第五話 さあ、戦利品を確認しよう
「よっし、それじゃあ戦闘にも勝ったことだし、戦利品を確認するとしますか」
私は何故か自分に言い聞かせるよう、口に出しながら男達だったものを確認する。
本当なら異空間収納で死体ごと収納すれば楽が出来るし、もしかしたらこれでも変換用魔力が増えるかもと思ったんだけど、どうしてもそれだけはやってはいけない気分になってやめてしまった。
まあ、変換用魔力についてはゴブリンを何体か倒しただけで十分な量が貯まってるし、特に急ぎで必要にはならないと思うので、それでも良いだろう。
そんな事で悩むよりも今はアイテム回収が先だ。
まず私は一番持ち物が充実していそうなデブの兄貴の体を弄る。
正直目の前にあるモノはかなりグロテスクなのだけど、まるで画面越しに状況を見ているかのように落ち着いた気分で作業が出来ている。
私ってこんな性格だったっけ?
そんな良くわからない疑問が頭に浮かんだけど、きっと気のせいだろう。私は気にせず更に二人の荷物や体を調べていく。
その結果手に入った戦利品を、私は異空間収納に一度収納して、アイテムリストで確認した。
■鋼鉄の剣×1
■鉄のショートソード×2
■ナイフ×3
■紐×2
■銀貨×7
■銅貨×23
手に入れた戦利品の中で、役に立ちそうなのは以上だ。
正直言って、剣やナイフは魔法で作れるから必要ないと思ったけど、私は回収できるアイテムは可能な限り回収したいタイプなので取り敢えず収納していた。
きっとこうやって余計なものが捨てられないから、いつもゲームで必要なアイテムを見失うのだろう。
まあ、それはどうでも良いとして、私が気になったのは銀貨と銅貨だ。どうやらこの世界の貨幣は硬貨みたいだ。おそらくこの上に金貨もあるんだと思う。
それぞれの硬貨の価値はわからないけど、たぶん銅貨が10枚とか100枚で銀貨一枚とかいう価値なのではないかと予想できる。
うん、その辺については街にでも着いてから確認しよう。
「こんなもんかな?」
私はこの男達から回収できるものは他には無いと判断してその場を離れる事にする。
さて、第一異世界人からはまともな話が聞けなかったので、私はまた行き先を見失ってしまった。どうしたものか。
まあ、そんな事考えても具体的に答えなんて見つかるはずも無く、私は取り敢えず男達がやってきた方向に何かがあるかもしれないと思いながら進む。
途中、度々ゴブリンが襲い掛かってきて面倒だったけど、何故か男達と出会う前よりも気軽な気分で戦えたので、それほど苦でもなかった。
いや、寧ろ徐々にだけど変換用魔力や魔結晶が増えていくのがうれしくて、だんだんと戦いが楽しくなってきていた。そして、気がつくと私は、自然と次の獲物を探しながら歩いていた。
余裕が生まれてくると、戦い方も変化するようで、最初は『魔力解放斬』ばかりで戦っていたけど、段々と『魔力具現化・剣』も使って接近戦もこなすようになってくる。
『魔力具現化・剣』を実際にゴブリンに使ってみて思った事は、切れ過ぎるという事だ。
ゴブリンの生命力を調べるため、試しに手足だけを切り落とすという実験をしてみたところ、『魔力具現化・剣』で斬られたゴブリンは、しばらくの間痛みを感じた様子も無くそのまま襲い掛かってきて、その後、自分の腕が切り落とされている事に気がついてもがきだすという行動をしていた。
おそらくだけど、あまりにも切れ味が良すぎて、痛みを感じないんだろう。漫画とかで斬られた後そのまま動いていた人間が、一定時間後真っ二つになるとかいうあれだ。
一対一の戦いだったら別に気にならないんだけど、複数の相手に囲まれてる時にこれがあると、死んでると思ってた相手から最後の一撃を貰う可能性もある。
うーん、もう少し魔力の制御を練習して、あえて切れ味を抑えるっていう事も必要になるかもね。
私は、その後も色々と考えながら歩き続ける。そして、二時間くらい歩き続けていると、遠くから何かの声と大きな音が聞こえてくる。
やっと、第二異世界人発見かな?
いや、魔物同士の戦いって可能性もあるか。
どちらにせよ、このまま当ても無く歩き続けるのも飽き飽きしていたので、私は音の方向へと歩を進めた。
◆◆◆
「ひゅー」
音のする方向へと進んだ私の目に飛び込んできたのは、ゴブリンよりも大きく、重量200、いや300kgはありそうな緑の豚のような人型生物。おそらくオークとか言うであろう生き物だった。
それも、一匹や二匹じゃない。目に見える範囲だけでも何十匹もいる。
「いやっ! いやぁっぁあ!」
「やめて! もう……殺して!」
「やだ! こんな……こんな醜い魔物ので……んあっ!」
「んぐっ! おごっ! ごっ……」
そして、オークの大群は騎士の格好をした女性達に襲い掛かっている。
どんな風に襲い掛かっているのかは発言を控えさせて頂くけど、かなり衝撃的な事になっている。なんと言うか私には刺激が強すぎる。
「どうしたものかな……」
同じ女として心情的には助けてあげたいけど、いくらなんでも数が多すぎる。
しかも、さっきまで戦っていたゴブリンよりもだいぶ強そうだし、中には棘棘が付いた金棒みたいなものを持っている奴もいて凄く強そう。あんなもので殴られたら私の頭なんて一発でひき肉になってしまうだろう。
私は見ず知らずの人を助けるために勝算の無い戦いに挑むほどお人よしの正義の味方ではないので、ここは見なかったことにして立ち去ろうと決めて、コソコソとその場を離れようとした。
「いやああああ!」
「アリスちゃん!」
「駄目! 駄目よ!」
「待ちなさい!」
その時、私の耳に飛び込んできたのは、少女達であろう可愛らしい声と、大人の女性の声だ。私はその声に導かれるように視線を動かす。するとそこには、白い壁の建造物があった。
オーク達の作り出す衝撃的な映像に気を取られて気が付かなかったけど、その建造物はなんと言うか、ゲームとかで見る教会に似ているかなり大きなものだった。
しかし、その建物の扉は今まさにオークに破られ、中にオーク達が侵入していっていた。
つまりはあれだ。このオーク達はあの教会を狙ってやって来ていて、その辺で魅惑的な姿を晒している女騎士達はあの教会を守っていたのだろう。
そして、あの教会の中には、可愛らしい子達――お約束でいけばそうに決まっている――が避難しているのであろう。
そうなるとあれだ。この危機的状況の中、かっこよく登場しオークを殲滅すれば、可愛い女の子達は私に惚れるに違いない。
いや、間違いなく惚れる。
そう考えると、目の前の状況が急に魅力的な状況に思えてきた。そうだ、人間には勝算が無くても戦わなければならない時がある。今がその時だ。
「よしっ! 正義の味方の登場だよ!」
私は私の正義の名の元に、迷える子羊ちゃん達を助けるため、教会の入り口へと走り出した。
「あっ、でも、可愛い子が一人もいなかったらとっとと逃げよう」
そんな事を考えながら私は戦場へと向かったのだ。