初夜
「あ?なんだ・・?」
公園の前を通りかかった少年が、何かを見つけて怪訝そうな声を出す。
その少年は見た目二十歳前後の、すこし・・というかかなりトゲのある顔立ちをしていた。全体的に整ってはいるのだが、その鋭い瞳と身に纏う空気がそれを凄味にかえてしまっている。
「猫・・?」
少年は公園の中に足を進み入れて、発見したモノを観察する。
それは傷だらけで弱っている猫のようだった。
「まだ息があるな・・。はぁ、しょうがない。」
少年は自らの着ているジャケットが汚れるのも構わずに猫を担ぎあげると、公園の出口へと向かう。しかし、
「ちょっとまちな!!」
突然大きな声が公園の中に響く。
少年はいかにもめんどくさそうに振り返って言った。
「あぁ?っんだようっせーなぁ・・。」
すると先程声をかけてきたと思わしきスーツ姿の青年が少年に向かって偉そうにニヤけた顔で近づいて来る。
「おい、その猫を渡しな!痛い目にあいたいなら話は別だがな。」
しかし、少年はアホらしいというような顔でさっさと立ち去ろうとする。
「てめぇ、・・良い度胸だな、この俺をシカトだと・・・・!?」
その態度はいともたやすく男の怒りにふれたようで、男は屈辱で震えている。
そして男は右拳を腰元に引き寄せ、少年との間合いを一足で詰めた。
その動きは明らかに熟練者のそれである。
「死ね、このクソガキぃぃぃ!」
男は左足で踏み込み、腰を捻って力を拳に伝える。その拳は必殺の勢いをもって少年の振り返った顔面に―――あたらない。
「邪魔。キエロ。」
男の拳は少年の掌によって完全に止められていた。
そして次の瞬間、
「ぐげっ・・・・!」
男の鳩尾に少年の拳が食い込んでいた。
先程の男の動きが熟練者の中での最高のものとするならば、すでにソレは人の域を越える一撃。
神速の一閃。そう称するにふさわしい一撃だった。
「けっ!うっとうしい・・・・。」
少年は男が失神したのを確認すると、思考しながら歩きだした。
(いったいなんなんだ?この猫。普通の猫ってわけじゃなさそうだよなあ。)
少年は自宅への道をたどりながらさっきよりも弱ってきている猫について考えていた。
(まあ、可愛いからいいか。べつに。最近退屈してたところだし、楽しめそうだ)
「ククッ、いいもの拾ったな♪」
・・・・どうやら彼は猫と騒動がお好きなようだ。これからどうなることやら