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第八話 エレノア教会防衛戦3 終わる私と始まる私

「ははははははっ!」

「グゴッ!」


 私の目の前にはこん棒を構えたオークがいる。

 オークは私が近づくのに合わせて、こん棒を振り下ろしてくる。

 私は何故か、その様子がゆっくり見える。

 これはきっと創作物なんかでよく見る、集中していると動きがゆっくりに見えるとかいうあれだろうか。まあいい、理由はわからなくてもその事実だけがあれば十分だ。

 私は振り下ろされたこん棒に体を擦りながら、それをギリギリで避け、オークの胴体に触れる。


魔力解放リリーススラッシュ


 ゼロ距離で放たれた『魔力解放リリーススラッシュ』は、そのままオークの体を両断し、さらには後ろにいたオークの体も半ばまで切り裂く。

 やっぱり魔法の威力が上がっているみたいだけど、それだけじゃなくて、『魔力解放リリース』は私の想像しているよりも距離による威力の減退が大きいらしい。

 その証拠に、50メートルほど離れた相手に『魔力解放リリーススラッシュ』を放ってみると、半分も体を斬る事が出来なかった。

 遠距離攻撃なのに、最高の威力が発揮できるのはゼロ距離の場合って言うのは欠陥魔法なのではないだろうか?

 まあ、文句ばっかり言っても仕方が無い。私に出来る事は、与えられた力を駆使して戦う事だけなのだから。


魔力具現化(リアライズ)ブレイド!」


 私は魔法により剣を作り出し、オークの一匹に跳びかかる。

 目の前のオークだけでなく、周辺にいる他のオークも私の動きに合わせて襲い掛かってくるけど、その動きはとても遅い。

 さっきまで何故翻弄されていたのかわからないほどだ。


「ぶちまけろよ豚あああ!」


 私はのろまなオークの攻撃を体を回転させながら避け、そのままの勢いでオークの頭に向かって剣を振るう。

 振るわれた剣は一切止まる事無く、オークの頭を通り抜け、その頭部に詰まったモノを空にぶちまけた。


「ビュヒィィィイィイイ!!!」

「ははは! ひひゃははっ!」


 楽しい楽しい楽しい。

 私の振るった剣でさっきまで調子に乗っていたオーク達が一瞬で命を奪われ、怒り狂ったオーク達が次々襲い掛かってくる。

 私は繰り出されるオークの攻撃を避けながら剣を振り回す。

 私は剣術なんて習った事が無いから、何の型もなく適当に棒を振り回す様に剣を使っているけど、それだけでもオークはレーザーで切断さえたみたいにスパスパと切り刻まれていく。

 面白い面白い面白い。


「グアアア!」

「いぎっ!」


 でも、適当に動いているだけだから、視界から外れたオークの攻撃は面白いように私に当たる。

 今も私の左腕にオークの棘付き金棒が振り下ろされ、直撃はしなかったけど、棘に触れた私の左腕が、ズタズタに引き裂かれ、赤いモノだけでなく中にある白いモノがむき出しにされる。

 ああ、イタイイタイイタイ。

 動けなくなるほどではないけど、とても痛い。

 このまま傷が増えたら私は死んでしまう。

 ああ、それは怖い――。



ご都合主義の舞台装置(デウスエクスマキナ )が発動しました。

 白雪 沙耶の人間として大切な何かを代償に、神格化レベルアップを実行します』



 なんて事は無い。

 だって気持ちいいんだもん。

 戦って、傷ついて、体がボロボロになっていくのがとても気持ちいいんだもん。

 ああ、気持ちいい。ズタズタにされた左腕が気持ちいい。

 ああ、気持ちいい。血が溢れ出すのが気持ちいい。

 ああ、気持ちいい。肉がむき出しになっている部分に風が当たる感触さえも気持ちいい。

 でも、一番気持ちいいのは、傷一つ無い私の綺麗な体が傷つけられるその瞬間だ。だから、壊れた左腕はちゃんと治さないといけない。


「ふひっ、自己修復魔法(リジェネレイト)


 私が『自己修復魔法(リジェネレイト)』を発動すると、あれだけズタズタだった左腕の傷が数秒で治る。

 しかも、それだけじゃなくて、私の全身にかかっていたオークの返り血や、その他の汚れも元から無かったみたいに元通りになった。

 ああ、『自己修復魔法(リジェネレイト)』はなんて素敵に高性能で凄い回復魔法なのだろうか。この魔法さえあれば、私は即死でもしない限り死ぬ事は無いだろう。

 こんな素晴らしい力を与えてくれた神様には感謝しても感謝しきれないくらいだ。


「はははははは!」


 私の傷が一瞬で治っていく事に唖然としているオークの腹部に剣を突き刺す。剣は抵抗無くオークのお腹を突き破り、背中から飛び出す。


「グッヒッ!」

「なっ!」


 私に串刺しにされたオークは、持っていた棘付き金棒から手を離し、私の体を掴み、力強く抱きしめてくる。

 太っているように見えて、しっかりと弾力があるゴムみたいな体に抱きしめられて、私の体が動かなくなった。

 やばい、剣もオークの体に突き刺さった状態から動かせないし、両手もオークの体に挟まれて動かせない。まさか、オークが自分の身を犠牲にしてでも私の動きを封じようとしてくるとは思わなかった。こいつら意外と頭が良い。

