は、無残にも永遠の廃墟と化してしまった。
そこには、当たり前のように過ごすものたちがいただろう。
何事も無く日々を送るものたちがいただろう。
「その者」の傍には、まだ形を残したまま消えずに倒れる『人間』の姿があった。
その者の右手には、剣がある。剣の両刃には激しく傷跡が残り、最早ただの鉄くずでしかない。
地面に突き刺したまま、その者は倒れて動かない人間を目の前にする。
そうだ。…そうだ。
自分はこうして斃れ消えていく者たちを護りたかったのだ。
だが、自分の力では、この目の前で崩れ落ちた人でさえ、救えないのだろうか。
ほかに救える方法があるのかもしれない。あって欲しい。
そう思い、その者は自身の手元にある光り輝く石の結晶を、一切動かない死体のような人間に接触させた。
わずかな希望でも、そこに可能性があるのなら。
……………。
そう。希望も可能性も、常に大きいものではない。それは時間によって左右される。
いつでも人間の都合のいいように事は運ばない。そして今回も、それは例外ではなかったのだろう。
輝ける石の光が斃れた者を一瞬包み込んだ。だが、それ以上は何も起こらなかった。
静かに、ただ静かに、動かない人間は世界の終焉と同義の事象を受けいれていた。
その人間が死に際に何を思っただろうか。
何故、突然このようなことが起こってしまったのか。
巻き込まれてしまった自分が悪いのか。
いや、あるいは、それを思う時間すら無かったか。
その人間への希望は、ここで潰える。
諦めない気持ち、可能性を信じて与えた力は、一瞬の儚い光であった。
だが、思う。
もし、この『男』に次の生があるのなら。
そう思いながら、その者は世界を後にする。
次の生があるのなら。
今度こそは、この男の時間に幸あれと。
0-0. 終焉の始まりに