第二夜〜存在と反存在の一対
続いてもう一話落とせるかもしれません。
「ここは・・・・?」
子猫は目を覚ますと自分が何かに抱えられて、どこかへ向かっているのがわかった。
「なんだか、暖かいな・・・・、これは、夢、かもしれない・・。」
子猫は自らの立場、今置かれている状況を思い、これは夢だと考えていた。
(そうだ。こんな暖かさを感じられるはずがない。私は、致命傷を負ったはずだ。そして、魔術師共が私を逃すはずもまた、ない。ならばコレは私のための最後の幸福な夢・・・・)
さくっ、さくっ・・・・、足音が聞こえて、体に緩やかな振動を感じながら、子猫はふわふわと夢心地でいた。
何が私を抱えているのだろう、そう思ってぼんやりとした頭をゆっくり動かして上を見上げる。
「大・・夫・・・?すぐ・当・・・・やるか・な。」ぼんやりとした視界の中で何かの声が聞こえるが、はっきりとしない。
その何かを見ようと目を凝らすが、ぼんやりとしていて、良くわからない。
「にゃぉぅ・・・・。」
しかし、子猫はその何かはとても優しくて、暖かいものだと思った。心配してくれているのもわかった。
だから、小さく鳴いたのだ。『あなたは、私をたすけてくれる?』、と。
子猫が目を瞑る前、最後に見えたのは、やっとはっきりと見えたのは、優しく微笑んで頷く少年の顔だった。
***
「さて、早く家に戻って手当てしてやらねーと・・」少年は呟いて足を速める。さっきまで子猫が目を覚ましていたが、今はもうその瞳は閉ざされている。
少年は視線を自らの抱えている小さな命に落とすと、小さく呟き、目の前に見えてきた高級マンションの自動ドアへと向かった。
『助けるよ。おまえはもう俺のモノだ』そして彼は微笑みを浮かべた。
――それはまさに悪魔の微笑み。その腕の内に在るものにはあくまで優しく、その腕の内に在らざるモノには――冷酷で残忍なナニカ、が“キバ”を剥いたように・・・・。そう、ソレハテキニマワシテハナラヌモノ―――
「はっ!や!とっ、そらよっと。」
少年は階段を昇っていた。(エレベーターなんざ待ってらんねー!)
タッ、トッ、トトン!
階段を昇る、と言っても、普通に昇っているのではない。
跳ぶ、飛ぶ、翔ぶ。
階段の手すりに飛び乗り、斜め上へと跳躍。そこから壁に着地し、一気に上へと駆け上がる!
未だ彼は汗の一粒すらもかいてはいない。
そして最上階へと辿り着き、扉を開け放つと、そのままの勢いでその階唯一の部屋へと飛び込んだ。