 その状態の私を見た一匹のオークが好機だと思ったのか、こん棒を力いっぱい私の頭に振り下ろしてくる。


「あ……がぁ……いぎっ」


 その一撃で、私の頭が割れて、中に詰まったものが傷付き意識が薄れる。

 あ……がが……それでででで……わわわたしの……ああああああたまののの……なかぁああああ……こここわこわこわこわれれ……のののう……がががっ。



ご都合主義の舞台装置(デウスエクスマキナ )が発動しました。

 白雪 沙耶の人間として大切な何かを代償に、神格化レベルアップを実行します』



 だだっだだめだめだめ……つかかかわわなきゃきゃきゃあ。


「リリッジェエ……エイト」


 『自己修復魔法(リジェネレイト)』と言おうと思ったのだけど、私の口も頭も何かの液体を垂れ流していてまともに動かない。

 それでも一応魔法は発動したみたいで、頭の中身は治り、意識ははっきりしてくる。

 でも、完全ではない『自己修復魔法(リジェネレイト)』じゃ、中身が治っただけで、外は治ってない。やっぱりちゃんと宣言してイメージをはっきりさせないと魔法の効果は下がるみたいだ。

 回復魔法が無詠唱で使えたら便利なんだけど、そううまくもいかないらしい。

 まあ、でもこれだけ治れば十分だ。

 私は頭を切り替え、何とかこの状態から脱出しようとする。


魔力解放リリース衝撃インパクト!」

「ギギッ!」


 私は、私を抱きしめてくるオークと自分の体の間に、『魔力解放リリース衝撃インパクト』を発動する。

 それにより、オークは私を抱きしめる事が出来なくなり、腹に剣を突き刺したまま飛んでいく。

 ただ、当然そんな事をすれば私もただじゃ済まない。

 私の体は何故か更に威力が上がった『魔力解放リリース衝撃インパクト』によって吹き飛ばされ、オーク達が見ている目の前で地面を転がっていく。

 その際、発動の基点となった両手の指や腕は色々な方向に曲がっていた。その為、私の体はうまく動かず、碌に受身も取れずに地面に打ち付けられた。そして、その所為で肋骨が折れて肺に突き刺さったみたいで、息が苦しくて……痛くて……、とっても気持ちがいい。

 ああ、でも、自分で傷つけるよりは、誰かに傷つけてもらった方が気持ちがいいかな。

 そんな事を考えつつ、『自己修復魔法(リジェネレイト)』を発動させて傷を治す。苦しくて喋るだけで痛いけど、それもまた気持ちいい。


「はぁ……はぁ……んぁ……」

「ブヒッ!」


 傷付いてそれを治す作業に恍惚としていた私の右腕を、オークが掴む。

 そのオークはかなり力自慢らしく、私の右腕は掴まれただけで折れて、関節の無い部分でねじれて、中の白い物が内側から突き出てくる。

 ああ、なんて気持ちがいいんだろう。

 でも、この次の痛みはもっと気持ちがいいかもしれない。

 だから、私は更なる快楽を味わうため、残念ではあるけどこのままこの痛みを楽しむ事は出来ない。

 もったいないけど、終わらせないと。


「あはは、魔力解放リリーススラッシュ


 私は使い物にならなくなった右腕ごと目の前のオークを両断した。

 どうせ『自己修復魔法(リジェネレイト)』を使えば千切れてても元通りになるんだから、自分の右腕をかばうなんて事をする意味は無い。

 いや、むしろ自分の腕を切り落とす快楽が楽しめなくなる分損だからこれで良いだろう。


 あれ、おかしい。

 何か間違った事をしている気がする。

 私は今までそんな事をする人間だっただろうか。

 痛いのが気持ちいい?

 元の世界にいた時、そんな事考えていたかな。

 そんな事を考えていたなら、魔法が無い元の世界にいた私の体はもっとボロボロだったはずだ。

 でも、私の肌は傷跡一つ無くてきれいなままだった。

 何かがおかしい。何かが変だ。

 そうだ、おかしい。

 こんなのおかしいよ。

 嫌だ嫌だ嫌だ、もう嫌だ……。

 体が壊れ、心が軋み、魂が磨耗する。

 体は元に治っても、心と魂はもう治らない。

 こんなの無理だ……もう耐えられない。

 お願い……誰か……私を助け……。



ご都合主義の舞台装置(デウスエクスマキナ)が発動しました。

 白雪 沙耶の人間として大切な何かを代償に、神格化レベルアップを実行します』



 その時、私の中で致命的に何かが壊れたのを感じた。



 ははははははははは。細かい事なんてもうどうでもいいや。

 今が楽しくて気持ちよくて幸せなら、過去がどうだったかなんてどうでもいい。今この瞬間が幸せなら、私はそれで十分なんだ。

 ああ、幸せ幸せ幸せ。

 傷付くのが気持ちいいの。傷付けるのが気持ちいいの。傷付け合うのが気持ちいいの。

 そんな私の幸せを一気に味わう事が出来るのがこの戦い。この殺し合いなんだよ。

 だから、この瞬間を充実したものにするため、余計な事を考えている時間は無いんだ。

 ああ、もっともっと……。


「さあ、もっと傷付けあって、一緒に幸せになりましょうよ!」


 そう私が言い放った瞬間、オーク達が一歩後ずさった気がした。

 なんだろう。私おかしな事言ってるのかな?

 わからない。理解できない。考える事ができない。

 なら、何も考えず、この快楽を貪ればいい。


「ふひっ、自己修復魔法(リジェネレイト)


 私は千切れた右腕を治しつつ、一番近くのオークに跳びかかる。

 また私の中の力が増したのか、『肉体活性ブースト』の効果が上昇して、私はオークの身長よりも更に高く跳び上がっていた。

 なんだか、空を飛んでるみたいで楽しいな。


「あははははっ! 魔力具現化(リアライズ)ブレイド!」


 私は空中で剣を作り出し、落下する勢いのままオークの頭部に剣を突き刺す。

 オークはそのまま命を失って、地面に倒れて体液を地面に撒き散らす。

 まずい、そのままオークと一緒に剣が地面に突き刺さって抜けなくなった。

 仕方が無いので私は剣から手を離して、私を殴りつけるため突進してきたオークの体を蹴って、また空に舞う。

 ああ、また同じ剣を作っても良いけどそろそろ同じ事をするのにも飽きてきた。何か別なものを作ってみよう。

 いきなり槍とか斧は難しいから、剣は剣でももっと大きな剣。ああそうだ、名付けて。


魔力具現化(リアライズ)巨剣ギガブレイド!」


 私が作り出したのはオークよりも巨大で、私の体より横幅が広くて刃渡りだけでも四メートル以上はありそうな巨大な剣だ。

 その巨大な剣を両手に持った私が地面に着地すると、大きな音がして足元の地面が抉れる。

 どうやらこの剣は相当な重さがあるみたい。だけど、どんどん効果が上昇していく『肉体活性ブースト』を発動している私の体は、それを多少重い程度にしか感じない。

 凄いな。創作物でよく見る細腕なのに力持ちな登場人物になったみたいだ。

 私がそんな事を考えながら巨剣を水平に構えると、そこに申し合わせたみたいにオークが駆け寄ってくる。


「旋風斬! なんちゃって」


 近寄ったオーク達を切り裂くため、私がその巨剣を水平に一回転させると、それだけで周囲のオークの体が下半身と上半身に分かれる。

 ははははは、オークの汚い体液が噴水みたいに溢れ出してすっごく綺麗。


「ぐるぐるどーん!」


 私は体液の噴水を全身に浴びながら、そのままもう何回か回転して、その勢いのまま、巨剣をオークの群れに投げつける。

 回転しながら飛ぶ巨剣は、オークの体を切り裂き、なぎ倒し、すり潰して止まった。

 この一撃だけでオークが十匹以上死んだ。ああ、楽しいな。

 他にももっと色々試したい。


「こんなのはどうかな? 魔力解放リリーススプレッド


 新しく編み出した魔法は、小さな魔力の弾丸を大量にばら撒く魔法だ。

 その魔法は、一つ一つの威力は大したものじゃないけど、ショットガンみたいに広範囲に攻撃できる魔法を想像して創った。

 だけどおかしい。一つ一つの弾丸がオークの体を半ばまで抉ったり貫通したりして、オークの体が一瞬で蜂の巣になっている。

 もっと威力の低いものを想像したのに、どんどん魔力? が上昇している所為で手加減とかが出来ない。これじゃあ、味方がいたら味方も一緒にミンチにしちゃうかも。

 想像以上の効果が出てしまったり、想像より効果が出なかったりして魔法の創造は難しいな。

 でも、味方がいない今、この魔法は魅力的だ。


魔力解放リリーススプレッド魔力解放リリーススプレッド魔力解放リリーススプレッド魔力解放リリーススプレッド――」


 私は一回ごとにオークの体が、蜂の巣みたいになりながら吹き飛んでいくのが面白くなって、目に付くオークを次々と『魔力解放リリーススプレッド』で蹴散らしていった。

 なんと言うかゾンビモノのゲームで、ショットガンを弾数無限にしてゾンビをなぎ払っていくような爽快感があり、クセになりそう。


「ふひっ、ははは! 魔力解放リリーススプレッド魔力解放リリーススプレッド魔力解放リリーススプレッド魔力解放リリーススプレッド、リリ――っあれ?」


 そうやって私が楽しくオーク退治を行っていると、不測の事態が私に襲い掛かる。

 私は、自分の中から何かが喪失していくのを感じてその場に立ち止まり、周囲を見回す。

 もう、魔法を発動する気にもならず、興奮が冷めていく。

 ああ、楽しい事にもいつか終わりはやってくる。私はそれを実感していた。


「もう……、オークがいなくなっちゃった……」


 あれだけたくさんいたオークは全て肉片となり、その場に立っているのは私だけになっていた。


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